すずらんの花嫁
【フラワーショップ ぺこりは花一筋】
今日のクレヨン看板は、演歌のようです。
確かに、野菜もケーキも下着も売ってはいません。
花一筋です。
いつもは夜遅くに来てくれるホステスの美津子さんが、めずらしく朝に来ました。
美津子さんは、この辺ではもっとも高級なクラブのNO.1ホステスです。
僕なんかは、一生その店で良く知らない20年物のウイスキーを頼むことはないのだと思います。最近は、発泡酒でさえ高いと思うのですから。
美津子さんの店は、毎日のように店の花を買ってくれます。和美さんが飾った花瓶は、高級な店に良く似合う妖艶な雰囲気を醸し出します。
配達の時に一度だけ美津子さんにウイスキーをご馳走になりました。
優しい笑顔で作ってくれるウイスキーの味は分かりませんでしたが、美津子さんの綺麗な指先から渡されたグラスは特別な輝きを放っている気がしました。
年齢を聞くのも失礼なのですが、20台後半でしょうか。大人の女性としての魅力たっぷりです。
アイツがこの年齢になっても、こうはならないだろうと涎をたらしながら居眠りをしていたミチの顔を思い浮かべて、ふり消しました。今、思い出すのはもったいない。
別に僕は甘えたがりの年上フェチではない。
お姉さまオタクでもない。
きっと。
たぶん。
今日は、結婚式の2次会に出席するために久しぶりに田舎に帰るそうです。
結婚するのは、幼馴染の男性で急に連絡があったそうです。
夜とは違う地味すぎるぐらいのスーツに身を包んだ美津子さんは、ちょっとしたキャリアウーマンです。
ミチは、そんな美津子さんのためにスターチスでブーケを作ってあげました。白と黄色の綺麗なブーケです。
ミチの花束は天才的に綺麗なのです。なぜ、絵はあんなに下手なのか不思議です。
今日の看板に書かれたぺこりを見て熊だと分かる人が何人いるのでしょう?地底人と言われても納得です。
「スターチスの花言葉を知ってる?」美津子さんがミチから花を受け取りながら聞きました。
「すいません。花言葉担当は店長なので。私はポップ担当です。」
「永遠の愛よ。」胸を張るミチに笑いをこらえながら美津子さんは言いました。
「結婚式には最適な花ですね。」ミチは自分の作ったブーケを自慢げに見ながら言いました。
「そうね。」美津子さんは右手の薬指に付けた指輪を見ながら言いました。
美津子さんにしては安物の気がします。カバンもネックレスも時計も高そうなブランド物をつけているのに、いつも指輪はそれだけです。
夜遅くに帰って来た美津子さんは、泥酔状態です。
酔っ払った美津子さんを初めてみました。
「スズランを頂戴。ありったけのスズラン」美津子さんは、おぼつかない足取りで店に入ってきました。
僕は、倒れそうな美津子さんを抱きかかえ休憩室に連れて行きました。
いい匂いです。
いえ、お姉さんフェチじゃないです。
休憩室で和美さんがハーブテイーを美津子さんに淹れてくれました。
「いいパーテイーでしたか?」和美さんは美津子さんに話しかけました。
「和美さん。この指輪は、アイツに貰ったんですよ。」美津子さんは、右手の指輪を和美さんにみせながら話し始めました。
アイツというのは幼馴染で今日、結婚式を挙げた相手のようです。
「アイツとは幼稚園から高校まで、ずっと一緒。
初めて裸を見せたのもアイツ。
幼稚園の時のお医者さんごっこでね。
小学校の時は、泣き虫で学校に行きたがらないアイツを毎朝迎えに行ってたの。
わざわざ遠回りしてね。
中学の時は、野球部のレギュラーになれなくて落ち込んでる時にキャッチボールの相手をしてあげたのよ。
突き指しながらね。
試合の応援で一番声を出してたのも私だけど。
だって、アイツは外野だから大きな声を出さないと聞こえないでしょう。
高校に入るとバカだから私にラブレターをくれたのよ。
すずらんの押し花付きで。
私も嬉しくてラブレターを返したわ。
あなたが寝ている間に
すずらんのスタンドになってあなたの寝顔を見ていたい
私は絶対に眠くならないの
馬鹿でしょう私達。お医者さんごっこもしたし、一緒にオシッコも草むらでした仲なのに。
でも、嬉しかったなー」
美津子さんは、そこまで話すとハーブテイーを一気に飲んで顔をグチャグチャにして鼻水をだして泣き始めました。
化粧もとれた美津子さんの泣き顔が、すごく大人っぽくて綺麗だと思いました。
いえ、別に・・・・
「和美さん、この指輪は高校3年のクリスマスにアイツが買ってくれたの。
日雇いのバイトをして貯めたお金でね。
私は、子供の頃から貯めたお金で、腕時計を買ったの。
今思えば、どちらも安物だけど、高校生の私達には超高級なクリスマスプレゼント。
私は、高校を卒業して東京に就職したけど、色々あって今は水商売。
アイツは地元の大学を卒業して地元の堅い会社に就職。
なんとなく、アイツに恥ずかしくて故郷にも帰らなかった。
だから、アイツから結婚の知らせをもらった時は、嬉しかった。
憶えていてくれたんだから。
アイツの花嫁さんは、若くて可愛らしかった。
そろそろ、この指輪も捨てようかな。」
僕は、話を聞いてガオガオと泣いてしまいました。なんだか美津子さんが大好きになり泣いてしまいました。
横を見ると、和美さんも泣いてます。ハンカチで口を押さえながら嗚咽を漏らしています。
「美津子さん、指輪は、ジュエリーケーズの奥にしまって。捨てたりしないで。大切な宝物でしょう。」和美さんは泣きながら言いました。
翌日、美津子さんの店には、スズランが飾られました。
花言葉は、 純潔 。
今の美津子さんには一番似合う言葉だと思いました。
少なくとも、涎をたらしているミチよりも。
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