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フラワーショップ ぺこり
作:晴天



20年のモチノキ


【フラワーショップぺこり 本日休業 探さないでね。】


ミチが案内分をシャッターに貼り付けると僕と店長と和美さんは、困ってしまいました。
<探さないでね。>って夜逃げか駆け落ちじゃないのだから。


今日から、1泊2日のぺこり社員旅行です。
場所は、富山のチューリップ農家。見学兼旅行です。

新幹線で雪の越後湯沢に向い、そこから、ほくほく線の特急です。
ミチが操り人形の真似をしています。日本海側出身の方は分かったでしょう?
そうです特急の名前は「サンダーバード」。


特急の車内は、平日の昼間なのでガラガラに空いていました。
前の座席に店長と和美さん、その後ろに僕とミチが座り通路を挟んだ隣に赤い実をつけた「モチノキ」を持った30代半ばの女性が車窓の風景をボンヤリ眺めています。花屋の習性として植物を持っている人を見ると気になります。

特にミチは、黙ってはいられない性質たちなので、案の定話かけます。

「こんにちは、いいモチノキですね。庭に植えかえるのですか?」

「若いのにモチノキを知っているのね。」女性は、突然話しかけられたことよりモチノキのことを聞かれたことに驚いていました。

「ミカンでも食べる。」女性は、鞄からミカンを取り出してミチに差し出しました。

「ありがとうございます。」ミチは受け取ると一気に皮を剥いて食べました。

「お菓子もあるけど。」女性は豪快な食べっぷりのミチを見てお煎餅の袋を取り出しました。

「そうですか。すいませんね。」ミチはニコニコと僕の手を掴んで隣の座席に移動です。

「越後の美味しいお煎餅よ。」女性は、目の前に座って来たミチと僕に勧めてくれました。

「モチノキの赤い実が雪景色に合いますね。僕達、花屋なので植物を持っている人を見ると、つい気になってしまって。」バリバリと煎餅を食べている横で僕は女性に話しかけました。

「花屋さんなのね。どおりで、地味なモチノキを知っている訳ね。」

「僕は、冬に赤い実をつける木は好きですよ。」

「優しいのね。冬になる実が赤いのは、食べ物の少ない季節に鳥たちに目立つように赤くなっているんですって。」

「自分が食べられるために目立っているのですか?」僕は違う気がする。生き物は自分が生きるために身を隠したり、色を変えるものだから。
それは、植物だって同じことだと思う。


「このモチノキは、庭にあったものを、切ってきたのよ。」

尚美さんと言う色の白い女性は、モチノキを見つめました。


尚美さんのお兄さんは、国会議員で地味な活動ながら地元民の信頼は厚く当選回数3回の中堅らしいです。

僕もミチも政治には、まったくの無知で、衆議院と参議院の違いさえ分かりません。
ただ、政治家になる人は頭が良くてお金持ちとだけと思っています。

尚美さんの生まれた家は専業農家で越後のコシヒカリを作っているそうです。

そんなお兄さんが、国会議員になったのは農協の青年団から議員を出そうという若い農業後継者達の熱い意思によるものでした。

その中でお兄さんが選ばれたのは通信制の大学で政治を専攻したことや農地が広かったことなどの理由だったのですが、何よりも農業の未来について誰よりも熱い決意があったからです。

初めての選挙は、素人集団によるビラ配りや街頭演説による熱意だけの選挙活動でした。
青年団の皆は、農業の合間や寝る時間を割いて選挙活動をしました。
しかし、結果は地元の建設業者が予想通りの再選を果たし青年団の政治熱も一気に冷めていったそうです。

2回目の選挙の時は、親友の熱心な勧めによりお兄さんは立候補することを決めたそうです。
しかし、冷め切ってしまった青年団の中には選挙や政治に対する諦めが蔓延し選挙運動も思うように進まなかったのです。

親友は、孤軍奮闘し農家を一軒一軒回り街頭で、熱心にビラを配りました。選挙は、圧倒的に地元の建設業者が有利でお兄さんの落選を疑う者はいませんでした。

しかし、選挙の終盤に建設業者と地元暴力団の関係がマスコミに流れ形勢は一挙にお兄さんに傾きました。

選挙に勝機が出てくると青年団も全面的に協力するようになり、お兄さんは見事当選しましたが、当選を喜ぶ選挙事務所の中に親友の顔は無かったそうです。

建設業者と暴力団の関係を暴き、マスコミに流したのは親友だったのです。
そして、親友は地元の暴力団に追われる身となり故郷から消えてしまったのです。

その後、親友からは一通だけ短い手紙が来たそうです。



<親友の手紙>

前略 当選おめでとう。
これからが大変だけど、お前なら出来る。
早くに両親を無くし、身寄りの居なくなった俺を家族のように大事にしてくれたお前の優しさがあれば、地元もきっと良くなると信じている。
俺は、これから自由に生きて行くから心配しないでくれ。
そして、尚美さんの幸せを祈っている。     早々



「兄の友達として、初めて家に来た時から優しい彼のことを好きになったの。
私が12歳で彼が17歳だった。
ご両親を交通事故で亡くした彼は、良く家に晩御飯を食べに来て遅くまで兄と話をしていたわ。
私は、邪魔にされながら兄たちの話を聞いていたの。

私の気持ちに最初に気づいたのは兄で、彼に私の気持ちを伝えてくれたのよ。

「俺も前から尚美ちゃんのことが好きだった。お前に申し訳ない。」それが彼の答えだった。

「お前は、俺の妹じゃ不満か?それとも俺の弟になるのが不満か?」兄は笑いながら彼に詰め寄ったのですって。

「お前の弟になるのは御免だが、尚美さんのことは愛している。」真面目な顔で彼は答えたらしいわ。

「それなら、我慢して俺の弟になれ。」そう兄が言ってくれたのが、私が20歳で彼が25歳の時だった。

その年に、兄は最初の選挙に立候補したの。」

尚美さんの昔話は、僕の知らない大きな世界のことのようです。
ミチは、知恵熱が出そうな勢いで頭を回転させているらしく、途中、途中で質問をしていました。

ミチが、政治に興味があることが不思議でなりません。

「私は、彼が居なくなってから毎日彼の行方を捜した。

逢いたくて、逢いたくて・・・・・・・

彼のことが心配で夜も眠れなかった。

逢いたくて、逢いたくて・・・・・・・

彼のことを忘れられる日は1日もなかった。

この20年間。

私は、両親の薦めるままに見合いをして25歳の時に結婚したの。
結婚式の日に、扉の向こうから彼が飛び込んでこないかと期待していたのよ。
兄の顔を見たら、兄は申し訳なさそうに悲しげな笑顔をしていた。

あれから、15年。

逢いたくて、逢いたくて、逢いたかった彼に今日逢えるのよ。

20年間探していた兄が、やっと見つけ出して教えてくれたの。

私は、子供には恵まれなかったけど、主人は優しくしてくれた。
一度だけ、浮気もしたけどね。

彼も結婚して、子供も2人居るのよ。

このモチノキは、彼に家に植えかえてもらうの。」

ちょうど、話が終わった時にサンダーバードは富山県の魚津駅に到着し、尚美さんは【時の流れ】という花言葉を持つモチノキを抱えて降りて行きました。


魚津は春になると蜃気楼が見える町として有名だそうです。

光の手品によって、幻を見せてくれる蜃気楼。

今は、すべてを覆い隠すように雪が降っています。







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