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サウス・アメリカ!
 軽快なワルツと共に、画面に光があふれ出す。輝く骨片のような無数の光点がぐるぐる回転したかと思うと、いくつかの渦に収束し、一連の文字へと変化していく。

♪ジャーン!

≪UFO漁業はいま 制作:イギリスBBQチャネル 2034年≫

 ……

≪多国語放送≫

 …………
 ……

    *

 ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ!

 男たちの野太い掛け声が、夜の谷間にこだまする。闇の中、僅かな明かりにぽっかりと浮かび上がっているのは、プロの鉄面皮を備えた女性リポーターの笑顔だ。その顔色が悪いのは、照明だけのせいではなさそうである。彼女の後ろで行われている奇怪な儀式は、正常な人間であれば、眉をひそめるような非文明的なモノなのだから。

「聞こえますでしょうか! 勇壮な空の男たちの叫び声が! わたくしキャサリン・オーモットは、いまここ、コロンビア山中にあるUFO漁場に来ています! 天気は曇り、なかなかのUFO日和だそうです! ご覧ください、ちょっと盆地になったところ、そうですね、山あいの窪地という感じでしょうか、そこに村の男たちが輪を作って、UFOを呼ぶ漁民の唄を大声で歌っています!」

 ご覧くださいとはいうものの、暗い画面から周囲の景色は窺えない。

 ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ!

「もうかれこれ2時間になるでしょうか。いまだに、いまだにUFOは、あ、あ、キャーッ!」

 オオーッ!

 男らの間からどよめきが漏れた。だが、ベントラの声は中断しなかった。何かに気づいて喚声を上げたのは、歌声をとりまく別の群衆のようだ。と、カメラが上空を映し出した。真っ暗な闇の中に、ちらちらと赤い光が瞬いている。と、空の中央で、急激に雲が奔騰しはじめた。そして次の瞬間、ソレは姿を現した。

「UFOです! UFOが現れました! カメラ! カメラさんあれ! キャッ! 雲が割れて、見えますでしょうか、風が! 風がすご、……!!」

 急に突風が巻き起こり、リポーターの髪を荒っぽく顔になでつける。そのとき、雲間で激しい雷鳴が起こった。ストロボのように大気を満たした青白い光が、一瞬間、周囲を真昼のように照らし出す。窪地の底で輪になっている歌い手、その周りで銛とロープを構える銛手、そのさらに後ろで身を低くするハンマー手……。無数の人影が、マネキン人形のように固まっているのが見えた。そして彼らすべての頭の上に、直径10メートルはあろうかという奇怪な飛行物体が、まるでシャンデリアのように宙に浮かんでいた。
 ふたたび闇。だが、UFOの機体はむしろ空中の隈となって、見る者に黒々とその姿を見分けさせた。

 ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ!

「……いま、いま、激しい稲妻が走って、雲の間からUFOが降りてきました! アダムスキー型です! 二つのサラダボウルをあわせて、間に皿を挟んだような恰好です! ゆっくり、ゆっくり降りてきます! われわれの様子をうかがうようです! どんどん降りてきます!」

 再度稲妻が走った。布を裂いたような不規則な曲線が、今度は雲の中ではなく、UFOそれ自体から発せられる。凄まじい破壊音が空気を破り、細かく枝分かれした閃光が、茨の冠のようにUFOの周囲を一回転した。

 ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ!

「……えー、凄いです! UFOは、青い稲妻をまとったような姿で、えー、ご覧になれますでしょうか。えー、降りてきます。もう地上30メートルくらいでしょうか、すごい迫力です。銀色です、写真で見るのと一緒、」

 ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ! ベントラ!

「……まだ降りてきます。あとどのくらいでしょうか、あっ、今地上で誰か動きましたね、下の方で誰か、何でしょう、あ、道具を……」

 地上のあちこちで、黄色い明かりがいくつか灯った。男たちが松明に火をつけたのだ。

 ベントラ! ベントラ! ベントラ……
 ウォオオオオオオオオオオオ!!

「あ、あ、男たちの輪が崩れました! 銛です、銛が打たれています! あ、ロープがかかりました!」

 凄まじい力で放たれた無数の銛は、まるで昇り龍のように長いロープを曳きながら、暗い夜空へと高く高く駆けのぼっていった。そのうちの何本かが、銀色の機体を舐めて反対側へと飛び抜ける。UFOに触れたロープはどういうわけか、鮹の触手のようにつるつるの外板に吸い付いていった。

「太いロープ、あんなに高く、あ、UFOが、浮き上がります、あ、逃げる、逃げちゃう!」

 フォルルルルルルルルルロルロルロ

「すごい音! エンジン音でしょうか、上昇していきます、ダメです、逃げます、UFO逃げます、あ、ロープ、漁師たちがロープに群がります、するするって、ロープ、あ、ロープが伸びきりました、止まった! UFO捉まえた! 捉まえた! あ、落ちる、UFO落ちる、バランスが、UFOのバランスが、あ、あ、あれ? 落ちません、持ち直しまし、」

 空中で傾いたUFOの一端から、緑色の光線が発射された。次の瞬間、人々の背後で近くの何かが爆発炎上する。カメラが振り返ると、突貫工事で建てられた漁民小屋の一棟が、うわものを全て吹き飛ばされて、激しい焔を上げていた。

「あ……?!」
 呆然とするリポーター。甲高い男の声が、彼女を叱咤するように割りこんでくる。
「キャシー、リポート続けて!」
「なに今の! レーザー? レーザー砲積んでるの? あのUFO!」
「リポート続けて! マイクが音声拾ってるよ!」
「ちょっと冗談じゃないわよ! 無茶でしょこれ! 戦場リポーター契約なんて結んでない!」
「リポート続けて!」

 よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ!

「レ、レーザァ、みたいなの、がなんか、エヘン、レーザーがですね、撃ちました、撃たれました。建物に。ええ。被害などはわかりません。えー、ここから被害などはわかりません。UFO本体は、ロープで地上に繋ぎ止められています。繋ぎ止められたまま暴れています。グルグル回っています。怒っているんでしょうか、UFO怒っているんでしょうか。大きく旋回、あーっ!」

 ふたたび光線が発射される。今度は三条の筋が扇形に走り、一瞬ののち、両側の二本が中央の一本に向かって収斂した。だが光線は真っ直ぐに山の稜線を越え、何かに当たった気配はなかった。

「……ちょっとお、あたし帰る、もう帰る」
「キャシー、しっかりして」
「やだもうこの局、なによこんなの聞いてないわよ、手当いくらだと思ってんのよ」
「キャシー、俺がついてるから」
「なにいってんのよこのデコスケ!」

 よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ!

「ハア、ハア、レーザーが、また、危険です、たいへん危険です、UFOはたいへんな火器を持っています。でも漁民たちはひるんでいません。銛を持った漁民たちは意気軒昂です。なんということでしょう、男の中の男って感じです。諸肌脱ぎです。みんな諸肌脱ぎです。逞しいです。カメラマンとは大違いです」
「落ちついてよキャシー!」
「あんたより落ちついてるわよ!」

 三度目の閃光。今度は今までよりも出力が低く、山の稜線をかすめてその向こうで爆発音を立てたものの、先の二発ほどの迫力はなかった。

 よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ!

「……だんだん慣れてきました。すごいですね、漁師たちはUFOの向きをコントロールして、レーザーが自分たちのほうに来ないようにしているんですね。なるほど、巧みですね。あ、UFO、疲れたのでしょうか、少し下がってきます、男たちもロープを巻いています、巻いています、あ、UFOがまた上昇しはじめました。でもロープ、すぐにロープが張ってしまいます、さっきより低いところで止まりました、あ、あ、また暴れ出しました、ま」

 食器棚をひっくり返したような破壊音が響き、画面全体が緑色に光った。カメラの視界が狂ったように回転する。暗い夜空と木々の梢がまだらとなって画面をよぎり、意味のない映像が数秒の間、四角い世界を支配した。

 あホーラ、よいせ! よいせ! よいせ!

「……死ぬこれ絶対死ぬ。ちょっとカメラ! ちょっと!」
「……」
「伏せるのは勝手だけど、きちんと撮りなさいよ! ろくでなし!」
「……マイク……入ってるよ……」

 よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ!

「……えあー、うぉっほ、UFOの、高度が、下がって、きたため、レーザーが、近くに、命中するように、なりました。木が倒れるスゴい音がしました。焦げ臭いです、なんだか焦げ臭いです、」

 よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ! よいせ!

 フォオロロロッルルルロットットルットパンスポン

「あ、エンジン音でしょうか、UFOのエンジン音でしょうか! そんな感じのが乱れてきました! 弱ってきたんでしょうか、UFO弱ってきたんでしょうか、あ、ぐらつきます、UFOぐらつきます、あ、やった、落ちそうです、落ちてきそうです、」

 ウォォォォォォオオオオオオアアア!!

「落ちます、UFO落ちます! 男たちが……あっ、逃げて、逃げて! 危ない!」

 無数のロープを受けながらも逞しく空中に浮かんでいたUFOは、突如、力を失ったようにぐらついた。次の瞬間、UFOはパンケーキのように覆って、それまでの反重力っぷりを忘れたかのように、あっけなく自由落下を開始する。UFOの下にいた漁民たちが、犬の死骸から逃げるノミみたいな節操のなさで、四方に向かって走り始めた。その中央へ、真っ逆さまに銀色の機体が落ちかかった。
 直腸まで響く凄まじい振動と破壊音をたてて、UFOが土煙の中に飲み込まれた。

「落ちました! UFO落ちました! 側面を下にして! ……男たちが駆け寄っていきます! こんどは駆け寄っていきます! あ、危ない、ロープが、空中に残っていたロープが、とぐろを巻いて落ちてきま、あ、あ、ひとり、ひとりロープに打たれて倒れました! 大丈夫なんでしょうか、大丈夫なんでしょうか! あ、男たち、ハンマーをもってUFOに群がります……! 勝利です! 男たちの勝利です!……」

 オオオォオオオオオオオォオォオ……

      *


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