黒髪黒眼の来訪者〜其の四
翌日の朝、アキラは城内にある魔法研究室の前に居た。
なぜこのような場所にアキラがいるかというと、昨日食室でエレンと話をしていた時、元々住んでいた国に魔法は存在せず代わりに科学が発達していたと伝えたところ「だとすると、アキラ様は洗礼を受けておられない可能性がありますね。もしよろしければ、明日の朝にでも魔法研究室に行ってみてはいかがでしょう? フォルネウスの魔法学は他の国よりも僅かながら進んでいますので、アキラ様も魔法が使えるようになられるかもしれません」と助言を受けていたからだ。
とはいえ、アキラがこの場所に足を運ぶまでに何も考えなかったわけではない。
元々は平々凡々な日常を送っており、このような非日常な世界に来るとは考えておらず、昨日の晩も部屋に戻った後は夜空を見上げながら黄昏ていたわけだが、その時アキラは今まで自分が居た世界とこの世界の共通点を見つけることとなった。
都会のように街灯に打ち消されることなく輝く星の中に、見たことのある風景があった。
それは紛れも無く星座と呼ばれていたものであり、無数に輝く星たちはいくつものシンボルをかたどっていた。
それに気付いた瞬間、アキラは僅かな希望を見出した。
見える空が同じなら、この世界に自分の住んでいた世界があるかもしれない。
元の世界がこの世界にもあるのなら、少しでも自力で戻れる力を身につけたいと。
そう思いアキラは今この場所に居るのだが、次の一歩が中々進められずにいた。
エレンには「城内の主要人物に話しは通しておきますので、明日以降ご自由に城内を散策していただいて構いません」と言われているのだが、今までの論理的観点から研究所室と言う場所に部外者が入っていいと考えることが出来なかったからだ。
そうして研究室の前で立ち往生していると、背後から声をかけられた。
「おやおや? 君が噂になってるランクAのお客様かな?」
不意に声をかけられ体をビクつかせた後、アキラは声のするほうに目をやった。
視線の先に居たのは、薄い緑色の真っ直ぐな髪を腰までなびかせ、大きな黒い瞳でこちらを見つめる白衣を着た女性だった。
アキラが反応に困っていると、その女性はアキラの顔を覗き込み「本当に黒髪黒眼なんだねー」と言うと、一歩後ろに下がり身なりを整えた。
「あたしは『イライザ・イングウェイ』。こんなんだけど、魔法研究室の副室長さ」
イライザが唐突に自己紹介を始めたため、アキラも名乗ろうとしたのだが「あー君の名前はいいよ。エレンに聞いて知ってるから」とアキラの横を通り研究室の戸口に手をかけながら言った。
研究室の戸を豪快に開け「皆おっはよー」とイライザが言うと、室内からは「イライザさんおはようございます」と返事が返ってきた。
研究室に入ると、イライザはアキラに手招きをした。
その手招きに招かれるようにアキラが研究室に入ると、研究室内に居た全員の視線がアキラに注がれた。
その視線は例外なく、驚愕と困惑……そして興味の三つが合わさったようなものだった。
そんな中、一人の研究員がイライザに問いかけた。
「あの、イライザさん。そのお方は、もしかしてラグナロク家のお方でしょうか?」
黒髪黒眼の者を見た一般的な意見を述べた研究員に対し、イライザはペリカンのように口を尖らせ言い返した。
「あたしが、堅苦しいの嫌いなの知ってるでしょ? そのあたしが、そんな人間連れてくると思うのかい? 彼は、ただ黒髪黒眼ってだけで貴族でもなんでもないよ。わかったら、皆さっさと仕事始める」
イライザの簡単な説明を聞きき、疑いの眼差しを残しながらも皆作業についた。
その後、アキラはイライザに連れられ研究室の奥にある個室で魔法の説明を受けることとなった。
「エレンに聞いた話だと、君は何も知らないみたいだから、あたしが一から十まで教えてあげよう」
イライザは微笑みながら言うと、魔法について語りだした。
「魔法を使う者は、火・水・風・雷・大地の属性のどれかに属していて、その中で攻撃・防御・支援・回復って四系統に分かれるのさ。火なら攻撃が得意で……って、これはいいか。それから、魔法を使うためには洗礼を受ける必要があって、洗礼を受けた人なら誰でも魔法が使えるってわけ。でも、なんでか知らないけど大半の人は洗礼を受けても魔法が使えないものなのさ。だから、正直なところ君が魔法を使えるかどうかわからないんだよね。エレンからの頼みだから、とりあえず洗礼はしてあげるけどさ。それで、洗礼が終わった後体が光出したら魔法を使えるんだけど、その時の光は本人にしか見えないのさ。だから、光出したらその時の色を良く見といてね。赤なら火・青なら水・緑なら風・黄色なら雷・黒なら大地だから」
簡単に説明を済ませたイライザは、アキラの手を握りなにやら唱えだした。
「我、汝の力を目覚めさせる者。汝、我の呼びかけに答え、その眠りし力を解き放ちたまえ」
イライザがその言葉を言い終えた後、体の中に何かが入り込んでくるのをアキラは感じた。
――なんだこれ? 変な感じだな。でも、内側から何か溢れてくるような……――
気がつくと、アキラの体は白い光に包まれていた。 |