第八話 魔力を抑えると・・・
戻ってきた村長の話だと、村中の人たちが集会所から一番遠い村の端に非難していたらしい。
「おかげで一軒一軒まわる手間が省けたわい」
と村長は言うけど、顔も声も疲れきっていた。
「どうか今日はマシメ家に泊まってくだされ。そのほうが村の連中もカイト殿やミミ様に親近感を持つと思いますじゃ」
村長のそんなすすめで、今夜はフィーの家に泊まらせてもらうことにした。ジャンとタルマはもう自分の家に戻ったらしい。
フィーは「この集会所の裏が私の家です」と言って歩き出す。時代劇に出てくるような白い壁づたいに五分くらい歩くと、やっと門が見えた。神社やお寺みたいに立派な門だ。代々巫女の家系というから、家自体が歴史のある建物なのかもしれない。
中には平屋建てで赤い瓦の屋根の建物がひとつ。その隣に小さい建物・・・蔵っていうやつかな? それがひとつ。門から玄関までは石畳が五十メートルくらい敷いてあって、その左右をたくさんの白い小石がキラキラと飾っている。
門から玄関までがこんなに長い家なんて、初めて見た。僕はフィーの後ろでキョロキョロしながら玄関まで歩いた。
フィーが玄関の引き戸をガラガラと開けて、何か思い出したようにこっちを見る。
「ミミ様。中では出来るだけ魔力を抑えておいてください。いろいろと反応してしまうものがありますので」
ミミは黙ったまま水色の光を弱くしていった。
まずフィーに先に入ってもらい、家族の人たちに僕とミミが来たことを伝えて、みんなの心の準備ができたら呼んでもらうことにした。
「どうぞ」
中に入ると、フィーの他に広い玄関に一人だけ、フィーと同じ服装の水色の髪の女の人が三つ指をついて座っていた。
「ミミ様、カイト様、はじめまして。フィーファの母でございます」
僕も「はじめまして」と言ってお辞儀をする。なんか、こんなに丁寧にされるとちょっと緊張しちゃう。
ミミはスィーっと玄関の中を一周し「コンニチワー」と言い慣れてない感じで挨拶をした。
フィーのお母さんはミミが近くに飛んできたとき一瞬だけ「ギョッ」とした表情を見せたけど、すぐ笑顔に戻った。フィーのお母さんもちょっと緊張してるみたいだ。
「カイトさん、上がってください。お部屋にご案内します」
フィー、ミミ、僕、フィーのお母さんの順で家の奥に入っていく。木で出来た床には誰かが歩くたびにギシッと音を出すところが何箇所かあった。
途中、通り過ぎる部屋のドアから誰かが覗いていて、気がついたミミがわざとその人の目の前に出て驚かす。ドアはすぐパタンと音を立てて閉められた。ミミは小さく「フフッ」と笑った。
一番奥の部屋の前まで来てフィーが止まる。
「うちにはお客様用の部屋はここしかありませんので・・・」
フィーはなぜか申し訳なさそうに言うけど、中を見るとベッドや大きな鏡、タンスや机とかがあって昨日の集会所よりずっと豪華だ。
「夕食の準備ができたらまた呼びにきます。それまで休んでいてください」
「うん、ありがと」
村長もそうだったけど、フィーもかなり疲れてるみたいだ。逆にフィーが休憩したほうがいいんじゃないかと思った。
部屋のドアを閉めて照明のスイッチを入れると、集会所と同じように天井のトイレットペーパーの芯が光った。窓からは少し赤みがさした空と、庭に生えている竹のような植物が見える。
ミミはフワフワと飛びながら部屋にあるものをいろいろ見てまわり始めた。
「人間の家の中ってこぉんな風にらってたろねぇ。なんだか知らないもろがいっぱいあうわぁ」
なぜかミミは少しろれつの回らない言い方でそう言って、ベッドの上の毛布をバサッとめくってまたすぐ元に戻した。小さいミミが手も触れずにそんなことをすると、魔法というよりほとんど超能力だ。
僕はダウンジャケットを脱いでベッドに寝転がった。目をつむると気持ちよくて・・・寝ちゃいそう。
ガタン、ガタン。ドンッ、ドタ。バタッ、ガン、バサバサッ!
「うるさいなぁ・・・」
起き上がって見ると、ミミはタンスや机の引き出しを片っ端から引っ張り出して床に投げ飛ばしていた。
「ちょっと!ミミ、どうしたの?」
中に入ってた書類とか服とか、他にもよく分からないいろんな物が床に散らばってる。
声をかけるとミミはしばらくボーゼンと部屋の中を見て、いま自分がしていたことに驚いてるみたいだった。
「あ・・・やだ、私、・・・どうしたのかしら?」
ミミはキョロキョロしたあと、怯えるように、
「あ、あのね。・・・・私、魔力を抑えてると、時々・・・・。時々、変になっちゃうみたいなの。昨日の夜も、気がついたら森の中にいて・・・」
村長が言ってた、昨日の夜に森でおきた魔力爆発のことを僕は思い出した。
「ねぇミミ、昨日、気がついたときは爆発した後みたいになってた? 周りの木が折れてたりとか」
ミミはすごく言いづらそうに、
「んー。・・・・うん、なってたわ」
「そっかぁ・・・・」
意識がないのに、僕や周りの人たちを巻き込まないよう、自分が住んでた場所に戻ってからそうしたのかな。だとしたらすごいけど。でも、魔力を抑えていて爆発を起こしちゃったら意味がない。
ミミはモジモジして、今にも泣き出しそうな顔になった。
「・・・そうよ。今までずっと森の中にいて、魔力を抑える必要なんてなかったから・・・。こんなにしょっちゅう、長いあいだ魔力を抑え続けるなんて、なかったから!」
怒ってるみたいにも見えるけど、ミミはきっと不安なんだ。
僕はミミを手のひらでやさしく包むようにして、
「ミミ、ちょっとだけ、魔力を抑えるのをやめてみよう? ゆっくり、ね?」
ミミは目を閉じてゆっくりとすこしずつ、水色に光り始める。
すると、部屋の照明のトイレットペーパーの芯がつられるように明るくなった。
「ちょっと、そのままにしてて」
僕は試しに照明のスイッチを切ったみた。トイレットペーパーの芯はさっきよりだいぶ暗くなったけど、まだ少し光っている。
「やっぱり。これならフィーに相談すればなんとかなるよ、きっと」
「ホントに?」
「うん。今くらいなら大丈夫そう?」
ミミは少し考えて、
「うん、これくらいならだいぶ楽だわ」
きっと僕の世界では電気を使うようなものが、ここでは何かしらの形で魔力が関係してるんだ。さっきフィーが言ってた「反応してしまうもの」が、家の中にはたくさんあるんだろう。
散らかった部屋を片付けようとしたら、フィーが呼びにきた。
「カイトさん、夕食の・・・」
フィーは部屋の散らかり具合を見て、やっぱり驚く。
「あ、ごめん。ちょっと散らかしちゃって。ちゃんと片付けるから」
僕は頭をかいた。本当はちょっとどころじゃない。
散らかした本人は僕の後ろに隠れる。まったく、変にプライド高いんだから。
「あ、はい。では、どうぞこちらです」
僕が部屋から出ようとしたら、ミミもいっしょについて来ようとした。
「あ、ちょっと待って。フィー、あのさ、ミミが魔力を少し出しても大丈夫なように出来ないかな? ちょっとつらそうだから」
フィーは立ち止まって少し考えてから、
「ごめんなさい。いますぐには難しいです。波動器具がたくさん動いてますので」
「ハドウキグ?」
「私たちは、魔力の波動を光や熱に変えて生活しています。ミミ様から出る魔力波動は大きすぎて、器具をみんな壊してしまうかもしれませんので・・・・」
「んー、そっかぁ」
どうしよう?
ミミは食事をしない。昨日もそうだったけど、妖精は食事をしなくても生きていけるらしい。この部屋の外に出たら、またミミは魔力を抑えることになる。魔力を抑えると変になっちゃうミミには、照明のスイッチを切ったこの部屋で待ってもらったほうがいいだろうな。そう思って、小さい声でそうミミに話した。
「イヤッ!」
ミミは首をプルプル横に振って、そしてフィーに聞こえないくらいのヒソヒソ声で、
「ねぇカイト、今は一人にしないで。ねぇ、お願い、ねぇ・・・」
いつもは高飛車なミミがすごく弱気になって、祈るように僕に言った。
僕はまたフィーのほうを向いて、
「あのさ、フィー。この部屋だったらこのスイッチを切っておけば大丈夫そうなんだけど、どうかな? もし大丈夫だったら、出来ればこの部屋で食べたいな」
フィーはちょっと考えて、
「この部屋の周りには照明くらいしかありませんので、あまり強く出しすぎなければ大丈夫だと思います。では、お食事はこちらに持ってきますね」
フィーがいなくなるとミミは「キャッ」とうれしそうに笑って、僕の頭の上にのった。
「ミミもこの散らかったやつ片付けるの、ちゃんと手伝ってよ」
「あ、あったり前じゃない。自分の不始末はちゃんと自分でするわ!」
その言葉は、今のミミの精一杯の強がりに聞こえた。
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