未来編10
翌日、ダイバダッタとルイザは、他の人間どもに遭遇した。
雪も風もない落ち着いた天候の下で二人が歩き進んでいたところ、遠くのほうに人影があった。ルイザが「おーい」と大きな声で呼ぶと、人影は立ち止まり、ダイバダッタたちが歩み寄ってくるのを待った。
男二人がいた。舟をソリがわりにして雪の上を引いており、ダイバダッタぐらいの大きさの魚を三体乗せている。
「へーえ。旅の者か。見るのも久しぶりだ」
一人の中年の男がそう表情を和らげた。
「しかも、子供づれとはな」
「何族の者ですか」
と、もう一人のほうの若者が神経質そうな声で訊ねてくると、ルイザが「ヤルナ族のユイザです」と嘘をつき、ダイバダッタはルイザを白々しく見上げる。
「こちらは弟のユイバ」
「ヤルナ族か!」
中年の男が喜色ばみながら声を上げた。
「君はヤルナの男なのか」
男は目を輝かせており、ルイザがやや戸惑いを見せながら頷いた。
「ということは、君たちは婿探しの旅なのだな。となると、あの、噂に聞く黒子の娘のことなのだな」
「いえ、そういうわけでは」
「何。違うのか」
「ええ。むしろ逆で、私の嫁を探しに回っているのです」
すると、男は自分が連れている若者のほうにつまらなそうな目を向けた。若者は、男をたしなめるような、知的な笑みを薄っすらと浮かべる。
「父さん。そんなことより、彼らを僕たちの洞窟に案内してやったらどうなんですか」
「あ、ああ。そうだな」
「ヤルナ族のユイザという人、僕はテン族のタカスです。彼は僕の父親のトボル。長い旅で疲れているでしょう。僕たちの住処で一休みしていってください」
ルイザとダイバダッタはテン族とやらの二人に付いていった。途中、彼らのことをいろいろと聞いた。テン族は老若男女三十人に及ぶ大集団で、そのため、他の一族との婚姻はあまりなく、交流もほとんどない。
「ただ、君たち一族の娘の噂なら、ある旅人に聞いてな」
父親のトボルが、肩にかけた縄を引いて重たそうな舟を動かしながら、歌うような軽い息で言う。
「この世の終わりを告げるような美女だと。それどころか、知恵もあり、その言葉は神のような尊さなんてな」
そうじゃないのか? と、問われて、ルイザは苦笑しながら首をかしげる。
「まあ、ちょっと変わっているよ」
と、ダイバダッタが割って入った。おそらく、トボルが言っているのはダラニのことだろう。
「気にしないでください。父はその話を聞いたときから、僕をその方と婚姻させたくて仕方ないのです。聞いた話だけで息巻いているのですから、困った人ですよ」
後ろから舟を押すタカスがそう笑った。
テン族の住処の洞窟は小高い山にあった。大きな入り口をくぐり、しばらく歩くと、ラグジリ族の洞窟と似たような燭台が並び始め、壁面を明るく照らしている。洞窟はそれぞれの小部屋に別れており、やはり、女子供たちがそろりと出てきて、ルイザとダイバダッタを珍しそうに眺めている。
その中で、ダイバダッタはある女に目が留まった。見覚えのある顔だった。彼女も彼女で、ダイバダッタと目が合った途端、半ば驚くような顔だった。
ダイバダッタは首を傾げながら彼女の前を通り過ぎる。三千年もこの世の中で暮らしてきたから、誰かが誰かに似ているという感覚は少なくない。
「奥が族長の部屋です。気難しい方なので、あまり気になさらないように」
タカスがそう言い、トボルがどこか顔をしかめながら頭をかいた。
奥の部屋は綺麗な獣の皮で仕切られていた。タカスとトボルはダイバダッタたちに待ってくれるよう手を出すと、先に中に入っていった。
「気難しい方とはどういうことなんでしょうね」
「さてね」
ダイバダッタは記憶を辿ることで頭がいっぱいだったが、仕切りの向こうから穏やかならぬ声が聞こえてきた。
私はそんな見知らぬ者などに会いたくない!
何をわがままなことを。族長がそんなことですとテン族の恥です。おじい様に合わせる顔もありませんよ。
わがままではない! そもそも、その者たちが我らと同じ人間だという証拠があるのか!
また、その話ですか。族長、そんなことをおっしゃったら、僕だって、あなたと同じ人間だという証拠などありませんよ。
ダイバダッタは口端を歪めながら笑った。
「どうやら、病気みたいだね。ここの族長は」
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