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ダイバダッタ
作:尾久令



未来編2


 ダイバダッタの向かうところ、雪が降らない日々が続いた。
 視界のすべては低く垂れ込める分厚い雲の下である。押し潰されそうな暗憺たる世界である。凍った山々は亡霊のようにそびえ、おそらく昔は森林であったのであろう場所は、降雪と凝固を繰り返す長い歳月の中で、いびつな氷雪の丘と化している。
 物音はない。風がひゅうひゅうと鳴くだけの孤独、あるいはダイバダッタが雪を踏みしめていく足音だけだ。 地上生物は駆逐されたのか。しかし、ダイバダッタは三千年もの間、こうして歩いてきた。求めなくてはならない。
 やがてたどり着いた場所に、光はあるのかないのか。いや、そんな場所があるのかないのか。大きな絶望、わずかな期待、そして期待をすれば生まれる不安。繰り返すことを繰り返すだけの、まさに無限の地獄である。
「お師匠様」
 何年も何も食べていないダイバダッタの声は、煙のようにかすれてしまっている。
「みんな死んじゃってたとしたら、なんで僕だけは生き続けなくちゃいけないのさ」
 返答はない。凍った雪の結晶が、風に舞い上がっただけだ。
「チェッ」
 ちょっとした諦めによって、ダイバダッタから力が抜け落ちいく。歩くことをやめた彼は、そのままうつ伏せになって、ばさりと、まだ柔らかい雪の上に倒れ込んだ。
「もう疲れちゃったよ」
 何度呟いた言葉だろう。彼は諦めても死ねないのである。狼に食べられても、崖から突き落とされても、機関銃で蜂の巣にされても、彼の魂はこの体から自然界へと連鎖し、また、人の体を得て誕生してしまうのである。
 ならば、もし、この地上に人々がいなくなっていたとしたら、どうなるのだろう。この星の欠片となるのだろうか。
「そっちのほうがまだいいよ」
「ヒトだ。ヒトが倒れているぞ」
 男の声があり、雪を踏みしめてやって来る何人かの足音があった。やっぱり、まだいたのか。ダイバダッタは嬉しいような悲しいような複雑な思いだった。












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