14点ビハインドの第3クォーター、4thダウン、残り8ヤード。
止まっていたストップウォッチの時間がまた進みだす、その時を待つ。
静かな緊張。
周囲の選手の息遣いまで聞こえてきそうな―――
「ハット!」
鋭い合図が飛ぶ。
走り出した。
その瞬間、周りの世界と俺の空間は切り離された。
ヘルメットの中からの狭い視界、茶色の弾丸を捉えた。
「ゆうすけ、取れっ!」
そう言われた気がする。実際、試合中にそんな声をかける余裕は無い。
先輩の期待を一身に背負い、ボールがもの凄いスピードで飛んでくる。
激しい回転が加えられているのに、それはとても美しい軌跡だ、といつも思う。
もつれそうになる足にさらに力を入れ加速する。
勝負は一瞬。コンマ一秒、きらめく刹那。それで全ては決まる。
走る足に絡みつく泥を思考から追い出し、掲げる両手に神経を集中する。指の一本にまで心が澄み渡るように、空に向かって手を伸ばす。
ミサイルのように一直線に向かってくるボールを両手で包んだ。この瞬間が大切だ。弾丸のように飛び込んでくるボール。見た目よりもいつもそれは重く、激しく、手の中で外に出ようともがき、暴れまわる。
その抵抗を抑えきれずに、ボールは奇妙に弾けて俺の手をすり抜け、肩を飛び越えて泥の地面の中に跳ねた。
走っている勢いを止められず、よろけた俺はそのまま上半身から地面に衝突する。
「ああっ!」
フィールドの外で、様々な声援の落胆の叫び声が上がったのを聞いた。
一気に世界が戻ってきた。
審判の鋭いホイッスル、這いつくばった地面の匂い、鈍い体の痛み。
自分の呼吸音がヘルメットの中で増幅され、はあはあ、とはっきり聞こえている。
顔に跳ねた泥が狭い視界をさらに分割する。
全身を包む気だるさを押しのけて体を起こした。
「ほい」
目の前に手が差し出された。見上げると、先輩が仏頂面で立っている。
「すみません」
そう言いながら俺はその手を取り、立ち上がった。
謝っているのではない。「済みません」と言ったつもりだった。
「次、取れよ」
先輩はそっけなくそう言うと、メンバーの集まる方へと走っていった。
「はい」
俺も向かう。半ば水たまりのようになった泥の地面を走り、メンバーのもとへ駆け出す。
試合は続いているのだ。
「ハドル!」
先輩が叫ぶと、メンバーはそれに応じて集合する。
次に勝つために。
ただ勝つために。
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