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夢の外の真世界
作:氷乃涙



黒髪黒眼の来訪者〜其の二


「お聞きしたいことというのは、アキラ様が住まれていたニホンという国についてです」
 そう言うと、エレンは手に持っていた大きな紙を机の上に広げて見せた。
「アキラ様の住まれていた国は、この地図の中にありますでしょうか?」
 見せられた地図には、中央に一番大きな大陸があり、それを囲うように上左下にも中央の大陸ほどとはいかないものの、他の島に比べたら明らかに大きな大陸があった。
 アキラはニホンの形をした島を必死で探したのだが、この中にその島を見つけることは出来なかった。
「……ありませんね」
 首を横に振りながらアキラはさらに続けた。
「というか、ここにある島や大陸なんか見たことないですよ。なんていうか、その、地図に書いてある文字も読めませんし」
 その言葉にエレンは、やはりそうですかと言わんばかりの顔をしながら口を開いた。
「この中央にある大陸が私たちの居るバアル大陸になります。そして、さらにその中央にあるのが王都ラグナロクとなり、東西南北にフォルネウス・ハーゲンティ・バルバトス・フェニックスと分かれています。これらは五大貴族と言われ、バアル大陸の数ある国の中でもっとも大きな五つの国となります。続いてバアル大陸の北にある大陸ですが、ここは『フィアス大陸』と呼ばれて居る場所になります。このフィアス大陸は極寒の地で、この地にしか生息しない動物や魔物も多数存在しています。さらに地下にはドワーフの国があり、ドワーフの住む島としても有名です。次に西の大陸ですが、ここは『アムドゥスキアス大陸』と呼ばれており未開の地となっています。未開の理由は至って簡単で、この大陸が魔物の巣窟だからです。噂では、魔物の上位種にあたる魔族というものが住んでいるらしいのですが、詳しいことはわかっておりません。最後に南の大陸ですが、ここは『フェアリーランド』と呼ばれており、名前の通り妖精が数多く住んでいる大陸になります。エルフやハーフエルフと言われる人間とエルフの混血もかなり住んでおり、四大陸の中では一番争いのない平和な土地です。そのことから、この世の楽園などという呼ばれ方もされているようです」
 大雑把にではあるが、淡々と話しを進めるエレンの言葉にアキラは違和感を覚えた。
 アキラは「真実の言葉(トゥルース・トーカー)」を渡された後、その魔法具の簡単な説明を受けていたため、魔法の存在や他種族であるドワーフやエルフの存在なども半信半疑ながら知っていた。だからこそ、魔物がいても全然不思議ではないと理解できた。
 しかし、この話しの中にはアキラが一番疑問に思ったことが一言も出てこなかった。
 今のエレンの説明は、おそらく間違いの無いものでありアキラにとっては有益な情報だったのだが、肝心な部分が話されていない。そう思ったアキラは、エレンにその疑問を投げかけた。
「あの、この右……東の方にある黒い部分は何なんです? 周りは海のようですけど、何故ここだけ塗りつぶされてるんです?」
 アキラが疑問に満ちた表情で問いかけられると、エレンはまるで説明するのを忘れていましたとでも言わんばかりにさらっと答えた。
「そこは『忘却の地』と呼ばれる場所になります。千年ほど昔『全てを超える者』と呼ばれていた魔道士が強力な結界をその地に施したため、今では入ることは愚かその地を見ることさえかないません。ですので、中の様子や地形が一切わからないことから黒く塗りつぶされています」
 アキラは、その言葉を聞き再びエレンに質問をした。
「それじゃあ、千年前の地図ってのは無いんですか?」
 千年前の地図があれば、そこがどういう風になっていたかが解る。もしかしたら、そこには自分の知っている世界があるかもしれない。そうアキラは考えたのだが、エレンから返ってきた答えはこういうものだった。
「あることはあるのですが、国宝に指定されているため私が勝手に持ち出すということは出来ないのです。申し訳ありません」
 そう言って、エレンは申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
 その姿を見たアキラは、自分が悪いことをしたかのような錯覚に陥り「無理を言ってすいません」とエレンに謝った。
 するとエレンは「い、いえ、そんな、アキラ様は何も悪くありません。謝らないでください」と慌てながら言ったのだが、アキラにはその反応が新鮮だったらしく、くくくと小さな笑いを漏らしていた。
 アキラが笑っていることに気付いたエレンは、頬を紅く染め項垂れ(うなだれ)ながら「私、何かおかしいことでも言いましたか?」と言ってきた。
 その時、アキラはこの世界に来てまだ二日しか経っていないにもかかわらず、今までいた世界が物凄く遠く感じられた。

 顔はそこそこいいが性格は最悪。間違ったことを言っていたとしても、自ら謝ることなど皆無で、それでいて自己中心的。先程のようにこちらに非がなかったとしても、謝ろうものなら悪役にされるのは間違いない。
 今まで、アキラの隣にいた女性はそんな女性だった。
 過去に、何度別れてやろうと思ったかもわからない。
 そんな相手ではあるが「もう会えないかもしれない」と思うと、胸の奥が苦しくなった。

「――いましたか?」
 エレンは、先程まで笑っていたアキラが急に深刻そうな表情を見せたことによって困惑しながら問いかけた。
「失礼かと思いますが、気に障ることでも申しましたでしょうか?」
 第一声こそ聞き逃したものの、二度目の声はしっかりと届きアキラは寂しげな声で答えた。
「いや、そういうわけじゃないんですよ。少し考え事を……」
 そう言ってしばらく間を置いた後「すいませんが一人にしてもらえますか?」とアキラは言い、その言葉を聞いたエレンは深々とお辞儀をして部屋を出て行った。

 ――あいつ何してんだろうな。最近じゃ俺から逢いたいなんて思わなかったけど……今は、あいつに逢いたいな。贅沢言うなら、あのバカ二人もか……
 なんだかんだ言って、俺はあの生活が好きだったんだな。すげぇ戻りたい。――

 一人になったその部屋で、アキラの頬には一粒の涙が流れていた。







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