何編かの詩を綴った。
担当の人間は、
「出版して利益の見込めないものはちょっと」
と苦笑した。
たしかに、無名の、平凡な人生を送ってきた人間の愚痴っぽい詩集を出したところで、利益なんてもたらされないだろう。
「良ければ恋愛詩か、恋愛小説を書いてもらえませんか?」
挙句の果てにはそんな事まで言い出す始末。
「見たところ、素質はあるようですし、どうですか?」
フォローのつもりなのかもしれないが、それは私を挫けさせるのに十分だった。
あぁ、面倒臭い。
出版社のビルを出て、ビルに囲まれた小さな広場のベンチへと腰を下ろす。
やっと煙草が吸える。
風は冷たくて、ビルの影になり、陽の届かないこの場所は、寒かった。
こんな寒い場所で煙草を吸わなきゃいけない現実に苛々する。
そもそも、大事な話があるから来てくれと言ってきたのは、出版社の方だった。
たまたまその出版社の主催する文芸賞に何編かの詩を送った。
繋がりはそれだけだ。
恋愛詩なんて、
バカにされたとしか思えない。
盛大な溜め息をついて、ビルの合間から見える大通りを見つめる。
休日の昼さがり、
キツい化粧に、ピンヒールで歩く女、独特な立ち姿でいかにもキャッチですって男、ミニスカートにヘソだしでマフラー巻いてるチグハグな女の子、
人は絶え間なく歩き続けている。
私は同じ空間にいるはずなのに、ビルの合間の先に見える世界は、別世界なんじゃないかと思う。
自分だけ、何かから置き去りにされているような。
恋愛詩でも書けば、夢や希望や純愛や、そんな話を書いたら、私もあっちの世界に行けるだろうか。
そんな事を考えてみて、また溜め息をつく。
違う。私は書かないんじゃなくて書けないんだ、と。
私は、人を引き込めるような大恋愛だってしてないし、憧れてもいない。
見よう見まねで書いたって、本当の私は置き去りのままだ。
太宰治は、
「芸術は市民への奉仕だ。」
って言ったけど、そもそも私自身が平凡な市民だし、奉仕精神なんて持ち合わせてないし。
ぐだぐだと言い訳を考えて、バカらしくなった。
それでも人の多く大通りを通って帰る気持ちにもなれなくて、暇つぶしに携帯で、小説サイトを開いた。
沢山の投稿小説を適当に開きながら、目を通す。
一体、この投稿者たちは、何を考え、何のために、小説を書いているのだろう。
前向きな内容もあれば、後ろ向きな内容もある。ここには乱雑に、色んな言葉や感情たちが氾濫している。
それらの作品はそれぞれに何かを求めているのかもしれない。
賞賛か理解かそれとも証明か。
適当に目についた小説を読もうとしたが、どうも頭に入ってこない。
無機質な画面にただの記号の羅列。
誰かが、何かを求めて書いたであろう文章は、私の中に入ることなく滑り落ちていく。
あぁ、今日は駄目だ。
私の頭は正常に機能していない。
ぼんやりと、灰色がかった空を見上げる。
私は、何のために、詩なんて、書いたんだっけ?
カタルシス――違う
希望?――まさか!
愛?――笑えない。
何か伝えたいことや訴えたい事が、自分にあるとは思えない。
私は、無気力な落ちこぼれ人間なわけで。
生きるだけでいっぱいいっぱいで、
特に毎日何にもしてないのに、休みたいわけで。
あぁ、だめだ。
こんな事をだらだら考える日は、ろくな事がないんだから。
案の定、というか何というか、空からパラパラと雨が落ちてきた。
大通りにいた人たちは慌ただしく走ってゆく。
私もゆっくりと立ち上がる。
後ろ向きな思考のままで。
数日後、担当の男にホテルに誘われたのは、また別の機会に。
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