奇跡のブルーローズ
【ぺこりの花で祝福を】
ミチは、画用紙のヘタクソなポップと共に、どこからかサンタクロースの衣装を持ってきました。
そうして、僕とミチはサンタの格好で花売りをすることになったのです。
「クリスマスのプレゼントに花を添えましょう。」
「クリスマスのチキンと一緒にぺこりの花を。」
「ケーキの付け合せに、ぺこりの花がよく合います。」
僕は、ミチに言われる通りに店先で花売り兄ちゃんをしています。
ミチは店の中でサンタの格好をして僕の仕事振りを監督しています。
「気合が足りないよ!」そんな言葉を浴びせながら。
「今日の特売は、ブルーローズだよー。青くて綺麗なブルーローズだよ〜ん。」僕は、ヤケクソで言いました。
僕の呼び声に反応したのは、黒縁メガネをかけた頭のよさそうな若い男性です。なぜ、頭が良さそうかというと、髪型を七三に分けて黒縁メガネに黒の革靴を履いている人は、頭が良いに決まっているからです。
僕は、そう信じています。
「ブルーローズ。不可能の花・・・・」黒縁メガネは、ブツブツと言いながら近づいて来ます。
少し怖いです。
「ブルーローズが、いかに素晴らしい花か君は知っているのか?」黒縁メガネの目の前まで来て言いました。
「いえ?綺麗なバラだなあ〜と思っていますが。」僕は、ビクビクと答えました。
「青いバラは出来ないと言われていたのだよ。
数多くの研究者が挑戦して挫折したブルーローズ。
2004年の6月30日に誕生した研究者の魂の結晶。
君は、その偉大なブルーローズを特売なんて言葉で汚して良いと思っているのか。」黒縁メガネの唾が僕の顔にかかります。
「ごめんなさい。勘弁して下さい。」僕は心の叫びました。唾を袖で拭きながら。
それから、延々とブルーローズの研究に携わった研究者達の努力や遺伝子技術の進化について説明をされました。僕の思ったとおり頭の良い人でした。
「ブルーローズはねえ、【神の祝福】ていう、ありがたい花言葉を頂いているのだよ。遺伝子がどうの、バイオがどうのなんて関係ないの!分かるかい黒縁メガネの兄ちゃん。」ミチはサンタの格好で啖呵を切りました。口に白い髭をつけているので喋りづらそうです。
「バカな。何が神の祝福だ!人類の英知だよ。」黒縁メガネは吐き捨てるようにミチに言いました。
「人類の英知?ブルーローズは、研究者が咲かせただと〜。花は研究で咲くんじゃないんだよ、愛だよ愛。アンタは愛も知らないの?」ミチは気色ばんで言いました。
「ふん。愛ね。女は愛とか恋とか言っていれば良いのだから羨ましいよ。」黒縁メガネは馬鹿にしたように鼻で笑いました。
「バーカ、バーカ。」ミチは顔を真っ赤にして怒りました。
僕は、やっぱりミチは頭が悪いと納得しました。「バーカ、バーカ」って・・・小学生じゃないんだから。
黒縁メガネは、呆れたように右へ回れをして帰ろうとしました。
これで、収まらないのがボンバーミチです。
「お前なんかに、女の気持ち分かるか〜!」そう言ってブルーローズを背中に投げつけました。
「分かりたくもない!馬鹿すぎる!あんな男といつまで居ても不幸になるだけじゃないか!」黒縁メガネは叫ぶように絶叫するとミチに突進して来ました。
ミチは寸前のところで身をかわした。
そして、黒縁メガネは僕と正面衝突です。
意識が・・・・遠のく・
目が覚めると僕の目の前に店長の顔がありました。
「ぎゃあー」僕は飛び起きて和美さんに聞きました。
「変なことされてないですよね?」
「キスぐら良いじゃない。ねえ?」店長はミチに聞きました。
「減るもんじゃないしね」ミチはヘラヘラ笑いながら言いました。
「大丈夫よキクちゃん。ちゃんと監視してたから。」心配そうな顔をする僕を見て、和美さんが笑いながら言いました。
傍で、僕達の会話を不思議な顔で聞いた黒縁メガネは、「すいません、大人気なく興奮してしまって。」そう言って深々と頭を下げました。
「いいんですよ、コイツのことなんか」ミチが手を左右に振りながら言います。
僕は心の中で、「お前が言うな」そう呟きました。
「それじゃ、吾郎さんの話の続きを聞きましょうか。とんだ邪魔が入ったけど。」
えっ?!邪魔って僕?
僕が気を失っている間に吾郎さんと言う黒縁メガネの話で盛り上がってたようです。
吾郎さんは、バイオテクノロジーとか言うものを研究している研究所に勤めています。
そして、研究所の上司に恋をしたのです。本人は、恋だと思っていませんが。
しかし、上司は、年上で結婚もしているのです。
「緑さんが、幸せなら僕はいいんですよ。でもね・・・でもね」吾郎さんは、わんわん泣き始めました。
どうやら、緑さんと言うのが上司の名前みたいです。
緑さんは、仕事には厳しくテキパキと指導する優秀な人なのです。それでいて、悩んでいれば相談に乗ってくれる優しさもある女性だそうです。
しかし、優秀で優しい緑さんのご主人は少し問題があるようでお酒が入ると緑さんに暴力を振るうのです。普段は優しく大人しい人なのだそうですが、一度お酒を口にすると手が付けられなくなるのです。
吾郎さんが、そのことに気がついたのは普段は化粧をしない緑さんが下品なほどに厚化粧をしてくることが時々あるのです。
「すいません。ちょっと化粧品の匂いがキツのですが。」化粧品の匂いに弱い吾郎さんとしては、仕事に集中できないので無礼を承知で言いました。
「ごめんなさい。明日から気をつけるわ」緑さんは、そう言って吾郎さんの側を離れたそうです。
翌日は、大きなマスクに見慣れない大きなメガネを掛けて緑さんは来ました。
「風邪ですか?」吾郎さんは、不審に思って聞いたそうです。
「ちょっとね。」緑さんは、そう言うと吾郎さんから顔をそむけたのです。
暫くすると、また、普通の緑さんに戻るのですが、月に3,4回はマスクにメガネになります。
そうして、鈍感な吾郎さんでもマスクの下に痣があることに気がつきました。
吾郎さんの脳裏に浮かんだのは『DV』の文字だそうです。
ドメステイック・バイオレンス。
あまり横文字にも世の中にも強くないミチが聞き返しました。
「DVって何?DVDじゃなくて?」
僕も『DV』と聞いてTUTAYAの奥を想像してしました。
「昔で言う、暴力亭主よ。」店長は、吐き捨てるように言いました。
「その痣は、どうしたんですか?」吾郎さんは、研究室で二人きりになった時に聞いたそうです。
「ちょっと転んでね。」緑さんは、その話題を避けるように書類を広げました。
「嘘です。誰かに殴られたんでしょう。」吾郎さんは書類を無視して言いました。
「・・・・・・・」緑さんは何も言いません。
「ご主人ですか?だったら、すぐに離婚すべきです。
そして警察に届け出て下さい。
それが、緑さんの為にもなるしご主人のためにもなるでしょう。
このまま、暮らして重大なことになったら二人とも困るでしょう。」
吾郎さんは、頭に『DV』も文字が浮かんでから、色々と調べたそうです。相談する機関や事件化する事例。
DVという病気の治療方法まで。
やっぱり思ったとおり頭がいいです。僕には説明を聞いても難しい言葉が多くて良く分かりません。
DVと言うのは病気で治療をしなくてはいけない事。
DVは傷害罪で刑務所に入らなくてはいけない事。
それだけは、なんとなく分かりました。
「緑さんが好きなの?」ミチは単純明快な質問をしました。
「好きとか嫌いじゃないんだよ」吾郎さんは怒ったように言いました。
「好きでも嫌いでもなく、助けたいのね」和美さんが言いました。
「そうです。身近な人が苦しんでいるのを放って置けないでしょう。」
「そうね。でも、男と女は難しいわよね。
頭では、理解できても心が反対の答えを出すこともあるのよ。
この人の側にいちゃいけないと思う頭と、この人の側にいなくちゃいけないと思う心がね。
緑さんの心の中に入って変えてあげることが出来れば簡単なのにね。」緑さんはシミジミと言いました。
「固まってしまった心を溶かしてあげるのは簡単じゃないのよね。」店長もシミジミと言いました。
「愛だろう!愛!愛があれば心を溶かすことも出来るよ。」ミチがテーブルに片足を載せ片腕を上げて叫びます。
ミチのコンサートではありません。
でも、僕もミチの意見に賛成です。やっぱり「愛」な気がします。
愛しか地球も救えません。
「愛?僕が緑さんを愛していないから緑さんは心を開いてくれないのかな。」ミチの迫力に押されたのか吾郎さんは、呟きました。
「吾郎さん、相手が結婚していようが年上だろうが好きになってしまうことはなるのよ。
すごく、切なくて悲しいことだけど、好きになってしまうものだからね。
でもね、同情と愛情は違うの。同情で愛されるなんて誰も喜ばないわ。
ちゃんと、緑さんにとって一番いい方法を考えないとね。」
和美さんは諭すように吾郎さんに言いました。
「分かりました。考えてみます。」吾郎さんは、そう言って帰って行きました。
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一週間後に吾郎さんは目の下に隈を作り、大きな荷物をもって店にやって着ました。
「あれから寝ないで考えました。受験勉強よりも頭を使いました。
これ以上は考えられ無いところまで考えました。
僕は、緑さんを愛しています。
だから、今の研究室を辞めて他に移ることに決めました。
遠くに緑さんを連れて行きます。」
吾郎さんはキッパリと言いました。
「緑さんは分かってくれたの?」和美さんは心配そうに聞きました。
「いえ、これから緑さんに告白しに行きます。」吾郎さんは和美さんに聞かれて、少し自信の無い声になりました。
店長が、ヌッと吾郎さんの前に現れました。
「はい、ブルーローズ。「不可能」と言う花言葉を持っているの。
多くの人が青いバラ作りに挑戦しても作れなかったからね。
それが、バラを好きな人たちの愛で青く美しいバラが生まれた時に「奇跡」という花言葉が与えられたの。
奇跡を起こすのは、「愛」。
それを神が祝福してくれる。」素敵でしょう。
素敵な話だと僕は思いました。ただ、店長の口からでは無く他の人から聞きたかった。
「奇跡・・・・ですね。愛は。」吾郎さんは、ブルーローズを一厘持ち一歩一歩踏みしめるように店を出て行きました。
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最終電車の頃、駅に向かう大きな荷物を持った人の後ろに、小さな旅行鞄を持った女性がついて歩いています。
暗闇の中で、二人は手を繋ぎ駅への道を真っ直ぐに歩いて行きます。
「あれは、吾郎さんかな?」僕は吾郎さんであることを祈りながら、夜空を見上げました。
トナカイが飛びそうな澄んだ星空です。 |