海外編2 従者のジョン
夏休み、更新強化週間。
今回より、新しいシリーズが1つ追加されます。
海外編。
海外…すなわちヤマトの外の大地人が主役の物語です。
と言いつつ2本目なのは1本目が『外人のアルマ』となるため。
今回の舞台は…アルスター騎士剣同盟。
番外編4とリンクしている物語です。
テーマは『ハイジン』
かなり冒険者の方を向いた物語だったり。
「…ふむ。黄金の粉事件…中々にウィットが効いていると思わないか?ワトスン君」
シャーロック様が、タイムス・オブ・ロンデニウムを読みながら、僕に言いました。
「一体何かありましたか?黄金の粉って確か、
ウェンの大地から持ち帰られた品でしたよね?」
以前、シャーロック様が興味深そうに言っていましたし、
ロンデニウムでも随分と話題になったので、覚えています。
何でもセブンヒルの冒険者の家門〈エル・ドラド〉が幾多の困難を乗り越え、
西方にあるウェンの大地への船での往復に成功し、貴重な品々を持ち帰ったそうです。
持ち帰った品々はセブンヒルでオークションに掛けられ売り払われたのですが、
それらが揃ってユーレッドでは手に入らぬ貴重な品々で、
冒険者と王様や貴族様がたが争って高い値をつけたので、
ものすごい値段になったと聞いています。
そしてその中に〈黄金の粉〉と呼ばれる品があったとも。
何でも水にとても美味な味を持つ黄金の水に変える、
香辛料から作り出した『真実の食物』だそうで、冒険者でもある
宮廷料理長の助言に従ってアルスター王家が競り落としたそうです。
「そうだ実は数日前から黄金の粉がロンデニウムで売られていたらしいんだが、
…見た目を似せた空き缶一杯に砂金を詰めたものだったらしい」
「砂金!?」
「そうだ…なるほど、確かに黄金の粉だが…生憎と詐欺師扱いになったらしくてね。
追放処分になったそうだ。うちのガラムにまで売りつけたのは運が無かったな」
驚く僕に対してシャーロック様は肩を竦め、言います。
「興味深いと思わないか?この世界ではカレーパウダー…
黄金の粉は本物の黄金より高いらしい」
「はい?それがおかしいんですか?」
冒険者の方々が言う『真実の食物』は七女王国では、非常に高価なものです。
特に七女王国では東方の大帝国オスマニアを通して手に入れなければいけない
昨今では貴重な香辛料を主としたものならなおさら。
それを考えれば黄金より高価なのもさほどおかしくないかと思うのですが。
「…まあ、冒険者と貴君ら大地人の感覚は違うからね。さて…」
咳払いを1つして、シャーロック様は立ち上がります。
「私は私の仕事をするとしよう…」
そう言うとシャーロック様は立ち上がり、着替えを始めました。
伝説に残りそうなほどの篭手をつけ、チェック柄の外套を着込みます。
そして、いつものように帽子を被って愛用のパイプをくわえ、
なんでもないことのように、シャーロック様は言いました。
「…対して面白みの無い竜退治だがね」
僕らから見れば、狂気の沙汰とも言えそうな偉業を。
とはいえ、僕は知っています。
シャーロック様が竜を狩れるだけの英雄であること、その正体を。
遥か古代よりこの世界の秩序と平和を守る全界13騎士団に次ぐ、14番目の騎士団。
幾多の魔物を討伐し、あの大災害の後、アルスター王家と契りを結んだ、
冒険者の中でも最強と言われる騎士団。
第14騎士団所属モンク『バリツマスター』シャーロック13。
それに付き従う従者として、王立騎士団の若手よりシャーロック様直々に
選ばれた従者が僕、ジョン=ワトスンです。
「海外編2 従者のジョン」
1
シャーロック様と同じ、第14騎士団に所属する騎士様方に
シャーロック様を含めた6人と僕たち従者の一団は、
ロンデニウムから少し北のとある村に向かっていました。
目的は、先ほども言ったとおりのドラゴン退治。
ゴールデンドラゴンが実に150年ぶりに人里に現れ、幾つかの村を焼き滅ぼしました。
このまま放置すれば、ロンデニウムにも危険が及ぶ可能性があるということで、
王家から第14騎士団に討伐の依頼が為され、第14騎士団団長のピップ様の決定で、
6人の騎士様方が派遣されることが決まりました。
そしてその内の1人が僕がお仕えする、シャーロック様だったと言うわけです。
「たかが、竜如きで私たちが駆りだされるのか…」
シャーロック様に討伐の命令が届いたとき、
シャーロック様はため息をついてそう言いました。
そこには恐るべき竜に挑むことに対しての恐怖は微塵も無く、
ただただ飽いた様子でした。
シャーロック様の所属する第14騎士団は、セルデシアの冒険者の中でも
“最強”の騎士団だと聞いています。
騎士団に所属するおよそ400人の騎士様方は全員がセルデシア全土から
実力を認められて集まった生え抜きの冒険者であり、
騎士団全体でセルデシアの世界中を巡って主要なレギオンレイド
(冒険者がその全力を尽くしなお敗北することが当たり前なほどに
激しい戦だそうです)の殆どを制覇したそうです。
「今回のアップデートには随分と期待していたんだ…
Lv100でなければクリアできないであろう、
世界各地で発生する新たなレギオンレイドをね。
だが、蓋を開けてみれば、どうだ?
私たちはこの監獄に囚われ、Lvは相も変わらず90で打ち止め。
せめて私たちが命を賭けるに足る戦いでもあれば慰めにもなったが、それも無し。
私たちは生きるために大地人と契約して、中世の騎士の真似事だ。
…停滞。倦むべき停滞だよ、これは」
以前、刻み煙草を吸いながら、シャーロック様がそんなことを言っていました。
僕達大地人には分からない感覚ですが、生粋の戦人である
シャーロック様は、新たな戦いを望んでいるようです。
それも、僕達大地人が生涯関わりあいたくないような、激しい戦を。
「なるほど…僕も似た様なものさ」
僕がそう語ると、賢者の都オックスフォードで学位を修め、
今は僕と同じく第14騎士団の騎士様に仕える朋友、
マーリン(ソーサラーにはことさらに多い、定番の名前です)も頷いて言いました。
「トム様も言っていたんだ『私がソーサラーをマスターしたのは、戦うためだ。
ゴールデンドラゴン如きでは相手にならない。
『黒騎士』でも連れて来い』…とね」
「黒騎士?」
「ああ、最近、辺境の民達の間で噂になってるらしいんだが…」
そう言うとマーリンは声を潜めて、僕に話してくれました。
何でも最近、同盟や七女王国のあちこちで、
『オータム・リーフの騎士』と呼ばれる存在が現れているそうです。
その正体は不明ですが、現れる時は必ず〈妖精の環〉からであることから、
何処か別の場所からやってきたのでは無いかと言われています。
現れた騎士様は現れた後、近隣の村や町にふらりと現れ、
ここがどんな場所かを聞くと何処かへと去っていくそうです。
その際に、彼らに救われた大地人がいます。基本的に、一切の対価なしで。
「悪しき魔物がいればそいつを倒し、病が流行れば病を癒し、
知恵を求めればそれを授ける。
…辺境の民の中には『オータム・リーフの騎士』は古来種が去り、
冒険者が堕落して混沌としたセルデシアの民の嘆きを悲しまれた神が遣わした、
新たなる神の使徒だ、なんて言うものまでいる…」
そんな、よくある英雄伝説だそうです。
「そして、その中でも黒き剣の騎士団に属する
『オータム・リーフの黒騎士』と呼ばれる者たちは別格らしい。
…噂だと、冒険者よりも強いとか」
そんなバカな。
僕は思わず笑いました。
「おいおい。冒険者がどれだけ凄まじいか、知らないわけじゃないだろ?」
僕らは第14騎士団の騎士様にお仕えする従者です。
当然、冒険者の力量がどれだけ常識を外れているかを知っています。
「知ってるさ。けどね、君だってロンデニウムにいるなら知っているだろう?
冒険者にも、強さの序列がある…最上級の強さがあれば、
冒険者以上と呼ばれてもおかしくは無いね」
しかし、マーリンは肩をすくめて言いました…ふむ、確かに一理あります。
ロンデニウムに、騎士剣同盟中の冒険者が集い、
王家と交流が始まったところで、1つのことが判明しました。
冒険者にも、強さの序列は確かに存在すると言うことです。
と言っても大地人にとっては
『竜はレッサー・ドラゴンと普通のドラゴンとエルダー・ドラゴンで強さが違う』
と言うくらい意味が無い序列ですが。
まず、下級…これは、いわば成長の途中であり、
ともすれば僕やマーリンでも勝てる程度の力しか持たない冒険者。
無論、魔物と戦うことで僕らとは比べ物にならないほど早く鍛錬により
力を伸ばしますし、不老不死なのは変わらない辺りは
流石は冒険者と言ったところですが。
次が中級…技を極め、Lv90に達した冒険者。
…ええ、驚いたことにそれで『ようやく一人前程度』らしいです。
冒険者にとっては。
実際冒険者の半分は中級以上の力量を持っているそうです。
改めて冒険者の凄さを思い知らされました。
上級…この辺りになると、まさに魔人と呼ぶに相応しい冒険者となります。
大抵は冒険者の騎士団に所属する騎士であり、
彼らに掛かれば巨人だろうと竜だろうと敵に在らず。
アルスター王家にも無いくらいの見事な武具をまとって、
アルスター各地の領主と契約してその防備に当たっています。
…今回は、王家の直轄領で起きた事件のため、僕ら以外どこも動きませんでしたが。
…そして、最上級。
上級の冒険者以上の力を持つ存在。
各地に冒険者の騎士団が散った今でもおよそ5,000の冒険者がいると言う
ロンデニウムでもほんの一握りしかいません。
伝説に出てくるような凄まじい武具を纏い、己が技を知り尽くした、最強の冒険者。
彼らは僕の知る限り一部の例外を除いて、セルデシア最強の騎士団に属しています。
そう、それこそが第14騎士団。
第14騎士団にいる400人の騎士は皆、他の騎士団の当主一門並…
最上級の冒険者しかいない。
そのことが、強力な騎士団を召抱えることに成功した地方領主たちの増長を防ぎ、
アルスター騎士剣同盟にある程度の安定…
シャーロック様に言わせれば停滞をもたらしているのです。
「おっと見えてきたな。あれだ」
そんな話をしていますと、目的の村が見えてきました。
今回はここを拠点にゴールデンドラゴンを探し出し、討伐するのがお仕事です。
刻限は昼過ぎ。
僕らはそのまま、村へと入りました。
2
「ふむ…もぬけの殻か…」
村の中には人気がありませんでした。
冬と言うことで作物も全て収穫が終わっているだけに、かなり寂しい光景です。
「どうやら既に逃げ出したあとのようだな。誰か、心当たりは?」
「この村だと確かここから1ゾーンほど離れた村の外れに〈妖精の環〉があるな。
避難するとしたらそこだろう。
襲われたとき、飛び込めばとりあえずゴールデンドラゴンからは逃げられる。
…その後どんな目にあうかは分からないがね」
シャーロック様の問いかけに最初に答えたのは、トム様。
マーリンがお仕えする騎士様で魔術を極めたソーサラーでもあり、
小隊の知恵袋です。
「なるほど、最悪の事態に備えてか。
…それより、何か匂わないか?そう、酷く懐かしくて、心引かれる…」
シャーロック様の部下であるスワッシュバックラー、
ガラム=マサーラ様がしきりに鼻を動かして辺りの匂いを確認しています。
「いいや?私には特に何も感じられないが…
あー、ワトスン君。悪いが少し村の中を調べてきてくれないかね?
私たちは妖精の環の方を調べてくるとする」
「分かりました。シャーロック様」
シャーロック様の求めに、僕は頷きを返しました。
これでも、王立騎士団の若手では一番の実力を持つ騎士でしたので、適任でしょう。
「だったらうちのシャクティも連れて行くといい。シャクティ、行って来い」
とはいえ僕1人でと言うのも心配だと言うことで、
ガラム=マサーラ様が己の従者を共につけてくれることになりました。
「はい。ガラム様」
名前は、シャクティ。
中央ユーレッド人特有の浅黒い肌を持つ人間族のレディですが、
その実態は元アサシン。
西ユーレッドの何処からかアルスターに流れて来て、
ロンデニウムで『仕事』をこなしたところを衛兵に捕縛され、
縛り首になるところを、ガラム様がとりなして
ガラム様の従者となることで生き延びた方。
それ以来、ガラム様の手足として甲斐甲斐しくお仕えしているようです。
「…行きましょう」
言葉少なに、シャクティは僕を促して、歩き出します。
アサシンであると同時にシーカーでもある彼女は、まるで足音を立てません。
斥候としては適任であるため、この手の仕事をよく任されます。
もっとも、今回はガーディアンである僕もいるので隠密行動はできませんが。
「はい。お願いします」
僕もガシャガシャと鎧を鳴らしながら、歩き出しました。
3
村の中は、閑散としていました。
人っ子1人いません。
シャーロック様の見立て通り、村人は魔竜を恐れて村を捨てたのでしょう。
「やっぱり、誰もいない…シャクティ?」
「…静かに、声がするわ」
シャクティが僕の口を押さえ、言葉少なに言います。
僕も黙って、耳を済ませます。
―――あの、こんな感じで良いでしょうか?
―――はい。中々良い出来に御座います。
では、そろそろカレーパウダーを加えていくと致しましょう。
なるほど。レディの声が2人分。
村の中央付近にある大きな建物から聞こえます。
恐らくは村の集会所でしょう。
この建物の裏手…台所からのようです。
「…行きましょう」
「はい」
シャクティの促しに答えて僕たちはそちらへと向かいます。
「…これは、良い匂いですね」
近づいた途端、僕は思わず声を上げました。
辺りには何とも食欲をそそる香りが漂っていて、僕は思わず唾を飲みました。
「これは…『真実の食物』かしら?…でも、この香りは何?
ガラム様が気にしてらした香り?」
確かに言われて見れば嗅いだことが無い匂いです。
特に強いのは、香ばしさと刺激が交じり合った、香辛料の香り。
「…待てよ。何でこんなところで、香辛料なんて使ってるんだ?」
西ユーレッド…特にアルスターでは元々非常に高価なものでした。
高級な料理を作るのに、よく使われているものでしたので。
更に最近では香辛料を使えば『料理の味』を更に高めることが出来ると分かり、
冒険者や貴族の間で非常に高値で取引される高級品。
それが何でこんな、間違いなく内証豊かとはいえぬ
田舎の村でその匂いがしているのか。
謎が深まります。
「…女が2人。1人は村娘。もう1人は…メイドかしら?
耳が尖ってるけど、長くは無いわ」
さて、そんなことを考えている間に、シャクティがこっそりと中を覗き、
中にいる人間を確認しました。
「…ジョン。あなたも確認してちょうだい」
「分かった」
僕もこっそり覗きます。
「それでは、私はお米を蒸らします故、イリア様はカレーの鍋をお願い致します。
焦がさぬ様、充分にお気をつけてお願い致します。
それと、ラード作りを。トンカツを揚げるにはそれが一番です故」
「は、はい!…豚の脂がこんなに使い道があるなんて…料理って奥が深い…」
そこでは、シャクティの言うとおり、2人の女性が料理をしていました。
1人は、ごく普通の村娘…服の仕立てが庶民より若干良いので、
村長などの有力者の娘でしょうか?
もう1人はメイドですが…耳が尖っています。
エルフにしては少し短く、ドワーフにしては背が高すぎる。
…そこまで分かったところで、僕は自らの技を用いることにしました。
集中して鑑定。
そう、僕はガーディアンであると同時に、アナライザー(鑑定官)の技術を学んでいます。
集中し、相手を見ることで相手の名前とLv、そしてクラスを知ることが出来るのです。
そして僕は、あの2名が何者であるかを知ります。
―――イリア=ウィッシュバーン。ファーマーLv3。
―――セリオ。キキーモラLv90。
なるほど。メイドの方はキキーモラでしたか。
確かにロンデニウムでもサモナーがたまに連れているのを…
あれ!?
僕は慌ててもう一度確認します。
先ほど見たものが夢であることを確認するように。
―――セリオ。キキーモラLv90。
…夢じゃありませんでした。
確かにキキーモラです。ただし常軌を逸したLv90の。
一体彼女は何者なんでしょう?
一応サモナーの従者となったモンスターは、
本来の技量を越えた技量を持つことが出来るとは聞いてます。
ただし、恐ろしく手間が掛かるとも。
キキーモラは普通、Lvは30ほどのモンスターだったはず。
Lv90なんていうのは、明らかにおかしい。
そこまで考えて、気づきました。
Lv90に達したキキーモラが、大地人の娘と一緒にいると言うことは…
「…!ジョン、誰かが近づいてくる!」
「…おい。お前等、誰だ?」
少なくともそのマスターが近くにいると言うことです。
4
僕らは、囲まれていました。
7フィート近い身体を、聖なる力を帯びたプレートスーツとバックラー、
そしてメイスで武装したクレリック。
6フィートほどの、鍛え抜かれた体躯をオリエンタルな鎧で包み、
派手な飾りを施されたサムライ・ソードを2本下げたサムライ。
そして、妖艶なフォックステイルらしき女性を連れたサモナー。
この3人と1匹を見て、僕は思わず相手の技量を鑑定します。
―――アトラス。クレリックLv92/パラディンLv91
―――ヨシヒロ。サムライLv91/バーサーカーLv91
―――ヨウケン。サモナーLv91/テイマーLv90
―――マコト。フォックスクイーンLv90。
…なんと言う絶望的な状態でしょう。
3人とも、シャーロック様に匹敵する凄まじいLvです。
間違いなく冒険者。
それも身に纏う装備と気配からして、全員最上級に違いありません。
「…じょ、ジョン…こ、こいつら…」
一方、Lvは見えずともシャクティも感じ取ったのでしょう。
その、ドラゴンのように凄まじい力量を。
シャクティの声が震えています。ついでに脚も。
「でだ、ガーディアンの坊主にアサシンのお嬢ちゃん。
お前等は何者だ?なんでここにいる?」
その中でも最もLvが高いパラディン…
一行のリーダーであろう大男に尋ねられ、僕は震えながら答えます。
「わ、我々は第14騎士団にお仕えする従者!き、貴公らこそ何者か!
その力量、只者ではあるまい!お答え願おう!」
精一杯声を上げ、問いかけます。
と言うか戦いになったら絶対に勝てないのは分かっているので、こっちも必死です。
「第14騎士団…?あ、もしかしてあいつらか!?」
「なに?知ってんのおやっさん」
「おう。第14騎士団っていやあイギリスの廃人専用ギルドだ」
「そうそう。レギオンレイドがあるところには大体顔を出してた連中で、
俺ら以上のエリート主義で知られたところだな」
どうやら彼らは第14騎士団のことを知っているようです。
一体何者なのか?とりあえずいきなり襲ってくる気配は無いけど。
そう考えていると彼らもまた、名乗りました。
「っと、そういやこっちは名乗ってなかったな。
俺らは黒剣騎士団のメンバーだ。
俺はアトラス。で、そっちのサムライの兄ちゃんがヨシヒロで、
サモナーが二次元…じゃねえやヨウケンだ」
黒剣騎士団…?どこかで聞いたような…
そう思い、首を傾げていると、アトラス卿は更に言葉を重ねます。
「あれ?第14騎士団の関係者なのに知らないのか?
…って大地人か。そりゃそうだ。俺らはアキバって街から来た。
季節の秋に葉っぱの葉で秋葉だ」
オータム・リーフ!?
その言葉に僕はようやくその正体に気づきました。
彼らはオータム・リーフの騎士…
それも、恐らくはオータム・リーフの黒騎士と呼ばれる存在です。
冒険者より強い、新たなる神の使徒。
そんなマーリンの言葉がよぎります。
「お、オータム・リーフの黒騎士…まさか本当にいるなんて!?」
シャクティが思わず声を上げます。
確かにマーリンが言っていたのが本当ならば、彼らは恐るべき魔人。
シャーロック様でも勝てないかも知れない。
そんな想いが頭をよぎります。
「お帰りなさいませ!マイマスター!
ゴールデンドラゴン退治、お疲れ様に御座います!
宴の準備は整って御座います!」
「うん。ただいまセリオ。意外と楽勝だった。それと、準備ありがと」
…そして、嬉々として集会所から出てきたキキーモラの言葉が
更に追い討ちを掛けます。
どうやら退治されてたみたいです。ゴールデンドラゴン。
オータム・リーフの黒騎士の手によって。
5
かくして、ほぼ何もしないまま、ゴールデンドラゴン退治は終了しました。
僕らのやったことと言えば…
ゴールデンドラゴン退治記念の宴に参加したくらいです。
「ひゃっほう!これぞ故郷の味…とは違うがカリーだ!半年振りのカリーだ!
…お代わりをくれ!チャパティも!」
「おのれそこの冒険者!そんなに喰うで無い!わらわの分がなくなるであろう!
そこのアサシンの娘も!」
「………おかわり」
向こうでは、黒騎士のサモナーが召喚した魔獣と、
ガラム様が争うようにキキーモラが作った『カツカレー』を食べています。
しかもどうやらシャクティもえらく気に入ったらしく、
あの2人ほどでは無いですが、無言でかなりの勢いで食べています。
いや、確かに美味しいんですけどね。
香辛料が利いたソースがかけられたライスも、
一緒に乗せてある豚のフライも美味でしたし。
「…秘伝が全部炎系のブーストと攻撃魔法!?おいおい素人かよ!?
ソーサラーは満遍なく属性鍛えるのが基本だろう!?」
「…っは!これだからサイトだよりの効率厨は!
いいかい?炎に耐性持ちってのは少ないんだ!
その上で基礎火力が高い!
ついでに炎に特化して装備揃えるんならかなり良いものでも結構安い!
炎弱点の相手になら理論上単発最大ダメージだって狙えんだよ!」
「トム様、落ち着いてください!何もこんなときに…」
「そうだよ姉御。やめとこうぜ」
向こうではトム様と黒騎士のソーサレスが議論しています。
マーリンとソーサレスの護衛らしきガーディアンが止めようとしていますが…
止まりそうに無いですね。
「良いですか?フライを揚げるときには油の使い分けが必要に御座います。
今回で言えば、ポークとポテトを揚げるのには別の鍋に溜めた油を使う。
それが基本。手料理に置いて、横着は敵と知ることが肝要に御座います」
そのまた向こうでは、キキーモラが料理について説明しながら、
追加の料理を作っています。
村長の娘だと言うイリアさんが必死に内容を書き取り、
村の女が鈴なりに集まって熱心に見て覚えようとしています。
まあこのご時世、料理がうまければ貴族の給仕に取り立てられることも
可能とあれば熱心にもなるでしょう。
それに、この宴で振舞われている料理の半分くらいは、
ロンデニウムでも見れないような料理ばかり。
しかも美味とくれば、覚えなくては損。
そう考えてもおかしくは無いのかも知れません。
「やれやれ。騒がしいことだ」
黒騎士のスワッシュバックラーが歌う歌
(何故かバード並に上手いんですがあの人)を聞きながら、
シャーロック様がため息をついています。
しかし、その表情は…今までのような退屈そうな不機嫌顔ではありません。
まるで、新しい玩具を与えられた子供のような、笑みがありました。
「…シャーロック様、どうかされましたか?」
半年間仕えて来て、初めて見る表情に、
僕は思わずシャーロック様に尋ねます。
「いやなに。ようやく見えたものでね」
そんな僕にシャーロック様は謎掛けのような言葉を返し、
辺りを…宴のあちこちに散っている黒騎士たちを見ます。
「見えた?何がですか?」
再度問う僕に対し。
「ああ…希望さ」
シャーロック様は、短く、その言葉を返しました。
そんなわけで、僕らは一路ロンデニウムに戻ることになり、
黒騎士たちはオータム・リーフの地へと去っていきました。
これで、ドラゴン退治は終わり…すなわち僕の冒険も終わり。
そう思ってました。
…このときの僕は知らなかったんです。
この後、シャーロック様のお供として船に乗って、
大陸の果てまで行くことになるなんて。
6
―――アルスター騎士剣同盟首都 ロンデニウム
「なるほど…日本サーバの〈黒剣騎士団〉か」
「はい…」
ロンデニウムに置いて、難攻不落の城砦であり、最強の存在が住まう城…
第14騎士団のギルドキャッスルの執務室で、
1人の男がシャーロックの報告を受けていた。
「彼らは6人の小隊で、妖精の環を使いアルスターに来たとのこと。
ゴールデンドラゴンは彼らが倒しました」
「まあ、彼らなら出来るだろうね。それくらいなら、簡単に」
王室の血がわずかに混じるほどの毛並みを持ち、
リタイア後の第2の人生として有り余る余暇を冒険に費やした男は、知っている。
「運もあるだろうが、僕らより早く、ラダマンテュスを攻略したギルドだ。
質だけで言えば、日本サーバで最強であろう〈D.D.D〉を凌ぐ」
“最強”のギルドの主宰として、このセルデシアにある
“強豪”ギルドのことならば一通りは。
「…で?ジョンブルであることが信条の君がアレだけ慌てて僕に会いに来たんだ。
まだ、何か言うことがあるんだろ?」
そして、再度シャーロックに促す。話の続きを。
「はい…私がお伝えしなくてはならないことは…」
1度言葉を切る。シャーロックにとって、それは思い返すだけで衝撃であった。
「…彼らの全員が“Lv91以上”でした」
この呪われた監獄で、限界を突破した存在。
どれだけのモンスターを殺しても決して達することが出来なかった高み。
それに至った理由は…
「…なるほど。〈ノウアスフィアの開墾〉は、
日本サーバに置いては既に適用されている、と?」
「はい…そう考えられるかと。
少なくとも、日本ならばLv90より上に行くことが可能なのは確かです」
シャーロックの声が僅かに震える…ついに見えたのだ。希望が。
その瞬間の興奮は、未だに忘れられない。
「マスターピップ。私たちは行かねばなりません。
…いえ、嫌だと言うなら私だけでも行きます。
第14騎士団を捨ててでも!泳いででも!這ってでも!」
それを見てしまった以上、シャーロックはもはや
ここで暮らすことは出来ないと考えていた。
彼は誇りを持っていた。
己が人生の大半をこの地で過ごしたものとして、強さを求めるものとして。
「落ち着きたまえよ。シャーロック君」
どこか飄々とした諦めを捨て、廃人としての顔を覗かせた旧友を男は諭す。
彼自身、密かに決意を固めながら、シャーロックにそれを放る。
「…これは?」
「招待状さ…エル・ドラドからのね」
「エル・ドラド…まさか!?」
その名に込められた意味と今、このタイミング。
それによりシャーロックは、答えを導き出す。
「そう、彼らの次の航海の行く先が決まった。
ウェンの大地への往復とは比べ物にならない困難が予測される。
…ついては僕達にも参加して欲しい。
既に各国の有力ギルドと王家にも同様の書面を送っているそうだ」
それは事実であろう。昨日、アルスター王家から打診があった。
船は用意するので是非とも参加し、黄金の粉などを持ち帰って欲しいと。
「…正直、どうでも良いと思ってたんだ。
断る方向で考えてた。交易がしたけりゃ勝手にどうぞ。
僕らは交易ギルドではなく戦争ギルドだからね」
アルスター王家が求めるもの。それは彼らには何の価値も無いもの。
そう、彼らが求めるのはただ1つ。
「…いや参ったね。君の話を聞いたら、参加せざるを得ないじゃないか。
最も、彼らに習って1/12に当たるまで妖精の環に飛び込み続けるのも悪くないけど」
新たなる冒険。ただそれこそを求めるのが、彼らの本能。
…故に、それがあれば例え地の果てまでも行く。
「…俺も入れろ。でなきゃ…」
シャーロックもまた、その1人だった。
そのためなら…
「ああ、この情報は麻薬だ。広まれば第14騎士団は瓦解する。
僕らが僕らであるが故に。それだけの威力がある。
良いだろう『バリツマスター』シャーロック13。
君たちも一緒に行こう。ただし、他には漏らすなよ?」
そして、立ち上がり宣言する。
「さあ、早速人選に移るとしよう。参加人数は100人。向かうは…」
ロンデニウムの、日が昇り始めた遅い朝の様を見ながら。
「黄金の島ジパング!…ははっ、まるで大航海時代の再来だな!」
『第14騎士団』ギルドマスター、ピップは大いに笑う。
「ああ、ようやく始まる!待たせすぎだぜ!クソ運営ども!」
シャーロックも、紳士の仮面を脱ぎ捨て笑う。
その下にあるのは、廃人の顔。
「僕たちは『14』を恐れない!」
ノリにのって、ピップは第14騎士団の教えを叫ぶ。
「何度『14送り』になってもいい!」
シャーロックもまた、それに合わせる。
「「代わりにお前も『14送り』だ!」」
そして最後は2人で爆笑する。
このアルスター騎士剣同盟の、西ユーレッドの停滞を吹き飛ばすように、高らかに。
…そして、歴史は動き出す。
欧州サーバ史上最大の冒険。
『黄金の島の探索』
そこへと向かって、転がり落ちるように。
本日はここまで。
ちなみに、『黄金の島の探索』の顛末は…未定。本編次第。
何故『黄金の島の探索』をやろうと言う話になったかについては、
また、別の話で明かされる日も来るかもしれません。