また大変長らくお待たせいたしました、作者です
今回はずっと三人称だったのでとても辛かったです。クオリティもさらにアレです
少しでも楽しんでいただければ幸いです
幻想郷の夜~後編~
「あなた、酔っているのよ。目を覚ましなさい」
「酔ってなどいないさ。オレは君を愛する想いが酔いなんかではないと断言できる」
口説き上戸の考察を終えた紫は、まず説得する方法を試した。
結果、失敗。酔っていないなどと即答され、おまけに口説き文句がつけられた。
(~ッ!……これは結構クるものがあるわね…)
もともと、零や紅の顔は一級品であり、スタイルも非の打ち所がない。
ただでさえ好意を向けられることに免疫がないというのに、普段とのギャップがそれを加速。
はっきりいってしまえば、超照れる。もしくはデレる。
話そうとするたびにいちいち口説かれては、打ちのめして正気に戻すこともできない。
ここは一度退き、紅に協力を要請するべきだと結論付け、紫は素早く隙間を開いた。
が
「恥ずかしがりやだな。別に逃げようとしなくてもいいじゃあないか」
反応するまもなく一瞬にして後ろに回りこまれ、優しく抱きしめられた。
脱出しようとするも、そのままうなじに顔を突っ込まれ、スンスンと匂いを嗅がれる。
「甘い匂いがする……紫の匂いだ。おや、抱きしめられて緊張したか?汗をかいているぞ」
「やッ!ちょ、なに嗅いでんのよ!離しなひゃうん!」
ついでとばかりに舐められる。熱く濡れたものが首筋を這う感触に、紫は思わず声をあげた。
その反応に気をよくしたのか零はそのままぺろぺろと舐め続ける。もはやただの変態である。
もしやこのままなし崩し的にあんなことやこんなことをされてしまうのではないかと
多大なる不安と少しばかりの興奮が心を占める紫。余裕があるやらないのやら。
腕ごと抱きしめられているので妖気を集めてぶつけようとするが、耳を甘噛みされ妖気が霧散。
ひるんだところで体を回され、抵抗する隙もなく正面から零の目を見てしまう。
「紫は、オレのこと、嫌いか?」
もの悲しげなその視線は、抵抗に傾いていた心の天秤を一気に逆転させた。
雷に直撃したかのような電撃が背筋を駆け、血管が破れそうなほどに心臓の収縮が強まる。
もはや紫の目はは数百年の時を生きた大妖怪ではなく、恋焦がれる純情な乙女のそれと化した。
「そんなこと、ない。私は、あなたが……
言い切る前にゆっくりと近づけられる唇。もはやそれを邪魔することなどできなかった。
紫には、だが。
「ゼイッ!」「ッラァ!」
突如として現れた二本の腕は、異なる掛け声と同時に捻りを加えた掌底を打ち出し、
今まさに(キス的な意味で)繋がろうとしていた男の方を吹き飛ばした。
「ほう、あのタイミングでガードするのか」
吹き飛ばした一人、蒼が感心したように言う。
確かにあの瞬間放たれた掌底の下には、しっかりと零の腕が差し込まれていた。
「酔ってなければガードどころじゃなかったぞ。下手すりゃカウンターだ」
もう一人の男、紅が打ち込んだほうの手首を鳴らしながら言う。
二人の介入あってか、紫は我を取り戻した。が、その頬は未だに赤いままである。
「た、助かったわ……」
「ん、助けるのが遅れてすまん。まあまんざらでもなかったようだがな」
「あ、あれは!ちょっといい雰囲気に流されちゃっただけよ!」
「つまり、まんざらでもなかったわけだな」
「~~~~~ッッ!」
しつこいからかいについ傘でぶん殴ってしまいたくなるが、状況を考慮し我慢する。
森のほうまで吹き飛んだが、ガードしていたのなら、あの程度で終わる相手ではないからだ。
「……で、吹き飛ばしたはいいけどどうするの?」
「このまま時間を稼ぐ」
さらりと言うが、時間を稼いでどうなるというのか、と紫は顔をしかめる。
一度酔ってしまった者が、たった十数分で酔いが覚めるとは思えない。
しかし、紅はあと数分凌げば零は自滅すると言う。
「能力も使えずフラフラになるほど血が減ってたから酔っちまったんだろう?
ってことは今もまだ能力を使えないから、血の残量はまったく変わっていない。
その状態でさっきまで普通に動いてたなら、限界はもう近いはずって事だ。アンダスタン?」
なるほど、といったように紫は頷く。
同時に、状況の判断と解析が異常に早かった紅に対して少し感心する。
先ほどまでの数秒間の間にここまで考えたのは賞賛に値するだろう。
―――余談だが、実は紫や幽香のキョドる様子が面白くてこっそりビデオで撮っていた
ということがバレ、紅と蒼は二人にボロ雑巾になるまで追い掛け回されたのであった―――
―――さらに余談だが、ビデオカメラは破壊されたが、データは守りきった二人である―――
「……それにしても、口説き上戸など俺は聞いたことがないぞ」
蒼がポツリと呟く。紫も同意だと首を振った。
「んー、いつも押さえつけていた性欲的な部分の本能が完全に開放されてるみたいだな。
幻想郷に来てから思春期の男がやることをサボり続けてきたツケみたいなものと推測する」
実は、彼ら現代っ子が幻想郷に来てすぐにやったことは、精神修行だったりする。
肉体を鍛える修行と併行して毎日一時間の座禅と一般的(?)な滝に打たれる修行。
あのころ健全な男子高校生であった零と紅には、美の化身のような女性と一緒にいるのは
相当な苦痛であったに違いない。もっとも、紅は幻想郷にしかないものなどの研究に熱心で
途中からはあまり考えずになり、零にいたっては藍や慧音、映姫を愛でることで
擬似的な欲求を満たし、大いに満足していたようだが。
「っと、話してる間に時間のようだ」
折れた木々を跨ぎ、森から人影が現れる。
多少服に汚れが見て取れるが、体自体はまったく傷ついていないようだった。
「よし、じゃあ蒼は作戦通りによろしく」
そう言って、紅は紫を引いて十数メートルほど下がった。
「心得た」
てっきり三人で戦って時間を稼ぐと思っていた紫は二人の意外な行動に驚く。
いくら昔倒した相手だといっても、今現在の力の差がどれだけあるのかわかりはしない。
不安を隠せない紫の顔を見て、紅は悪戯っ子のようしククッと笑う。
「嫌々、舐めてるわけじゃないんだ。あいつの実力は俺が一番知っているしな。
でも普通に戦っても楽しくないだろう?せっかくの宴会なんだ、巫山戯よう」
とりあえず、と言って紅はある言葉を耳打ちする。
それを言えば零はこっちの術中にはまって勝手に自滅するらしい。
「まったく、いきなり攻撃してくるとはやってくれる。どうやら死にたいらしいな」
蒼の数メートル前で立ち止まった零は、苛立ちを隠そうともせず言う。
一応微笑を浮かべたままなのだが、如何せん目がまったく笑っていない。
(ほら、早く言え。零にも聞こえるように大声でな)
これでいったい何が変わるんだと思いながらも、紫はとりあえず叫んだ。
紫にとっては、特に何の変哲もない言葉。しかし、零にとっては違ったようだ。
「足止めをお願い!」
その言葉にすかさず蒼が返す。
「ああ、足止めはいいが―――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
ピクッ
微かに零の眉が動いた。苛立ちを含んだ目が違う方向に歪む。
「ああ、かまわない。思いっきりやってしまえ」
紅が続き、それにまた蒼が返す。
「――――ついて来れるか」
瞬間、蒼は音を置き去りにして走り出し、零に強烈なとび蹴りを食らわせた。
しかし不意打ちだったのにもかかわらず零は両腕を交差させて防御を成功させる。
が、この攻撃はダメージを与えるためにしたものではない。
「ご覧の通り、貴様が挑むのは神速の鬼。速度の極地! 恐れずしてかかってこい!!」
この言葉に、零の纏う空気が変わった。
口説き上戸の軽い雰囲気が消え、代わりに闘気が陽炎のように体を包む。
心なしか、纏う闘気が黄金色に輝いて見える。
「雑種ごときが、王に刃向かうか」
尊大な口調でそういった零を見て、紅は自分の計画が成功したことを悟った。
(え、ちょっと、また雰囲気が変わったんだけどどういうこと?)
一人だけ何が起こったのかさっぱり理解していない紫が小声で尋ねる。
(簡単な話だ。性欲以上に本能を刺激されるものを与えてやったんだよ)
そう、今の零が本能の赴くままに行動しているのなら、他のもので本能を誘導すればいい。
しかし、零が性欲以上に本能を刺激されるものとはいったいなんだったのか?
それが分からない紫は余計に混乱する。
(あいつは根っからのボケ役だからな。つまりはまあそういうことだ)
まあそういうことだと言われても、と紫はうなだれる。
しかし紫が分からなくても仕方ない。むしろ分かっていたら大分精神的に病んでいる。
零が本能的にとった行動は、至極単純なものだった。
すなわち、ネタにのる
数百余年、極稀にシリアスになるものの、ひたすらボケ倒してきた零だからこそ通じた策。
つまり零のボケは、体を超えて魂にまで刻みついているということだろう。
「いくぞ英雄王――――武器の貯蔵は充分か」
更なるネタを押し込み、蒼は零に突撃する。何気にノリノリな蒼である。
ちなみに蒼はネタなど一切知らず、ただ紅に言われたことを実行しているだけである。
(私に感じる性欲より意味の分からないネタのほうが優先順位が高いのね……)
魅力がないのかしら?いやいやさっきはあんなに好きだって言ってくれたし、
でも酔ってたから正常な判断ができなくなって、けど私の体だって悪くないと思うし、
あー!もうどう思えばいいのよ!と紫は一人頭を抱える。
その様子もキッチリとビデオカメラに収める紅。外道な顔をしている。
と、ここで紅の予想外の出来事が起きる。
ゴシャア!と人体が出していい音ではない破壊音とともに吹き飛ばされる蒼の姿。
受身も取らず地面に叩きつけられたことから、どうやら完全に気を失っているようだ。
「たわけ。我は最古の英雄ぞ。はなから貴様に勝てる道理なぞない」
ふん、と鼻を鳴らし、零がゆっくりと近づいてくる。
体にはたいした傷もなく、服についた汚れを払う姿は余裕に満ちている。
「……そういやアイツも結構飲んでたっけな」
いつもと違ってノリも相当よかったしなー、と自分の読み間違いを恥じる。
酔っていて本気が出せないのは、どうやら零だけではなかったようだ。
ついでに英雄王のネタを振ったのも間違いだったかもしれない。
冷静に考えて、アチャーさんが王に戦いを挑むのは無理があった。
「……やっべ、そろそろ漬物混ぜる時間だ。じゃあな」
「え!?ちょっと待ちn『ヒュン』……」
まるで最初からいなかったかのようにその場から消えうせる紅。
残された紫はとりあえず、後で紅を半殺しもとい全殺しにすることに決めた。
酔っている零と正常な状態の紅が戦えばすぐにケリはついたのだろうが、本人は逃げた。
面倒くさくなったのか、それとも傍から見ていたほうが面白いとふんだのかはわからない。
ただ、今重要なのは紅がこの場からいなくなって、零と紫が残されたということである。
おそらく、自分が逃げようとしたらさっきのように捕まってしまう。
戦って時間を稼ぐしかないと判断した紫は、すぐさま零に向き直る、が
(消えた!?)
いつの間にか零の姿は消えている。
もしかして紅が一緒に転移させたのでは?と淡い希望を抱いたが、その幻想はぶち殺された。
「やっと二人きりになれたな」
ふわり、マフラーのように首に巻かれる二本の腕。
「――――ッ!……本当、後ろに回るのが好きね」
「いいや、本当は紫の美しさを真正面から余すところなく眺めたいんだ。
けれど残念なことに、君がオレには眩しすぎて、まともに顔も見れないんだ」
呼吸をするように自然に、零は賛辞の言葉を述べる。
少しは慣れたのか、紫に先ほどのように顕著な変化は見られない。まだ冷静である。
「零、もう一度言うけど、貴方酔ってるのよ。自分の状態を省みなさい」
「オレの状態?ああ、確かに通常じゃない。……頭はぼやーっとしているし、
身体は火照るように熱い、服が今にも燃え上がりそうだ。あちこちがだるくて
一歩踏み出すだけで倒れそうだよ。眼球から水分が飛んでいるのか、
紫の姿もまともに見えやしない。次に瞬きしたら、もう二度と目を開けないかもしれないな。
つまり、ベストコンディションだ」
あ、駄目だ、言葉が通じてない。紫は負けを悟った。
「さっきから紫はオレのことを酔ってる酔ってると言っているが、些か失礼じゃないか?」
「いきなり首を舐めてくる変態よりは失礼じゃないと思っているわ」
「なんだ、気に入ったのか?」
「今の発言でなんでそんな解釈にいたったのかしら?一度頭の中身を見てみたいわね」
「ほう、オレの全てを知りたいと」
「……もうそれでいいわ」
うん、無理だ、話が繋がらない。紫は諦めた。
「……紫の言うとおりオレが酔っていたとしても、好きでもないやつに好きなんていわない。
むしろ、酔っているからこそ、普段隠している本心がさらけ出されるものなんじゃないか?」
「……」
悲しそうな声で零は言った。
その言葉はとても酔っていると思えないほどに真摯で、紫はただ黙ることしかできなかった。
「それを理解してから、もう一度“俺”の言葉を聴いてほしい」
抱きしめていた腕を解き、くるりと体を反転させられる。
そこで紫が見た零は、今まで見たことのないほど真剣な目つきだった。
「紫、俺は、お前を―――――
トスン、と紫の肩に重さが加わった。
全体重を預けられた紫はその場に踏ん張ることもせずにペタンと座り込む。
耳元で規則的に紡がれる寝息を聞き流し、紫はゆっくりと零の体を抱きしめた。
「……馬鹿」
ぎゅ、と抱きしめる腕に力を込める。
「寝るなら、最後まで言ってからにしなさいよ……」
そういった紫の顔は、やはり赤く染まっていた。
一方そのころ、八神・那香河家にて
四肢を拘束された射命丸の前で、紅がなにやら苛めをしていた。
「ホレホレ、旨そうな北京ダックだろう?香ばしい匂いが漂ってくるだろう?」
「うぅ~!私が悪かったから食べさせてくださいよぅ!」
「やっべ、超美味いんですけど。舌が蕩けそうになるんですけど」
「うがー!」
「ちなみに言っておくが、三日間は飲まず食わずになる予定だからな?」
「ながっ!死にますよ!私死んじゃいますよ!」
「なに、三日程度の断食では死なない。まあとても苦しいとは思うけどな」
「うわああああああん!助けてはたてぇぇぇえええ!」
「ふははは、俺たちをホモに仕立て上げようとした罪は重いのだよ!」
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