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フラワーショップ ぺこり
作:晴天



よ!若旦那、ピンポン菊だね


【楽しい食卓にぺこりのフラワー】

なんだ!なんなんだ?ついに、ふりかけのように、なってしまった!!
ミチのポップは止まるところを知らず、店のショーケースを飾ります。


店では、和美さんが金沢に旅行に行った時に買ってきてくれたお土産の和菓子から、和菓子ブームが起こりました。
金沢の和菓子は全国的に有名らしく、昔ながらの伝統的なものから工夫を凝らしたモダン系まで様々な和菓子店が軒を列ねているそうです。
最近では全国配送をする店もめずらしくなく、店に居ながらにして金沢銘菓を楽しめるようです。
最初は、パソコンを覗き込んでワイワイと話をするだけだったのですが、甘いもの大好きのミチは、堪え切れずに、パソコンから手当たり次第に注文して、店長に支払わせるという暴挙に出てしまいました。
そして、目の前に色とりどりの見た目にも美しい和菓子が並ぶこととなったのです。
美しい和菓子達は、花を形どったものや浮世絵風のものまで、お菓子と言うより芸術品か工芸品の佇まいで食べてしまうのが、もったいない気がします。

僕と店長、そして和美さんが美しさに溜息をついている横では、両手に和菓子をもってガツガツ行ってるミチがいます。
しかも、口いっぱいに入れながら味やら形やらを品評するものだから何を言っているのかサッパリ分かりません。

僕はミチを見ているだけでゲップが出そうです。



ミチは和菓子の食い放題をした、翌日に近所の和菓子屋のチラシを持ってきました。

「この【加賀の菊】を買いたくて行ったんだけど売り切れだった。」
ミチは、悔しそうに僕にチラシを渡しました。

チラシにあった菊の形をした和菓子の写真は店にあるピンポン菊より綺麗なのには驚きました。
まさに、本物を超えた和菓子です。


配達で和菓子屋の近くを通る度に店にはたくさんの客が【加賀の菊】を買い求めて列を作っていました。
僕も何度か並びましたが、いつも売り切れになってしまい手に入れることが出来ず悔しい思いをしています。
買って帰ったら、さぞミチが喜ぶだろうと思うと残念でなりません。

いえ、いえ、僕はミチが好きな訳じゃありませんよ!ただ、驚かせて自慢したいだけですから!!
ね!!



思わぬところから、【加賀の菊】が手に入りました。
毎晩、ペコリが花を納めさせた頂いている「クラブ 花水木」のNO.1ホステスの美津子さんが、和菓子屋の若旦那から貰ったものをお裾分けしてくれたのです。
若旦那は、金沢の和菓子屋での修行を終えてこの街に戻ってきたそうです。金沢の修行時代に作って和菓子の本場でも評判をとったのが【加賀の菊】という訳です。
若旦那が、美津子さんの店に来るようになったのは、街の商工会議所の青年部の歓迎会での2次会です。
素朴な職人気質の若旦那は、美津子さんが横についても顔を見ることも喋ることもなく、作られた水割りを黙々と飲んでいたそうです。
それから、しばらくして今度は一人でフラリと現れ特に喋るでもなくカウンターで水割りを2杯飲んで帰って行ったそうです。
そんなことが、2、3回あり美津子さんが気になって和菓子のことを少し聞いたら1時間以上【加賀の菊】の作り方から材料の厳選の仕方まで延々と喋って帰り、弊店間際に5箱も作りたての【加賀の菊】を持って来たそうです。

その、お裾分けでぺこりのテーブルの上にあるのです。
涎を垂らしたミチが、爆発物でも扱うかのように丁寧に包装紙を開けて出てきた和菓子は、丸い形をした甘い香りを放つピンポン菊そのものです。

「菊の花びらひとつひとつは丁寧な飾りを施した栗。花びらの下には上質な片栗で作った白玉。シンプルで濃厚な味わいの和菓子。三ツ星ですな。」ミチが口の周りにマロンクリームをつけながら真剣な口調で言いました。

「うめー」これが僕の感想です。


「すいません。」
お客さんに気づかず、店の奥で【加賀の菊】の品評をしていると、急に男性の声がしました。
思わず僕は、食べかけの和菓子を片手に飛び出して行きました。

男性は、僕の持った和菓子を見て嬉しそうに「美味しいですか?」と尋ねました。
「すいません。今置いてきます。」そう言って僕が奥に戻ろうとすると、

「【加賀の菊】ですよね。私が作ってるんですよ。」そう言って、また嬉しそうに笑いました。

「美味しいです。それに本物のピンポン菊より綺麗ですよ。」僕は店のピンポン菊を見せながら言いました。

「そう言って貰えると嬉しいです。この菓子を作るのに10年以上かかりました。
高校を卒業して、金沢の老舗の和菓子屋に修行に行った日に丸いピンポン菊を見たんですよ。
その時に、この菊を和菓子にしたらどんなに綺麗だろうと思いました。
金沢には、似たような和菓子はたくさんあります。
私は、その中で一番ピンポン菊の美しさを出せる和菓子を作るまで故郷には帰らないと決めたんです。
最初は、5、6年のつもりだったんですが気がついたら15年も経ってました。
和菓子を作るのに熱中しすぎて女性の接し方が良く分からずに、今は困ってます。」
僕は、【加賀の菊】に対する若旦那の愛情に感動しました。

「若旦那!日本一の和菓子です。」思わず時代劇風に若旦那の手を握って言ってしまいました。

「若旦那、オナゴの事でお悩みですか?ひとついい案がありますよ。」ミチがハエのように手をスリスリしながら寄ってきました。

「毎日、花を届けるんですよ。女は花に弱いものです。もしも、上手くいったら【加賀の菊】よろしくお願いしますよ。」食べ物に対する異常な執着です。

若旦那の恋わずらいの相手は、高級クラブのNO.1ホステス 美津子さんです。
美津子さんの店に毎日通ったら、繁盛している和菓子屋だって潰れてしまいます。

そこで、ミチが考えついたのは、僕の代わりに若旦那が花の配達をするというアイデアです。
確かに花を届けることにはなるのですが、意味が違う気がします。

それでも、美津子さんに会いたい一心で、その日から若旦那の配達は始まりました。
配達から戻ると、必ず大きなため息をついて帰る若旦那の姿は男としては見るに忍びない感じです。




ある朝、ぺこりに行くと和美さんと美津子さんが奥の休憩室で話をしていました。
僕は、たまたま立ち聞きしてしまい・・・・たまたまです。

美津子さんの相談は、若旦那から結婚を申し込まれたと言うのです。

これは、ミチの唐突で滅茶苦茶な入知恵によるものです。
僕は反対したのですが、何しろ恋に患っている病人ですから、ついつい乗ってしまったのでしょう。


美津子さんは、幼馴染の初恋の男性を未だに忘れることが出来ず、その男性が結婚した今でも、昔に貰った安物の指輪を右手の薬指から外すことが出来ないでいます。
それに、若旦那がいくら良い職人で良い人だとしても、NO.1ホステスと和菓子屋の若旦那ではシックリきません。
美津子さんの相談も、どうやって断ろうかと言う事です。

「右手の薬指のおまじないも、そろそろ終わりにしたら。」和美さんは意外な事を言いました。

「若旦那は、真面目で面白みがないかも知れないけど、正直な人柄が評判よ。結婚なんて難しいことは考えなくてもいいから。」和美さんは、どうやら若旦那との交際を進めているようです。

絶対に、悲恋になると分かっているのに。少なくとも僕はそう信じています。
二人の悲しい結末を見るよりも、若旦那が振られる方が良いに決まってます。


「薬指のおまじないか・・・。」美津子さんは、ゆっくりと指輪を外しました。

嘘!?信じられません。


「若旦那の純粋な目に賭けてみます。もう一度純粋な恋が出来ることを。」美津子さんは指輪を和美さんに渡しました。


「美津子さんが、新しい恋をするまで預かっておきますよ。思い出になったら返すからね。」
和美さんは、渡された指輪を大切にハンカチに包みポケットに入れました。




翌日、ぺこりには、【加賀のヒマワリ】と書かれた大きな包みが届きました。

箱の中身はもちろん特大の和菓子です。

ピンポン菊の花言葉は高貴。若旦那の【加賀の菊】に対する気持ちにぴったりです。

そしてヒマワリの花言葉は、「あなたを愛しています。」美津子さんへの想いです。









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