西安のムラサキサルビア
フラワーショップ ぺこりでの1日が終わると、コンビニで食料を仕入れるのが僕の日課です。
勤務は夕方終わる時もあれば深夜になる時もあります。
なにしろ、フラワーショップ ぺこりの営業時間は、早朝から深夜までの長時間営業ですから。
その日の僕は深夜の勤務が終わり、コンビニでお弁当とビール1本を買って帰りました。
部屋の前で、偶然に由さんと会いました。
由さんは、中国人男性の留学生で昼間は日本の大学院で勉強し、夜は中華料理屋でバイトをしています。
「こんばんは」由さんは流暢な日本語で気さくに挨拶をしてくれました。
「こんばんは」僕も笑顔で挨拶を返します。
いつもは、それだけなのですが、今日はちょっと違いました。
「ご飯が、まだなら一緒に食べませんか?」由さんは餃子が入ったビニール袋を持ち上げて言いました。
「餃子ですか?」僕は袋を指差し思わず笑顔になりました。餃子は大好物です。
「店で余ったのを沢山もらって来ました。一緒に食べましょう。」由さんは僕の笑顔を見て嬉しそうに言ってくれました。
「じゃあ、僕はビールを買って来ます。」そう言ってコンビニに走って引き返しました。
由さんは、テーブルにコンロと鍋を用意して待っていてくれました。
「中国では水餃子が普通なのですけど、焼餃子が好きなら、焼餃子もつくりますよ。」そう言ってくれました。
どちらが好きかと尋ねられれば、焼餃子の方が好きだが本格的な水餃子にも興味があり今日は水餃子を頂くこととしました。
鍋から湯気が上がり、水餃子が出来上がる前に先ずは乾杯です。
「乾杯」僕と由さんは缶ビールを軽くあわせグビグビと喉に流し込みました。
「日本のビールは美味しいですね。」由さんは美味しそうにビールを飲みました。
「中国のとは違いますか」海外経験ゼロの僕は素朴に尋ねてみました。
「違いますね。慣れると日本のビールが私は好きです。」
それから、美味しい水餃子を食べながら中国の話をいろいろと聞きました。
由さんは、中国の西安という町の出身で、古くは中国の都として栄えた歴史的な町だそうです。そして、今は産業の発展に力を入れているそうで、由さんも日本の大学院でハイテク技術を学び中国に戻るそうです。
由さんの家は、決して裕福な家庭ではないそうで、由さんが日本に来られたのも超難関の試験に合格したからだそうです。
由さんの話は、中国の地理も歴史も知らない僕にもわかり易く水餃子とともに、ついついビールの本数が増えてしまいました。
飲むほどに陽気になり由さんは聞いたこともない母国の歌を歌い始めました。
陽気になった僕は訳も分からず手拍子をヘラヘラとしていました。
すると由さんは、急に号泣し故郷に住む家族のことを話し始めました。
お父さんは、由さんを日本に行かすために工場での仕事を増やし体を壊してしまったそうです。
由さんは、留学を止めて帰ろうと思ったのですが、お母さんと妹二人から叱られたそうです。
日本に来てから3年間、一度も故郷に帰ってないし、電話もなかなか出来ないので心配で仕方がないと僕に抱きついて泣きました。
なぜだか僕もつられて泣きました。
ワアワアと男二人の泣き声が部屋中に響きわたりました。
「うるさい!」ドアをガンガン蹴りながら女性が怒鳴りました。
隣のキャバ嬢のご帰宅です。
僕たちは、キャバ嬢の怒鳴り声を無視してワアワア泣き続けました。
ガチャッというドアが開く音がして振り向くと、目を丸くして口を空けたキャバ嬢が立っていました。
そして、泣きながら抱き合う僕と由さんの姿を見て、何も言わずに走り去りました。
翌日からキャバ嬢は僕に目を合わすことなく、足早にすれ違うようになりました。
その話を店長にすると、大笑いしてこう言いました。
「男同士も悪くないわよ」
違う!僕は絶対に違う!
和美さんの目もミチの目も冷ややかなのは・・・・なぜ?
そして僕は、由さんに餃子のお礼にムラサキ サルビアの種をプレゼントした。
種の袋に書いてある花言葉は
家族愛。
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