強き者、弱き者
「ふぉっふぉっふぉっ、萃香を倒すとは、お主中々やるのう」
仮面をかぶった一人が、前に出てきた。声的にはただのジジイだ。
男はゆっくりと仮面をはずし、俺に素顔を見せた。
「今度はわしが相手になろう。よろしいかな?若いの」
仮面をはずしたその姿は、結局ただのジジイだった。違いは一本の角だけ。
しかし、服の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体は、
とてもジジイとは思えないほどの威圧感を持っていた。
これが俗に言う老人マッチョか・・・いいな、カッコいい。
「良いですよ。戦闘中にポックリ死んでしまうことさえなければ」
「ふぉっふぉっふぉっ、心配無用じゃ。少なくともあと千年は生きたいのでな」
「失礼ですが、何歳ですか?」
「わしに勝ったら教えてしんぜよう。わしの名は鬼道丸、いざ参る!」
老人マッチョが突っ込んでくる、が、萃香よりは遅い。
簡単に避けて、カウンターを繰り出そうと右手を上げた瞬間、俺は宙に浮かんだ。
「!!?・・・びっくりした」
どうやら俺は投げられたようだ。自分でも気がつかぬ間に。
ジジイだと思って油断したらやられるな・・・まあそれも一興か。
俺は空中で体勢を立て直し、三回転ひねりを決めながら着地。十点満点だ。
「ほほう、やはり出来るようじゃな」
「まあこれくらい出来ないと幻想郷で生きていけないからな」
今度はこっちの番だ。
思い切り地面を蹴り、相手との距離を一気に縮める。
腹に一撃いれようと、右手を突き出したが、甘い考えだったようだ。
老人マッチョはいとも簡単に攻撃をいなし、あまつさえ俺の右手を折った。
「っ!!」
「ほれほれ、油断大敵じゃぞ?」
痛みに耐えかねているところに連撃をくらう。
一撃一撃が、腹に響く。体の芯までダメージを蓄積される。
この老人マッチョ・・・強い!伊達に年食ってないな。
「ぁよいしょ!」
俺は一度バック転、前方倒立回転、バック宙のコンボで距離をとった。
さすがに片腕で闘うのは思い切り分が悪い。
反対側に曲がった腕を、無理やり元に戻す。気分はス○ークだ。
あ、勿論痛覚は消してやった。その後は能力で完全にくっつける。
ついでに治すのを忘れていた顔の火傷も治す。これで完全に元通りだ。
「少しばかり力を出させていただきますよ?」
「ほう、いままで力を出していなかったような言い草じゃの?」
「ええ、これから出すのは・・・ちょうど八十%というところでしょうか?」
超音速、それは俺と紅が出せる最大のスピード。
今までの俺の行動はすべて亜音速に抑えていた。だから次は音速だ。
「ヤガミ、いっきま~す♪」
瞬間的に音の壁を突き破り、老人マッチョの背後に回る。
狙うは首だ。手刀をある一定の角度で叩き込むことで意識を刈り取ることが出来る。
さすがに老人をボコボコにするのは気が引けるからな。
しかし、俺の手が首に届くことは無かった。
なぜなら、その手は老人マッチョの手に掴まれていたから。
「おしかったのう」
(ろ、老人の握力じゃねえ)
メキメキと嫌な音を立てて、俺の手の形が変わっていく。
咄嗟に痛覚を遮断していなかったら、想像を絶する痛みに襲われただろう。
あれか、こうなったら超音速しかないな。あの時使った必殺技を出すか。
「何時まで握っとんじゃ!」
老人マッチョの手を振り払い、また距離をとる。手は元の形に戻した。
そして右手を後ろに構え、腰を落とし、足の親指の付け根に力を集中させる。
「鉄拳『問答無用の一撃』」
超音速、これが防がれたらさすがに勝てない。どうかこの一撃で気絶しますように。
「ぬおっ!?」
かわされた・・・もう終わりだ。この老人マッチョは強すぎる。
「今のは危なかったのう。さて、万策尽きたか?」
「はい、もう煙も出ません。ただし、能力を使わない場合ですが・・・ね?」
こんなジジイ相手に能力を使わなければいけないなんて、思ってもいなかった。
あんたが強すぎるのが悪いんだ。恨むなら自分の強さを恨みな!
「絶対『永遠に縮まぬ力の差』」
終わった・・・後は一方的に攻撃するだけだ。
「本当は痛い思いなんてさせたくなかったんだけど・・・仕方ないな」
「ここまでの力の差を見せ付けられて、まだそんなことを言うとはな」
「さっサと気絶シてくダさいネ?」
俺は鬼道丸に近づき、拳を突き出す。今度は避けられない。
超音速の拳が、鬼道丸の腹筋に刺さり、激痛をもたらす。
「ぐおっ!」
せめて痛みがなくなるように、首に強烈なエルボーを叩き込み、沈める。
これで・・気絶したか?
「ぬぅ・・・お主、何をした?」
まだ起きていたか・・・丈夫なジジイだ。
「何もしていない・・・ただ、あんたの攻撃が俺に当たることはない。
俺の攻撃が外れることもない。なぜかって?それは圧倒的な力の差があるからだ」
さて、そろそろ終わらせるか。
「もう眠ってくれ」
先ほどよりも拳を引き、腹にここ一番の正拳をぶち込む。
しかし、その正拳は他の人物の手によって阻まれていた。
「これ以上やるなら、私が相手になろう」
もう一人の男が、俺の手を押さえ込んでいた。
不可解な。こいつは少なくとも五十メートルは離れたところにいたはずだ。
なぜ一瞬で止めにはいれた?
「俺はこの人がやめてくれれば特に文句はない。次はあんただな?」
男は、そうか、といって、ゆっくりと仮面をはずした。
その素顔は、何度も見たことのある、あの顔。
「蒼、お前も四天王の一人だったのか」
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