夢の外の真世界〜其の五
二人は魔力がぶつかる場所へ向かっている最中奇妙な感覚に襲われた。
とても大きな魔力がぶつかり合ってはいるのだが、何故か片方の魔力は発言した瞬間に半減し、もう片方の魔力は相手の魔力が半減した直後にそれと完全に同等の魔力のみを使用しているかのような……そんな感じだった。
「……妙な戦い方をしてますわね……気持ち悪いですわ」
「だな……」
「あなた、何かわかりませんの? 少しぐらいなら、その力でわかるのでしょう?」
「ん? あぁ……ちょっと待ってろ」
足を止めずにアダムとアレクが居るであろう場所に向かいながら、アキラは『真実の回答』を使って事の成り行きを探ってみたのだが、ありえない答えが返ってきた。
「アダムはアレクの魔法を媒介にして魔法使ってやがるのか……」
アキラがそう呟くと、レイラは目を見開きながら怒鳴り声をあげた。
「なっ何ですのよそれは! それではまるで、魔法を使って戦うのは意味がないと言うこではありませんの!?」
「その通りだな……」
魔法を媒介にして魔法を使う。通常ではありえない技術だが、アキラはそれの元になる魔法も、そしてどのようにしてそれが行われているかも理解していた。先ほどの真実の回答によって。
それは、この場所に来るためにイライザから魔力を奪い取った魔法――あれを応用すれば、魔法から魔力を抜き出すことは理論的には可能である。
そして、それをするには相手の魔力に自分の魔力を完全に同調させる必要があり、尚且つ相手が使用した魔法に使われている全ての魔力を完全に操れる技量も必要となる。
ようするに、理論が分かったからといって易々と使えるようなものではない。ましてやアレクの魔力にはフレイラの魔力が混合しているため、それに自分の魔力を完全同調させるなど不可能である。
もし可能であるとすれば――
◇◇◆◆◇◇
「はぁ……はぁ……やっと解ったぞ……」
自らの魔力が限りを迎え始めた時、アレクはようやくアダムの行使している魔法のからくりに気が付いた。
「形は違うとはいえ、自分自身の全力と対峙してるんじゃ勝ち目なんかありはしないな……」
アレクの言葉にアダムは微笑み返すと、これで最後と言わんばかりに腰に挿してある剣を抜きアレクの眼前につきつけた。
「さて、前戦祭もこれで終わりです。待ち望んでいた人が来ましたからね。しかし……あなたはあなたで素晴らしかったですよ。万全の状態の僕でしたら、間違いなく負けていたでしょうし」
「ほざけ! 万全の状態なら負けていただと!? そんなふざけたことが……そうか……そういうことか……お前は……」
「……やはり、あなたは素晴らしいですね。ですが、もう時間です。さようなら」
そう言って、アダムはアレクを渾身の力で切りつけると、倒れ行くアレクをよそに振り返った。
「こんにちは。アキラ。そして初めまして。フォルネウスのお嬢さん」
アキラとレイラが二人の元へ駆けつけると、そこには血まみれになり倒れているアレクと、その傍らで微笑む白髪白眼の少年がいた。
「……あれがアダム……? まだ子供じゃありませんの……」
レイラは白髪白眼の少年を見てぼそりと呟いた。
「子供だと思ってなめてると痛い目にあうぞ?」
アキラは、先ほどのレイラの言葉を肯定するように返事をした。
「そんなことは解っていますわよ! それよりも……アレクは生きていますの? 全く動きませんけど……」
ちらりとアレクの方に目をやったレイラは、その光景からアレクが生きているとは考えなかった。
自らの血の上に倒れているのだろうが、その出血の量は半端ではない。仮にまだ生きていたとしても、致死量を遥かに上回るであろう血が流れている。
「まだ息はあるみたいだな……けど……」
アキラには、あと数分でアレクが息絶えるのが解っていた。
だから、自分が今何をすればいいのかわからなくなっていた。
この場所へはアダムと話をしにきた。しかし、悠長に話をしていれば確実にアレクは死ぬ。
だが、アレクを治療するのをアダムが黙って見過ごすかと考えれば、答えはNO。
どちらにしても、アレクは死ぬ。そんな答えが脳内によぎり、アキラは苦渋に満ちた表情を見せた。
「では、早々にあの子供を叩きのめして帰りますわよ! そうすれば、もしかすれば助かるかもしれませんでしょ?」
(人の死に際を見たことがありませんのね……あなたにそんな顔は似合いませんわよ)
アキラが決意を決めた時、アダムは声を出して笑い出した。
「ふふふ。ははは。僕を叩きのめす? 何を馬鹿なことを……くくく。笑いが止まらない」
そんなアダムを見て、アキラとレイラは口を開いた。
「何がおかしい?」
「何がそんなにおかしいのかしら?」
二人が殺意の篭った目で、アダムを睨みつけるとアダムは笑いをこらえるようにしながら答えた。
「君は僕に聞きたいことがあったんだろ? どうすれば元の世界に戻れるかって……まぁ夢の世界になんて戻っても意味は無いだろうけどね。そして、フォルネウスのお嬢様。君は僕を殺したかったんだろ? 主旨が変わってしまってるじゃないか。どちらにせよ、僕は僕を叩きのめすようなやつに教えることは何もないし、殺すつもりで来ないやつに、僕を叩きのめすことなんて出来はしない」
アダムの言葉に、アキラとレイラは固まった。
レイラは、どうすれば『元の世界に戻れるか』この言葉を聞き、アキラがこの世界の人間ではない? との疑念を抱くこととなったから。そしてアキラは――
「夢の世界……だと?」
微かに動いたアキラの口から出た言葉に、アダムは不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「おや、口が滑ってしまったみたいだね。だけど、僕はもう何もこたえる気は無いよ。聞きたいなら……わかるだろ?」
アダムの言葉に、アキラは怒りをぶちまける様に声を荒らげた。
「わからねぇし、わかりたくもねぇ! お前なんかと俺を一緒にするな!」
その言葉に、アダムは少し寂しげに
「そうか……じゃあおいで! 君たちに見せてあげるよ。始まりの始祖――いや、夢の世界を作り出した神の力を!」
そう言ってアダムは臨戦態勢に入る。
それを見たアキラも臨戦態勢に入り、
「なにぼけっとしてんだよ! いくぞ!」
「え……でも、それじゃあなたが……」
「今は俺のことよりアレクだろ!」
レイラを叱り付けるようにアキラが声をあげると、レイラも臨戦態勢をとった。
(こんなときでも、自分のことより他人の心配をしますのね……)
「お待たせしましたわね! いつでも宜しくてよ」
その言葉をレイラが言うと、二人は顔をあわせて微笑んだ。
当初の目的は違えど、結果として同じ事のために戦う。
今までいがみ合っていた二人だが、二人ともが決して相手のことを嫌っていたわけではない。
アキラは、この世界で力が必要だと知った時からレイラの強さに憧れていた。
レイラも、アキラの誰とでも腹を割って話せる性格に憧れていた。
違う世界の違う境遇で育った二人だからこそ、そしてアキラがこの世界に現れてから一番長く共に過ごした同士だからこそ、二人は惹かれあっていたのかもしれない。
自分に無いものを、アキラはレイラに。レイラはアキラに求めて。
「タイムリミットは二分……いくぞ!」
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