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ダイバダッタ
作:尾久令



未来編6


 空はどこまで行ってもネズミ色の雲であり、地は果てしなく氷雪である。
 静けさは死のようだ。たまに風が吹きやんだときは、突き抜けるような孤独さがある。
 そんな銀世界の景色といえば、山と雲だけだった。
 この世界の真ん中につけられているのか、それとも端っこなのか、ただただ広いだけの雪原を、ダイバダッタとルイザは黙々と進んでいた。
「当分の間、雪が降らなければ、なんとか楽なんですけどね」
 ルイザの言葉に、毛皮のフードの下から、ダイバダッタはじろりと見上げた。
「そんなことわかっているよ」
 杖がわりの金属の棒を、雪に差し込みながらルイザは行き進み、子供のダイバダッタは彼のコートの裾を掴みながらである。
 おそらくダラニであろう人間の属する一族を目指すことにしたダイバダッタは、ラグジリ族で三日間休んだあと、族長の指名を受けたルイザとともに旅することになった。
 ダイバダッタはダラニとの再会が目的だが、ルイザはまた別の用がある。旅の途中、他の一族から彼自身が、嫁を迎えるということだ。
「この辺りもだいぶ、積もった雪が増えました。ヤルナ族の住み処は更に北ですから、おそらく移住したことでしょう」
「じゃあ、いないじゃんか。お前、何の当てもなく歩いてるのかよ」
 ルイザが、口汚いダイバダッタを疑うような目で見る。
「大丈夫ですよ。どこに移動するか、目印を残していっています」
「骨折り損のくたびれ儲けなんてごめんだからね」
 ルイザがきょとんとした。
「それ、難しい言葉ですね」
 ルイザはぶつぶつと呟きながら言葉の意味を探ろうとする。ダイバダッタは鼻で笑う。どうでもいい言葉じゃないか。
「僕はあなたのことがあまり好きじゃありませんが、やっぱり、僕よりも多くのことを知っている」
「お前たちが何も知らなすぎなんだ」
 ダイバダッタの容赦の無さに、ルイザは少々むっとした。
「でも、僕は僕なりにラグジリの中では知っているほうです」
 ルイザは一族の中では賢いほうらしく、つまらない誇りもあるようだった。だが、ふん、と、ダイバダッタは鼻先でせせら笑う。
「世界はお前らの一族だけじゃない」
「いえ。他の一族の人たちと比べても劣りません」
「バカだな」
 宇宙だ、と、ダイバダッタは言った。真理とは、この世界よりも更に奥深い宇宙なのだと。
「宇宙からしてみれば、お前なんか雪の結晶ぐらいのもんさ」
「ウチュウ、ですか?」
「そうだよ」
「ウチュウとは何ですか」
「何でもってことだよ」
「意味がよくわかりませんが」
「目に見えないものを含めた何でもだよ」
 ルイザは押し黙った。懸命に考え込んでいる。
 気まぐれな風がひゅうひゅうと吹き始めた。細かい雪が舞い上がる。
「前から訊きたかったのですが、あなたは一体何者なんです」
 ルイザの声は苛立っていたし、ダイバダッタへの疑いで曇ってもいた。ただ、健気でもあった。
「ブッタの弟子だって言ったじゃんか」
「その、ブッタという人はどこにいるんです」
「さあ」
「何をしているんですか」
「知らない」
 さすがにルイザは立ち止まった。
「それを隠す理由がわかりません」
 ルイザは真っ直ぐな若者であった。それが疎ましくて、ダイバダッタはじっと睨み上げる。
「隠してなんかない。知らないものは知らない」
「おかしな話です」
 ルイザはしかめた顔のまま再び歩き始めた。
「どちらにしろ、いろいろ知っていようが何も知っていなかろうが、何の役にも立たないんじゃないんですか」
 若者らしい悔しさを滲ませていた。ダイバダッタは思わずくすくすと笑う。
 その笑い声に、ルイザが見下ろしながら言った。
「僕はあなたが嫌いです。出来ることなら一緒にいたくなかった」
「僕は別に一人でも構わない」
「族長の命令ですから」












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