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third episode
                冒険者探偵ウィリアム 3部






主の吸っていた煙管が、微妙な間合いで止まっている。

「・・・、どうゆう意味だい?」

何かを押し殺した様な言い方の主だ。

周りの冒険者達は、そのウィリアムの質問が出たと同時にピタリと息を殺して押し黙る。 あのナンパを平気でしてのけるヒュリアまでもが、云っては成らない様な質問なのか、ブルブルと震え出していた。

それを見たクローリアは、ウィリアムを注意しようかと思った手を引っ込める。 急激に冷え始めたこの場の空気に、それすらも出来ない。

だが、ウィリアムは物怖じせずに。

「いえね。 外に居た冒険者の方々が、主さんの事を“オヤジ”と・・・。 ですが、今お見受けするに女性の様な・・・。 とても気に成ったので、聞いてみようかと」

すると、主はその場で玉座の手摺りに“カッ!!”と煙管を叩きつけて火の灯るタバコの残りを棄てながら。

「何だってぇっ?! さっきの余所者達かっ!!!」

と、立膝に成って身を乗り出す主は、真っ白い素足をシースルーの衣服の足元から覗かせて。 ウィリアムに睨み掛かると、こう言い放つ。

「いいかいっ!! アタシは女だっ!! おっ・んっ・なっ!!!。 元は世界に名を馳せたチーム“フレア・ウォール”の参謀で、精霊遣いのブレンザってのはアタシの事だっ!!!!」

と、主が言えば。

(おいおい・・・、女だってぞ)

(いえっ?! あの顔でか?)

(だって、女ってよりオカマじゃんか・・)

(シーっ、聴こえるって!!!)

(新種の亜種族かと思ってた・・・)

周りで、一気にガヤガヤと巻き起こるヒソヒソ話。

この斡旋所の主であるブレンザは、玉座から辺りを睨み付ける。

しかし、其処にウィリアムが。

「でも、仕事の斡旋でで“お手並み拝見”ですか・・・。 聞くのも野暮なのかも知れませんが。 その仕事って云うのは、先程起こったらしい事件の事ですか?」

と、冷静に聴く。

すると、ブレンザの目がキラリと光った。 煙管を手下に向けながら立てた膝を元に戻して、辺りのガヤガヤ云う冒険者達を睨みながら。

「ほう、流石に察しがいいね。 実は、頼み込んで来た役人の主任をやって居るのが知り合いでね。 直ぐに誰かを回して遣りたかったが・・。 この通り、この場に居る冒険者の輩は馬鹿ばっかりだ。 腕っ節の達ヤツは幾らでも居るが、小難しい事件と成ると話は別。 アンタ、丁度いい所に来た訳よ。 まぁ、報酬も悪く無い。 一つ、遣って見ておくれ」

ウィリアムの前のカウンターには、手下の若い男性が機械的な動きで資料の紙を出した。 ウィリアムは、紙を見てからクローリアを見て。 また主を見ると。

「事件とは、何ですか?」

ウィリアムは、ガヤ付く周りも気にせずに真面目な顔を主のブレンザに向ける。

ブレンザは、正しく身を玉座に戻して女坐りしながら。

「何でも、不審死だとさ。 ただ、口の中に黒い粒の黒子みたいな物が出来てると」

すると、ウィリアムはグッと目を凝らした。

「それは、薬物による死が強いですね」

と、一言。

周りの冒険者達は、それに黙った。 まだ、死体すら見てないのに・・・。

ブレンザは、ウィリアムに鋭い目を向けて。

「確信は?」

ウィリアムは、下らない質問だと思う。

「病気なら、前々からその症状が出るはずですよ。 それに、その死体の方が何者か存じませんが。 普通の一般の方なら、死ぬ前に一度は病院に行くと思います。 我慢の出来る傷みを伴う病気では有りませんからね。 もしかしたら、死んだ方は一人暮らしとか?」

ウィリアムは、ブレンダにそう尋ね返す。

「・・・」

ブレンダは、其処までの情報など何も無い。

ウィリアムは、ブレンダの様子を見て依頼の情報が極限に薄い事が解った。

「どうやら、本当に依頼だけなんですね」

ブレンダは、ウィリアムの言い草に棘を感じたのか。

「当たり前だろう。 一々詳細などよこさないさ」

「なるほど。 では、今まで仕事の成功率は低いでしょうね?」

「・・・」

ブレンダは、次の言葉が繋げない。 依頼に対して、この様な場合でも数多く対応した斡旋所だが。 確かに、事件の解決に結び付いた事例は少ない。 捕り物や、証拠探しの下働きや力仕事などが主な助力の内容に成り下がっている。

カウンターの上の紙に手を伸ばしたウィリアムは、クローリアを見て。

「行きましょうか。 役人の方の急いでいたさっきの様子からですと。 恐らくは、事件が起こったのは昼過ぎぐらい。 大体の初動捜査も終わって、する事は見張りぐらいでしょう」

と、踵を返す。

「あ・・、はっはい・・」

クローリアは、ブレンダに一礼してウィリアムの後ろに着いた。

去って行くウィリアムを見送るブレンダにの前のカウンターにヒュリアが寄った。

「なんか、ムカツク奴だね」

すると、ブレンダはヒュリアを見下し。

「だが、切れるよ。 お前、威張ってられなくなるかもねぇ」

「うぐ・・」

ヒュリアは、喉を詰まらせて次に言おうとした言葉を飲み込み。

(面白い・・・、鋭い視点はアルベルト以上だね・・。 最近、いきなり世界に駆け上がりそうなチームが増えた。 これは、世界が動くよ・・、ウィリアムか・・・。 食べてみたいね・・・ぜ~んぶ)

血の様な赤い舌で舌なめずりをしたブレンダの視線は、得物を狙う蛇の様な目つきに変わっていた。






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「うおっ」

「あ」

斡旋所を出た所で、スティールと遭遇したウィリアムとクローリア。

ウィリアムの手に持たれた紙を見るスティールは。

「何だ? その紙」

「ああ、仕事の現場ですね」

「あ~?」

スティールは、ウィリアムの横に来て紙を覗く。

「何々・・・、グォート街シャンティ通りにて起こった不審死・・・」

途中まで読んだスティールは、口を空けたままにウィリアムに顔を上げて。

「ま~さ~か~・・・」

と、舌を遣わない言い方で呆れて見せる。

頷いたウィリアムは、困った笑い顔で。

「“お手並み拝見”だそうですよ。 チャレンジャーって、思ってたより危険は少ないですね」

スティールは、斡旋所の前の所から中を見る様な視線を向けて。

「あんのオカマ野郎ぉ・・・」

その言い方に薄笑いするウィリアムは、ステイールに笑顔で。

「女性だそうですよ。 キチンと聴きましたら、女性だそうです」

スティールは、アクトルと二人でマーケット・ハーナスは何度も訪れていた。 だから、斡旋所の主の顔も知って居る。 

「何だってぇっ?!! あんな白い中年男顔で女ぁっ?!!」

クローリアは、聞かれているのではないかと冷や汗しか出ない苦笑い。

ウィリアムも、悪く言う気は無いだけに他の言葉が出なかった。

スティールは、苦虫を噛み潰す様な感じで紙をまた見て。

「さっさ行こうぜ。 どうせ、現場に行かなきゃ成らないんだろ? 俺、この通り知ってるから、案内するぜ」

ウィリアムとクローリアは、揃って。

(女性絡みだぁ・・・)

案の定。 スティールは、ニヒルに笑って。

「前の女が居た場所だからな」

と、歩き出す。

ウィリアムは感心する素振り。

「すっげえ・・・」

だがクローリアは、イマイチ好感は持てなかった。

さて、西側の海に赤く成り始めた太陽が向う頃。 スティールに連れられたウィリアムとクローリアは、斡旋所に向かう道の逆方向の通りを歩く。 随分と人の往来が増えて、冒険者や旅人の姿が多い。

ウィリアムは、歩きながら。

「スティールさん、どうして来たんです?」

「あ? いや、ロイムと顔を突っつき合ってたらアークがキレてよ。 一眠りしようかとも考えたんだが、クローリアとお前のデ~トも気になってさ~」

「はぁ・・・」

意味が解らないとの返事のウィリアムに対し、顔を真っ赤にしたクローリアは大慌てに成って。

「そっそんなでは有りませんっ!!! 違いますっ・違いますっ!!」

と、杖の先でスティールの背中を殴打。

「イデデデっ!! おいっ、クロッ」

赤くなって慌て出したクローリアは必死に殴打・・・。

「イデデデっ、なっ・なぐるっ・・ぐぼはっ!!!!」

振り向いたスティールの顎に、クローリアの振り上げた一撃が挿入・・・。 いや、クリーンヒットし、スティールは上を向いて目の前が白く成った。

人だかりが出来て・・・、少しして・・・。

「あご~・・・あご~・・・」

涙を浮かべた顔で、顎を庇う男と。 赤面して俯き歩く僧侶と。 ヤケッパチの笑いを浮かべる若者が、人の視線を集めながら商店の並ぶ路地通りを歩いている。 

小売店や中古屋などの様々な店が犇く通りで。 楽器を値踏みする者や、絵の道具を買い込んだ者も歩いているから。 様々な物が揃うのだろうと思えた。 そんな通りを行くと、店先にナマモノを扱う店が見え出し、一般の人も多く姿を見せる少し太い通りにぶつかった。

スティールは、ぶつかった太い通りの右、北側を指差し。

「あつ~・・・向こうが・・その通りだ・・いてて・・・」

流石にウィリアムが、

「大丈夫ですか?」

と、含み笑いを浮かべて聞けば。

「ガツっって・・ガツっていったゼ・・、歯がよお」

と、噛み合わせをを強調するスティール。

「・・・」

クローリアは、赤い顔で無視して横を向いている。

半笑いで十字路を太い通りの北側へと曲がったウィリアム。 その紙に示された現場の場所とは、その通りの曲がり角に有る雑貨屋だ。 立派な石造りの店構えで、店の幅も他の店の倍有りそうな様子である

「此処・・ですね」

ウィリアムは、そう云うと。

「ああ・・・、店先に役人が立ってるし・・」

と、顎を押さえてるスティール。

クローリアも、商売をする店先に売り手として立つ人も居ないのに店が開かれて、役人が3人立つ幅広い店に違和感が湧いた。 

ウィリアムを先頭に、役人に近付いた3人。

「何者だ」

いきなり、真ん中の店前に立つ役人に近付くと。 お座成りな台詞を吐かれる。

「済みません。 斡旋所から応援の依頼を請けて来た者ですが・・・」

ウィリアムの言葉を聞いた役人は、30半ばを過ぎた感じの皮と骨の様な色黒の男性である。 背丈はクローリアより少し高い程度で、黒い上下の繋がった制服に身を包み。 右手に長槍を持って居た。

「お前達がか・・。 随分早かったな・・、依頼を請けた証は在るか?」

スティールは、詮索厳しいと思って。

「紙切れ一枚だぜ?」

と、ウィリアムの持つ紙を指差す。

「ん」

その紙を見た役人の男性は、大きく頷く。

「確かに、私が届けた紙だな。 ヨシ、じゃ~現場の警備に加わって貰おう。 事件か事故か、まだ解っていないし。 検死をしてくれる医者が忙しくて見つからないのだ。 最近、食中毒の時期で何処も医者は忙しいからな」

すると、スティールは軽い口調で。

「なら、コイツを遣えよ。 ウチのリーダーは、薬師の知識と医者の見識も在るぜ」

と、ウィリアムの肩を掴むスティール。

ウィリアムは、のんびり仕事をしようかと思ってたのに。 いきなりこう言われてしまって、色々詮索されても面倒である。

(スティールさん・・・、面倒事に首を突っ込む気ですか?)

小声で言うウィリアムは、コンコース島とは違うのは自覚している。 いきなり、ズケズケと捜査の真っ只中に入るなど無謀な事だ。 必要な事だけをこなして、その過程で気付いた事を進言すればいいと思っていたのに・・。

しかし、スティールは笑って。

「お前の感性や技術は群を抜いてる。 チャッチャといこ~ぜ」

と、お気楽モードだ。

「本当か?」

役人は、ウィリアムに問うて来る。

「・・・、ええ。 まあ、薬の調合の技術がてらに、診察も少し・・」

すると、役人は大きく頷き。

「薬の知識が有るとは心強い。 ちょっと遺体を診て欲しい。 不審な点だらけなんだ。 今、主任に連絡するから。 槍、頼む」

「あっ」

ウィリアムが声を出すも、役人はウィリアムに槍を託して店の奥に向ってしまう。

スティールは、ウィリアムの肩をニギニギして。

「さぁ~、頑張っていきましょっい」

クローリアは、ウィリアムがイマイチヤル気が無いと見て取れた。

だが、ウィリアムがスティールに向けるのを嫌ってか、店先の木の台に並んだ品物を見る内に。

「・・・」

槍をその場に置いて、店の中に入って陳列された品物を見回りだした。 筆を手に取り眺めたり。 固形ランプの燃料や、旅に携帯する塩なども・・。

預けられた槍をその場に置いたウィリアム驚くクローリア。 代わりに槍を重そうに持ち上げ様としたクローリアをスティールが助けて槍を預かってくれた。 いきなり人が変わった様に品物を見定めるウィリアムに、クローリアは目を見張った。

「ウィリアムさん・・、どうかしました?」

ウィリアムは、クローリアに顔を向けると。

「いえ」

と、微笑むだけ。

クローリアは、その微笑が何かを見つけた時のウィリアムだと思い。

(なんで・・、こんな所からそんな?)

ウィリアムの微笑みが、何時もの笑みでは無い鋭い微笑に・・・。 クローリアは、何か恐怖にも似た感覚を誘発されたのである。 こう・・、ドス黒い闇の中に何かを求めて潜り込む様な・・。

「おい、待たせた。 3人とも、こっちに来てくれ」

と、奥に向った役人の男性が戻って来た。

ウィリアムは、直ぐに。

「あの、随分とこのお店は手広い商売を為さっているんですね」

と。

役人の男性は、いきなりの話の振りに驚いた様子で。

「あ? あ・・・ああ。 コンランさんの店は、この通りじゃかなり有名な店だ。 色々と、必要な物が揃うとも噂がな」

ウィリアムは、陳列されている日用雑貨を始めに、生活必需品・乾物・旅の必需品などに合わせて、筆や紙や色々揃う品揃えを見回し。

「ですね。 でも、中には少々値の張る物・・・」

すると、見張りをして立っている小太りの役人が、右手より。

「だろう? 少し高いんだよ・・。 でも、他の店より室はいいからな」

ウィリアムは、納得の頷きを見せて。

「確かに」

そこで、奥に行って来た役人が。

「とにかく、奥に来てくれ。 主任が、遺体を診て欲しいとさ。 もう、死後少し経ってる。 早く、地下安置所に移したいらしい」
 
スティールは、ウィリアムを見て。

「行こう。 天才探偵~」

僻む様な目つきをしてウィリアムは、スティールに噛み付く様子を見せて。

「バカ」

と・・・。

クローリアにとっては、自分よりスティールに素の顔を見せるウィリアムが少し妬けた。

さて、槍を店の中に隠して、3人を案内をする役人の男性の後ろを着いて行けば。 店と家の境をしている壁の一角に設けられた階段を上り。 中1階とでも云う高さまで上がって伸びる廊下を歩く。 全面石造りで、タイル張りの壁。 廊下は青い色のタイルが壁で。 天井にはモザイク画の装飾が施され。 床には、花と蔦の模様の画かれた白い石だ。

「此処が、ロビーだ」

その開けた間には、右手の壁に漆黒の木製靴箱が置かれる。 靴箱の横少し放して、帽子やコートを掛ける金属フックが優雅に葡萄の姿を見せて2メートルの高さに在る。 ロビーの床には、雄々しき戦いの絵が画かれ、ロビーの左手は客用の中履きのスリッパが見える。 壁や天井にはグラスランプが小さな妖精の姿を象る。

「お金・・有りますねぇ。 コレ、純金ですよ・・・」

ウィリアムは、グラスランプは特注品で技術の必要な物だと看破し。 コートや帽子を掛けるフックハンガーは、何気に純金である。

「うはっ、純金・・」

スティールは、丸々“金”だと聞いて、そのハンガーが輝いて見えた。

役人は、ロビーを右に曲がって奥まで案内する。 人が死んだのは、浴室であると。

スティールは、クローリアにそっと寄り添い。

「ヌレヌレしちゃうな」

身の危険を感じたクローリアは、グッと杖を握って非難の目を向ける。

「ウィリアムちゃん、怖いわ」

スティールがウィリアムの背中に甘えれば、本人は素直に。

「クローリアさんが殴りやすい様に抑えます」

スティールは愕然としてウィリアムを見る。

「お前ぇ・・・俺を売るのかぁ・・・アハメイルで濃密な数日を過ごした愛人の俺を・・・」

ウィリアムは、無視して棄てた。

役人の後を行けば、暗い明かりの点いていない廊下を行く。 左手に夕陽の光が入る薄暗い部屋を3つ過ぎた右手に、タイル張りのトイレに入る入り口が有り。 その先直ぐに風呂場に入る入り口が開いていた。 浴室の入り口は、籐家具の仕切りを戸代わりにしている戸の無い入り口だ。 

「こっちへ」

と、中へ案内する役人に。

「あら~ん、もう来たの~?」

と、大人びた女性の声が。

スティールは、ハッとして反応。

(えっ?)

ウィリアムも、スティールが居るだけにハッと反応した。

「スッ・・」

勝手な真似をしないでとばかりに、振り返ってスティールの腕を掴もうとしたウィリアムだが・・。 女性に対するスーパーハイスピーディーな行動を見せる彼は・・・、もう其処には居なかった。

「・・・・」

「・・・・」

振り向いたウィリアムと、見合ったクローリアが見つめ合う。

そのウィリアムの背中に。

「フッ、こんな無粋な場所でこんな美しい女性を見れるとはな・・・」

スティールのキザなセリフが。

「あふ・・・」

頭を抱えたウィリアム。

クスクスと笑うクローリアは、ウィリアムの傍に来て。

「心中お察し致します」

頷いて前に向き直ったウィリアムの耳に。

「貴方が検死出来るの?」

「嫌、俺の連れがそうだ」

「ふ~ん。 なら、余計は引っ込んでてくれるかしら。 邪魔なのよ」

「・・・・」

浴室に入るウィリアムの元に、何か非常に不満を噛み締めるスティールが、両手をニギニギさせながら遣って来る。

ウィリアムは、呆れて。

「面倒は止めてくださいよぉ」

すると、スティールは浴室の内部を指差し。

「やっちゃって、やっちゃって、も~検死をスパッと。 見せ付けてやって」

と、丸で賭け事にでも負けた様な顔で云うスティール。

ウィリアムは、全く仕方無いと思いながら。

「お二人は、入り口で待っていて下さい。 一応、事件なら現場は荒らさないのが鉄則ですから」

スティールもクローリアも頷いた。

ウィリアムは、黒い制服の役人が2・3人立っている浴室内を見回した。 ピンク色のタイル張りで、一般の家庭の浴室としては広い。 宿屋でコノ位の部屋なら、4・5人の相部屋と同じは在る。 室内の3箇所に設置された竜胆の形を大きく象ったグラスランプには、この浴室を明るくする為に火が灯されていた。 流石に浴室だ、初夏の暑さに余計な湿気を与える。

「君が検死出来るの?」

ウィリアムに、そう言った女性が居る。 ウェーブの掛かった金髪が腰まで届く。 黒いシルクのスタイリッシュなズボンに、黒いジャケットの様な上着はハーフコート以上に伸びてタイトな物だ。 胸元から、お腹に掛けてⅤ字に見えるフリル付きの淡い蒼色のブラウスは、薔薇か・・牡丹かの花の模様が見え隠れし。 袖口に出たフリルを見る限り、貴族の様な印象を受ける女性である。 見てくれに気品が香り、切れた長い眼が強い印象を与える顔は美女だった。

(なぁ~るほど、これはスティールさんもフラれたら悔しいですね)

自分とはしては何も感じない所だが、スティールなどにはこの手の美人は好きそうなタイプだ。 年頃も、中年に差し掛かったばかりと云った印象で、女らしさが迸っている。

スッきりとしたボディラインが良く解る立ち方で、右手を腰に当ててウィリアムを見てくる女性役人に近寄って対峙したウィリアムは。

「斡旋所で依頼を請けて来ました。 チーム“セフティ・ファースト”のリーダーでウィリアムと云います。 少しばかり知識が有るので、出来る所まで診させて貰います」

若いウィリアムを見る女性役人は、軽くコクコクと頷き。

「助かるわぁ。 このまま置いといたら、ねぇ~」

と、浴室奥の床に寝かせられた人に視線を・・・。

ウィリアムは、頷くと遺体に向かいながら。

「斡旋所の主から、口の中に黒い小さな点が在ると聞きましたが・・。 この方は、病気だったのですか? そうなら、心臓発作とも云えますが」

と。 

ウィリアムに遺体への道を開いた美人役人は、初動捜査で事情聴取した配下の中年男性の役人を見る。

「ビョーキだったの?」

「いえ。 少し高齢ですが。 健康面では、右足が少し悪いだけで、病気は全く」

女性役人は、目の前に来たウィリアムを見て。

「ですって。 私は、この一件の捜査主任のミレーヌ。 事件か、事故か、解らなくて困ってるのよぉ」

すると、ウィリアムは顔を引き締めて。

「では、捜査して下さい。 病気でないなら、毒殺ですよ・・。 いや、自殺の線も有りますがね。 何れにしろ、少し大変です」

と、遺体に屈んだ。 死んだのは、老人だ。 少し肥満体型で、背丈はスティールより少し低い程度。 髪はもう白く、全体的に薄い。

「マジ・・・?」

ミレーヌと云う女性は、少し眼を光らせて屈んだウィリアムを見下す。

遺体を診るウィリアムは、体を触って。

「死後硬直が始まってますね。 死んだのは・・・お昼過ぎですか・・。 しかし、この口の中の黒い粒の点は解せませんね」

ミレーヌの横に控える役人は。

「どうして、毒と解るんだ?」

ウィリアムは、少し呆れ口調で。

「口内・・に黒い点、それから・・喉に少し炎症の痕が診られます。 後は・・・、指先が壊死するように変色してます。 同じ様に足の指も。 眼の血管が、異常に膨らんで凝固してますし・・。 考えられるに、呼吸器に被害を及ぼす毒ですね。 細い血管の中で先に薬の成分で血が固まったのでしょう。 しかし・・・、その症状が全身にも見られます・・。 コレは、凄い遺体ですね」

死んだ老人は、ギョッとした眼で死んでいる。 最後の死に至る時が激痛だったのか、何か衝撃的だったのか。 全く眼を閉じない。 

ミレーヌは、ウィリアムの脇に屈んだ。

「ね。 毒は特定出来る?」

締りの出た声に気高い気質が見え始めるミレーヌに、ウィリアムは真剣な顔で向くと。

「やってみましょう・・。 少し、汚い実験しますが、いいですか?」

ウィリアムの鋭い視線に気圧される思いがしたミレーヌは眼を見張り。

「“汚い”?」

ウィリアムは立ち上がると、腰のサイドポケットの中から白い紙を取り出し。 万能ナイフを抜いて短冊に切り分けながら。

「この手の症状の出る毒は、世界に幾つか有ります。 だが、今の時期や世界情勢や歴史などを踏まえても、絞れるのは3種類。 内、2種類は作るのは深い知識と経験が必要ですが、比較的材料は手に入れられる物です。 ですが、残りの一つはその他2つとは、入手の面で対照的な立場にあります。 その、1つと2つの毒を見分ける簡単な方法は、人のオシッコで解るんです」

同じく立ち上がったミレーヌは、納得の頷きで。

「ナルホド・・・ね」

ウィリアムは、ミレーヌを見ると。

「すみませんが。 死んだ状況を教えて頂けませんか?」

「ええ、いいわよ」

さて、この老人の名前は、“ダレイ・コンラン”氏。 年齢は72歳。 マーケット・ハーナスでも、それなりの威勢を持った商人で、独り身だとか。 死んだ時は、浴槽の中に浸かっていたらしい。 発見された時は、非常に変わっていた様子だったらしいと。 と云うのも、顔に黄色いタオルをキチンと4つ折に畳んで乗せて有った。 浴槽の縁に頭を上向きに預けて、タオルをを被っていた訳だ。

ウィリアムは、正に死体の浸かっていた浴槽を見た。 金属製の横長い器の様な形で。 貴族の女性が好む様式の物だ。 

「水をはって、下から薪で暖める物ですね。 お湯は・・・、抜いたのですか?」

ミレーヌは、呆れて頷く。

「発見した後に、来たこのお爺さんの家族が抜いちゃったって」

「ナルホド」

そのウィリアムの元に、桶に入れられたタオルが寄越された。

「コレだ」

中年の男性役人は、桶を差し出す。

ウィリアムは、そのタオル・浴槽・床・壁に切った短冊の紙を貼り付けて濡らすと。

「誰かトイレに行きたい方居ますか? 少量でもいいのですが、反応を見るなら長く我慢している方がいいのですが・・」

すると、ウィリアム達を案内して来た細身の役人が。

「俺でいいかな・・。 我慢してたんだ・・」

ウィリアムは、その役人に歩み寄って。

「お願いします。 濡れた部分に、しっかり掛けて下さいね」

「ああ、解った・・」

役人は、小走りで隣のトイレに向かって行く。 やはり、我慢していた様子が窺えた。

ウィリアムは、浴室の中央に立って考え始める。 

「・・・」

その姿を見るミレーヌの目つきが、明らかに変わったのはクローリアやスティールも解った。

「ねぇ・・・、君の名前・・・。 ウィリアムよね?」

突然に、そう話しかけるミレーヌ。

「ええ、そうですが」

考えながら応えるウィリアム。

「もしかして・・・、君ってコンコース島に居なかった?」

ミレーヌがこう言ったのに、ウィリアムとスティールが反応するのは同時である。 先に、スティールが。

「良く解ったな。 もしかして、天才?」

だが、ウィリアムは違う。

「噂ですか?」

ミレーヌは、少し顔を明るくさせて。

「はは~ん。 モルビットさんの云ってたウィリアムって、君の事かぁ・・・」

「モルビットさんを、知ってるんですかっ?!!」

「ええ。 何度か、島経由の船の密輸事件とかの捜査でね。 君の事、一杯聞いちゃった」

と、笑うミレーヌ。

ウィリアムは、モルビットがどれだけ自分に期待を寄せていたか。 思い知らされる。

(此処まで来て、モルビットさんが絡むのか~。 世界って狭いなあ・・・)

と、呆れてしまった。

其処に。

「ミッ・ミレーヌ様っ!!! 大変ですっ!!!」

トイレに向った役人の声がする。 ハッと声の方を向いた一同の中で、出入り口に立っていたクローリアとスティールは、雫を垂らしている紙が先に見えて。 急いで走って来る役人が、自分達を見ていないのに驚いた。

「いやだっ」

「おいお~いっ!!」

左右に別れて役人を通した二人。

だが、その役人は興奮のままにミレーヌの前に走り込み。

「ミレーヌ様ッ!!! へっ・変色しましたっ!!!!」

と、ミレーヌの目の前に、雫の垂れる紙を突き出したのである。

「・・・・」

黙るミレーヌ。

「お・・・おい・・・」

引き攣る他の役人二人。

ウィリアムは、黄緑色に変色した紙を見て愕然とした様子に成った。

「まさか・・・、信じられない」

ウィリアムが、一人で皆に背を向けて考え込みだす中で。

「お前はぁっ!!!! そんなバッチイ物を何で私の目の前に突き出すのよぉぉっ!!!!!!!!!」

ミレーヌのブチキレた怒声が浴室に木霊した。
次話、予告。

毒を特定したウィリアムだったが。 事件か、事故かは曖昧だった。 事情聴取に望む事に成ったウィリアムとチームの面々は、長年に渡ってダレイと云う悪徳商人に苦しめられた家族を見る事と成る。

次話、数日後掲載予定。

どうも、騎龍です^^

ハイスピードでお送りする今、毎日がパソンと原稿用紙の睨めっこです^^;

K編の編集は、とても出来ないと。 来年の春先にまで持ち越す事で匙を投げました^^;

ご愛読、ありがとうございます^人^


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