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フラワーショップ ぺこり
作:晴天



駅のセンリョウ


【ぺこりの花で旅の思いでを】


ミチのポップはともかく、僕とミチはぺこりの車で旅にでることになりました。
駅長と呼ばれている鉄道ファンの写真屋さんの希望を叶えるためです。

駅長のお母さんは、買い出し列車に乗り郊外の駅に着いた時に産気づき、駅で出産をしたそうです。

駅長さんは、今や廃線となった駅の写真を撮るために何十年かぶりに駅を訪れました。
駅長さんが、撮った写真には不思議な白い影が写っていました。
僕とミチは、白い影の謎を解くべく旅に出たのです。

ナビのない、ぺこりの軽自動車での旅は地図が頼りです。
地図を確認しながら廃線になった駅への道を運転する僕の横では、ポテチを飛ばしながら歌う女子高生ミチ。
「丘を越え行こうよ♪〜・・・ラララ山羊さんも」
パシッ!
僕は時々、頭を叩かれて
「メーメー」歌わされます。
そうして僕の過酷な旅は続くのです。


何度か迷いながらも、目的地に向かう僕にミチの罵声は容赦なく飛んで来ました。

「バーカ。何やってんだか」
「グルグル回って地球一周か?」
「夜になってアタシを変なとこに連れ込む作戦?」

それは、ありえません。

心身共に疲れ切った僕が誰も居なくなった駅に着いたのは、夕暮れ間近でした。夕焼けに照らされた駅は、不気味な美しさで、オカルト嫌いの僕はチビリそうです。
ミチは古い駅と夕焼けを見ながら、しきりにシャッターを押しています。

駅長さんから借りてきた古い古いカメラのファインダーを覗いているミチは、さっきまで連続して5個もエンゼルパイを食べて道端で戻した馬鹿な女子高生とは思えない程に風景に溶け込んでいます。

夕日、木造な駅、カメラをもつ少女。

それ自体が一枚の写真のようです。        
ミチは、白い影が写っていたセンリョウの植え込みの前に立つと、大きく深呼吸をして両手を胸の前で合わせました。

「何かいるの?」僕は、少し離れた所から恐々とミチに尋ねました。

「忘れ去られたセンリョウの声が聞こえるよ。キクも来てごらんよ。」ミチは、センリョウに耳を近づけながら言いました。
ミチは、日頃から店の花や道端のタンポポと話をしています。
そんな時には僕は他人の振りをすることに、しています。
他人ですから。

ミチの言葉に、嫌々センリョウに近づくと
「コホン」と咳をする音が聞こえました。

「ひぇ〜」お化けには最高に弱い僕は、大声を上げてミチに抱き付きました。  
ミチは、僕の脛に軽く蹴りを入れると咳の聞こえた方に歩いて行きました。
僕は、ミチの後ろに隠れるように付いて行きます。
「コホン」
咳は、駅の待合室から聞こえてきます。
中を覗き込むと時間の止まった、四角い時計の下のベンチに老婆が眠るように座っていました。
「ひぇ〜」その光景に恐くなった僕は絶叫して、また尻餅をつきました。

僕の声に気がついた老婆はギロリと目を開けて僕達の方に顔を向けた瞬間、僕は少しチビリました。
そんな僕を気にすることなく、ミチは老婆に近づき声をかけるのです。

「おばあさん。あばあさんは何をしているの?」

「聞いているんだよ。ここに、集まっていた人達の音を。」

「聞こえるの?」ミチは老婆の横に座り言いました。
僕は待合室の外から、その光景を眺めていました。

「昔、ここには若い人から年寄りまで、みんな集まって汽車が来るのを待ったものさ。
話をしたり、お茶を飲んだりしながらね。

ここで、好き合って祝言を挙げた人もいたよ。
食べ物を交換したりも、したしね。

若い駅員も、電車を走らすばっかりじゃなくて、喧嘩の仲裁やら子守やらしてたね。

ここに、座っていると町を離れていった人達の音が聞こえるんだよ。

正月に帰ってくる息子や娘を待つ親の笑い声や、出稼ぎに行った夫や恋人を待つ女達のソワソワした足音。

嬉しい音ばかりじゃなく悲しい別れの音も、たくさん聞こえるよ。」

老婆は、もう一度目をつむって耳を澄ましました。

ミチも目をつむり耳を澄ましています。

「帰りたくても、もう、この駅には誰も帰ってこれないんだね。
センリョウやススキ、裏にある柿の木の声が寂しそうに聞こえるよ」ミチは言いました。

老婆は、目を開けてミチに微笑みました。

僕には寒い冬の風が吹く音しか聞こえません。

「おばあちゃん、ここで赤ちゃんが生まれたのを憶えてる?」ミチは老婆に聞きました。

「もう、60年以上前になるかね、可愛らしい男の子を取り上げたよ。早産だったから、心配したよ。」老婆は、思い出すように言いました。

「その赤ちゃんは、立派な写真屋さんになって、今も元気にしているよ。
産んだお母さんの方は死んじゃったけどね。」ミチは止まった時計を見ながら言いました。

「知っているよ、お母さんの魂があの世に行く前に知らせてくれたよ。
「おかげさまで、息子と良い嫁に恵まれて幸せな一生を遅れました。」そう言ってくれたよ。」

「知ってたんだ。そんな気がしてたよ。」ミチが言いました。

僕には、何がなにやらさっぱり分かりません。

気がつくと周りは真っ暗で、街灯もないのにミチと老婆の姿だけ薄暗い明かりに包まれて見えます。

きっと、僕の目が宵闇に慣れてきたせいだと思います・・・・思います。

「じゃあ、私はそろそろ帰るよ。」老婆は、立ち上がって待合室から夜の闇の中に白い煙のように消えていきました。


「キク、ここに来て。」ミチは待合室の中から僕を呼びました。

「時間に置いていかれるのも、時間を追いかけるのも寂しいね。」ミチの横に座って僕は言いました。

「キク、ずっと、このままって無いんだよね。」ミチは言いました。

僕は、ずっと、こうしてミチや店長や和美さんと、過ごしたいと心から思いました。


「キク、キスして。」ミチは目をつぶり唇を僕に突き出しました。

僕はミチの肩を抱いて、長い時間キスをしました。



**********


結局、写真に写った白い影の謎は解明できないまま、帰ることになしました。

帰りの車でも、ミチは元気です。何事もなかったように。

「丘を超え行こうよ〜♪・・・・・ハイ!ララララ山羊さんも」ミチは何事も無かったように僕の頭をペチペチ叩きながら、口からカールの欠片を飛び散らして歌っています。


「メーメー」僕も声を張り上げて歌いました。

後ろのシートには、四角くて白い文字盤の駅の時計が乗っています。

ミチは、ぺこりに置くそうです。止まったままの時計を。



あ、花言葉がありませんでしたね。

センリョウの花言葉は、【裕福・利益】。

本当の裕福ってなんでしょう?







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