フラワーショップ ぺこり(35/51)縦書き表示RDF


フラワーショップ ぺこり
作:晴天



水墨画のバンブー


【迎春!ぺこりで輝く日々を】


オー!ミチ。よくぞ迎春を入れてくれた。しかし、七色モコモコペンでは書かないで欲しかった。あと、富士山から出ている初日の出の太陽がニコちゃんマークというのも・・・。



ぺこりは、もちろん正月でも営業です。正月は案外と花の需要はあるもので、生け花の花材を買いに来る人や挨拶先に花を持って行くなんていう洒落たことをする人もいます。

でも、そのお客さんも午前中までで、午後にはすっかり暇になってしまいました。
暇そうなぺこりの前を初詣の人達がお屠蘇とそ気分で行き来しています。

そうなると、こちらもついつい見知った顔を見つけて退屈しのぎに話し込んでしまいます。



「アケマシテ、オメデトウ、ゴザマズ」陽気なアメリカ女性のメアリーさんです。

「オー、ハッピーニューイヤ」ミチが大げさに両手を広げて年始の挨拶です。

「コレ、ミテクダザイ。ネンガジョーネ」メアリーさんは富士山の墨絵の描かれた年賀状を見せてくれました。

「ワタシのオショサンのエ」何を言っているのか分かりずらいです。

メアリーさんは、水墨画と日本の文化に憧れて来たのです。年賀状は、水墨画の師匠から来たもので竹が一本描いてあります。

「竹は、松竹梅と言って松、梅と並んで縁起が良いのよ」和美さんが、奥から甘酒を持って来てくれました。
僕たちは、店の前に縁台をだして正月の風景と甘酒を楽しむことにしたのです。

「マイウー」メアリーさん。変な日本語は覚えなくて良いです。


竹は、メアリーさんにとって特別なものなのです。
初めて日本に来たときに竹の寺で水墨画の師匠に出会わなければ中国に行こうと思っていたそうです。
僕も水墨画の本場は中国のような気がします。

メアリーさんの師匠は、まだ若く無名な人です。
なぜだか、展覧会への出展もしません。
ただ、自分の書斎で描いて気に入った人に買って貰うだけです。

「人様に評価して頂くほどのものじゃない。ただ、欲しいと言って下さる方に買って頂ければ幸せじゃないか」それが師匠の口癖です。

僕は、師匠の水墨画がいくらで買えるのか分かりませんが今の僕には水墨画より液晶テレビです。

しかし、メアリーさんは納得しません。師匠の作品は国際的評価を受けるべきで、それは芸術家として使命だと考えているのです。

実は、師匠に内緒で展覧会に応募したことがあったのですが無名で特に誰かに師事したことの無い師匠の作品は残念ながら落選したそうです。

「絶対に師匠の水墨画はスバラシイ!だから、アメリカで出品スベキデス」メアリーさんは古い体質の日本画壇では師匠の才能は埋もれてしまうと考えているのです。アメリカの先進的な芸術家団体に活躍の場を移すべきだと力説するのです。

今日の初詣でも、「師匠がアメリカに行く気になりますヨウニ」とお願いしたそうです。

「水墨画の良さがアメリカ人で分かるのかしらね。」店長が甘酒をフーフーしながら聞きました。

「オフコース!アメリカでもアジアの文化は注目サレテマス。」メアリーさんは両手を大きく広げて言いました。

「でも、それって水墨画の魅力じゃなくてアジア的なものに対する興味じゃないの?」店長はさらに食い下がります。

「芸術に国境はアーリマセン」メアリーさんの声はどんどんデカくなります。


「昔、私は花の勉強をするためにヨーロッパを旅したことがあったの。
その時、青い目のパリジェンヌと恋をした」

えー?!店長が女性と恋?
えー?!しかもフランス女性?
えー?!今年一番のビックリです。まだ、今年は始まったばかりだけど。

「彼女は、カフェの店員。私は花屋の卵。

パリの裏通りのアパートが二人の愛の巣だったわ。

私は、このままパリで花屋になろうと思った。

屋台の花屋から始めようと。

でもね。

彼女にその話をしたら「ノン。私は黒い瞳の日本人が好きなの。パリの花屋には興味はないわ。」そう言ったわ。

彼女にとっては日本人から来て日本に帰る日本人と、ひと時の思い出が欲しかっただけだったのね。

みんなが、そうだとは言わないけどね。」店長の意外な過去のコイバナです。

メアリーさんは、考え込んでしまいました。



「あ、見てソフトクリーム」ミチがメアリーさんの年賀状の端っこを指差しました。
そこには、墨で描かれたソフトクリームのようなものが小さくありました。

「ナンデスカネ」メアリーさんも不思議そうに年賀状の端っこを見つめます。

「自由の女神のトーチじゃない?」和美さんがメアリーさんの肩を抱いていいました。

「オー。オー。オー。」メアリーさんは3回ガッツポーズです。



「竹の花言葉は節度。異国の地でも節度をもって成長するのかしらね。」店長が皮肉な感じで言いました。

「竹じゃなくてバンブーだよ。」ミチが数少ない英単語を披露しました。

「そうね。バンブーでいいのかもしれないわね。」和美さんが店長の顔を見ます。

「バンブーねえ。」店長が言います。

「イエス。師匠のタケは何処の国でも成長します。
サクラがワシントンの名物になったように
アメリガ人の心にも青く伸びやかなココロはアリマス」メアリーさんはミチの手をとってスキップしています。

ミチは、コザックダンスも始めました。
それは、ロシアじゃないか?







携帯小説Ranking





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう