歴史の闇に消えた始祖〜其の一
ガタンガタンと聞きなれた音。
疲れた身体を眠りに誘うかのような振動。
窓の外は暗く、街の灯りすべてが消えている世界。
「はじめまして」
話しかけてきたのは、純白の白髪を携え異様なまでに透き通った白い瞳を持つ少年。
カジュアルな服装ではなく、スーツなどでもない。
夢だと思った異世界で、貴族達が好んで着ているような――
ただ異彩を放っていると言えば、自身の持つ白髪白眼と相反する血塗られたような漆黒の黒を身に纏っていること。
「はじめまして」
アキラは少年の言葉に相槌を打つかのように返事をした。
すると少年は、笑みを浮かべた。
その笑顔は、まるで今まで笑ったことがないかのようにぎこちなく――けれど、とても優しいものだった。
「自己紹介をさせてもらおうかな。僕だけが君を知っているのは不公平というものだからね」
そう言って、少年は自らの名を語りだした。
「僕の名前は『アダム・マクスウェル』。始まりの始祖にして、忘却の地『ガイア』を封印せし全てを超える者」
少年は自らを始祖アダムと名乗り、忘却の地を封印した者だと告げた。
始祖がどれほど昔から居たのかアキラは知らない。
しかし千年前、忘却の地が全てを超える者と呼ばれるものに封印されたのはエレンから聞いて知っていた。
だからこそ生まれた疑問。
たった千年前が、あちらの世界で人類が誕生した時なのかと――
疑問を問いかけようとしたアキラだが、何故かアキラはその答えを知っていた。
何故知っていたかと聞かれても答えれるものではない。
だが、理屈ではない何かによってアキラはその回答を得ることが出来た。
アキラが腑に落ちない顔をしていると、アダムが微笑しながら話しかけてきた。
「ふふふ。何故、自分の疑問に思ったことの答えが解ったのか不思議だという顔をしているね」
アダムの発した言葉にアキラは驚いた。
疑問に思ったことを問いかけようとはしたが、一切口にはだしていない。
それなのに、アダムが自分の考えていたことを容易に汲み取っていたからだ。
先程のような状況であれば、第一声として最も多いのは「どうした?」などの疑問系での問いかけのはずである。
「……なんで俺の考えてることがわかるんだ?」
疑問に満ちた表情でアキラが問いかけると、アダムは先程と同じように笑いながら答えた。
「その答えも君は知っているはずだよ? なんせ、今の君は僕と同じ力を持っているんだからね」
微笑みながら言うアダムの発言にアキラは困惑した。
「同じ……力?」
「そう。同じ力。あちらの世界の人間に力を与えることは出来ないけれど、こちらの世界の君になら与えることが出来るからね」
アダムがそう言うと、今まで安定していた世界が突如歪みだした。
まるで水の波紋のように波打ちながら、徐々にその形を失っていく。
「もうお終いか……結構短かったな」
崩れていく世界を見渡しアダムはさらに続けた。
「じゃあ、次に逢う時はあちらの世界で」
そう言い終えると、アダムもこの世界と同じく歪み、そして徐々に崩れだした。
それを見たアキラは咄嗟に口を開いた。
「ちょっと待て! 俺がお前と同じ力を持ってるって言ったよな? なら俺は、人の心なんて読めなくていい! そんな力ならいらない!」
咄嗟に口をだしたアキラにアダムは寂しげな顔をしながら、聞こえるか聞こえないかと言う声で呟いた。
「そう……なら、――は自分でみつけるといい。きっと君なら――――」
自分でも何故こんなことを言ったのか、アダムが最後に何を言ったのか――アキラには解らなかった。
しかし、崩れいく見慣れた世界をみてアキラは再び強く思うこととなる。
元の世界に戻りたいと――
◇◇◆◆◇◇
イライザから逃げるように自室に戻ったレイラは深くため息をついていた。
――イライザのせいで、何も聞けない状況になってしまったじゃありませんの……
この後エレンに問いただして、盗み聞きしていたと思われるのもなんですし――
肩を落としながら、さらに深くため息をついたレイラは窓の外を眺めていた。
すると、不意に戸を叩く音が聞こえてきた。
「入っていいか?」
不意に戸を叩いた男の声にレイラは少々驚いた。その声は、客室にて治療を受け眠っていると思っていた者の声だったからである。
「え……あぁ。かまいませんわよ」
レイラが承諾の意を示すと、その者は戸を静かにあけ部屋の中へと入ってきた。
「どうしま……え?」
部屋に入ってきた男を見てレイラは激しく動揺した。
二週間前とは明らかに違う雰囲気を纏っていることもさることながら、その容姿に驚きを隠せなかった。黒髪黒眼に変わりはないのだが――
「なんだ? 人の顔をじろじろと……何か俺の顔についてるのか?」
アキラが不思議に問いかけると、レイラは慌てるように声を出した。
「……なんだ? じゃないですわよ! その髪はどうしたんですの!?」
「髪?」
そう言ってアキラは部屋にあった鏡を覗き込んだ。
するとそこには、黒かった髪に一束の白髪が際立つように生えていた。
しかし、アキラは対して驚かなかった。
その白髪を見て少し触ると「なるほどね」っとぼやき、レイラに視線を向けた。
「あのさ、ちょっと質問していいか?」
思っても見ないタイミングでのアキラの問いかけに、レイラは少しばかり慌てながら答えた。
「な、なんですのよ?」
「お前さ、アダム・マクスウェルって始祖知ってるか?」
聞いたこともない始祖の名前を出され、レイラはきょとんとした顔で、
「アダム・マクスウェル? そんな始祖知りませんわよ」
「なら、全てを越えし者は知ってるんだよな?」
続けざまに質問をするアキラの問いに、レイラは声を大きくして答えた。
「馬鹿にしていますの? そんなもの、この世界の人間なら誰だって知っていますわよ!」
レイラのその答えを聞いたアキラは、もう一つ質問を投げかけた。
「じゃあ、そいつの名前ってなんだ?」
「名前……ですか? たしか――」
レイラは視線を斜め上にやり少し考えた後、
「アダムだったかしら? って……え?」
そう答えると、レイラは軽いパニックを起こすかのようにうろたえていた。
「全てを超える者が始祖? 始祖が全てを超える者? でも、それじゃ時代が全然違いますわよ」と、独り言にしては大きすぎることでぶつぶつ呟いた後、レイラは真剣な眼差しでアキラに問いかけた。
「あなた……何を知っていますの?」
「何をって……そうだな……今話してたことに対してなら、全てを超える者と始まりの始祖アダムが同一人物だって事ぐらいか?」
歴史が変わるかもしれないような重大なことを、さらりと言ってのけるアキラにレイラは怒鳴るように声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! そんなでたらめな話、誰が信じられるものですか! それに、始祖と全てを超える者が生きていた時代が違うじゃありませんの! そこはどうやって説明しますのよ!?」
「それはだな――――」
怒鳴りつけてくるレイラに、アキラはあちらの世界で知った事を教えた。
しかし、レイラは信じなかった。
始まりの始祖アダムが転生し全てを超える者となったなどと――
アキラがアダムと同じ力を持っているなどと――
信じられるわけがない。
だが、アキラがアダムから力をもらったと言うことをレイラは信じざるをえなくなった。
エレンがどれほど治療を施しても消えなかった傷を一瞬で治し、それどころかフォルネウスの秘術であるはずの水滅の刃を詠唱破棄で見せ付けられてしまったからだ。
そして、レイラは聞かされることとなった。
天の属性の性質と、その成り立ちを―― |