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フラワーショップ ぺこり
作:晴天



思い出を増やすツユクサ


【今日から、ぺこりで新しい1ページを】

ミチ。結婚式場のパンフレットからパクってないか?
日本閣の人に怒られるぞ。玉姫殿だって黙ってないぞ。


今日も元気にぺこりの朝が始まります。天気は上々、気分は爽快。
の筈ですが。
実は、今日の僕は少しブルーです。

「キク、キク、キーク、キック」下らないことを言いながら僕に飛び膝蹴りをするミチの相手にも力が入りません。

「痛い」それでも、適当に反応しないといけない僕の辛さです。

「元気がないぞ。朝は元気良く新しい1ページを始めないと」ミチは自慢のポップを指差して言います。

「そうだね」これまた適当に答えます。

「どうしたの?」さすがのミチも心配してくれます。


昨日の夜に故郷から電話がありました。
「どうしてんの?元気」そんな気楽な挨拶から始まった広志の電話は、あまり良い知らせではなかったのです。

「小夜子の病状が良くないんだ。
たぶん長くはないかもしれない。
一度、お前も見舞いに行ってやれよ」

小夜子と言うのは、僕と広志の幼馴染みで子供の頃から身体が弱く、学校も休みがちな痩せこけた女の子です。

鬼ごっこをすれば、すぐにゼイゼイと息が荒くなってしゃがみ込んで直ぐに捕まってしまうので、捕まっても鬼の役には成らなくて良い「おみそ」と呼ばれる待遇でした。
それでも、天気が良い日は僕達の遊んでいた広場に来て何でも同じように遣りたがりました。

友達の中には、そんな小夜子を「ウザい」と言って仲間はずれにしようとしたヤツもいました。
そんな時は決まって広志が「小夜子は何でも出来る」そう言い張って自分の仲間に入れていました。

雨の日は、小夜子の家でゲームをして遊ぶことが僕達の暗黙の決まりになっていました。
小夜子の家は、特別裕福な訳ではありませんでしたが、最新のゲーム機と大量のマンガ本があったのです。
それに、小夜子のお母さんも美味しいクッキーやお菓子を出して歓迎してくれました。

中学生の小夜子は美人で頭の良く、男子にも女子にも人気のある物静かな女性へ成長の途中にありました。

幼稚で頭の悪い僕や広志とは少しずつ疎遠になり、3人で行動することも徐々になくなってしまってました。

小夜子の体調が悪く入退院を繰り返すようになったのは、僕達3人が別々の高校に進学してからです。



「で、キクは初恋の女の子の見舞いには行くの」ミチは僕の話を神妙な顔で聞いた後に言いました。

「え?キクちゃんの初恋」店長が初恋と言う言葉に敏感に反応したらしく話しに入ってきました。

「そう、キクの初恋の女の子が入院したの」ミチは、僕の話に拡大して店長に聞かせました。

「キクちゃん。許婚いいなづけを置いて故郷を出るなんて最低ねえ」店長がミチの妄想と空想と創作を加えた話に憤慨して僕に言いました。

「違います!」

「キクちゃん。女は幼い約束でも大切にしているものよ」いつの間にか話しに加わっていた和美さんまで僕を悪者扱いです。

「だから、違います」

「これで、見舞いにも行かなかったらぺこりに居る資格は無いわね」店長の目が真剣です。

「キクちゃん。きっと待っているわよ」和美さんの目が哀れみに満ちています。

ミチ!どうしてくれるのだ!
いつの間にか、僕は病弱なフィアンセを捨てて来た極悪人になっているじゃないか!
しかも、なんでミチまで怒りの眼差しなのだ。

結局、僕は店長からお金をもらって故郷に帰ることになりました。


*********


「どうなの」僕は痩せて顔色の悪い小夜子にかける言葉が見つかりません。

「菊雄君に会えて良かった。」小夜子は、弱々しい笑顔で答えました。


「入院してから子供の頃のことばかり思い出すの。
いつも広志君と菊雄君の傍で二人の邪魔をしていたよね。

憶えている?
ツユクサの咲く土手の道を歩いている時に私が転んだで、スカートが青く染まってしまったこと」

「そんなことがあったっけ」

「水で洗おうって言い出して、近くの公園の水道で私がスカートを脱いだらね」小夜子の青白い顔が笑顔で少し赤くなった気がしました。

「私がスカートを脱いで水で洗おうとしたら、広志君がいきなり見るなって怒りだして菊雄君と喧嘩になったのよ。
可笑しかった」

「昔からスケベだったのだね。俺達」

「菊雄君には、これからたくさんの思い出ができるのね。
私との思い出なんて忘れちゃうね。
私は、後どれくらい思い出が出来るのだろう」僕は何も言えずに黙って下を向きました。

それから小夜子の思い出話に、ただ頷いて面会時間の終了まで僕は病室に居ました。



帰りに僕達の思い出の土手に座って夕日を眺めていると、胸が詰まり喉の奥の方が痛くなって目の奥から熱いものが溢れ出てきました。

「全部憶えているよ。

僕も広志も小夜子が好きだったのだから。

お互いに遠慮して告白なんて出来なかったけど。

あの時に履いていた小夜子のパンツの色だって二人とも憶えているよ。

僕と広志の思い出が、この先どんなに増えたって小夜子との思いでは忘れる訳ないよ。」

今は青いツユクサの咲いていない土手にむかって僕は呟きました。




『土産の饅頭を忘れるなよ』ミチからのメールです。

『旅費は、バイト代から引いておくわよ』店長からもメールです。

『ご両親に甘えて来なさいね』和美さんからもメールが送られて来ました。

みんな優しいです。メールを見ながら、やっぱりまた熱いものが溢れて来ました。


『ツユクサの花言葉は?』僕はミチにメールを返信します。

『懐かしい関係。饅頭忘れるな』ミチが直ぐに返信をしてくれました。



懐かしい関係か。

目の前には青いツユクサが一面に広がり、幼かった小夜子が僕に手を振ります。

僕も、あの頃のようにお尻をペンペンして小夜子を笑わせました。

また、ツユクサが咲く頃にお見舞いに来よう。

今度は小夜子に、このツユクサを見せてあげよう。

神様だって、まだ思い出を増やす時間は残しているずだから。



『今度、ツユクサを見に行こう』僕は、もう一度ミチにメールを返信しました。







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