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親友だよね
作:ヒュンケル


 カーテンの隙間から漏れる朝日によって僕の目が覚めた。目覚し時計を見てみれば、時刻は既に八時を回っていた。

「うわ……やば」

 寝ぼけていた脳と体がビクんと痙攣して、よだれを垂らしながら腑抜けた声を出す。急いで学校に行かないと大変だ、遅刻したら担任にまた怒鳴られる。
 布団を無造作に蹴り飛ばし、ベッドから弾けるように体を起き上がらせ部屋を飛び出る。顔を洗って歯を磨き、急いで終わらせてからトイレに駆け込み用を済ませ、再び部屋へ飛び込んで、制服に着替えて鞄を手に玄関へ急ぐ。
 母が朝飯は? などと訊いてくるが、時間を見てくれと内心思いながら、大声で遅刻するからって伝える。

《昨日、××市の住宅地の十字路で、大型トラックによる轢き逃げ事件で死亡した、××高校の―――》

 テレビから流れるニュースに耳を傾けたが、急いでいた為か、意味は理解出来なかった。
 行ってきますと母に告げ、玄関を飛び出て表へと出る。
 四月下旬、どんどん暖かくなってくるが、まだ早朝の空気は肌に冷たく触れた。
 冷たい空気のおかげで目が完全に覚め、閑静な住宅地に位置する、自宅から歩いて十分程度の距離にある××高校へ続く道を、僕は歩き始める。
 歩道と車道の区別もろくにない、住宅地の狭い路地。道の両側は全て住宅。それは僕が子供の頃から生活している、誰がどこに住んでるかも知っている、僕が住む、僕が知っているいつもの町並み。
 人通りがまったくない通学路がまっすぐ伸びている、がらんとした無機質な路地、まるで自分しか存在しないかのような、耳を劈くような静寂に包まれた路地。

「おーっす! おはよーさん!」

 その静寂をぶち破った背後からの大声に、僕はビクンと体を跳ね上げて振り向いた。こんなの毎日の事だ、誰の声かもすぐに判る、判っているから驚くこと無く反応出来るのだが、今回だけは何故か酷く驚いてしまった。いつも以上の静寂の所為なのか、はたまたまだ完全に目が覚めていなかったのか。

「太一か、脅かすなよ」
「とっておきの大ニュースだ! 俺は昨日、ついに彼女が出来た!」
「別れたの間違いだろが!」
「そうだった!」

 朝からハイテンションのこの男子生徒は中山太一、僕と同じ高校に通い、小さい頃から近所に住んでいて、一緒にいる幼馴染。いつもふざけあったり、馬鹿な言い合いをして、兄弟のように仲が良いって自慢出来るほどの親友だ、口には恥ずかしくて出せないが、それは太一だって思っている事だろう。
 よく二人でこうやって高校へ登校するのだが、今日はいつにも増してテンションが高いなこいつ。

「もう忘れた! 俺とじゃ釣り合わなかったんだよ、どうせ新しい彼女が出来るって」
「出来ると良いな」
「何だよそのやる気のない返事! お前も彼女見つけるんだよ!」
「僕はまだ良いって、そもそも僕たち今年受験だろ? んな恋愛してる暇ないし、探す暇もないって」
「真面目だな、でもそうだな、女と遊んで受験落ちたら馬鹿みたいだもんな!」
「太一はいつも馬鹿だけどな」
「うるせぇな、否定はしないけど」
「否定しろよ!」

 やっぱ馬鹿だこいつ、でもそれが面白い、これがいつもの僕たちのやり取りだ。息もぴったりだし、クラスの友達からはお笑い芸人になれよ何ても言われてるが、さすがに勘弁して欲しい。
 そんな僕たちも今年で高校三年、それぞれが別々の道を辿り始める別れの旅立ちだ、大学受験、就職、様々な道が僕たちを待っている。それは僕と太一も同じで、お互いが違う別の大学に受験をしようと勉強を頑張っている。
 そう、今まで、幼稚園の頃から一緒にいた僕たちは遂に別れてしまうのだ、いつかは引越しをして住んでる場所は変わり、仕事によって会う機会もほとんどなくなってくるかも知れない。そう思うととても胸が熱くなり、悲しい気持ちになってくる。

「あ〜あ、早いよな、もう高校三年か〜」

 ニッコリと笑みを浮かべて、青空を見上げて、物思いに耽るかのようにふぅっと息を吐き出す。こんな顔をする太一は珍しい、いつもみたいにハイテンションに騒いで欲しいんだが、やっぱり太一も寂しいんだろうな、僕だって、まだ卒業まで時間はたっぷりあるってのに、何だか涙が込み上げてきそうだ、意外と涙もろかったんだな、僕は。

「そういえば覚えてるか? 小学生や中学生だった頃、お前毎日いじめられてたよな」
「覚えてるよ、結構辛かったな〜あの時は、でも、太一のおかげで頑張れた」

 比較的大人しかった僕はいっつもクラスの連中にからかわれたりしていじめられていた。でも太一がいつも体を張って僕を守ってくれた時は嬉しくて涙が出た、何も出来ない僕にいつも仲良く接してくれて本当に嬉しかった、だから僕も太一が困ったら少しでも力になりたくて、いつもお互いが手と手を取り合って助け合っていた。それは今でも続いている変わらない友情だ。
 
「毎日泣いてたからな、あの時は本当に爆笑だったぜ!」
「爆笑かよ!?」
「だって泣き顔が面白かった、鼻水が凄かったな」
「うるせぇな、酷いぞ太一!」
「はっはっは! 懐かしい思い出だな。まあ、友達がいじめられてたら助けるのが当然だ、泣き顔は笑ったけど、いじめってのは許せないからな、ましてや友達がされてちゃな」
「太一……」

 泣き顔は余計だけど、この真剣な表情を見て、僕は嬉しくなった。太一は僕の親友だ、嘘も何もつかない、思った事は正直に話す、大切な親友。何だか臭いセリフだけど、その言葉に嘘は何も無い、ずっと一緒にいた僕が言うんだから間違いは無い。
 最高の親友だ、こんな素晴らしい親友を持って僕は幸せ者だ、正直者で友達思いで、体を張って親友を護る、こんな素晴らしい親友はどこを探したっていないだろう。そうなのに、そのはずなのに―――自分は最低の人間だって、どうして僕は思うのだろう?

「なぁ」
「え、な、なに?」

 ボーっとしてたら声を掛けられたので驚いた、もうじき高校に辿り着く、肌に纏わりつく冷たい空気もだんだん心地良くなってきて気持ちが良い。
 返事をして、少し歩くと、眼前に十字路があった。そこを右に曲がった先に高校があるのだが、太一はぴょんっと跳ぶように僕の前に飛び出て、十字路を背に僕に向くと、清々しいくらいの元気な笑顔で。

「俺たち、ずっと友達だよな? 親友だよな!」

 一瞬、その言葉にどう返事をして良いのか迷った、何でだろう? でもすぐに答えは見つかった、これしか返答はないだろう。
 僕もニッコリと笑顔を浮かべて、同じように。

「当然だろ? 僕たちはずっと親友だよ!」
「え、ずっとこんにゃくだよ?」
「どんな聞き間違いだよ!?」

 いつものふざけた太一に戻った、だからって唐突過ぎてある意味困るんだけど、変に辛気臭くなったり、今更友情の確認だって必要ない、こうやって馬鹿騒ぎした方が愉しい、愉しくて愉しくて、とても幸せだ!

「それにしても、今日も良い天気だな、雲一つ無い青空だぜ? 空気だって清々しいし、こんな気持ちが良い朝はない、そうだろ?」
「そうだな、最初は少し寒く感じたけど、歩きながら話してたら丁度良くなって来たな」
「ああ、それに、この通学路、今日は人通りがまったくないし、何だか静かで良い感じだ」

 いつもはサラリーマンや同じ高校や別の学校の生徒が通っているんだが、だからって少ないけど、今日は僕と太一しかいなかった。っていうか、太一と話しに夢中になっていて忘れてたけど、もう遅刻寸前だったんだ、というかもう遅刻したんじゃないのか? だから人通りがないんだ。

「おい太一、こんな十字路の前で立ち止まってるなよ、もう遅刻するぞ、っていうかもう遅刻だし」
「あはは、俺たちが遅刻何ていつもの事だろ?」
「そうだけどさ、でも三年で受験だし、少し慌てた方が良いって」
「そりゃそうか……でもさ、その前に、もう一度、訊いて良いか?」
「え、何?」

 返事をしながら、携帯のディスプレイの時計を見てみると、案の定、朝のホームルームが始まる一分前だった、でも担任は教室に来るのが五分ほど遅い、今なら走って間に合うはずだ。太一は何を僕に訊きたいんだ? 早くして欲しい。

「俺とお前は親友だよな? 手と手を取り合って助け合う、困ったときは相談しあう、昔っから、まったく変わらない親友だよな?」

 何を訊くのかと思えば、またこんな判りきった事か。言われずとも、答えは変わらない。

「さっきも言ったけど、僕とお前は一生、何があっても親友だ! 判ってるだろ? 一体どうしたんだ? 何かあったのか?」
「あはは、俺とお前は親友か、そうだよなー! 俺とお前はうゆんしだよなー!」
「親友って言葉を反対から読むな! 何だよ、うゆんしって!?」
「ノリだよ、ノリ!」
「どんなノリだよ!」
「あはは、そうか、俺とお前は親友か、そうだよな、当たり前だよな、俺とお前は親友だなって―――」

 やっぱりいつもと変わらないな、太一は元気で明るい、最高の親友の太一だ。何かあったってのは僕の思い過ごしか。
 すると、太一は僕に体を向けながら、後ろに小さく跳ぶと、十字路の中央に立った。いつもと変わらぬ元気な笑顔、見ていてこっちも元気になる笑顔。


「この嘘つき野郎!!」


 ――ずちゃ、


 太一が消えた。十字路の右から突然横切った黒い大きな塊が、太一の体を、異様な音を立てて轢き潰した。何が起きたのか理解出来ない。大きな塊が通り過ぎた後、十字路の中央の路面にべっちゃりとした、赤黒い血溜りが広がっていた。
 感覚が麻痺してしまい、この赤い血溜りが何なのか、黒い塊が何だったのか、太一が何処へ消えたのか判らなかった。

「た、たい……ち?」

 シンと不気味な静寂が辺りを貫く、僕以外は何も返事をしない、何も音を立てない。そういえば、黒い塊が横切る直前、太一はおかしなことを言った。この嘘つき野郎! って。

 ――顔面が壊れたような恐ろしい笑顔を満面に浮かべて。

 ぞわっ、と全身の産毛が逆立った。ガタガタと全身の骨まで震え始め、僕は大きく目を見開いて血溜りを凝視する。
 思い出してしまった、思い出してしまった、思い出したくも無い、今すぐ全力で逃げ出したい事を思い出してしまった。ほんのちょっと前の記憶を鮮やかに過去のフィルムが巻き戻して、僕に思い出させてしまった。

 僕と太一は同じ女子が好きだった。
 学校一の美少女で、男子のほとんどは彼女に惚れていた、そんなのは誰もが知っている事実だった。僕も太一もお互いがそれを判っていた、絶対に付き合えるわけない、ただ好きだな、可愛いなって眺めているだけで良いって、それなのに。

「訊いて驚け! 俺は伝説を成し遂げた! 付き合えたんだよ、あの学校一の美少女と!」

 信じられないと驚いた、嘘だろって笑ったが、でもすぐに真実何だって判明して、太一を笑顔で賞賛した。
 でも僕の内心は複雑だった、太一は馬鹿だけど、度胸だってあったし、人柄だって尊敬に値するほどだ。太一の周りにはいつも友達がいた、男子でも女子でも関係なく、大勢の友達をすぐに作っていた。それに対して僕はまったくの駄目駄目、いっつもいじめられてばかりで、性格も太一といるときしか明るくならない、高校になって友達が増えたけど、それは単に太一と仲が良いってだけのオマケ扱い。何でも出来る太一を僕は好きだった半面、妬んだ、どうして太一と僕はこんなに違うんだ、同じ人間なのにどうして違うんだ。
 
 ――なぁ! 昨日、遂に俺はファーストキスを成功させた!

 ――いやぁ、学校一の美少女と付き合えて幸せだな〜

 ――悪い! 今日はデートなんだ、一緒に帰れねぇや

 毎日毎日、訊きたくないのに訊かされる自慢話、その話で周りの生徒たちは良いなと愚痴を零しながら、笑って太一の話を訊いていた。

 ――どうしてこんなに違うんだ

 僕には判った、僕と太一の距離が少しずつ離れていっている事に、僕たちの友情に溝が出来ている事に。太一は気付いていないだろう、でも僕には判る、僕たちの永遠の友情は脆くも崩れ去ろうとしているって。

 ――僕も太一みたいになりたい

 妬んだ、妬んで、それは憎悪になっているとも感じた。馬鹿だ僕は、何で太一をこんなに恨んでるんだよ、またいつもみたいに笑っていよう、そうして友情を保とうぜ、太一は彼女に夢中で気付いていないから大丈夫だ。
 でも、僕も太一のようになりたいって、昔から思っていた、願っていた。そうなれば確実に僕は変われるんだ、護られない、強い人間になれるって。

 ――彼女を奪いたかった

 僕が太一から彼女を奪えれば、僕は変われる。だから、卑怯な手だって判ってたけど、彼女にこっそり嘘をついた、太一のあるはずもない悪い噂を、そうしてちょっとでも亀裂を与えて別れさせたかったのに。
 
「太一くんはそんなことしないよ、どうして嘘をつくの? 太一くんの友達でしょ?」

 胸が苦しんだ、心臓が爆発するくらい痛かった。
 何て卑怯な、卑劣な、最低のクズなんだろう。死にたかった、そうだよ、彼女の言うとおりだ、親友と彼女を別れさせる、そんな親友にあるまじき行動をどうしてしたのか理解が出来なかった。
 いっつも助けてくれた太一、それに僕は裏切り行為をしているんだ、親友にこんな事をするなんて最低だ、だったら。

 親友だと思わなければ、最低じゃなくなる。

 放課後、久しぶりに僕と太一は一緒に下校した。いつもの十字路を曲がり、家へ向かおうとしたが、そこで太一はいつもの自慢を僕にした。でも何を言っても関係ない、僕と太一は親友じゃない。親友の話に耳を傾けない、ただ笑顔で訊いた振りをしていれば良い、早く太一と彼女を別れされる方法を考えないと。
 だが太一は十字路を背に、僕に笑顔を向けて、耳を疑うような事を言った。その言葉を訊いた瞬間、僕は微笑わらった。

「あ〜俺ってやっぱあいつと付き合えて幸せだな、これだけの幸せ味わえたら、もう死んだって良いな〜」

 シンダッテイイ?
 本人は冗談のつもりで言ったはずだ、でも僕はその願いを素直に叶えさせようとした。初めて僕が太一を助けるんだ、太一のために何かが出来るんだ!
 
「―――ぇ――」

 思いっきり、ドンと太一の胸を両手で突き飛ばした。太一の体が十字路の中央に倒れた瞬間。ブォォォォンと大きな音が住宅地に響いて。

 ――ずちゃ、

 黒い大型のトラックが倒れた太一に突っ込んだ。湿った音が響き、大型のトラックは何も気付かなかったかのように、そのまま走り去って消えて行った。
 トラックが通り過ぎた、太一が轢かれた十字路の路面には、血溜りと、それに浮かぶ太一の体があった。だが体の様子がおかしい、両腕がおかしな方向に捻じ曲がっている、肘や手の拳から骨が滅茶苦茶に突き出していた。片足はぺちゃんこになって体から離れ、骨だか肉だか訳の判らないモノがはみ出している。

「ひ、ひぃ」

 小さな悲鳴が出た、目の前の凄惨な光景に身が竦んだ。
 腹から内臓が飛び出し、頭部の上半分は脳みそを辺りに飛び散らせているだけで、何も残っていなかった、タイヤに潰されて、そのまま原形も留めぬまま消えてしまったのだろう。
 誰がみても、太一だとは判らない、ただ頭部の下半分、口の部分が耳まで裂けたような気持ちが悪い笑みを浮かべているだけで。
 その物体を目を見開いて、体を竦ませている僕は恐怖で、恐ろしくて、悲しくて、愉しくて。

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 微笑わらった、微笑った、愉しくて、愉快で、恐ろしくて、目の前の光景に歓喜しながら、ただ微笑った。
 閑静な住宅地、夕日に照らされた、人通りのまったくない路地で微笑った。あれは轢き逃げだ、僕が殺したんじゃない、事故だ、轢き逃げ事件だ、警察に何か訊かれても、轢き逃げだったんですって泣いて言えば問題は無い。
 太一が消えて、これで彼女は僕のモノだ、僕は変われるんだ!

「―――ぁ」

 だが、狂った感覚が突然、冷水を浴びられたかのように驚き、そして正常に戻って行く。
 もう一度、太一だったモノを見た、血溜りに浮かぶ、原形を留めていない人間だったモノ。
 それは大切な親友だった――

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 口腔から吐き出される悲鳴を僕は叫んだ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、僕が太一を殺したなんて嘘だ!
 しかし真実だ、目の前の太一だったモノは返事もしない、動きもしない。怖くなって僕は走って逃げた、何度も地面を転がりながら、壁に激突しながら、必死になって家へ駆け込んだんだ。

 脳内で巻き戻されたフィルムから思い出された今までの、そして《昨日》の記憶。
 十字路の中央にあるのは血溜りだけ、これは昨日の太一の血だ、今さっき見たのは僕の幻だったのか?
 僕が殺してしまった、轢き逃げだからって、突き飛ばしたのは僕だ。僕は狂っていたんだ、親友を親友じゃないって思って、その親友を妬んで、彼女と別れさせようとして、そして殺した。
 親友を殺した事実が正常に戻った僕の感覚を戻してくれた。目からボロボロと零れ落ちる涙、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん。太一の言う通りだ、僕は嘘つきだ、親友を殺す奴が親友だって良く言える。
 
 ずる――

 僕の見開かれた目に、突如として異様なモノが映りこんだ。十字路の中央の血溜りの中からもぞもぞと何かが蠢いていた、それが何なのかも判らず、涙を流しながらそれを見た。血溜りが膨れ上がる、サッカーボールやバスケットボールより少し小さめの球体のようなモノに押し上げられるように、血が盛り上がる。

 ――ウソツキダ、ウソツキダ、ウソツキダ、ウソツキダ。

 血から盛り上がる何かから聞こえた声に小さな悲鳴を上げる、恐怖と戦慄が背筋を駆け上がった。
 それは太一の声だった。
 呪文のように繰り返される、ウソツキという言葉、僕は身を竦ませ、全身を硬直させながらも、倒れるように路面に両膝を、そして両手を付いて、血溜りに向かって土下座をする。

「ごめん! ごめん! ごめん! ごめん太一! 衝動的だったんだ! お前が羨ましいから、僕は嫉妬しただけなんだ! ごめん! 許して! 許して! 許してください!!」

 ――オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”

 太一とは思えないほどの怒りと憎悪に満ち溢れた呻き、ごめん、許して、許して、お願いします!
 何度も地面に頭を叩き付けて土下座を繰り返す。そしてふと、顔を上げて、盛り上がった血溜りを見た瞬間、心臓が飛び跳ねた、慄然とした、目を見開いて僕が見た、その盛り上がった血溜りが姿を現していた。

 ――ずちゃ、ずちゃ、ずちゃ

 湿った、何かが蠢く音と共に這い出たそれは、人間の頭だった。脳みそが零れ、眼球からは血と脂と、何か糸を引いた粘液が滴り落ち、顔面の皮膚は一面にささくれが出来上がり、血が浮かび上がっている。人間とは思えない頭。それが何なのか理解した瞬間、悲鳴すら出なかった。
 それは太一の頭部だった。

「―――――――!!」

 言葉すらでず、ただ絶叫だけが心の中で悲鳴となって叫ばれる。僕は恐怖で動けない体のまま、必死になって心の中で悲鳴と共にごめんなさいと念仏のように唱え続けるのに、頭部が恐ろしい声を出す。

 ――シンユウだったのに、シンユウだったのに!

 ごめんなさいと、必死になって心の中で謝るも、それは頭部の下から蠢く何かによって止められた。
 ずる、ずるっと、コンクリートに肉を引きずるような生々しい音と共に這い出てきたモノ、頭部が盛り上がると、その下に付いていたのは真っ赤な体だった。皮がべろんべろんに剥け、生肉が晒された血塗れの体、両腕、両足は滅茶苦茶な方向を向いて、訳の判らぬ血肉が突き出している。カエルのように這った姿勢のまま、その恐ろしい姿の太一は壊れた目で僕を凝視する。

「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 そこで、やっと止まっていた悲鳴が出た。
 僕はこんなに謝っているのに、必死に謝っているのに、どうして許してくれないんだ! 僕たちは親友なのに! 親友なのに! 親友なのに親友なのに親友なのに親友なのに親友なのに親友なのに!
 瞬間、全身が強張った、どうしてか僕は十字路の中央に移動していた、血溜りに尻餅をついて、そして眼前には滅茶苦茶になった太一の顔が、壊れた笑顔となって―――


「シンユウだと思ってたのに! シンユウだって思ったのに! いつも助けてたのに、何も出来ないお前をずっと助けてたのに、それなのにコロサレタ! お前はシンユウじゃない、俺と同じ目に遭ええええええええええええええええええええええええええええ!」

「ひぃぃぃぃぃぃごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 許して太一ひぃぃぃ目が目が目が目が痛い痛いよ腕が足がおかしな方向にうぎゃぎゃぎゃ! 血がイダイイダイぃぃああああゆるじて! ゆるじてぐだざい! だいぢお願いぐえええええ! チギラナイデチギラナイデ足がチギレるぅぅオ”オ”オ”ア”アアアアアアアアア! おごぅエエエグエェェェェェだいぢぃぃぃだいぢぃぃぃボクダチハシンユウデショ? ボクタチハシンユウ―――」

 ――ずちゃ、

 

《本日のニュースです。昨日の夕方頃、××市で大型トラックによる轢き逃げ事件がありました、被害者の××高校の男子生徒、××××くんは原形を留めておらず、即死したと見られ、先日亡くなった中山太一くんと同じ場所で轢かれたとあって、同一人物による犯行ではないかと、警察は捜査を進めて――》

 
 ――僕たちは親友だから、困った時はお互いを助け合っていこうね! だって僕たちは親友だからさ、だから助け合うって、約束しよう。

 もし、シンユウを裏切ったりしたら―――














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