フラワーショップ ぺこり(36/51)縦書き表示RDF


フラワーショップ ぺこり
作:晴天



過去のワイルドストロベリー


【ぺこりの花で新しい思い出を】

ミチくん。久しぶりに普通の文章を読んだ気がするよ。意味は良く分からないけど。
特に分かりたいとも思わないけど。

しかも、今日は墨書きだ。
なんとなく分かるけど。


ぺこりのお正月は、午後からお客も途絶えてしまうので店先に縁台をだして甘酒でおじゃべりです。

しかも、通りがかった人を呼び止めておしゃべりの相手をさせるのですから、迷惑な花屋です。でも休まず営業します。


「おい、おい、おい。素通りはつれないだろう」ミチが捕まえたのは、毎朝通る小学校の先生です。

縁台で甘酒を飲んでいる女子高生に呼び止められたら、だいたいの若い男性はビビリます。

「あ、え?」先生は自分を指差して「自分ですか?」という風に逃げる体勢で確認します。

「まあ、まあ甘酒でも一杯飲んでいきなよ」なんだかタチの悪い店の呼び込みのようです。

「あら。先生。」間が悪いことに店長まで出てきてしまいました。柄の悪い女子高生と熊のようなオカマに呼び止められた先生は、逃げることも出来ず二人の間に座らされました。

「なんか冴えない顔だね?」ミチが元気のない先生に尋ねます。

「そうね。熱でもあるの?」店長が無意味にオデコに手を当てました。

「大丈夫です。大丈夫ですから」先生は、身の危険を感じて店長の手を振り払いました。

「うん。」店長は不気味な声を出して唇を尖らせます。

怖すぎです。

「実は、彼女の家に行ったんですが・・・・」先生は、顔色の冴えない理由を説明し始めました。


先生には、同僚の彼女がいて初詣の帰りに彼女の家に寄ったそうです。

紅茶をご馳走になったのですが、使われたテイーカップが原因で喧嘩になってしまったのです。

問題のテイーカップは、別れた元カレから贈られた物だったのです。

元カレは、大学時代の恋人で卒業するとイギリスの大学院に留学してしまったそうです。
そして、留学先のイギリスから短い手紙と共に贈られたのが2組のテイーカップだったのです。

【恋人からの手紙】

僕は、イギリスの生活を満喫しているよ。
この国には僕の夢が詰まってる。
君も日本で夢だった教師になったように、僕もこの国で夢を叶えるよ。
この国で有名なテイーカップを君に贈ります。
See you

元カレからの手紙はそれが最後です。
メールのアドレスも書かれていませんでいた。

「それは、酷い男ね。」店長は先生の太ももに手を置いて憤慨しています。

「そのテイーカップで淹れてもらった紅茶なんて飲めないでしょう」先生は店長の手をそっと振り払って言いました。

「デリカシーが無いわよね。その女。別れちゃいなさい」店長は先生を気に入ったようです。

「デリカシーが無い。」ミチも力強く同意しています。目元を赤くして。

おい、ミチ。君のコップに中身がいつの間にか透明だぞ。何を飲んでるんだ!?


先生は、ポケットから指輪の入った箱を取り出しました。
まだ、婚約指輪ではないそうですが彼女につけて欲しくて準備していたそうです。

小さく綺麗にカットされたガラス玉が三つ付いた指輪は、お正月の太陽に反射してキラキラと光っています。
ベネチアの有名なガラス工房の物で3つのガラスは
一つ目は「過去」を
二つ目は「現在」を
三つ目は「未来」を表しているのだそうです。



「そのテイーカップには、こんな柄が描いてなかった?」和美さんが野いちごの鉢をもって縁台に出てきました。

「はい。そんな感じの蛇みたいな蔦に赤い実がありました。」先生は、まだ実のなっていない野いちごの鉢を確認するように言いました。


「これは、英語名をワイルドストロベリーって言うの。
アメリカでは幸運を運ぶと言われているのよ。

そのテイーカップを使ったのには意味と決意があるんじゃない。
私は、彼女の希望みたいなものを感じるの。

元カレさんを心から愛していたから、

【その人の祝福を受けて先生と幸せになるんだ】そんな決意と希望かな

そんなの女のエゴかしら。

それに、ワイルドストロベリーの花言葉は、

【愛情と尊重】

過去を尊重することも愛情じゃないのかしら」

和美さんは、野いちごの鉢を先生に渡して言いました。




「そうですね。優しい彼女が何の意味もなく、そんなテイーカップを使いませんよね。

僕は、ガラスの美しさでこの指輪を買ったけど一つ目のガラス玉の大切さを忘れてました。

素敵な恋があったから、今の彼女がいるんですよね」先生は指輪を野いちごの蔦に通して縁台を立ち上がりました。

「寒くなったので、暖かい紅茶を入れなおしてもらいます」そう言うと先生は元気に来た道を戻って行きました。


「まったく男って鈍感よね」店長は今度は反対のことを言います。男の気持ちも女の気持ちも分かるようです。

「オーイ。起こしてくれ」すっかり酔っ払ったミチは縁台から転げ落ちています。
だから、どこから日本酒を手に入れたんだ。



雲ひとつない青空に薄っすらと浮かぶ月が、先生の指はに付いていた三つ目のガラス玉のように綺麗に見えました。
僕もいつか、三つのガラスを誰かに渡すのでしょうか?


そして、今、僕が見ている月の光は長時間 旅をして僕にたどり着いた過去の光。

ミチ。起きなよ、昼間の月も綺麗だよ。







携帯小説Ranking





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう