隊長!ムギワラギクです。
【フラワーショップ ぺこり】にようこそ。
この看板がかかって1週間になる。店のトレードマークのぺこりグマが少し可愛い過ぎる気もします。
この看板は、ダンポールにミチがぺこりグマが上手に描けたからと言って店の入り口に飾ってしまったのです。
「熊がずいぶん可愛くなりましたね。」そう言って訪れたのは、毎月この日に花を買っていく老紳士です。
「はい」ミチが嬉しそうに看板に手を添えて言いました。ミチは今日も学校をサボりです。
たぶん週に1回は休んで週に2回は早退してると思われます。
「今日は何にしますか?」和美さんが出てきて老紳士に聞きました。
「その珍しい菊はなんですか?」老紳士は、店の端に少しだけあった黄色い菊を見つけて言いました。
「これは、ムギワラギクという菊ですよ。頭に麦藁帽子を被っているようでしょう。」和美さんは一輪を老紳士に手渡しました。
「うむ。実に変わっていてよろしいですね。これを貰いましょう。」そう言って花を和美さんに戻しました。
「私が作るわ。」ミチがムギワラギクを何本か取って花束を作り始めました。
ミチは花束を作るのが好きだし上手でした。花束のセンスは和美さんより上かもしれません。
出来上がった花束をミチが老紳士に渡そうとした時にダンボールの看板が倒れて、驚いた老紳士は尻餅をついてしまいました。
「大丈夫ですか?」僕は老紳士に駆け寄り声をかけました。
「大丈夫、大丈夫」と笑顔で起き上がろうとしたのですが、少し足をどこかにぶつけたようでした。
「申し訳ありません。」和美さんが老紳士に謝りました。
「ごめんなさい。」ミチもビックリした声で言いました。
「いやいや、大丈夫だよ。」老紳士はミチから花束を受け取ると少し足を引きずりながら歩き始めました。
「良かったら車で送りますわ。」店長がオカマ言葉で老紳士に話しかけました。
「これは、熊さん。ありがとう。でも大丈夫ですよ。」
「いえいえ、ひとり役に立たないのが居ますから遠慮はいりませんわ。」
そう言って、役立たずの僕に車の鍵を投げて渡しました。
「キクちゃん、安全運転でね。」店長はウインクをしながら僕に言いました。
僕は目を合わせないように「はい」と答えて老紳士を店の軽自動車に乗せて走り出しました。
目的地は、近くの霊園です。
今日は、老紳士の奥様の月命日だそうです。
もう10年前に亡くなられたそうですが毎月の命日には欠かさず花を供えに来ているそうです。
霊園について、墓地にムギワラギクを供え見知らぬご婦人に手を合わせました。
「福よ、今日は敬一郎も一緒だよ。ほら、こんなに立派になって。」僕は敬一郎さんがどこに居るのかキョロキョロ探しました。
「敬一郎どうした?」老紳士は、どうやら僕に話しかけているようです。
「え?え?」僕はどうして良いやら答えに困りました。
「敬一郎は、福の言ったとおり頭が良くて今は学者になったよ。
私も、そろそろお前の所に行くとは思うが曾孫の顔が見れたら良い土産話になるんだがな。
どうなんだ、敬一郎。」
僕は「はあ。」と頭の悪そうな声で答えてしまいました。
「まったく、勉強ばかりで女の方は奥手でなあ。
私がお前を口説いた時は命がけだった。
いつ戦争に行かされるか分からななかったからな。
昔から好きだったお前に夜這いをした時、お前は蒲団の上で正座して待っていてくれたな。
お前が「お待ちしていました。」
そう言ってくれなかったら私は今生きてないかもしれないね。
あの時私の腕の中で「絶対に生きて帰って下さい。」そう言ってくれたから私は死にもの狂い
で帰ってきた。
お前に会いたい一心でね。
おいおい、あの芸者の話は勘違いだよ
福は死んでも執念深い。」
老紳士は、僕のことなど見えないように墓石の下の福さんと話をして笑っていた。
「さあ、敬一郎そろそろ帰るか。」老紳士は僕に笑顔を向けて言いました。
「はい。帰りましょう」今度は頭の良さそうな学者風の声で僕は返事をしました。
老紳士は、帰りの車では一言も話さずニコニコと僕の横顔を見ていました。
店長に見られている時とは違う緊張感です。お尻の辺りに不安はありません。
店に帰り、その話をすると和美さんが夕方にクラブ倫に持っていく花を生けながら教えてくれました。
敬一郎さんと言うのは、2歳になる前に死んだ老紳士の孫で、その後、老紳士の息子夫妻は子供に恵まれなかったそうです。
老紳士は、今は、息子夫婦と三人で仲良く暮らしているそうです。
翌月には、ダンボールの看板は朽ち果て捨てられましたが、僕は店長の命令で老紳士のお墓参りに付き添うことになりました。
「キクちゃん。少しは人様の役に立つこともしないとね。」またウインクを貰いましたが、今回も無視です。
今日は天気も良いので歩いて行くことになりました。
ムギワラギクを胸に抱いた老紳士の後ろを、いつものようにタラタラと歩いていると、
「もっとしゃんとせんか!帝国陸軍として恥を知れ」振り向いた老紳士に怒鳴られました。
「はい。隊長殿」僕は直立不動で道の真ん中で敬礼をしました。
どうやら、今月は兵隊時代の部下のようです。
「よし、ではついて来い。今日は亡き愛妻の月命日である。」老紳士は僕に敬礼を返した。
「喜んでお供いたします。」僕はもう一度敬礼をした。
異様な雰囲気に店から店長と和美さんが飛び出してきました。
僕は二人にも敬礼をすると、二人も敬礼を返してくれました。
隊長と3人の兵隊です。
そして、ミチも出てきて隊長に敬礼をし、僕にウインクをしました。
僕もウインクを返しました。
店長が敬礼をしながら、大きな声で隊長に伝えました。
「ムギワラギクの花言葉は、永遠の記憶であります。」
来月、僕は何になっているのだろう。
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