第三話 カルストイナの歴史
今から三百年ほど昔、自分たちの理想郷を追求せんがために、豊富な資源を利用し、科学文明の研究に勤しんでいた部族がいた。彼らは創作能力に長け、始めは日用雑貨等の生活用品や開拓に必要な工業機器が主であったものの、その能力は止まるところを知らず、医療機器や都市建設、兵器開発にまで及ぶ。
そして、十分な力をつけた部族たちはその力を誇示したい者を筆頭に争いを始めた。それは瞬く間に他の部族や民族、あるいは国までも巻き込んでいく大きな戦争となった。戦いは熾烈を極めたが、彼らの軍事力の前に太刀打ちできる相手はおらず、次々と屈服していく。
そしてとうとう、ここにシャングリラ帝国が誕生したのである・・・。
帝国暦二百猶予年、それまでシャングリラ帝国は華やかしい時代を送っていた。しかし、時の流れが彼らの慢心を助長させたのだろう。彼らの研究に対する意欲は衰退し、時折、ずさんな警備体制が見られるようになる。
そんな頃であった。彼らの運命を決めるべき出来事が起きたのは。
彼らの科学技術の生命線とも呼べるベノム高炉が融解したのである。大気中に拡散したベノム粒子は空気中の酸素と結合し莫大なエネルギーを誘発、半径数千キロに及ぶ爆発が起きた。なぜ高炉が融解したのか原因は今となっては分からない・・・。
ただ、これにより大地は三つに裂け、河川は大規模な氾濫を起こして洪水となり、海は嵐のように荒れ狂った。シャングリラ帝国もそれまで繁栄していたのが嘘のように一瞬のうちに消え去ってしまった。当然、そこに住む人間を含めた生物も滅んだかに見えた。
しかし、わずかに生き残った人々が再度この荒れ果てた世界を長きに渡り復興する。
そして現在、三つの大地に軍事国家ダスカニア、エレーリ共和国、独立国家ベルセルクの三大大国が出来たのである。
「ベノム粒子か・・・。今も取れるのか?」
「いいえ、そのときの爆発で全て無くなっているわ。けれど、もし見つかったとしても即刻廃棄処分になるでしょうね。一度その粒子のせいで滅びかけているのだから・・・。でも、それがどうかしたの?」
修一がベノム粒子について質問するので怪訝な顔をするニーフェ。
しかし、修一はそれには答えず手元のカクテルを一口飲むと、うまいな、これ。と感想を漏らす。それを聞きながら、ニーフェは修一が答える気が無いと見たのか、軽くため息をつくと、自分もカクテルを継ぎ足す。
「しかし、一度滅びかけてまた復興したのに、なぜ、また戦争なんてしているんだ?自分たちの欲望のために滅びかけた例があるのに、そこから何も学んでいないのか?」
再び質問をしてくる修一。その顔にはうっすらと怒りと悲しみが内包されているように見える。そんな修一の表情に内心ドキッとしながらもなんとか平静を装うと
「え、ええ。それについては三国とも十分承知しているわ。でもね、状況はそれほど簡単なものではなかったの。」
ニーフェが言うには、三国間で初めて和平条約を結ぶ議会が開かれたとき、ダスカニアとベルセルクの間で激しい対立があったそうだ。それにはシャングリラ帝国始まって以来の階級制度が根付いていたらしい。
つまり、ベルセルク人=貴族の子孫(始めに暴動を起こした部族)、エレーリ人=市民の子孫、ダスカニア人=奴隷の子孫という構図である。
ダスカニアの人々はベルセルク人のことを快くは思ってはいないし、国王を始めとした上層部にいたっては憎悪すら抱いている始末である。憎んで当たり前だろうが・・・。一方、ベルセルク側は大半が過去の過ちを悔やみ、それを教訓とし、反省している者が多い。
しかし、軍上層部の中にはまだまだ過去の栄光を忘れられない者、選民思想を堅く信じている者もいる。・・・どこかの長官とか。
まぁ、それはともかく、和平が失敗すると同時にダスカニア側からベルセルク側へ宣戦布告。それで今に至るという訳である。
「なるほどね。だいたいカルストイナの歴史については分かったよ。けれど、その話を聴く限り第三者である俺がこの戦争に介入するわけには行かないな。戦争の原因を作り出したのはそもそもそちら側にあるんだし。」
「そうよね・・・。ごめんなさい。祖先が起こした事とはいえ私たちに非があるのは当然のこと。何も知らないあなたをこの戦争に巻き込もうとしたのもね。・・・でもこれだけは言わせて欲しいの。私があなたにこの話をしたのは自分の贖罪のためでも許しを請うためでもない。この世界を、この歴史を何も知らない客観的な目で見られるあなたならこの戦争を止めてくれる、そんな気がしたのよ。でも無責任だったわよね。」
「いや・・・。」
「無理はしなくて良いわ。・・・さてと、私はこれからハロルド大佐のところに行って来るわね。あなたの少尉の階級を取り消してもらうように頼まなきゃ。」
ニーフェはテーブルを立つと足早にバーから出て行く。後に残された修一はニーフェの居ない座席をぼんやりと見ながら、
「憎しみの連鎖はどちらが引かない限り永遠に続いていく・・・か。俺がこの戦争に介入した所で出来ることなんかたかが知れている。逆に俺が介入したことで新たな火種があがるとも限らない訳だしどうするかな・・・。」
(マスター。人間というのは争わなければ生きてはいけない動物なのですか?)
(うん?ああ、いや、そんなことは無いさ。人というのはな、如月。確かに時には争うこともあるだろう。それは自分のためであったり、他人のためであったり、理由は色々ある。けどな?人というのは争わなくてもお互いが助け合い協力していくことでも生きていけるんだ)
(助け合いですか?)
(ああ、そうだ。でもそのためには乗り越えなければならないこともある。それが争いだ)
(・・・よく分からないのですが)
(あははは。俺だって良く分からないさ。ただ、助け合いと争うことは表裏一体だ。
どちらも生きるうえでは切っても切れない関係なのさ。)
(はぁ〜。やっぱりよく分かりません。)
(あはははは)
(ちょっと笑いすぎですよ。マスターっ!)
(あはははははははは)
(ぶちっ。(何かが切れる音))
(はははっは?・・・・きさらぎ?)
(・・・・座標固定完了。目標ブラックホール。発射まで三秒前・・・)
(いや、ちょっ、ちょっとまっ・・・)
(発射!)
(うそだろおぉぉぉぉぉぉ・・・・・)
(・・・マスター、あなたなら生き残ってくれると信じていますから。どうぞ逝ってらっしゃいませ(怒))
「・・・そうだよな、如月。助け合うことも争うこともどちらにしろ同じ事。なら、俺は俺の思う通りやってみるだけさ。」
そう言いながら修一はニーフェの後を追うべくバーを後にした。自分の信念を貫き通すことを信じながら。
余談だが、彼が立ち去った後の座席には大量の汗がこぼれていたそうだ。かなり怖かったらしい。っというか生きて帰ってこれたのか、修一?だとしたら、お前は・・・・・・?
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