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フラワーショップ ぺこり
作:晴天



カップケーキとスイートピー


【フラワーショツプぺこりには、素敵な出会いが待っています。】

今日は、出会系サイトのコピーなの?そんなことを心の中で突っ込みたくなるようなミチの看板です。


今日から学校は冬休みに突入し、ミチは朝から元気に花達に話しかけています。
花と会話出来るフラワーガールは、これだけの花に囲まれると、うるさいことでしょう。
更に今日はミチの友達もバイトに来ているので賑やかです。

バイトの女の子は、さくらちゃん。ミチと同じ高校生です。
明るくて元気で悩みなんて言葉は知らないのではないかと思うぐらいです。

師走の始めの花屋は、お歳暮の配達やクリスマスに届ける花、お正月に飾る花の注文などがあり、結構忙しいのです。
僕も、朝からお歳暮の配達です。

花をお歳暮に贈るなんて、花屋で働くまで考えつきもしませんでした。
贈るのは、シクラメン、ポインセチアが多く、時には胡蝶蘭があったりします。

暮れの元気なご挨拶は、サラダ油か海苔と相場が決まっているものだと思っていました。
僕なら、ハムの詰め合せが嬉しいです。
誰もくれませんが。

お届け先は、洒落たお金持ちそうなお宅が多く配達にも気を使います。

今日も一件、気の重い配達先の伝票を見つけてしまいました。

中年の品の良い服装の御婦人で、良く店の花を買って頂くのですが必ず文句を言います。
枯れたのは土が悪かったのではないか?
ガクが開き過ぎたのを花束にしたのではないか?
など、など・・・。
もちろん、ぺこりは厳選した花を仕入れていますから花の品質には問題ありません。

御婦人の対応は、和美さんの担当です。和美さんは、如何なるクルームにも笑顔で応対し、御婦人も帰る時は機嫌良く花を買って帰ります。
御婦人は花を買いたいのか、和美さんの笑顔を分けてもらいたいのか僕には疑問です。

ある時、和美さんが居なくてミチに文句を言ったことがありました。
ミチは、真剣な顔で花の命の美しさを迫力満点で御婦人に説きました。

「花は、散るからこそ儚く美しいのです。
散り際こそ生命の力強さを感じなくてはいけません。
大切にしても、なお消え去る運命。
刹那の神秘。
これこそが釈迦の御心のなせる奇跡です。」

御婦人は、瞬きもせずに顔の前10センチに迫る女子高生の支離滅裂な講釈にたじろぎ、アイビーを買って帰りました。

僕は、ミチの迫力にも驚きましたが、花の命を拝聴した後に観葉植物を買って帰った御婦人の謙虚さには、もっと驚きました。

僕には、配達先で御婦人に説法をする自信はありません。



昼からご婦人の家にしぶしぶ配達に行くと、玄関には【猛犬注意】のステッカー。
その警告通り、ドーベルマンの手荒い歓迎を受けつつ玄関のチャイムを押すと
「今、手が離せないからドアの前に置いておいて」と、ご婦人のお言葉。
僕は、そそくさとドアの前にポインセチアを置き、ドーベルマンにアッカンベーをして次の配達に行きました。


店に帰ると、やはりご指導のお電話があり、たまたま受けてしまったのが、さくらちゃん。
ポインセチアの赤い葉が一枚落ちていたとのことです。僕は、ドーベルマンの仕業ではないかと思いましたが、僕もダッシュで帰ってきたので定かではありません。
さくらちゃんは、新しいポインセチアを持ってご婦人宅に向かったそうです。




婦人宅から戻ったさくらちゃんは予想に反してニコニコした笑顔で、クッキーのお土産まで持って帰って来たではありませんか。
しかも、お茶までご馳走になって「優しいオバサンだよね。」などと言うのです。
僕も、ミチも和美さんまで言葉を失ってしまいました。


翌日の昼に、ご婦人はさくらちゃんに手作りのカップケーキを持って訪れました。
しかし、さくらちゃんは和美さんの手伝いでホテルの飾りつけに行っているので帰りは夕方になってしまいます。

僕とミチは、昨日のクッキーのお礼に恐る恐るお茶に誘ってみました。
「あら、嬉しい。」ご婦人は快くお茶の誘いを受けて奥の休憩室に入っていきました。

どうやら、昨日のポインセチアはアメリカに転勤した息子からのクリスマスプレゼントでした。カードには、お正月には帰れないと言うメッセージカードが入っていたそうです。
お正月に息子に会えることを楽しみにしていたご婦人は、腹が立ってポインセチアの鉢を蹴ってしまったそうです。
ポインセチアの紅い葉が落ちていることに気づいたのは、その後なので原因は自分にあるのかもしれないとお詫びにきたそうです。これで、僕とドーベルマンの疑いは晴れました。

昨日は、落ちているポインセチアの紅い葉を見て自分以上に悲しんでいる、さくらちゃんを見たら申し訳ない気持ちでお茶をご馳走したそうです。
さくらちゃんが、悲しんだのは遠く離れた息子さんの気持ちが台無しになってしまった気がしたからだそうで、

「遠く離れていても家族なのですよね。

いつまでたっても、お母さんなのですよね。

会えなくても、お母さんの気持ちが分かるのですよね。

寂しがるお母さんのために、ポインセチアを贈ってくれたのに。

葉が折れていまったら息子さんも悲しいですよね。」

さくらちゃんは、折れた赤い葉を見ながら言ったそうです。

ご婦人は、息子の優しい気持ちを素直に受け取れなかったことを後悔したそうです。
そして、昨日のお詫びをさくらちゃんに言いに来てくれたのです。

僕とミチは、ご婦人の気持ちと手作りカップケーキをしっかりと預かりました。



さくらちゃんは小さい頃に両親が離婚し、お父さんと暮らしています。
離婚後、お母さんとは電話で話をしたり時々会ったりしていました。最近ではメールが来るのが楽しみだそうです。
クリスマスや誕生日には必ずプレゼントが手書きの手紙と共に贈られてきて、嬉しい気持ちと寂しい気持ちでいっぱいになるそうです。
きっと、さくらちゃんが一日も忘れたことが無いように、お母さんも自分のことを一日も忘れることはなかったのだと自分が成長するにつれて理解できるようになったらしいです。

そのお母さんが最近、再婚を考えているらしいのですが、さくらちゃんに気を使って踏み切れないでいるようです。

カップケーキの匂いをかぎながら、ミチが話をしてくれました。なんでも先ずは匂いを嗅ぐのがミチの安全確認のようです。時々、僕の匂いも嗅いでいます。
風呂には毎日入っていますとも!



夕方に、手作りカップケーキを囲んで休憩です。

「オバサンが葉を落としちゃったんだ。ダメじゃん。」
さくらちゃんが、カップケーキをほお張りながら笑いました。大口を開けた中にはケーキが詰まっています。

同じようにケーキを口いっぱいにいれたミチが口をモグモグさせながら言いました。
「さくらも、お母さんにホインヘチハを贈りなよ。」

たぶんポインセチアと言いたかったのでしょう。

「スイートピーの素敵なのが入ったからそっちにすれば。」和美さんはさくらちゃんに微笑みながら言いました。

「花言葉は 門出 ね。」店長が髭の周りにカップケーキのカスをつけながらニッコリ和美さんに笑いかけるのが不気味です。

「いいね。門出だね。」さくらちゃんはケーキを口から飛ばしながら言いました。

「【ほのかな喜び】 っていう花言葉もあるのよ。」和美さんが、みんなの顔を見渡して言いました。

僕は、さくらちゃんのスイートピーは、ここに居るみんなの【ほのかな喜び】のような気がしました。









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