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うちのかわいいかわいい猫 作者:しまうま
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夏の終わり......Final

 蝉ファイナルという言葉があるらしい。

 地面に落ちて死んだようになっている蝉。
 だが近づくと、最後の力を振り絞って抵抗する。
 それが蝉ファイナル……ということのようだ。


 猫にとっては格好の獲物だ。
 手の届くところに落ちていて、触ると程よく暴れだす。

 白い黒猫さんのエッセイで、猫が蝉ファイナルを見つけて遊んでいる様子が紹介されていた。
 写真の中の猫は蝉に夢中になっていた。
 ぐっと身構えてから飛び掛って、前足でぺちぺちと蝉を叩いている様子が目に浮かんだ。

 ――いいね。楽しそうだね。

 僕はエッセイを読んでそう思った。




 何日かたってから僕は気づいた。

 うちの猫が自力で蝉を捕まえるのは、たぶん無理だ。想像がつかない。
 庭で蝉を狙っているのを見たこともない。

 でも、蝉ファイナルなら逃げ出す体力もないだろうし、ちょうどいいんじゃないだろうか。

 ――これ、うちの猫が喜ぶかもしれない。

 地面に落ちている蝉ファイナルを見つけて、お土産に持って帰る。
 うちの猫が一瞬びっくりしたあと、目を輝かせて遊んでいる姿が浮かんだ。
 もう、いてもたってもいられなくなった。

 ――なんとか遊ばせてあげたい。

 こうしてうちの猫が遊ぶおもちゃ(おもちゃ?)を見つけるために、僕は近くの山へ向かうことになった。




 山の空気は少しひんやりしている。
 道の両脇には木の葉が積もっていて、いかにも虫がたくさんいそうな場所だった。

 遠くで蝉の声も聞こえていた。

 いつか聞いたジリジリジリという元気のいい声ではなくて、ギギギギ……というどこか疲れたような声だった。
 夏が終わりに近づいて、蝉が弱ってきているのだろう。

 つまり、蝉ファイナルだ。

 ――このぶんならすぐに見つかりそうですね。

 僕は山頂へ向かう道を歩き始めた。




 中腹まで登っても、蝉ファイナルは落ちていなかった。
 普通の死骸も落ちていない。

 登っているのはたいして大きな山ではなくて、一番上までいっても30分くらい。
 とはいえ、ここまで登るつもりはなかった。

 延々と続く上り坂は、地味に体力を奪っていく。

 本当は、もう登りたくなかった。
 でも蝉ファイナルがいないから仕方がなかった。
 ここまで来て手ぶらで帰るわけにもいかない。

 山に入ってから僕が見かけたのは、果樹園のおじさんくらいだった。

 ――そう簡単に落ちているものではないかもしれない……。

 途中でそのことには気づいていた。
 そもそも蝉が道路に落ちているのを見た記憶がない。
 子供の頃は落ちていたような気もするけど、最近は見かけない。 

 ――鳴き声は聞こえているのに。

 見回しても、木の枝が揺れているだけだった。




 ――見つからないなら、作ればいいじゃないか!

 ということも、実は考えていた。

 蝉を捕まえて……羽をむしりとる……。
 そうすれば出来上がる……人工擬似蝉ファイナル……。

 想像するだけで恐ろしい行為だけれど、選択肢として頭の片隅にとどめておいた。
 捕まえやすいところに蝉がいたら、やらなければならないかもしれない。


 どこまで行っても蝉の姿は本当に見当たらなくて、そのおかげで僕が決断を迫られることはなかった。


 そのまま何事もなく最後まで登りきってしまって、僕は頂上にある神社に軽くお参りをした。

 ――蝉ファイナルがどこにもいないんですけど! 困るんですけど!

 と神様に伝えておいたけれど、帰り道にも蝉ファイナルが落ちていることはなかった。




 自宅ではうちの猫が床にべたりと寝転んでいた。
 目を細めて、大きなあくびをしている。

 暑さのせいで外に出かける気にはなれないようだった。
 家の中ではやることもなくて退屈している様子。

「ネズミで遊びましょうか?」

 言いながら、指先で顔をつんつんと突くと、うちの猫は鼻を鳴らして歩いていってしまった。

 ――やっぱりもう一回探してこようかな。

 後姿を見送りながら、そう僕は思った。

     (=‘x‘=)<読んでくれてありがとうニャー
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