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星明かりのトッティ

作者:紗凪 ケイ
 トッティは毎日、夜の空に星の明かりをつける大事な役目を持っていました。
 星はキラキラ輝いて、町や道路を照らしてくれます。

 雲の上に住むトッティは、時たま町に下りて様子を伺うこともありました。

「あらトッティ、いつもありがとうね」

 町の人たちはトッティを見つけるなり、毎日夜になると星の明かりをつけてくれるトッティに感謝の言葉を告げます。
 それを聞くたびに嬉しくなり、星の明かりをつけなかった日はありません。


 しかし、何日も、何年も、何十年も経って、いつしか夜空に星の明かりがついている事があたりまえになっていました。
 あたりまえなので、トッティが町に下りてきても誰も感謝する事はありません。
 それどころかトッティを知らない人が殆どでした。

「あーあ、星の明かりをつけるのも大変なのに……」

 雲の上で、トッティは一人呟きます。
 決して感謝してもらうためにやっていたわけではなかったのですが、ため息が出ました。
 彼の体感では、ついこの前まで「ありがとう」と言ってくれた人が居たのに、その人たちがいきなり消えてしまったという感覚です。

 それでも暫くはトッティも星の明かりをつけ続けていました。
 彼の役目でもあったので、きちんと常に星の明かりはつけなければならないと思ってはいました。
 ですが、それも長続きしません。

 自分を知らない人たちのために、何故頑張らないといけないのだろう。そうトッティは思ってしまったのです。
 そうして少しもすると、トッティは明かりをつけなくなってしまいました。

「おや、どうしたんだ?」
「暗くて怖いよ……」

 町の人たちは驚き、また困ってしまいます。
 何しろいきなり星の明かりがつかなくなってしまったのです、こんな事は初めてでした。

 町の人たちは家の中に隠れるように引っ込みました。
 外は真っ暗、1、2歩先はもう既にまったく見えません。星の明かりが無いので外に出られないのです。


 そんな事も知らずにトッティは雲の上でごろごろ。
 初めて星の明かりをつけずにいたので、暇をもてあましています。

 あっちへごろごろしては、こっちへごろごろ。

「たまにはこんな日も良いな」

 悪だくみをするようにニヤッと笑い、またごろごろ転がりました。


 町の様子がおかしい事に気が付いたのは、それから何時間か経った頃でしょうか。
 いつもは夜でも町は活気付いているはずなのですが、まったく声が聞こえません。

 トッティは雲の上から町を眺めてみますが、何も見えません。
 星の明かりがないので、ここから町が見えないのです。
 目を凝らしてじーっと見てみても、やっぱり何も変わりません。今まで見たことも無いくらい、町は真っ暗な闇に包まれていました。

「おーい、誰か居ないのかい?」

 トッティは真っ暗な町に下りて、歩きながら周囲に尋ねてみました。
 すると、声が返ってきます。

「居るよ、でも、真っ暗でここから動けないんだ。キミはよく歩けるね」

 そう言われるものの、トッティも目を凝らしてなんとか歩いているに過ぎません。
 でも、今はそれより聞きたい事がありました。

「そんな事より、なんでこんなに暗いのかわかるかい?」

 トッティは声がした方向に向かって聞いてみます。
 星の明かりが消えているから、と答えると思っていましたが、声の主は「知らないよ、わからない」とだけ答えました。

 これにはトッティもびっくりしました。
 自分たちが、夜に何を頼りに町を歩けているのかすら知らないのです。

 少しの間、トッティは考えていました。
 毎日星の明かりをつけていたのに、町の人たちはもうそれを見ていなかったのだろうか、と。

 とりあえず、トッティはまずこの近くに居る人に星の明かりの説明をします。
 すると、やっぱりこの人はしっかり星の明かりの大切さがわかっていました。
 ただ星の明かりが空にあるのは当然の事で、今のように星が見えなくなってしまうなんて考えた事も無かったようです。

「星の明かりは、トッティが毎日つけてるんだよ」
「へえ、そうなのかい。じゃあトッティという人にお願いすれば、また星の明かりをつけてもらえるのかな?」
「うーん、どうだろうね」

 トッティは他人の振りをして近くに居る人と話していました。
 本当に自分を全く知らないのか、確認したかったのです。

 その結果、自分はもう町の人たちに全く知られていない事がわかりました。
 トッティと言う名前は聞いた事がない、と言われてしまったのです。
 落ち込んだトッティは町の外までトボトボ歩いてから雲の上に帰りました。

 いつの間にか、お日様が顔を出していました。
 結局星の明かりをつけずに朝になってしまったのです。

 トッティは昨日の人を思い出していました。
 しかし思い出せば思い出すだけ、悲しい気持ちになります。
 毎日かかさず星の明かりをつけていたトッティとしては、せめて名前くらいは知っていて欲しかったと思うのです。

 どうにかして、また町の人たちに名前を知ってもらえないだろうか、トッティは頭をひねって考えます。
 昔はどうやって名前を覚えてもらっていたのか、トッティは思い出せません。

 まったく思い出せないまま、お昼になりました。
 なんとなく町を眺めると、昨日の事が無かったかのように、いつも通りの風景が目に飛び込んできました。

「はあ……今日はどうしよう」

 またため息が出ます。
 トッティも意地悪で星の明かりをつけてないわけでは無いのですが、自分の存在を知ってもらいたいと思うと、どう動けばいいのかわからなくなってしまいます。

 でも町を眺めていると、このまま星の明かりをつけずにいると町の人たちはトッティをいらないと思うのではないかと、今度は別の考えが生まれます。
 星の明かりが無くても別の明かりが使えるのであれば、トッティはいらなくなってしまうのです。

 それはトッティも困ることでした。
 星の明かりは町の人たちだけではなく、トッティにとっても大切なものだと知ったのです。
 なので、今日はきちんと星の明かりをつけようとトッティは思いました。

 そう思うと意外と時間が経つのが遅く感じるもので、まだお昼を少し過ぎた頃でした。
 トッティは再び町を眺めます。
 昼間の町はわいわい騒がしく、見ているだけで楽しくなりました。

 集まっている人、買い物をしている人、せわしなく走り回っている人。
 特にすることも無いので、トッティは雲の上からじっと眺めます。

 1時間経ち、2時間経ち、やっぱり時間はなかなか進みません。はやく星の明かりをつけたいと思っているので、トッティにとってはかなり退屈な時間です。
 3時間経ち、4時間経ち。そろそろ星の明かりをつけ始めようかな、とトッティが思った時、町で妙な動きがありました。

 町の人たちが、広場に集まって何か言っているのです。
 トッティはそれが気になり、耳を凝らしました。

「トッティさん、星の明かりをつけてください」

 それは町の人たちのお願いでした。
 率先しているのは昨日話していた時に聞いた声。……きっと名前を覚えていてくれたのでしょう。

 トッティがどう考えているか判らなかったので、町の人たちは今日も星の明かりがつかないのかもしれないと思っていたのです。

「ぼくに任せて!」

 トッティは雲の上から飛び降りると、町の人たちに言いました。
 町の人たちは、初めて見るトッティに驚いています。

 トッティが星の明かりをつけ始めると、町の人たちは昔と同じようにトッティに感謝してくれました。

 こうして、トッティはまた町の人たちに名前を覚えてもらい、町の人たちは星の明かりが無いと町は真っ暗になってしまう事を知りました。
 その後、皆で星の明かりがある事に喜び、お祭りを開きました。

 お祭りは何日も、何日も続いたそうです。
 めでたし、めでたし。

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