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フラワーショップ ぺこり
作:晴天



選択のカイドウ


【ぺこりは本物の良さ!】


ミチ。今日は大胆なポップだな。
本物の良さって何だよ?何なんだよ!
次は【混じり気無し】か?


今日のぺこりに入荷されたのは、赤い実を付けた美味しそうな鉢物です。

「サクランボかあ」僕の呟きを聞き逃さないのがミチです。

「なんだって?サクランボって言ったか」こう言う言い方をするときは、あげ足を取りに来ている時です。
「いや、サクランボに似てるなあ〜なんてね」

「そうだよキク。よく分かったね」ミチが優しく微笑んでくれます。

「これは、知ってるよ」僕は、ホッとしました。
束の間でした。

「サクランボな訳ないでしょう。カイドウよ。
花屋にもなれないけど八百屋にもなれないね。

フラワーショップじゃなくてフルーツショップぺこりでもダメだね」ミチ、だんだんイジメ方が高度になってるよ。

「ミカイドウね。ハナカイドウとは違う可愛らしさ」僕がミチにイジメられていれのを助けるように和美さんが言いました。

「ハナも咲くんですか」僕はミチを無視して和美さんに聞きました。

「キクちゃんが見たら、サクラって言うかもね」和美さんまで・・・みんな意地悪。

「花が咲くのをハナカイドウ。実がなるのがミカイドウで種類が違うのよ」和美さんは笑いながら教えてくれました。

「ハナカイドウは、牡丹と並んで美人のたとえに使われるのよ」店長がミカイドウに水をあげながら言いました。

「ふふふ、淑やかにうつむき加減に咲くハナカイドウ」ミチが僕を見つめています。
何か言わなくては、いけないのでしょうか。

「あ、へー、そう」

「キク!何だその答えわ!」ミチのパンチが鋭く僕の脇腹をとらえました。

「うっ」小さく唸って倒れる僕。

「大袈裟過ぎ」ミチが僕の臭い芝居に呆れています。

「ミチちゃんは、ひまわりのように明るく可愛いのよ。
いづれは、ハナカイドウの可憐さに変わるわよ。
キクちゃん、今のうちに予約しないと誰かに盗られちゃうわよ」

和美さん、フォローにも限度があります。



「ハナカイドウは、可憐で儚い花よね」急に店長が真顔で言いました。
真顔が一番不気味です。




「こんにちわ」儚げな女性がやって来ました。

「こんにちわ」ミチは元気に返事をします。ひまわりと言われたのが気に入ったようです。

「ガーベラとスプレーカーネーションで、バスケットを作ってくれますか。
母のお見舞いにしたいの」元気のない声で花も見ないに注文しました。

「華やかな感じがいいですね」和美さんが何本かガーベラとスプレーカーネーションを手にして言いました。

「ええ。出来るだけ華やかに病室を飾ってあげたいの。

本人には、もう見えないかもしれないけど」女性は、憔悴しきった小さな声で言いました。

「少し時間がかかりますから、奥でお茶でも飲んで待っていて下さい」和美さんはミチにお茶を淹れるように言って女性を奥に案内しました。


「お母さんは、良くないのですか。」和美さんは花をアレンジしながら尋ねました。

「たぶん。長くないんです」女性はミチが淹れたハーブテイーで唇を湿らせながら言いました。


麻美さんと言う女性のお母さんは、末期ガンで入院しているそうです。

抗癌剤の延命治療を続けていたのですが、本人の苦しそうな姿に家族で相談して負担の掛かる延命治療から、痛みを取るだけの治療に切り替えたそうです。
そのことに悩んだ麻美さんはゲッソリと痩せてしまったそうです。

「痛み止めで朦朧とした母は、私の手を握って「ごめんなさい。ごめんなさい」って謝るんです。
もう何年も前に私と恋人が別れたのは、自分のせいだと思っているのですよ。

結婚をしようとした時に、母のガンが進行して私が看病や父の世話をするために結婚を諦めたと思っているんです。

そんなこと無いんですよ。」麻美さんは、和美さんの器用に動く指先を見つめながら言いました。

「原因は何なのですか?」ミチはハーブテイーを継ぎ足しながら直球で聞いてきます。

「縁が無かっただけです。ただ縁が無かっただけ」ミチは不思議そうに下から麻美さんの顔を覗き込みます。

「縁て何?」悲しみにくれる人にも容赦ないミチです。

「縁があったからこの広い世界で出会ったんじゃないの?
無かったら出会わなかったでしょう?」


「ミチ、人には色んな事情があるんだよ」僕は下から覗き込むミチの肩を引っ張ります。

「キク。私は縁があってキクの面倒を見ることになった。
そして、いつか別れの日が来るかもしれない。
でも、出会えた縁だけを大切にするんだよ。
別れは、私とキクの幸せのために自分で選ぶんだ」ミチは力強く言います。

僕は、そんな日が来ることを考えたこともなかったけど。

「そうね。ミチちゃんの言う通りね。
母の子供に生まれたのは良縁。
母の延命治療を止めたのは幸せの選択。
それで、いいのよね。
そして・・・・・」麻美さんは、そこまで言って声を詰まらせてしまいました。

「恋人と別れたのは、麻美さんの幸せの選択?」和美さんが出来上がったフラワーアレンジメントを渡しながら聞きました。

「はい」麻美は小さく頷きました。

「ふ〜ん。でも、あそこでモジモジしている人はそうは思って無いみたいよ」
店長は、電柱の影でバラの花を持っている男性を指差して言いました。

「なんだ、うちの花より良い花でも持ってるのか」ミチは男性を手招きしながら言いました。

「麻美さん」男性は、バラの花束を花屋で渡すという不思議な光景を見せることになるのですが。

「貴方には、他の幸せを選択出来なかったの。
バラの花は貰えません」麻美さんは、毅然と男性の花束をつき返しました。

ええ??なんかドママチックじゃないぞ。

受け取って「ありがとう私も」って言うんじゃないの。

僕は、ビックリしました。

「そうだ。アンタはこれを持って帰りなさい」ミチは、そう言ってミカイドウの鉢を男性に渡しました。
もちろん、代金は請求して。

「ミカイドウの花言葉は【片思い】。
その実が落ちる時にアンタの新しい運命は開ける」ミチは自信たっぷりに男性に言いました。

「そうなの?」僕は不覚にも尋ねてしまいました。

「信じなさい」ミチ教祖です。

すごすごと帰る男性の後姿を見送ると、麻美さんはミチ教祖に尋ねました。

「私も幸せになれますか?」

「ハナカイドウの咲く頃に素敵な人に出会えます。ハナカイドウの花言葉のように【温和】な幸せが訪れます。」

「そうなの?」不覚にも、また尋ねた僕の脇腹には鋭い痛みが走りました。

今回は、捻りを加えているので強烈です。

「ハナカイドウの花言葉には、【美人の眠り】と言うのもあるのよ。

お母さんにピッタリの花言葉でしょう」和美さんが、僕を無視して言いました。

「はい」麻美さんは微笑を残して病院への道を歩き出しました。


*************


ハナカイドウが店先に並ぶ頃、ふくよかに太った麻美さんが温和そうな男性と店の前を通り過ぎて行きます。

儚いハナカイドウが、バラよりも華やかに見える春の日です。

ミチは、あれ以来、自分を霊感美少女と名乗ってます。

『霊感』も『美少女』も・・・・・脇腹を大事にする僕は、何も言いません。







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