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第11話 犬とご主人様

殿ルート⑧

※遠野視点


 美容室に行くのはいつ以来だろうか。いつもは安くて早い、駅前の千円カットに行っていた。

 ちなみに、早いのはカットスピードのことだ。だから左右の長さや量が違うことも多々あった。

 だが、なるべく他人と関わりあいたくない自分には、十五分程で済むこういう店は有り難かったので、どんな髪型になっても文句を言ったことはなかった。

 そのあと、自宅の風呂で白髪染を使うまでが自分のいつもの散髪だった。



「彼の髪、染めムラを無くして、見苦しくないようにしてくれる?」


……『彼』でなく『コレ』と聞こえるのは気のせいだろうか。


 彼女の担当であるらしい、中年の女性が僕の髪を見る。


「……しおり、あんたの好きなスポーツ刈りとか、あんた好みにがっつり切ると、コイツみすぼらしくなるわよ」


……美容室ってこんな暴言を聞くところだったろうか。


「そいつのことは叔母さんに任せるわー。私もカットするから、その間によろしく」


 ……扱いが本当に犬だ。僕は今日、トリマーさんに預けられた犬の気持ちを、知ってしまった。


「もう少し柔らかかったら、本当に犬みたいな毛…髪質ね」


……毛って言った。


「生え際の色、うっすいわねぇ。トイプーの白いやつみたいな色ねえ」


「そんなにくるくるじゃないし、色はキャラメルみたいでしょ。たとえるなら、せめてもう少し大型犬にしてよ」


 横から折原さんが会話をしてくれるから、僕はほとんど黙って座っているだけでよかった。


「ゴールデンレトリバーとかアフガンハウンドとかコリーとかダックスフントとか」


……毛が長い犬ばかりなのは、気のせいだろうか。






 切られた髪が床に落ちていく。重たく、艶のない黒色が、僕から落ちていく。

……いつから、こんなふうに染め始めたんだっけ。

 覚えていないけれど、最初は父に染めてもらったことは記憶にある。

 僕を見る辛そうな父の顔が嫌で、いつからまともに会話していなかったのか。


「ほら、できたよ」


 目を上げて鏡を見る。髪の色は焦茶になり、一般的な高校生よりほんの少し長めに切られていた。

 くせのある髪は自然にサイドに流れて、視界は明るい。


「ミニチュアダックスみたいよ」


 折原さんに叔母さんと呼ばれていた中年女性は、僕の髪をヘアワックスで整えながら、そう評した。


……毛先が少し黒いからですね、と言いたかった。


 確かに、鏡の中の自分は犬みたいだった。置いていかれた飼い犬のような目をしている。色素が薄くて、変わった色の虹彩が、不安に揺れている。


「終わった?」


 雑誌から折原さんが顔を上げる。反応が怖くて彼女の顔が見られない。


「じゃあ、眼科行こっか」

「は?」


 ええと、……シャンプーとトリミングは終わったと思いますよ。

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