第三話 四年後、姉を追う
この四年間、僕は「お姉ちゃんは生きてる」と言い続けた。
理由なんてない。そうとしか思えないから、大人の人たちが「お姉ちゃんは死んだ」みたいなことを言うから、ムキになって言い続けた。
お姉ちゃんがいない家の中はすごく静かだった。いや、静かというよりは、寂しさが空気に溶けて漂っているような、そんな感じだった。父さんと母さんはケンカをしなくなったけど、笑うことも少なくなった。
僕は学校のサッカークラブに入った。勉強も一生懸命やった。
またお姉ちゃんに会うことが出来たとき、あの頃の僕とは違う、強くなった僕を見てほしいから。もう、ガムシャラにやった。
先生や母さんは成績を褒めてくれたけど、僕が欲しいのはそんな言葉じゃなかった。またお姉ちゃんに頭をポンポンって、してほしい。また、あの笑顔で。それだけだった。
二週間前にスキー場の崖の下で人骨が見つかって以来、また何度もあの夢を見る。旅行の前日にお姉ちゃんに話した、魔法使いのような格好をした女の子の夢だ。
四年前はたいして気にしなかった。だから、その女の子が僕に何を言いたかったのかも、さして思い出そうとはしなかった。
今回は全部ではないけど、何を伝えたいのかは分かった。助けを求めていること、そして、僕に来て欲しいということ。
うん。行くよ。行くに決まってる。その女の子がいる世界に、お姉ちゃんがいるんだ。きっと。
四年前の事とこの夢とは、何かつながりがある。だから、僕はあの場所に行くんだ。
スキー場に着いたときにはもうすっかり夜になっていた。
僕はジーンズにダウンジャケット、手袋、ニット帽という、いつもの買い物にいくような格好でゲレンデにいた。スキー板とポール、スキーブーツ以外の荷物は何も持ってこなかった。
スニーカーを脱いでブーツを履き、板をつける。一応スニーカーは持っていこう。靴ひもをうまく使って腕に結んだ。
あのコースに行こう、四年前と同じように。あのときの再現だ。同じくらいのスピードで、あの崖から飛び降りよう。
滑り始めると寒さがチクチクと頬に刺さった。背が高くなったせいか、四年前よりもたいぶ滑りやすく感じる。
行ってみると、今のコースは崖からだいぶ離れたところに変更されていた。
僕は赤いロープをくぐってコースを外れ、ナイターの照明がうっすらとしか届かない雪の上を進んだ。左腕を動かすたびに、手首につけた金色のゴゴアラのブレスレットが見え隠れする。
月明かりのせいか、夜の雪は青白く光っていた。その先に、あの崖が見えた。
あの崖の向こうに、また「暗闇」が現れるだろうか?
僕はあのザラリとした感触を思い出して身震いした。怖くないわけがない。飛び降りた先に何が待っているのか、まったく分からないんだから。
でも、お姉ちゃんはそこにいる。その世界に。
怖さに負けそうな気持ちを打ち消そうとして、声に出して言う。
「お姉ちゃん、いま行くからね」
僕は大きく深呼吸をして、いっきに崖に向かって滑り出した。
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