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フラワーショップ ぺこり
作:晴天



メロンパン屋さんの勿忘草


【フラワーショップ ぺこりで おめでとう】


ミチのポップが、モコモコ立体ペンになりました。

ミチよ。おめでたいのは君だ。


今日のお客さんは、プレゼントが多く花束を創るミチと籠アレンジをする和美さんは大忙しです。
店長は、お客さんの相手をナヨナヨとこなしています。
熊みたいな風貌にオカマ言葉で花の説明をする店長は意外にも人気者です。

そして僕は、ひたすら配達と花宅急便の箱作りに追われています。

これから、配達に行く僕にミチが声をかけました。

「キク。帰りにリボン買って来て、赤と金色ね。」どうやら、花束に使うリボンが足りないようです。

「他には?」僕はミチに言いました。

「メロンパン。」ミチは大声で言い返しました。

「はあ?」

「メロンパンのトラックがあるでしょう。あそこのチョコ入りメロンパンを買ってきて。」

「分かった。」ミチは、僕をパシリします。しかも、代金は店長払いです。

僕は、配達を終えるとメロンパンを買いに行きます。
「チョコ入り2個と普通の3個ください。」ミチの分二つと、僕と店長と和美さんの分です。支払いは店長ですから。

「こんにちは、花屋さん。」

「あ!勿忘草の人!」

メロンパン屋さんは、昨日、勿忘草わすれなぐさを買っていった女性です。
散々迷って店長の勧めで買った勿忘草は、見本のメロンパンの横に置かれています。

「ここに置くなら、もっと華やかなパンジーとかの方が良かったのじゃないですか?」僕は少しだけ花屋らしいことを言いました。

「あんまり、花が綺麗だと私のメロンパンが目立たないでしょう。これくらいで良いのよ。
それに、メロンパンの味を忘れないでね。そういう思いも込めているの。」

「なるほど、忘れずに買って来いと僕も言われています。」メロンパン屋さんは爆笑しました。
僕は、笑うとこじゃないと思うのですが。


********


「おそーい。キクは何をやらせても遅い。グズ、バカ、スケベ。」店に戻るとミチは空腹で狂暴になっています。

でも、なんでスケベ?
もしや、休憩室の奥に隠しているDVDを見られたか!?本日、返却予定なのに。


「で、メロンパンナちゃんの店は繁盛していたの?」ミチは、チョコ入り2個と僕のメロンパンを半分奪って目の前に並べて言いました。

「あんまり、人が居なかったね。」僕は半分になってしまったメロンパンを大切にちぎって口に入れました。

「勿忘草は、いかんよね。福寿草にするべきだろう。」ミチは、盆栽好きの爺さんのように言います。
チョコ入りメロンパンに食いつきながら。

「よし、明日もメロンパンナちゃんのところに行って、そのように申して来い。
明日は、果肉入り夕張メロンパンだな。」
ミチは、パン屋さんを勝手にメロンパンナちゃんと名付けたようです。

君はドキンちゃんか?

「分かったか?バイキンマン!」なんで僕の心の呟きが分かった?!


***********


僕がミチのお言葉を伝えるまでもなく、夕方にメロンパンナちゃんは店に来ました。

「こんにちは、メロンパンナちゃん。」ミチはパン屋さんが持っている手提げ袋の匂いを嗅ぎ分けるように近づいてきました。

「メロンパンナちゃん。せめて、メロンパンナさんにしてよ。子持ちのオバサンなのだから。」パン屋さんは、大笑いしました。

「結婚しているのですか?」ちょっとポッチャリしたパン屋さんは、若々しくオバサンには見えません。

「今は独身よ。花屋さん、私と付き合う?」パン屋さんは、ふざけて言いました。

「え!」僕が返事に困っていると、ミチのキックが脛に入ります。

「馬鹿でスケベだから本気にしますよ。」ミチは少し牽制するような目つきで、パン屋さんを睨みます。

「ごめんなさん。」パン屋さんは、からかうようにミチに言いました。
大人です。

「メロンパンナさん。開店祝いに勿忘草はいけませんよ。やっぱり縁起物の福寿草。」ミチは気を取り直して福寿草の鉢を持ってきました。

「福寿草ね。それは、届けてもらおうかな。別れた主人の所に。」パン屋さんは、福寿草の鉢を眺めながら言いました。

「私は、勿忘草でいいの。
私の我がままで、離婚したのに今でも優しくしてくれる主人には、福寿草。
そうして、その恩を忘れないように私は勿忘草。
似合うでしょう。」
パン屋さんは、顔の横に勿忘草の鉢を並べて言いました。

確かに、丸い顔に小さな勿忘草が似合います。

「勿忘草が似合う女ですか?」ミチは感慨深げに大きく2回ほど頷きます。
何故?何?その仕草。

「それだと影のあるいい女みたいね」パン屋さんは自分で言って大笑いです。
涙を流して笑っています。

ボロボロ、ボロボロ涙が流れています。
笑いながら大泣きです。

パン屋さんは、些細なことの積み重ねから、お互いに離れて暮らすことを決めたそうです。
別れることが、一番の良いこともあると決めたのです。

「私ね、あの人を嫌いな訳じゃないの。

すごく優しいし、良い人だと思うの。

でもね・・・・でもね。

あの人と居ると息が出来なくなるの。

空気が重くなって息をするのが辛くなるの。

そんなのじゃ一緒に居られないよね。」

涙を流して鼻水を垂らして笑うメロンパンナさん。



「あのー勿忘草の花言葉は、[私は忘れない]ではなく、[私を忘れないで]なんですけど。」泣きじゃくるメロンパンナさんに申し訳なさそうにミチが言いました。

ミチよ。それは今言わなくては、いけないことなのか?



奥から、店長がノシノシと出てきて、笑いながら言いました。

「あら、[真実の愛]って言うのもあるのよ。勿忘草には。
惹かれ会うだけや、エッチするだけが男女の仲じゃないわ。
お互いを尊重して別れるのも愛。
愛は、どれも真実なのよ。」

店長の言葉は、ときどき胸に染みます。

「そうね。あの人の愛に報いるためにも、パン屋を繁盛させて主人にお金を返さないとね。
メロンパン屋の開店資金は全部、主人から借りているのだからね。
主人は、返して欲しくないらしいけど。」

「お金持ちなのですね。」僕は羨ましくなりました。

「馬鹿で助平なキクちゃん。いつまでもメロンパンナちゃんと繋がっていたいのよ。」
店長にまで、スケベと言われると。


「彼に福が来ますように。」パン屋さんは福寿草に願をかけました。


僕は、彼女にも福が来るように勿忘草に願をかけました。







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