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雨と僕と女の子
作:矢車



【5】


 

 彼女は、感情の起伏が激しかった。コロコロ笑ったかと思えば次の瞬間には怒り出す。かと思えばまた笑い出す。いくら「女心とナントカ」と言えど、そろそろ僕も不審に思い始めた。
それに、やっぱり気になったのは、彼女の長袖。
 今年は例年に比べ暑い。街中を見渡すと、暑さに耐えかねたのか衣替えを前倒ししている人も多い。
 なのに彼女は「暑い」と言いながら、長袖のシャツを着ている。季節感がない、の一言で済む問題なのかもしれないが、なんだか僕の心に引っ掛かるものを感じた。

そんな、引っ掛かりを引きずったまま、彼女に会いに行くうちに、六月に入った。
あれだけうるさく輝いていた太陽も、さすがに梅雨前線の厚い雲には勝てないらしい。
 曇りがちの日々、そして長い雨の日々がやってきた。
 ムシムシとしてイヤな季節だが、これを切り抜ければ嫌味のない、真夏というステキな季節がやってくる。多分、みんな、そう言い聞かせて梅雨という季節を乗り切るのだろう。ザアザア降る雨に文句を言うわけにいかない僕らは、先にあるステキな季節を思い浮かべて茶を濁すしかないのだ。それが、雨のもとで生きる者の宿命なのだろう、きっと。
その日も、雨だった。六月だからしょうがないとは言え、やっぱりちょっとへこむ。いくら「先にあるステキな季節を思い浮かべて」も、こういうときは無駄である。そして、お決まりのように、僕はため息を吐いた。
 自転車通学、というやつは晴れているときにはなかなか快適で楽なものだが、雨となると事情は一変する。教科書の類が濡れるわ、片手で傘を差すからバランスを取るのが大変になるわ、足は結局濡れるわ、さんざんだ。
 だが、大抵自転車通学をしているやつというのは、「歩くには遠いし、かといってバスなんかもない」という、「たすきに短し帯に長し」な位置に家が建っている連中なので、結局、自転車に乗って通学するしかない。
 僕もその例に洩れず、通学バッグをビニールに包んで前カゴにおいて、片手で傘を差しながら、ペダルを漕いで足を濡らすのだ。
 その日も、僕は雨の街を自転車で滑りぬけていった。こういう日には、あまり人とすれ違わない。すれ違っても、皆、大きな傘で自らの上半身を包むから、顔色を伺う事ができない。
 いや、もしかしたら。僕は思った。
 皆、こういう日には、顔を隠しているんだ。雨のせいで機嫌が悪くなっているのを、悟られないように。それが、ルールなんだ、と。
そんなことを考えながら僕が自転車を漕いでいると、突然、ブチッ!という音が辺りに響いた。いや、今日は雨だから「響いた」という表現は適切ではないかもしれない。とにかく、僕の耳に、「ブチッ!」という嫌な音が響いたことは事実なのだ。
何だ?と反射的に思った僕だったが、聞かなかったことにしてペダルを漕ぐ。だけど、ペダルが異様に軽い。そのくせ、どんどん自転車のスピードが落ちていく。
 これはもしかして・・・・・・。
 もしかした。
 自転車のチェーンが、見事に外れていたのだ。
 僕の自転車は普通のママチャリだから、チェーンの周りにはカバーがついている。そのカバーが、見事にチェーンの再装着作業を妨げる仕組みになっている。
 なんでこんなカバーを付けるんだよ!と、僕はママチャリのチェーン周りにカバーを付けた自転車メーカーを、心の中で非難する。
 でも・・・・・・・。
「どうしよう・・・・・・・」僕は思わずつぶやいた。
今僕が立っている位置は、学校と家の、丁度中ごろ。どっちに向かうにも歩きでは遠い。
 かといって、ここで自転車を直そうとすると、びしょぬれになってしまう。
 どこか、ないかな。 ここから近くて、雨宿りになりそうなところ・・・・。
「あった」 僕の頭の上で、電球が点滅した。
 あの、公園。あともう少し行くと、例の公園に続く道に差し掛かる。それに、木々が生い茂ってるから、雨宿りにもなる。
 それに。
あの子がいるかもしれない。そんな、妙な期待を胸に、僕は公園へ足を向けた。












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