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third episode
              冒険者探偵ウィリアム 3部






ウィリアムがミレーヌの屋敷から離れなくなり。 見張りにウィリアムとミレーヌが加わる事に成った。 捜査員としては優秀なミレーヌだが、屋敷に居ると気が緩むのか有閑マダムの様で、ウィリアムに甘いちょっかいを出していたり、スティールをコキ降ろしていたり。 

だが、ミレーヌの屋敷の裏庭に役人専用の黒い馬車が入り、10人程の役人が交替で待機する。 何か有れば、直ぐに詰め所に向う手筈と、応援の準備は出来た。

小雨が降り続く。 エレンが確保されて、逮捕に向う取調べ中と為ってから、3日目の夜。 事態は、ウィリアムの予想通りに動いた。 

その予兆は、その日の夕方に有った・・・。

ゆっくりと昼寝したウィリアムが、夕方に起きて見張りの交替をした。 寝ているのは、スティールとロイムとミレーヌ。 エレン達やアクトルとクローリアは起きて交替の間間を繋いでいた。

曇り空が続く薄暗くなった外。 窓から裏庭を見ていたウィリアムが。

「誰か来ましたよ。 ローブを被って面体は解りませんが・・・。 普通の人では有りませんね」

エレン達もアクトルやクローリアも裏庭の見える窓に来る。 窓から見える広いローウェル邸の裏庭を、小雨が降り頻る中に何者かが二人歩いていた。 噴水の出る池の脇を通る二人は、茶色と黒のローブをそれぞれが纏い。 出迎えたと思われる屋敷勤めの傘を差すメイドの後を歩いているが。

「いい雰囲気じゃね~な」

と、アクトルが。

メイドの後ろを歩く二人の人物は、ローブに隠れているが男の様な思いがする。 歩き方が横柄で、遠目ながらメイドの後ろを窺って居る様な素振りをしている。 離れて見ているために、そう思えるだけなのかも知れないが・・・。

ウィリアムは、街灯がローウェル邸の前後に灯る事から。

「今夜から、裏庭は俺が見張ります。 あの二人が何処かに出るなら、俺が尾行しますよ」

と、言った。

エレンは、ウィリアムが格闘の達人で有る事は港で見ている。 だが、一人で大丈夫かと思って。

「お一人で?」

「ええ。 他の人では、邪魔に成ります。 一緒に行けるのは、良く見てスティールさんぐらいですよ」

エレンは、自分に優しいニヒルで男前のスティールを思う。

「そう…ですか」

しかし、ウィリアムはエレンの内心を察して。

「あの二人がすんなり真相に行く人とは限りませんよ。 表に来た誰かの方が、真相に近いかも」

「見張り・・・続けます」

エレンは、正面の窓に戻る。

ウィリアムは、アクトルとクローリアにエレンの方を眼で示した。

(解った)

アクトルは、頷く。

エレンの内心は、もう事件の真相が見えずに困惑と心配で壊れそうだった。 何か有れば、突っ走ってしまう様な感じがある。 アクトルやクローリアなどが見守る必要が在ると思っていた。 現に、エレンを真っ暗にさせなかったのはスティールだ。 下らない事や、思い出話を聞いたり話し掛けたりして、エレンの気の重荷を軽くしていたのである。 もし、そうゆう心遣いの出来る誰かが居なければ、エレンは参って倒れているかもしれない。

ウィリアムは、そうゆう意味ではスティールを信用している。

アクトルも、スティールとウィリアムの間には、自分には無い時間云々の経過で出来る信頼を超えた別の関係が出来ていると思う。 スティールが、ウィリアムに対抗意識を棄てて認めているのがいい例だ。 だからこそ、アクトルも更にウィリアムを信用出来る。

スティールとアクトルは、ウィリアムと深い会話も無く、眼の動きで何を言ってるか解るのだ。

ウィリアムの判断は、今回に限っては的を射抜ききっていた。

その深夜、見張りを続けるウィリアム達。 夕方に現れたローブの人物二人の御蔭で、深夜に為っても誰も休まないままに、全員で暗い部屋に篭っていた。

夏に入る前の長雨が、本降りに為る頃。

「出た」

ウィリアムが、戸棚の沿う壁と窓の境で低く声を出した。

ミレーヌが直ぐにソファーから立ち上がり。

「ローウェル?」

ウィリアムは、廊下に出るままに。

「夕方のローブの人物二人です。 尾行します」

ドアを開いたウィリアムに、クローリアが。

「ウィリアムさん、一人で?」

すると、ウィリアムは一同を見回し。

「ローウェル邸の明かりの点き具合がおかしいです。 この時間で、誰も出払って無いのにロビーや馬車小屋までに明かりが・・・。 もしかすると、この後誰か来るかも知れません。 あの動くローブの二人の動きと関係在るなら、今夜が動くその時でしょう。 見張りを」

と、ウィリアムはドアを閉めてしまう。

「本当か?」

チャンドが、横のコルレオに聞かれる。

「さっ・・さあ・・・」

だが、スティールは。 窓からローウェル邸を見ていて。

「この数日、決まって遅くまで明かりが点くのは2階の一部だけだった。 だが、今夜はこんな遅くに、屋敷全体が明るい。 休まない以上、理由が有るんだろう。 大丈夫、ウィリアムはヘマはしないし、今の奴の勘は鋭いぜ」

と、自信有りげに言うのだ。

さて、ミレーヌの屋敷の裏口から雨の中に出たウィリアムは、ローブすら纏わない。 皮の胸当てすら纏わない黒い上着に黒いズボンの彼だ。 街灯の明かりの中に入らなければ、闇に紛れて何処に居るのか解らなくなる。 ローブを纏った二人に追いつくのは、直ぐだった。 

(なるほど・・・)

ウィリアムは、二人の後ろに着いて解った事は、この二人が“殺し屋”の類だと云う事だ。 暗殺者と殺し屋の決定的な違いは幾つか有るが、その線引きの一つは気の扱い方。 ローブを纏った二人は、汚らしい殺気を何降り構わず出している。 暗殺者は、気配を悟られない様に、殺気など最小限にして消す。 

人を殺すと云う行為に対して、人は一つの壁を心に持たせている。 同じ種のお互いを殺さない様にする為だろう。 だが、その壁を破るとは、人として大きな何かを失う事に成る。 人を殺す事に躊躇いを持たない者程、人間では居れなくなる。 獣が心に住み着き、何か有ると殺せばいいと思う様に為る傾向が強い。 

そのコントロールに生死を掛けて訓練するのが暗殺者だ。 暗殺者は、決して依頼の標的以外の人を殺す事を許されず。 その存在を知られては為らず。 そして、確実に目標を殺せなければならない。 殺し屋などが増えても、暗殺者が増えないのは、厳しい戒律と絶対的な上下精度が有るからだ。

ウィリアムは、少しの距離を置いて着いていくローブ二人の殺気が禍々しく。 今までに何人も手に掛けて来た事を感じるに。

(手加減は要らないかな?)

と。

さて、雨脚が強まる中。 整備された住宅街の道をローブの二人は一路商業区に向う。 ウィリアムに尾行されているとも気付かないままに。  商業区に入ると、大通りは人気が無くともまだ街灯も消えない頃だ。 人目を避けて、裏道を行くローブの二人。 街灯の無い脇道から大通りに出て、港に向って階段を降りる。

「・・・・」

無言で雨音に足音を掻き消しさせて、ウィリアムは、闇に紛れて雨に濡れながら後を追った。

ローブの二人が遣って来たのは、高級飲食店やブランド店の並ぶ場所。 前に、エレンとケウト氏の店に来た、まさにその並びだ。 もう街灯の明かりも落ちる頃。 殆ど全ての店の明かりが消えた闇の中を歩く二人のローブ姿の人物。 

「おい、この辺か?」

と、右のローブの人物が声を出す。 ガラガラ声の男だ。

「ああ。 その先の店だ」

応える声も男で、幾分若い感じの低い声。

「うえは?」

「今回は、俺達だけさ」

「薬師のババア一人殺せばいいんだろ? 楽な仕事だな。 殺る前に、味見するか? 一応、女なんだろ?」

「さっさと殺す。 先方は、それを待ってるんだ。 お前、歳の行った薬臭いババアなんかに食指伸ばすな」

「へっ、喰える者のババアもガキも無ぇ~だろ?」

「フン、時間の無駄だ」

押さえた小声ながら、ウィリアムにその薄汚い会話が聞こえる。

(やっぱり・・・、見つかってたんだ)

ウィリアムは、殺される相手を確信した。 

ローブを纏う二人は、スリムな影の姿を見せる塔型の離れを左右に持つ立派な建物の敷地に踏み込む。 低い木の柵を乗り越えて、芝生と花壇が織り成す庭園の中を潜り抜け。 4階建ての立派な館の裏手に抜けて行った。

飲食店と思われる館と一つ上の段の街へ切り立つ土壁とに挟まれた裏路地は、真っ暗であった。

ガラガラ声の男が、ずぶ濡れのローブを重そうに。

「裏の小屋だったよな」

「ああ、食材の閉まってある大きい小屋の横に、薪なんかを仕舞ってある納屋が在る。 其処だ」

「死体はどうする?」

「海に棄てて欲しいとさ」

「海まで運ぶのか?」

「ああ、海岸のドックの在る近くの波止場辺りに棄てて欲しいとさ」

雨の中。 この会話を聞いたウィリアムは、完全に一つに事実が繋がったと思った。 

「あ、アレだ」

左のローブの男が、大きな館の裏手半分の処で先に指を向ける。 暗くて見難いが、木造の小屋が一つと。 横に、一回り小さい壁の一面が無い納屋が。

此処で、ウィリアムは走った。

「あ、アレか・・うわっ」

左の男の言葉に応えた右のローブの男に迫り、後ろから首筋に正拳突きを見舞ったのである。

「・・・」

瞬間的な激痛で、気絶したその男は砂利道の水溜りの中に崩れた。

「誰だっ?!」

残ったローブ姿の男が、奇襲に慌ててローブを幕って剣を抜こうとする。 だが、極至近距離で、格闘術と剣術のどちらに分が有るかは、一目瞭然の結果だ。

「・・・」

ウィリアムは、男が抜こうとした剣の柄に回し蹴りを喰らわせて剣を鞘に押し込める。

「う゛ぐっ!」

強烈な蹴りの圧力で後ろにヨロけた男に肉薄したウィリアムは、低い体制からの素早い拳の3連打を鳩尾に打ち込んで、前のめりに成った男の首の前部を掴むように握って気絶させる。 血管を指で閉めて、窒息させたのだ。

“バシャ” 

もう一人の男も、雨の降る裏路地に沈んだ。

ウィリアムは、納屋に急いだ。 物を運ぶ馬や、残飯を食べさせて、肉を得る鶏やブタが囲われる納屋の奥。 薪の積まれた土間の奥まった処に、細い吐息の人物が寝かされていた。

「・・・」

夜目に慣れきったウィリアムには、その人物がガリガリに痩せた白髪の混じる老女の様な女性であると見れた。 身体の自由を奪う為に、紐が身体に巻かれている。

「大丈夫ですか? 意識は有りますかっ?!」

声を掛けて顔を覗くウィリアム。

「あ・・・だ・誰?」

か細い声で、返事をする女性。

ウィリアムは、もう全ての決着が目の前に迫った事を理解し。

「助けに来ました。 今、紐を解きます。 貴女が“ソレア”さんですね?」

雨音の響く納屋の暗闇の中で、弱った女性は目を見開く。

「だ・・れ・・?」

「エレンさんの知人で、役人の方に力添えをする冒険者です」

ウィリアムがそう云うと、老女は急に震え出し。

「だめ・・・だめっ、エレンは・・・」

と、女性が口をモゴモゴさせようとする時、ウィリアムはサッと女性の顎を触れて。

「駄目なのは、貴女の自殺です。 ソレアさん、もう手遅れですよ。 エレンさんも、全ての事態を知る事に為ります」

ウィリアムの触れた女性の顔が、急激に震え出し。 嗚咽の様な呻きが零れだす。 弱弱しくも、必死に顔を左右に振る女性。 どうやら、“死なせて”と訴えて居る素振りだ。

だが、ウィリアムは聞き易い冷静な声を傾けて。

「ソレアさん。 貴女は、毒をダレイに盛った犯人をご存知の筈では? 二人で協力して、エレンさんを助けようとしたのでしょうが、事態は甘くはありませんよ。 其処を、あの二人に利用されたんです。 貴女が死んで、実行犯が捕まった時、エレンさんは一人になって殺されますよ」

「?!!」

ウィリアムの言葉に反応した老女の素早い驚きの動き。 この弱りきった身体の何処にそんな力が在るのか・・・。 それは、親心が成せる気持ちの力か。

「あぁ。 エレン・・エレン・・・うぅ」

泣き出した老女の・・・、いや。 母親のソレア。 彼女の顎から手を離したウィリアムは、ソレアの耳元に口を近づけて。

「いいですか、俺達が出来るのはエレンさんを犯罪の折から救い出す事。 でも、その後の心の支えは・・・、シェルハさんを知る・・・父親の面影を知る貴方達だけだ。 生きて、その余命の許す限りエレンさんに寄り添ってあげて下さい。 貴女の命の存在の意味は、エレンさんに希望の光を与える。 さ、エレンさんの下に向いましょう」

ソレアの身体から縄を解いたウィリアムは、その身体を持ち上げた。

「はぁっ・・・・」

思わず息を飲んだウィリアム。 ・・・軽かった。 背丈も然程に低い訳では無いソレアだが。 その身体は重みの感じられない人形の様。 この細身で、どれだけの苦労をしてきたのだろうか。

ウィリアムの脳裏に、病気の母親と自分を養う祖母の事が浮ぶ。

(役人の依頼で無いなら・・・殺してやるのに・・・)

犯人へ、ウィリアムの怒りが静かに燃え上がる。 

水を弾く厚手の布袋にソレアを包み、ウィリアムは馬を引いた。

「・・・」

あの二人の男は、紐で縛って小屋の軒下に蹴転がしておく。 だが、最後にウィリアムは馬に乗ってからもう一度納屋を見た。 その眼は、何かを射る様に鋭い瞳だった。






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さて、ウィリアムが出て行ってどの位だろうか。 本当に、深夜に為って、ローウェル邸に一台の馬車が到着したのだ。

そして、その光景を見張って居たエレンは、ギョットした顔をする。

「えっ?! あっあの馬車って?!!」

見ていたコルレオやチャンドも、エレンと同様に驚き声が出ない顔だった。

暗い部屋の中、スティールはエレンに寄り。

「馬車の持ち主を知っているのか?」

だが、エレンはスティールの声も耳に入らない様子で。

「う・・うそ・・・こんな事嘘よっ!!!!」

と、ドアに走る。

「おいっ!!」

「チョットっ!!」

アクトルとミレーヌがドアを開いたエレンに駆け寄った。 先に、アクトルがエレンの肩を掴んで。

「待てっ、落ち着け。 何がどうなってる?」

ミレーヌも、

「貴女の今は逮捕されてる身なのよっ? どうしたの?」

すると、エレンは悲痛な怒りすら滲む顔を向けて。

「あの馬車はっ、・・・父の親友のケウトさんの馬車ですっ!! うそよ・・・有り得ないっ!!」

ミレーヌは、ケウトと云う人物が高級料理店を営んでいる事は知っている。 だから。

「落ち着いて、ローウェルも仮店舗のオーナーよ。 親交が有ったとしても不思議じゃ無いわ」

だが、エレンは激しく振り頭、

「だってっ、ケウトさんは御祖父ちゃんと付き合うローウェルさんを“付き合う気にならない相手だ”ってっ・・・面識も持たない様にしてるって・・・。 もしかしたら、ローウェルさんに呼び出されたのかもっ!! ケウトさんが、命を狙われてるかもっ!!」

と。

急激な事態の動きにミレーヌとアクトルも言葉を失う。

そこに、チャンドも加わり。

「お嬢さんの云う通りだ。 ケウトさまは、エレンさんの親しい知人で、古い過去を知る人物。 もしや、ローウェルと云うその男に嵌められて、この場に呼び出されたのでは無いでしょうか? ケウトさまは、ローウェルと云う人物や、エレンさまの死んだご祖父を毛嫌いしておいででしたし・・・」

スティールは、直ぐに剣を手にして。

「姐さん、手配してくれ。 俺達が、勝手に押し込んで確かめる。 何かの間違いとしても、俺達を逮捕すればいい話だ。 もし、ローウェルって野郎がそのエレンの知人をどうにかしようとしているなら、大変な事に成るぜ」

ミレーヌは、ウィリアムの言葉も有るので。

「解ったわ」

と。

エレンは、スティールの腕にしがみ付いて。

「私も行きますっ。 絶対に行きますっ!!」

クローリアは、危険だと思って。

「エレンさん、此処は私達に」

しかし、スティールはエレンの顔を見て。

「もし、ウィリアムの予想が当たっているなら、エレンを見たローウェルって奴はエレンを奪おうとするはずだ。 エレン、覚悟は有るか? 失敗したら、死ぬぞ」

すると、エレンは重く頷く。

「不正が知れた時点で、我が家は死んだも同然です。 今、何か出来るのは私だけ、・・・ローウェルのいい様になんて絶対に嫌っ」

スティールは、アクトルを見た。

「アーク、ウィリアムは戻る。 それまでに、何も起させない様にしようぜ。 アイツは、これを予期してたから俺達を残したんだ」

アクトルも、それには同感だった。

「ま~た危険な端を渡るのか。 さすが、ウチのチームらしい」

スティールは、ミレーヌに。

「手配を頼む。 俺達は、先に行く」

紫色のシルク製の寝巻きのパンツとゆったりした上着だけのミレーヌは、黒いガウンを羽織って立て掛けられたサーベルを片手にして。 呆れた顔をして廊下に出る。

「私も行くわよ。 貴方達に、勝手にされちゃ困るわ」

ロイムは、いきなりの修羅場にと震えて。

「うわわわ~、ど~なっちゃうの?」

クローリアも、真偽の何もかも見えていない中で、

「ああ・・神よ。 間違いが無き事を・・・」

先ず、ミレーヌは足早に表玄関から出て、馬車で待機している役人の下に向う。

一方、後から出たスティールとアクトルは、エレンとロイム・クローリアが続けて出る後のチャンドやコルレオの足音を聞いて。 先に、スティールが赤い絨毯が真ん中にラインを引く、廊下を歩きながら。

「最後の二人も覚悟しろよ。 ケウトって人が被害者ならいいが。 最悪、違う場合もある」

アクトルも、前を見て廊下を歩きながら。

「そうだ。 どんな真実も現実だ。 見たく無い現実で敵同士に成る事だってある」

万が一、エレンの身を守る為に武器を持ったチャンドとコルレオ。 伸び縮みの効く金属の棒を持つコルレオが。

「我が主人にそんな疚しい処は無い。 私は、エレンさまを守るご命令を守るだけだ」

と、険しい顔をし。

長剣を装備したチャンドも、冷静な顔をして。

「私も同じだ。 主人を信じている。 恐らく、ローウェルと云う輩に呼び出されたのだ。 主の危機を助けるのみ」

スティールもアクトルも、それ以上は何も云わなかった。

雨の外に出たスティールは、行動が素早かった。 アクトルにエレンを任せて先に飛び出すと。 雨音に足音を紛らわせてローウェル邸の門に近付いた。 ケウトの訪問は、予定外のものだったのか。 門は開かれっ放しで、馬車が入った所で乗り捨てられているかのように停まっていた。

「・・・」

スティールは、御者などはもしもの為にと気絶でもさせてしまおうと思っていた。 が、馬車周りに人気は無い。

門の開かれた入り口で、エレンを背に覗くアクトル。

(来い)

合図をするスティールは、先行する形で庭木も塀周りにしか見えない開けた敷地内を行く。 

石造りの玄関先が立派な軒下で、鳥の嘴の様に伸びる。 長方形の佇まいで、ドンと大きいローウェル邸は、各窓の前だけに剪定された庭木が並ぶだけ。 窓の下まで行ってしまえば、外から覗かれても見つかり難いと思える。

(低く、低く・・・)

スティールは、アクトルにジェスチャーしながら、腰を屈めて閉められた玄関前の脇に着いた。 アクトルの後ろに、エレンがロイムと一緒に続き。 その後ろには、クローリアが。 チャンドとコルレオの前には、ミレーヌが居た。

降り続く雨で、スティールも皆も濡れる。 だが、何より何が話されているのかが気になる皆には、濡れる事も気に成らなかった。 

スティールは、話の聞き易い場所を探して、窓の下に張り付いて右に移動する。 来客が有ったのは確かな様だった。 少し腰を上げて木陰から覗く玄関先のロビーが、シャンデリアの明かりで煌々と明るく。 窓の前に庭木が無かったら、こんな雨の暗闇の庭もかなり明るく見渡せるだろう。

覗きながら移動するスティールは、広々とした玄関ロビーの右の先に、応接場が吹き抜けで設けて在るのを見つける。

(居た)

数人の何者かが、その応接場のソファーに座ったり立ったりしているのが見える。 中には、メイドの様な若い女性も居た。

(おい、どうだ)

アクトルが、押し殺した声でスティールの背中を突いた。

(向こうだ)

スティールは、更に木と壁の間の隙間を右に指差す。

アクトルは、戦斧を背負うだけに動くには慎重を極める必要があるが。 窓の下には、引っ込みが有り。 庭側に壁の無いトンネルを形成しているので、這って行けばなんとか成った。

さて、ローウェル邸の右一番端に辿り着けば、折れ曲がって東屋風のテラスが木の椅子やテーブルを見せる。 屋根は、屋敷の一部と繋がっていて。 その先は、ベランダとガラス大窓を通じて、カーテンの引かれた見えない応接場に向う。 ベランダと屋敷の狭間に有るガラスの扉から覗けば、応接場と、ガラス扉の中の部屋を仕切るカーテンに、動く人影が映っていたのである。

スティールは、そのテラスを分け入ってベランダに向かい、テラスとの仕切りに成るガラスの大窓をそっと押してみた。

(開く・・・)

運のいい事に、ガラス窓は開いた。 ロビーの方から、男の大声が聞こえる。

「ローウェルはまだかっ?!! 緊急事態だっ、早くしろと言えっ!!!!」

中年の男の声だ。 

「畏まりました。 少々お待ちください、主は入浴中だったものですから」

感情の少ない女性の声だ。 声は若そうだが、張りの無い寂しい声である。

「旦那様、落ち着いて下さい」

別の男性の声がすると、

「うるさいっ!!!!! 落ち着ける事態では無いんだっ!!!!」

スティールが、その時エレンを迎え入れた時だった。

「ケ・・・」

声を上げそうに成ったエレンの口を、スティールの濡れた手が塞いだ。

「・・・」

スティールは、カーテンが動くかどうかを確かめる。 どうやら、聴こえなかった様だ。 雨音と、男の怒声で聴こえなかったと確かめるや、エレンに。

(声を出すな。 折角ここまで来たんだ、しっかりしろ)

と、鋭い眼を向ける。

「・・・」

頷くエレンの髪や額を流れる雨水が、顎を抜けて首筋を伝った。 潜伏中に、ミレーヌのお古の服を着替えに借りていたエレン。 黒い長袖のブラウスが、濡れてピッタリとして身体のラインを窺わせる。

スティールは、手を離すと。

(君で見つかったら、身体触っちゃうぞ)

と、微笑んでから明かりの無い部屋をカーテンの方に進んだ。 

「・・・」

驚きの中に、少しの恥らう様子を窺わせたエレンは、スティールの後を行く。

さて、ローウェルと云う男は芸術を嗜むのか。 カーテンに遮られた暗いその場は、壁伝いに机が置かれ。 楽器の様な何かが並んでいる。 此処は、アトリエの様な物なのか。 床は、丁寧に絨毯がしかれ、カーテンから零れる明かりの届かなくなる奥には、ソファーも見えた。

チャンドやコルレオまでも中に入った。 最後に、チャンドが静かにガラス戸を閉めた時だ。

「おいおい、ケウト。 事が済むまでお互いに直な対面はしないと決めただろう。 何故、此処に来たんだ?」

と、威厳の漂う男の声が。 しっかりとした声の使い方は、地位の確かな者のソレである。

アクトルとクローリアは、エレンの店を張っていた時に印象的な馬車で来た貴族風の男だと感じ。 ミレーヌも、顔を顰めて、

(ローウェル・・・)

エレンも、ローウェルの声で有るとスティールに耳打ちした。

カーテンの陰で、誰かがソファーから立った。

「ローウェルっ、事態が変わったんだっ!!!」

この声に、エレンの顔付きが変わる。

動こうとしたチャンドとコルレオに、ミレーヌが無言の睨みを利かせる。 シルク製の紫色をしたパンツと上着の寝巻きを着たミレーヌは、サーベルを片手に黒いガウンを羽織っているだけ。 雨に濡れた服は身体に張り付き、胸元は少し肌蹴ていた。 しかし、魅惑的で女らしい姿ながら、その眼光は鋭く。 動こうとした二人を留まらせるに十分だ。 ミレーヌも、かなり剣術で鍛えていると見受けれた。

エレンが、小声で。

(ケウトさんです)

スティールとアクトルが頷く。

濡れたロイムは、意味が解り出して驚き口を自分で押さえた。

カーテン越しで、立った人物の前に何者かが来た。 そして、坐りながら。

「ケウト、落ち着いて坐れ。 明日に成れば、もう全ては終わる」

ローウェルと云う人物の声の主が坐り、前に立ったケウトと云う人物も坐る。

「明日に終わる? お前、今日がどれだけ逮捕者が出たか知ってるのかっ?!! 街中の噂で持ちきりだっ、ダレイの不正で芋づる式に不正が暴かれてるとな。 俺の知り合い3人も捕まった。 役人が、内部捜査と街中の聞き込みでフル回転してる。 このままじゃ、俺もお前も捕まるぞっ!!」

この言葉に、エレンも従者の二人も驚いた。

だが、ローウェルと云う男は動じる気配も無い言葉遣いで。

「その時は、二人で逃げればいい話さ。 ま、さっきその事態を遅らせて、エレンを開放させる策を講じた。 それが上手く運べば、エレンが釈放されて我が物に出来る」

「ほっ・ホントか?」

「ああ。 お前が連れて来た、ホラ、例の薬師のババア。 アレを、死体で海に投げる」

皆、出て行ったウィリアムの事を思う。 もし、その工作にあのローブ姿の二人が向ったとしたら、殺される人物を助けられるのはウィリアムのみである。

ケウトの影が前のめりに成り。

「ほ・・・ホンキでか?」

「ああ、もうあのババアの利用出来る価値は、それくらいだろう? 生かして置いて、何か都合のいい事でも有るのか?」

「いや、それは・・・」

ケウトの影が腰を戻し、少し躊躇いの様子を見せた。

「ケウト、お前があの女を捜して利用を俺に持ち掛けたんだろう? 二人で、あのダレイのクソ爺を殺して、エレンを遣って財産を掌握しようと計画したんだ。 余計な関係者を残しては、俺達の首を絞めるだけだぞ」

「確かに・・・」

「お前は、手を汚さず不正の積荷を横流しして貰っていた事実を消せればいい訳だろう? 汚い指図を俺に一任したんだ、遣り方は任せろ」

ローウェルの影は、此処で運ばれた飲み物に手を伸ばす。

ケウトの影は、ローウェルに向いて。

「だが、本当にエレンは捕まったのだろうか。 未だに信じられない・・・」

「どうして?」

「俺は、もしもの為の見張りに二人の従者を付けた。 エレンが捕まったなら、その二人は戻って来るハズなのだが・・・」

チャンドとコルレオは、身じろぐ。 その様子を、皆が見た。

しかし、ローウェルの影は、漂う香りから紅茶と思える物を一啜りしてから。

「おいおい、ケウト。 お前・・・まさかその方から足が付くんじゃ~ないだろうな?」

「いっいいやッ!! 俺とお前の関係を知らない二人だ。 元が冒険者だから、エレンを守るのに丁度いいと思ってな。 もしもの時は、俺の元にエレンを連れて来るように言い含めておいてある」

「その二人、信用は?」

「出来る、そうゆう風に手懐けてある。 どっちも俺に恩義が有って、忠実だ。 ただ、不正の事や俺がダレイの手先に成っていた事は知らないからな。 バレたら、恩を盾に服従させるさ」

チャンドとコルレオの二人の顔が、見る見る険しく成った。

(まだ、声を出しちゃ駄目よ)

ミレーヌが、二人に声を押し殺して言う。

ローウェルの影は、カップをテーブルに戻し。

「そうか、なら・・・バレた時はなんとか言い包めて、後で始末も視野に入れた方がいいな。 金に懐くならいいが、そうでないなら面倒だ」

ケウトの影は、また膝を前に進め。

「なぁ、エレンも殺すのか?」

「当たり前だ。 俺がエレンと結婚しても、エレンが相続人だから、名義はエレン。 殺して、初めて俺に財産が移譲される。 幸い、ルイスのバカが俺に惚れているからな。 後少し身体を味わって、飽きたら一緒に死体になって貰うさ。 親子で、憎み合って刺し違えた・・・なんてどうだ?」

スティールの目が厳しく細まる。 

エレンは、母親がローウェルに肌身を許したと思って震え出した。

「ローウェル、お前の女好きはもはや病気だぞ」

と、呆れたケウトの声。

「いやいや、ダレイの爺に昔喰われた年増の身体だが、まだまだ使えるよ。 確かに、あの身体は癖になる。 俺が、優しい言葉で慰めてやれば、直ぐに寝た。 ダレイのクソ爺に玩ばれていたからな~、優しさに餓えていたんだろう。 全く、女って奴は軽い軽い。 エレンの身体はどんなものかね、出来るなら、殺す前に母親と二人で地下牢にでも閉じ込めて味比べしてやろうかな。 あはははは」

下衆な話の内容に、クローリアは顔を背けて唇を噛み。 ミレーヌは、サーベルの持つ手を振るわせる。 エレンは、悔しさを滲ませた顔に、肩を震わせて俯く。 直ぐに、雨の雫に交えて涙が流れ落ちる。 一方、男のアクトルやロイムも悔しさの滲む顔を見せた。

「・・・」

スティールの目が、ギラリと光った。 女は好きだが、手篭めにするのは大嫌いなスティール。 ミレーヌが居なければ殺す事も考えた。

ローウェルは、ケウトに嘲笑う続きの口調で。

「ケウト、お前も同罪だろう? 大体、お前が全ての元凶だ。 エレンも、お前が居なければ最悪の事態は免れたかもしれない。 いい加減、偽善者ぶるのは止めろ」

「おっ俺は、あのダレイの爺が怖かっただけさ。 あの悪辣なダレイに掛かって、いい人生は無い。 俺に高級料理屋を遣らせて、ウチの店を不正の話し合いの会合場に使ったり。 何度・・・何度殺してやろうと思ったか・・・」

「だが、美味い所有ったんだろう? お前の今の妻は、ダレイの力で手に入れた美人じゃないか。 店も随分儲かっているし、不正に手を貸して代償を金と異国の珍しい珍品で受け取っている。 同じ穴のなんとやら、言い訳は難しいさ」

「フン、ま~ライバルの店は幾つか潰したがね。 ダレイが投げ捨てた小娘を飼育してたら、俺に好意を持ちやがったから結婚しただけさ。 あの女は、顔を鑑賞に楽しむ子供を産ませる道具って所か。 本当は、俺がルイスと結婚するハズだったのに・・・、ダレイの御蔭で若い頃から計画は狂いっ放しさ」

「ほ~、まだ未練が有るのか? 何なら、俺がエレンと結婚した後に抱くか?」

「もう、未練は無い。 お前とダレイの唾液の付いたルイスなど何の価値も無い。 俺は、商業に精を出したいね。 シェルハと語り合っていた頃の夢さ。 全てが片付いたら、店を一気に広げる」

影のローウェルは頷き。

「なら、計画が上手く行く事に期待してくれ。 あの、エレンの本当の母親だかのソレアか。 アレを殺して、毒を作った事とダレイの殺害を自供した手紙を添えて海に浮かべれば、役人もエレンを解放せざる得ないだろう。 その時、エレンを掻っ攫って結婚するチャンスさ。 其処まで運べば、後々バレても家財を売り棄てて逃げれる算段も立て易い。 だろう?」

「為るほど、それはいい計画だ。 流石に、悪知恵の回るローウェル閣下だ」

「フッ、褒め言葉と取っておくぞ」

スティールは、俯いて必死に堪えるエレンの肩に手を置いた。

「・・・」

涙を流すエレンが顔を上げると、スティールはエレンの顔に自分の顔を近づける。

「?!」

何事かと思う皆だが、スティールはニヒルな笑みをエレンに。

(もういい。 我慢しなくていい、あの薄汚い計画をぶっ壊すぞ。 さっ、名乗りを上げるぜ)

拳を握るエレンの眼が、キラリと光って力を佩びた。
どうも、騎龍です^^                            
ウィリアム編3部も残す所3・4話に成ります^^ よろしくお付き合い下さいね^^                                    
ご愛読、ありがとう御座います^人^


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