千剣の王 トール・フォルネウス〜其の一
「トール様! フォルネウス城より伝令です」
「伝令? 見せてみろ」
レイラの父にして、先代の銀髪蒼眼を継ぐ者――トール・フォルネウス。
その姿は、銀髪の悪魔の如く。
その姿は、蒼眼の獅子の如く。
その姿は、千剣の王の如く。
一騎当千の力を持ち獅子奮迅の如く戦う様は、まさに闘神と呼ぶに相応しい。
『お父様
黒髪の者が城門の前で行き倒れていましたので保護致しましたわ。
叩き起こそうとしたのですけれど、どれだけ引っ叩いても起きないものですから、瞳の色
はわかりませんでした。
ですから、どこの家の者かもわかりません。
目が覚め次第、家名を聞いて出て行ってもらうつもりですけれど、留まらせておけと言う
なら折り返し連絡くださると良いですわ。
最後でなんですけれど、くれぐれも無茶はしないでくださいね。
私に心配をかけるような真似は許しませんわよ』
「急な用でしたなら、お戻りになられてはいかがでしょうか? 幸い、残りの魔物だけならば、ロック様もおられることですし我々だけでも討伐することは可能です」
「いつものことだ。レイラは私が心配なのだろう」
トールは兵にそう言うと、うっすらと笑みを浮かべた。
――心配せずとも、魔物ごとき遅れはとらんと言うのに……全く可愛い娘だ。しかし、こう想われては、長引かせるわけにはいかんな――
「今より始祖『フレイラ・フォルネウス』の名の下に、全軍を持ってこの地に巣くう魔物を完全討伐する!」
トールの言葉を皮切りに、討伐に出向いていた兵が怒号をあげる。
千にも及ぶ魔物に対して、トールの引き連れた兵の数は五十にも満たない。
普通に考えれば、圧倒的不利な戦況であることは火を見るよりも明らかである。
しかし、実際は全く違った。
千にも及ぶ魔物が、数時間で殲滅させられることとなる。
その中核を成したのが、フォルネウス家の兵士達の中でも最上位に位置する者。
数少ないトール・フォルネウス直属の部下であり、銀髪こそ持っていないが蒼眼を持つフォルネウスの血筋の者。
「さすがだな。単独での陣形魔法とは恐れ入る」
「いやいや、トールさんの千剣の刃に比べたら可愛らしいもんや思いますわ」
トールに馴れ馴れしく話しかける男――フォルネウスの魔法研究室の室長にて、トール直属の部下『ロック・ルネウス』と言えば、知らぬものは居ない。
洗礼を受け、魔法を使えるようになったものは二つの道のどちらかを歩むこととなる。
一つは、魔法を主戦力とし魔法を使って戦ったり、味方のサポートをする魔術師。
もう一つは、魔法で肉体や武器に付加能力をつけ戦う魔法剣士。
彼は、武術の才こそ持って生まれなかったが、それを補って余りある魔法の才に恵まれた。
その魔力の総量は一般的な魔術師の百倍と言われており、本来ならば数名の術者で行使する陣形魔法を、単独で使用できる数少ない人間の一人である。
「せやけどトールさん! ここからやとよう見えへんかもしれんけど、あれ防いだ奴おるみたいやで」
ロックは、自らの陣形魔法『大海の大津波』を放った遥か先を見据えた。
「あれを防ぐか……ただの魔物では無いようだな」
大海の大津波は、使用者が敵と認めたものに対してだけ襲い掛かる魔力を帯びた水撃である。
名前の通り、津波が襲ってくるかのような錯覚に襲われるほどの水量を要すること為、本来ならば水辺の付近でしか使用できないものだが、ロックに限り水辺以外で使用することが可能となっている。
「あートールさん?」
先を見据えていたロックがトールに声をかけた。
「なんだ?」
「兵隊後ろに下げた方がよろしいな。というか、一旦引いた方がええかもしれんわ。あれはちょっとヤバイで」
ロックがそう言った瞬間、前方に居た兵士たちの悲鳴が響き渡った。 |