お転婆のレウシア
【ぺこりの花で想いを伝えよう!】
ミチのポップはいつまで続くのでしょう?今日も、花屋のショーウインドーを飾る、下手なぺこりグマのイラストを見ながら思う僕です。
店長が二日ぶりにマスクをして来ました。鬼のかく乱ならぬ熊の錯乱です。
「キクちゃん、お見舞いに来てくれないのだからあん。」マスクをしたオカマさんから「あん。」と言われても困ります。
僕は、いろいろと身の危険を感じて店長から離れました。
離れると店長が僕に近づいてきます。
店の中で、僕と店長はグルグルと追いかけっこです。
「すいません。」追いかけっこを止めてくれたのは、純朴そうな若い女性です。
「はい。なんでしょう。」僕が、近づいて行くと女性は明らかに嫌な顔をしました。
「あ!」僕はやっと気がつきました。
この女性は、左隣に住むキャバ嬢です。化粧をしないと、鼻が低くて目が切れ長の一重で日本的な顔なのかと思いました。
この女性には、前に右隣にすむ留学生の中国人男性と酔っ払い抱き合って号泣しているところを見られたのです。それ以来、どうも見る目が違います。
「あの~店長にご相談したいことがあるのですが。」女性は、後ろに引き気味に言いました。
「はいはい、何でも相談にのりますわよん。」店長が、オカマ言葉で寄ってきました。
「私を、一日だけ店員にして欲しいのです。」女性は、店長に一歩近づいて言いました。
マスクをしたオカマは許されるのでしょうか?僕は納得いきません。
キャバ嬢の名前は、由美子さん。年齢は20歳です。
高校を卒業して、化粧品会社に就職したのですが先輩のイジメに耐えられず1年で辞めてしまったそうです。
故郷の帰ることも考えたのですが、実家の果樹園の手伝いをさせられるの嫌で親には内緒でキャバクラに勤め始めたそうです。
キャバクラでも人気は特に無いようです。人気もないので、イジメに合うこともなく平和には過ごせているのですが。
そんな良いのか悪いのか分からない平和を乱す父親の電話が昨日あったのです。
果樹園主の会合がぺこりの傍であるので、ついでに娘の働いている花屋を見てみたいと言うのです。
由美子さんは、化粧品会社を辞めた後に、「フラワーショップ ぺこり」で働いていると親には嘘をついていたのです。
漫画のような、ドラマのような、ヘタクソなコメデイー小説のような展開です。
「うーん。親に嘘をつくのもねえ。」店長は少し困り顔です。
「キャバ嬢がばれたら実家に連れて帰られて、果樹園の娘として日焼けで真っ黒になりながら葡萄を作らないといけないのですよ!!」僕は、別に悪いことではないと思いました。
「助けましょう。ぺこりは困っている人の味方です。」ミチが横から貫禄たっぷりに口を挟みました。
いったい、何が狙いなのだ?
「葡萄は巨峰ですか?」ミチは由美子さんに顔を近づけて聞きました。
「え?巨乳?」確かに由美子さんは巨乳です。
「それは、私に対する挑戦と受け取っていいですか?」確かにミチは貧乳です。
「あ、実家の葡萄の話ですね。巨峰も作っていますよ。協力して頂けたら一番美味しいのを贈りますから。」由美子さんは、慌てて訂正しました。
少し胸を反らすように突き出したのが気になりますが。
「これで商談成立ですね。」ミチも何故か胸を反らして握手を求めました。
店長は、それ以上何も言えませんでした。
和美さんは、笑っていました。和美さんの胸は標準です。たぶん。
由美子さんのお父さんが現れる日が来ました。
由美子さんは、朝からぺこりグマのエプロンをして奥の休憩室で待機です。
ソワソワと店の奥からのぞく由美子さんは、毎晩、ほろ酔いでバッチリ化粧の時とは別人です。
「こんにちは」ワインの箱を持った由美子さんお父さんが現れました。
「いらっしゃいませ。」店長は昨日、和美さんと練習していた通りに男言葉です
「お父さん。良く来たね。」由美子さんが登場です。これも練習通りです。
由美子さんのお父さんは、店長や和美さんに仕事のことを一通り尋ねて満足して帰りました。
これで、僕たちの偽店員作戦は無事に終わるはずだったのですが、帰りかけるお父さんの背中に
「二人で一杯行きましょうか?」店長が、お猪口を口に当てる仕草をしながら誘ってしまいました。
僕もミチもビックリしましたが、一番驚いたのは由美子さんです。
店長は、僕達の顔を見ながらニコリと微笑みお父さんと飲み屋のある方角に消えて行きました。
翌日は、更に風邪を悪化させた店長がやってきました。
店の奥では、昨日のお礼に来た由美子さんが和美さんと話をしています。
由美子さんとお父さんは昔から仲が悪かったそうです。
家では、おとなしい跡取り息子の兄ばかり可愛がられ自分は、放っておかれてたそうです。
お兄さんの絵が町の公民館に飾られた時には、ケーキを買ってきてお祝いをしたのに、自分が中学校の時にソフトボールで優勝しても何もしてくれなかったそうです。
いつも、自分の話を聞いてくれるのはお母さんだけ。今更、心配されても腹が立つだけで嬉しくない。
そんな文句を言っていると、咳込みながら店長が店の奥に入ってきました。
「そうかしら?
心配されて嬉しいから、嘘をついてまで店に来てもらったんじゃないの?
お父さんは、アンタの事をいつも気に病んでいたの。
お兄さんは、小さい頃、身体が弱くて絵ばかり描いていたんでしょう。
学校も休みが多いし、なかなか外では遊べない子供。
アンタは、お転婆で友達も多くて元気な子。
昔、アンタのグローブが
無くなったことが、あったでしょう。あれは、お兄さんが川に捨てたんだって。
お父さんは、あの時ほど悲しかったことは無かったってよ。
アンタには、お母さんがコッソリ新しいグローブを買ってくれたでしょう。
それ以来、お父さんは、お兄ちゃんに優しくなり、ついついアンタの事を気にしない振りをしてたんだって。
アンタが毎日、学校や遊びに使ってた自転車の空気が減ってたことは無いでしょう?
アンタが小学校の時から高校を卒業するまで、自分で自転車の空気なんて入れたことは無いでしょう?
不思議でしょう?
誰も入れなければ自転車の空気なんて減るわよね。
お父さんが、毎朝、アンタが起きる前に点検をして油をさしたり空気を入れたりしてたんだって。
せめて、それ位はして上げたかったんだってさ。
ソフトボールの試合もコッソリ見てたんだって。アンタがデットボールを顔に当てた時は、思わず叫びそうだったって笑ってたわよ。」
店長が話している途中から由美子さんは、子供のように泣きじゃくり始めました。
「お父さんには、本当の事を言っておいたわ。
少しビックリしていたけどお転婆のアンタの花嫁修業だと思うって笑ってたわよ。」
「店長、お父さんに花を贈ってもいいですか?」由美子さんは、シャクリあげながら言いました。
「レウシアでも贈って上げなさい。
和名は岩花火。
今は丈夫になって果樹園を手伝ってる兄さんとお母さん、それにアンタと4人で花火大会に行くのが夢だったんだって。
アンタの故郷の花火大会にね。」
店長は、レウシアの花を見ながら言いました。
「子供の頃は、いつもお母さんとふたりで行ってました。
お兄ちゃんとお父さんは、家の縁側から見てたけど。
本当は、お父さんもお兄ちゃんも行きたかったんですね。」
「当たり前でしょ。アンタは、親の気持ちも分からないから、キャバやってても全然指名がないのよ。」
店長は、笑いながら花柄のハンカチを由美子さんに渡しました。
しかも、カーゼハンカチです。
その日の夜は、何故か店長が線香花火を買ってきて店の前で皆で花火大会をしました。夏にはまだ、少し早いけど。
「レウシアも花言葉みたいに、親の愛情は ほのかな想い
激しくはないけどいつまでも消えることのない ほのかな想い 」
僕は、線香花火に照らされた店長の横顔が、優しげに感じてゾっとしました。
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