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フラワーショップ ぺこり
作:晴天



オジサンの松虫草


【フラワーショップぺこりは、愛満載】

新たなポップは、またもミチの画用紙にクレヨンで作られました。
誰も頼んでいないのに・・。
しかも、愛満載って少し卑猥な感じがするのは、僕が若さ溢れる健康男子だからでしょうか?

「あの・・」ちょっと冴えない感じのオジサンが店の前でモジモジとしていました。

「はい、なんでしょう?ぺこりは、愛満載ですよ!」ミチが安売りの野菜でも売るように景気よく出ました。


「いや、満載じゃなくて少しでいいんですが。」オジサンはビクビクしながらミチに言いました。

僕は、愛が少し欲しいと言うのも寂しい気がした。

「少しだけ、花束が欲しいんです。」オジサンはすまなそうに後退りしました。

ミチは追いかけるように、オジサンに迫り
「花は少しでも、愛が満載されていればいいのです。」
なんだか、牧師さんのように何度も頷きながらオジサンに迫ります。

オジサンは、タジタジとなり店の外へ外へと後退りしています。

ミチは、後退あとずさるオジサンの背広を掴み中に引き戻します。

これが、逆だったら犯罪なんだろうな。僕はオジサンに同情しながら様子を見ていました。

オジサンは、二ヵ月前から、このビルにあるエステサロンに通ってきてます。流行のメンズエステです。
多い時は、週に三回。少ない時でも一回は来ているようです。

効果の程も、理由も分かりません。

僕は、エステサロンに何度か花を届けに行きましたが、いつも暇そうに40代の可愛い感じのオーナーがいました。
たぶん他にエステシャンは居ないのだと思います。

届けに行くと、必ずお茶をご馳走してくれます。
僕は、甘酸っぱいお茶を玄関先で一気飲みして店に戻ります。
ノンビリしているとミチに怒られるから。

たまには、あの可愛い感じのオーナーとゆっくり話をしてみたいと思うのですが。

決して僕はマザコンではありません。
決して。
たぶん。



ミチは、オジサンを店の中に入れて花束は何に使うか聞いていました。
それによって使う花も作り方も違うのです。

花束に関しては、異常に執念を燃やすミチは時々お客と揉めてしまうのです。

そんな時に上手に対応する和美さんを見ていると惚れ惚れします。

いや、決して僕はマザコンではありません。
たぶん。

結局、オジサンは無難にバラを数本買ってエステサロンに行きました。

2日後にもオジサンは店に来てバラを買ってエステサロンに行きました。

その2日後にも。

その3日後にも。

僕は、エステサロンの中がどんなになっているのか気になって仕方がありませんでした。

そんなオジサンのエステサロン通いが1月程続いてから、オジサンはまったく来なくなってしまいました。

それから少しして、僕はエステサロンに花瓶を届けることになりました。
僕は、オジサンのバラがどうなっているのか楽しみでした。

エステサロンに入るとバラの甘い香りが充満していました。

「ありがとう。バラを入れる花瓶が足らなくなっちゃって。」オーナーは少し恥ずかしそうに言いました。

「でも、もう要らないかもね。」僕から花瓶を受け取るとキッチンのボールの中にあったバラを花瓶に移しました。

そしていつものように僕にお茶をご馳走してくれました。

今日は、ミチがめずらしく学校に言っているので少しお邪魔してゆっくり2杯目のお茶を頂くことにしました。

「あのオジサンは、最近来ないですね。」僕はなんとなく気になっていたので聞いてみました。

「オジサン。そうね私も、あの人もオジサンとオバサンよね。」オーナーは面白そうに言いました。

「いえ、そんな」僕は失礼なことを言った気がしたのですが、上手くフォローは出来ませんでした。

「あの人ねえ、面白いのよ。
私に結婚して欲しいって言うの。
こんなオバサンにね。

3ヶ月前位にリストラにあって再就職のためにエステにきたのよ。
確かに冴えない感じだから、エステでもして少し印象を良くしようと思ったのね。

何回目かに来た時にバラの花を持って来てくれたの。
ぺこりで買ったんでしょう?」

オーナーは、3杯目のお茶を入れながら僕に尋ねました。
僕は、既にお腹はチャプチャプだったのですが、半分ぐらいを一気に飲んで
「ミチがバラを薦めたみたいです。」オジサンのためになんとなく弁解するように言いました。

「そう、ミチちゃんが薦めてくれたんだ。
なんだか、バラなんて気障だなあーと思ったの。
でも、バラは大好きだから、「バラの花が一番好きです。」って言ったの。
そうしたら、来る度にバラを持って来てくれて、部屋中バラになちゃた。」

オーナーは、笑いながら部屋を見渡しました。
確かに、窓辺にもテーブルにもバラが満載です。
たぶん、トイレにも。

「あの人、再就職が決まった日にもバラを持って来て

「やっと就職が決まりました。これで安心して貴方に結婚を申し込めます。
僕と結婚して下さい。」そう言ってバラを私に渡すのよ。

きっと何度も練習してきたんでしょうね。
その台詞。
まるで、メモでも読むように一本調子だったから。

私は、一度結婚にも失敗しているし、子供もいるから再婚なんて考えてなかった。
それに、彼は、正真正銘の独身。
無理でしょう?」

僕に尋ねられても困る。
なにが無理なのかも理解できないし。

「だからあの人に、もう再就職も決まったしエステも完了です。
これからは、頑張って仕事をして、可愛い女の子を捜しなさい。
そう言って、最後のバラを貰ったたの。
だから、花瓶は、もう要らなくなるかも知れないわ。」オーナーは、なんとなく寂しそうです。

「そうですか。」僕は、花瓶を返品されるのかと心配しましたが、それは大丈夫でした。

チャプチャプのお腹で店に帰ると、ミチが今日も学校を早退して来ていました。
てっきり小言を言われるかと思ったのですが、お客さんと話をしていて僕に気付かなかったようです。

お客の顔をみると、
なんと、あのオジサンではないですか!
前よりもシャキっとした感じに見えました。

既に花瓶が、いっぱいなのを知っている僕は思わず叫んでしまいました。

「鉢物がいいですよ。」

僕の声に驚いてミチとオジサンは振り向きました。
そして、僕の意見に全て反対するミチには、めずらしく「そうね」と同意して、
目の前にあった
【スカビオサ(西洋松虫草)】
小さく可憐な花が集まった鉢をオジサンに渡しました。

それを見ていた和美さんが、オジサンに

「綺麗な花でしょう。きっとエステサロンのベランダに似合いますよ。
花言葉は 無からの出発 ですよ。」そう声をかけました。

「無からの出発ですか。いい言葉ですね。」オジサンは和美さんに嬉しそうに言いました。

「きっと、出発出来ますよ。頑張って。」和美さんは全てを知っているように言いました。

「はい。もう一度無から出発を、お願いしてきます。」オジサンは、今まで聞いたことのないような大きな声を出して、エステサロンに行きました。

訳が分からないミチは、僕に「なに?無からの出発って?」と聞きました。

僕は「無からの出発だよ。」そう言って、和美さんと笑いました。







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