「じゃあね」
『ああ、またな』
ピッと電源ボタンを押して、ため息をついた。
電話がかかってくる事は勿論嬉しいのに。ただ………寂しいの。
始まりがあれば、終わりがあるから。いずれ、通話を終わらせなきゃならないから。
あいつが、どこで何をしているかわからないこの状況には、もう慣れた。でも、次の電話がいつかかってくるかわからない事が…そして、かかってきたら必ず、切らなきゃならなくなる事がつらいんだよね、きっと。
「…問い詰められれば、楽なのにね……」
そう。居場所を無理やり聞き出すことができれば、どんなに楽になるかな。
でも、それはできないから。日々携帯に送られてくる、わずか数センチ角の画面の中の文字で、満足するしかないんだから。
「…だめ、泣いちゃ、だめ……!」
ちょっと気を緩めると、すぐに涙が出てくる。通話中は、あいつに余計な心配をかけちゃいけないって自分に言い聞かせて、何とかこらえることができるのにな。
「私って、こんなに泣き虫だったっけ…」
思わず言った独り言に、昔のことを色々思い出した。うん、そうだった気がする。
昔から、よく泣いてた気がする。両親がケンカするたびに、学校で何かあるたびに、よく泣いては新一に慰められてた気がする。
(そういえば、そうだったな……私はもうずっと昔から、あいつに支えてもらってたんだ)
そういえば、『人』っていう字は、手書きでは一方がもう一方に寄りかかる。上が私なら、下は新一だ。
「ずっと、寄りかかっていられたらいいな……」
いつの間にか止まっていた涙は、私から寂しい気持ちまで拭い去ってくれたみたい。
「ふぅ……」
本当の声でアイツと話した後だってのに、何か言い知れない孤独感がある。
まあ、いつもの事だけど。
電話をかけるたびに、アイツが取るたびに、もう切りたくないって思っちまう。
新一の声で、ずっと話していたいって。
この通話を終えたら、電源ボタンを押したら、もうオレは新一じゃなくなる。
もちろん、オレをちゃんと新一として見てくれる人たちはいる。けど……アイツでなきゃ、埋められない穴があるんだ。昔からそうだった。
アイツが泣いてたら、何をしたって涙を止めたくなる。アイツが笑ってくれたら、もう大抵の嫌なことは吹っ飛んだ。
昔っから、オレはアイツに守られてるんだよな。
夢があった。探偵になる事と、アイツを幸せにする事。アイツの幸せにオレが関わることができるなら、ずっとそばにいる。アイツの心と、笑顔を守る。
今も、どこにいるかもわからねーオレを想って、待ってくれている蘭のために。オレを知らずに支えてくれる、アイツのために。
そーいや、『人』って手書きだと、1人がもう1人に寄りかかってるよな。じゃあ多分、上がオレで、アイツが下だな。
月明かりが仄かに照らす部屋で、期せずして同じことを心中で述べた2人は、やがて襲ってくる睡魔に従い、布団へと潜りこんだ。 |