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7.摩天楼に君臨する王と、堕ちたヴィーナス
7.摩天楼に君臨する王と、堕ちたヴィーナス




Kが消えて、ポリアは仲間を見た。

「じゃ、捜索しましょうか・・・待ってても仕方ないし」

イルガは、マルヴェリータやシスティアナに。

「のお、そんなに上の主の力は強いのか? 感じないワシには、ただ不気味というか・・薄気味悪い印象しかないんじゃがの」

マルヴェリータは、ドレスローブの身を自信を両手で抱く様にして。

「凄い波動よ。 まるで、生きてる事自体を責められてるみたいに・・・。 だから、湖から出てきたモンスターの気配さえ感じられなかった・・・」

システィアナも、ブルブル震えて。

「うえのひと、こあいですぅ~」

「ふむ、余程の相手と云う事か」

マルヴェリータは、Kの消えた上を見て。

「正直言って、上の主に直接会ったら、私やシスティは気絶するかも・・・。 この距離で鳥肌どころか気分が悪いもの」

ポリアは、Kがコレも頭に入っていたのかと考えたが・・、今はその議論をする時でも無いと思い。

「とにかく、動きましょ」

「そうね」

と、マルヴェリータ。

ラキームは、ガロンと目を合わせてからポリアに。

「じゃ、我々は一階を見る。 一番逃げるのにいいからな。 お前達は、二階でも行け」

ガロンは、こんな横柄な言い方では、ポリアがまた怒るのではないかと思ったが。

「丁度いいわ。 バカの面倒見なくていいんだから。 さ、上行きましょう」

ポリアは、ドライに対応する。

「バカだとっ?!」

怒るラキームに、ポリアは。

「アナタのお父さん、病気なんだろうけど。 息子がこんなバカに育って悲しい限りよね。 凄い人みたいだけど、子供にどんな教育してたのか呆れるわ。 もし、しっかり教育しててアナタがこんなだとするなら、鷹がバカ産んだわけよね?」

これは、ラキームの怒りに油を注ぐことになる。

「ふざけるなっ!!!!!! 我が父を侮辱する事は許さないぞっ!!!!」

金きり声のような、奇声に近い声。

ポリアは、益々呆れてしまった。

「一番の侮辱は、アナタの存在よ。 せっかく町のために頑張ったのに、息子のアナタがそんななんだもの。 しかも、町に人に愛されたクォシカを死に追いやって・・・・自分のやった行為に恥すら感じないんだから、しようがないわ」

と、二階に上がる。

マルヴェリータや、システィアナは口も利きたくないので、黙って後に続く。

イルガの前に居たシェラハは、怒りに顔の歪むラキームを見て。

「アクレイ様を面会謝絶にして、自分の自由に遣りたいようだけど。 絶対にそんなことさせないから・・・クォシカの仇は、貴方を町史にさせない事で討ってやるんだからねっ」

「うぬぬぬ・・・」

ラキームは、ポリア達を睨む。 憎しみめいた眼であった。

ガロンは、ラキームを見て。

(町史に成れないようなら、コイツに着いているのも無駄な話だな・・・だが。 此処を脱して成り行きを見守るためにも、コイツを守らねば・・・)

ガロンからすれば、冒険者を半ば引退したようなもので。 ラキームの出世は、自身の安泰だが。 万が一にもラキームの地位が失われれば、ガロンとて金の入る宿主を失う訳だ。 しかも、ラキームの警護を受けている身なのにラキームに死なれては、自分に責任が及ぶというものである。

ま、ガロンにしては、ラキームはステップの最初に過ぎない。 更なる上の地位を持つ者に取り入ろうと思っていた。

さて。 ラキーム達は、階段脇から右の扉の奥を見に行こうとしていた。

「クソ・・あんな女に侮辱されるとは・・・剣の腕さえなければ俺の奴隷にしてボロボロにしてやりたい」

この期に及んで、なんたる一人言か・・・。

兵士もガロンも、閉口してしまう。

一方、二階に上がったポリア達。 踊り場から回廊を渡って、二階廊下に行った。 二階の廊下は、鋼鉄の手摺りと壁に挟まれたロビーを上から取り囲むような円を描く。 手摺りが風化してか錆びてはいるものの、全く触ってもグラついてはいなかった。

ポリア達は、二階左側に渡った。

「しっかし、埃っぽい」

ポリアは、埃と蜘蛛の巣だらけの至る所を見回して、空気の悪さが胸に嫌悪感を催して来るのが嫌だった。

円を描く廊下だから、成りに歩けば、一周してしまうが。 手摺りの反対の壁には、部屋へ行けるドア枠が開いている。 一階の構造に合わせると。 右側の廊下にはドアは2つ程しか開いていない。 左半分は、建物内に入って来た湖側の玄関の上辺りから、大階段の裏に掛けて七つほどの扉があった。 

ポリアは、一つの部屋に顔を覗き込ませた。 ドアは、上からポリアに腰辺りまで朽ち壊れ、下の部分はかろうじて引っかかっている様な感じである。

「うあ~。 真っ暗・・・しかも部屋の中はグチャグチャよ。 入る?」

イルガも、中を覗く。

「これは酷いですな~。 戸棚が全て傾いている・・・、しかも、人が奥に入って行くゆとりがありませぬな」

「そうね・・・倒れ掛かってる棚が崩れ落ちそう」

マルヴェリータが、後ろから。

「中に入れないのなら仕方ないんじゃない?」

ポリアは、万一も考えて。

「一応、入るわ」

と、朽ち残るドアを蹴った。 埃を立ててドアは崩れる。

「カビ臭い・・・」

腕の服で、口と鼻を押さえた。 ライトスタッフを持つポリアが中に入って、辺りを見回す。 此処は書庫らしく、無数に散かった本がボロボロでもう読める状態ではない。 しかし、その崩れた本棚から出ている本の数はかなりの量だ。 後ろを見れば、滅茶苦茶になった部屋が続き、先の上の所から、光が薄っすらと篭れていた。

「どうやらこの部屋は、此処から部屋が奥に伸びてるみたい。 先の廊下からも入れるみたいよ」

「ポリア、他にかわったところは?」

ざっと見て、全員が入れる間は全く無い。 ポリアとマルヴェリータが入ったら、立ち往生していまう。

「ん~、向こうから入ってみよう。 こっちは、ちょっと本棚が倒れて朽ちて奥に入って行けないわ」

ポリア達が二階を捜索し始めていた頃。 下では、ラキームが広い広間に居た。

「クソっ・・言いたい放題言いやがって・・・」

まだ、ポリアの言った事に腹を立てているらしい。

先頭のガロンは、入って行くにしたがって左右の壁が、丸で降り階段の手摺りのように下がって広がるのが不自然に思えたのだが・・・。

「ほう、これは・・」

広い、円形の広間に出た。 どこも埃が堆積しているが、どうやら舞踏会などを催す演芸場の様な場所であった。 ライトスタッフで辺りを照らしてみれば、右手には壇上になるステージもある。 ステージはかなり広い。 凝った演劇もすんなり出来る広さはある。

ラキームは、呆られたバカらしく。

「なかなかいい所ではないか・・・後で清掃させれば住めそうな」

ガロンは、内心に流石に呆れて。

(止めとけ、バカ殿。 こんな所、お前の自由勝手で住んだら国から叱責を受けるわ)

と、思いつつも。

「ラキーム様、あちらに」

と、バカ・・・いや、ラキーム左側に誘導して。 一人の兵士に、

「おい、ステージの上を見て来い。 此処に居る」

「は」

兵士は、ステージに向かって行き、自分の肩ぐらいの高さの壇上に這い上がった。 ガロンは、周囲を他の兵士に警戒させて、自分は行かせた兵士を見ていた。

兵士は、右に左にとステージを行き。

「ガロン様、左の奥に下り階段があります」

ガロンは、湖側の入り口の壁に沿った廊下を思い出し。

「多分、玄関に行く廊下に当たっているはずだ。 ま、いい。 先に奥だ」

「は」

兵士は、戻ってきた。 

ラキームは、円形の舞踏場の周りにある観覧席を見る。 一階、二階、三階まであって、五百人くらいは楽に入れ席に就けそうだ。 観客席であったであろう木の朽ち果てた残骸が、辺りに散らばって視るも無残である。

「しかし、昔の皇族とは凄い権威が有ったのだのう・・・。 俺も、それくらいの権威を我が物にしてみたい」

「ですな。 ラキーム様なら、町史として威光を強めればいずれ辿り着きましょうと」

ガロンの下手なお世辞に・・・いや、お世辞にも映らないような言葉だが、ラキームは頷いて。

「うむ、その通りだ」

兵士も、ラキームを見ていない。

さて、Kはどうしていたか・・・。

三階から、螺旋階段で上に上に・・・。 各階層に行く回廊が、木の枝のように伸びていく。 だが、Kは、階段で上しか目指さない。 走っている。 もう三十階以上は上がっているのに、全く息の乱れがみえない。 

(どんどん、近づいているな)

身体に感じる怨念のエネルギーは、徐々に強まりつつある。  黒い豹のような軽やかさで、コートの裾をはためかせて更に上を目指した。

実は、K。 四階で、各階に行く魔法の床が移動出来る空間を見つけていた。 だが、肝心の床が無いのだ。 恐らく、アデオロシュが上にあげたのではないかと踏んで、一気に上に走っているのだ。 

そして、この今のKを見たなら・・・ガロンは、Kとは死んでも喧嘩はしないだろう。 そう・・・Kは明かりを全く持っていない。 その理由・・・名うての汚い冒険者だったガロンなら解るはずだ。

そして、ガロンはそれに、この時に気付くのだ。

「ラキーム様、どうやら奥にも廊下に通じる出入り口がありますな」

舞踏場の左奥には、客席を二分するように切れ間があり。 その切れ間が、通路として奥の廊下に繋がっていた。

ラキームは、ふと思って。

「ガロン」

「は? どうしましたか」

「あの包帯男・・・ケイとかいう者だ」

「は? あの男が如何致しました?」

「いや、私の家臣に出来ぬものかと・・・な」

「何ですと?」

ガロンは、ラキームのバカが筋金入りを超えて、神様級に思える。

(本気か?)

ラキームは、ふざけているのか、ガロンに気を遣うような言い方で。

「御主の下に置ければ、いい働きができそうな男ではないか。 ん?」

ガロンは、本人の前で無い事を助かったと思う。 正直Kの方が、剣の腕も、頭の回転も上なのだ。 あんな者を配下にしたら、ラキームは絞首刑に最速で向かうハメになるだろう。 まずは言ってみても、了承はしまい。

「ラキーム様、あの男は信用に置けませぬ。 冒険者をやっているうちは、無理かと・・」

これが、ガロンに言える最大のフォローであった。

「ふむ、そうか・・・確かにそうだな。 ガロンの言う通りだ」

(当たり前だ、大バカが)

ガロンが、そう思った時・・・。 ラキームは、この時二階でもポリア達が同じことを言い合っている内容を口にする。

「しかし、不思議な男だの。 あの包帯男、自分は明かりも持たずに暗い上に行きおったわ。 こんな暗い中、どうやって見えるのか」

ラキームの言葉に、ガロンがハッとして立ち止まる。

(明かりも無く・・・・身のこなしが軽い・・急所を・・・・まさかっ!!!!!!)

ガロンも、冒険者を離れてやや久しい。 冒険者をやっていたなら、直ぐに辿り着いた答えかもしれない。

(な・・なんて事だっ。 この俺が、こんな事も忘れているとは・・・あの男は、マズイっ・・マズイぞっ!!!!!!)

パッと振り返り、自分を眺めていたラキームを見て。

「ラキーム様っ」

と、言った時である。 暗い闇の中をそよぐ風の様に。

―ラキーム・・・・・・・・・ん?―

声だ。 まだ若い女の声である。 微かながら響いた感じがした。

「ん? ガロン・・・なんだ? 今の声は?」

ラキームは、ガロンの言葉も、女の声も気に成った。

そして・・・また・・。 ガロンが廊下に行きかけたのを止めて。

「ラキーム様、女の声ですか?」

と、ポリアが悪口でも言ったのだろうと思ったが。

「ラキーム・・・あぁ・・・ラキーム・・・」

こんどは、確かにステージの方から、絹を擦るような細い音で女の声がした。

ラキームは、この声に聞き覚えが有った。

「ん? 知ってる様な・・・声だな」

兵士の一人が、

「ラキーム様、向こうの壇上から聞こえて来ました」

と、後ろを指差した。

ラキームは、ガロンと見合って兵士に。

「今し方、あの壇上には見に行ったではなかったか?」

ガロンは、ラキームの横を行き。 また舞踏場の中央付近に戻った。 

「ラキーム様の名前を呼ぶのは何者かっ?」

後ろに、兵士に囲まれたラキームも続いた。 

明かりに照らされた壇上の右隅に、風化して壊れかかったテーブルが有ったのだが・・・。 その上に、何かが乗っていたのが見えた。

「ん? ガロン、今のは・・」

と、ラキームが言うのに合わせて、ガロンが明かりを戻せば・・・。

「あ゛っ!! クォシカっ!!!!!!!!!」

ラキームの驚きの声は、ポリア達にも聞こえた。 埃に塗れて、書庫を探し回っていた所だった。

「ええっ?」

驚くポリアに、マルヴェリータが。

「ポリアっ、下に」

「クォシカっ、ホントに?!」

驚くのは、シェラハも同じ。

全員で廊下に出て、大階段の踊り場に向かおうと回廊に入った時だ。

「あ゛、モンスターっ!!!」

三階から、スケルトンが来ていた。 しかも、紅い・・・。

―う゛あ゛・・・・―

ゾンビの唸り声が、三階から聞こえて・・・ポリア達が見ていた視界の中で、三階・四回の階層から、ゾンビが四体近く一階のロビーに落ちて行く。

イルガは、事態が一気に切迫したのを感じた。

「お嬢様っ!!」

ポリアは、紅い血の色の汚れた感じのスケルトンに斬りかかった。

「たぁっ!!」

しかし、

「えっ?」

ボロボロの剣で、簡単に防がれた。

「イルガっ、シェラハを!!」

マルヴェリータが、一階に落ちたゾンビに向かう為に、ポリアの背後を走り階段を駆け下りた。

そして、ラキームの。

「う゛ぎゃあああああああああああーーーーっ!!!!!!!」

と言う大絶叫が上がって、戦いの幕は上がった。

ポリアの助太刀で、イルガが突き出した槍を簡単に避けた紅いスケルトンは、パッと階段の上に飛びのいた。

「イルガっ、コイツ強いっ!」

「はっ」

踊り場で、ポリアとイルガで紅いスケルトンを向かえ討つ。

一方、ラキームの方は・・・・。

壇上のテーブルの上に、クォシカの顔があった。 黒い髪が濡れているかのように艶やかで、スッキリとした小顔の美しい娘である。 鼻筋の通りから、眼の見開かれた作りなど確かにラキームが好きになるのも解る。

「クォシカ・・生きて・・」

と、近寄ろうとしたラキームを、ガロンが止めた。

「お待ち下さいっ あの者、ヘンです」

ガロンは、肩まで見えているクォシカが何も纏っていない白い蝋のような肌を魅せ。 更にネコの様な瞳を輝かせるクォシカに異変を見た。 

クォシカの口元・・・白い肌に美貌を生み出す為に取って付けた様な赤々とした鮮血のような唇が、突然に“ニヤリ”・・・と笑ったのが、刹那。

「ラキーム・・・来てくれたのね・・・」

喋りながら伸びる紅い舌は、毒々しいくらいに紅い

ラキームは、幻の美女を見るかのように。

「クォシカ・・逢いたかったよ・・」

すると、クォシカの口が、ニパァ~っと尋常では無い裂け方で、耳の近くまで切れて開かれる。

「ひぃっ!!」

ラキームが、怯えてたじろいだ瞬間。 

「気をつけろっ!!!!」

と、ガロンが叫んだ。

だが、兵士も、ラキームも、ガロンですら驚いたのは、この次の瞬間だ。 いきなり、クォシカの身体がユラユラと揺らめきつつ、ぬ~っと伸びていく。

「あ゛っ!!」

クォシカは裸である。 胸が露わに・・・。 だが、それよりも驚くのは、その伸びた胸から下である。 長々と蛇の胴体と思える身体に変わり果てていた。 その伸び上がった高さ、見上げること五メートル近い。

「あ・あわあわあわわあああわわあわわあわわわわ・・・・」

ラキームが、ワナワナと振るえて後ずさり。

揺らめくクォシカの変わり果てた異形の者は、不気味に光る猫の目の様な瞳をラキームに向けて。

「ラキーム、待ってたわ・・・。 さぁ、私にその血肉をよこしなさいっ!!!」

その声に合わせて、観覧席から何かが飛び降りて来た。

「ハッ?!!」

ガロンが振り向けば、そこには紅いスケルトンと、蒼い全身のゾンビが・・・。

「お前・・ギーシン!!」

そのゾンビの男・・・まだ人の姿をしっかり保っていた。 そう、ガロンの元手下で、クォシカを攫う為に雇った冒険者のリーダーであった。

眼がやや飛び出て、顔や手の皮膚が傷だらけで化膿したように爛れていた。 だが、何よりも、ギョロギョロと動く眼が、ガロンに止まり。

「グヘヘヘ・・肉・・肉くれよ・・・」

ガロンは、異常を悟り、

「下がれ!!!!! ロビーに出ろっ!!!!」

その時、クォシカが壇上から滑る様に下に降りて、ラキームに向かう。

「う゛ぎゃあああああああああああーーーーっ!!!!!!!」

ラキームの絶叫が上がった。

さて、こうしてまた戦う局面を迎えた訳だが。 いきなり、強敵達に囲まれたポリア達。 Kが居たさっきまでとは、形勢は違った。

ポリアと、イルガの二人で掛かる紅いスケルトンは、普通のスケルトンと一味違う。

「そらっ!!」

イルガが突いて、隙を作っても。 ポリアの斬り込みを開いた右手で受け止めたり。 逆に鋭く斬り返して、二人で防がないと。 シェラハが危ない。

一方、マルヴェリータがその実力発揮だ。

「想像の力は万理の力・・・我が魔力にて破壊のナイフとなれ」

杖を胸に念じれば。 頭上に現れる渦を巻いた乳白色の力。 マルヴェリータが杖を振るってゾンビに向ければ、渦から現れたナイフが無数にゾンビに襲い掛かった。 瞬時に、身体に十数のナイフを受けたゾンビの身体に巻き起こる衝撃の爆発。 ゾンビの弱点の黒い光を引き裂いて倒した。

一方。

ガロンは、化け物と化した元仲間に斬りかかり。

「ラキーム様を守れっ。 強い奴には束で掛かれっ!!」

兵士三人が、跳び掛かってきた紅いスケルトンに向かう中、ラキームは一目散にロビーへ走った。

「ラキームっ」

クォシカの姿をしたモンスターが、その太い蛇の胴体をうねらせて、ラキームの後を追った。 ロビーに向かうクォシカの蛇の胴体が、競りあがっている左右の壁を壊した。

「うわあーーーっ!!!」

ロビーに出たラキームは、歩いていたゾンビを見て。

「うぎゃああああああっ!!!!」

涙眼で大声を上げて、ロビーを走って横切り左の扉へと逃げる。

「待てラキームっ!!!」

ゾンビと跳ね飛ばし、クォシカの姿をしたモンスターは、ラキームを追う。

「な・なによアレっ?!!」

マルヴェリータが、四体のゾンビを倒し終えた時に、異形の姿をしたクォシカを見た。 ズルズルと出て、隣の部屋に入って行く蛇の胴体から尻尾は、優に七・八メートルは超えている。

だが、その姿を二階から見かけたシェラハは、ビックリして言葉を失った。

「う・・そ・・クォシカ・・」

それは、あまりにも変わり果てた親友の姿であった。

ポリアは、スケルトンと剣を交えていながら、それを見た。

「何でよっ、あんなにすんのよぉぉぉっ!!! 最悪じゃない!!」

「お嬢様っ、今はコヤツをっ!!」

二人は、唸って力んだ。

誰もが、包帯男を思った。

「着いたか・・・・」

その頃、Kは最上階に来ていた。 いきなり最後の階段は、真直ぐに伸び上がり、上がった先には、両開きの重々しい黒いドアが。 ドア前に立ち止まるKは、登って来た階段を見下して。

「そろそろ、下でもおっ始まってる頃か・・」

小声で呟く。 階段を走っている間、下に向かうモンスターの気配があった。 出遭ったものは全て倒したが。 残ったモンスターは、まだ多い。

(さて、さっさと片付けますか)

Kは、重々しい黒い扉を開いた。 開いた瞬間、黒い空気のような風がKの方に吹いて来る。 

(お~お~、息巻いて怨念を妖気にして吐き出してらぁ~。 ポリア達を連れてこなくて正解~。 居たら、全員が気絶してら~な)

Kは平気そうだが、重々しい空気には瘴気が含まれる。 メンタルにダメージを与えるモンスターのオーラであった。

Kは、部屋の中に踏み込みながら。

「あら~ま~、随分とオンボロになったみたいで・・・部屋か?」

と、周りを見渡した。 広い広い一間。 正面の先に、窓らしき枠が見えている。 大きいバルコニーに出るような窓だ。

Kの右手奥に、禍々しい気配を発する何かが居る。

「おいおい、せっかく来たのに労いの挨拶もないのかい?」

すると。

「フフフ・・・口が達者なようだな。 良く来た。 我が下僕にされたいようだな・・・、ノコノコと遣って来よってからに」

Kは、部屋を見回しつつ、

「来なくたって、御宅を倒さないと出れないから一緒じゃないか?」

「フン、戯言を。 私を倒すだと? この不死身に成った私を」

Kは、やっと声のする右を見た。 紅いチリチリとした炎のようなエネルギーが、奇妙な形に枠を作っている。 どうやら、椅子に座る人の形である。

「おいおい、魔域の結界陣はここじゃないのかよ。 参ったな~」

いきなり、Kの口調が伝法になる。

すると、いきなり正面の窓が全て開いた。 ボロボロの暗幕が、バタバタと外にはためいた。

「?」

あの、渦巻く不気味な紫色の空の鈍い光が入って来た。 Kは、視界が良くなったので再度見回した。 どうやら、謁見の間のようである。 長方形の間取り。 汚れて色の剥げが見られる蒼い壁は、昔から人気の高いマラカイトの壁細工だ。

「ほ~、向こうの壁にあるのは大昔の画家クックの作品かよ。 随分な格式だこと」

Kが見るのは左奥の絵。

その逆、右の奥には玉座が光を失いかけた金色で存在し。 長い総髪を後ろに流した初老の男が居た。 優雅に足を組み、礼服の貴族が好んだガウン風の服装に、フリルの襟・袖の白いブラウスがいかにも高貴な人物を生み出す。 

「三百年・・・いや、もっと時間が経っているのに、良くその絵が解ったな。 どうやら、そこらのバカじゃ無いな」

Kは、話し掛けて来た男を気にしていないままに、部屋を見て。

「全く。 結界陣は無い、クォシカの遺体も無い・・・痛い時間のロスだぜ」

男は、自分を気にしていないKをギリリと睨んだ。 細長い瞳は、如何にも気性が激しそうで、面長の顔に蓄えられた髭は、豊かにして長い。 髪も髭も白くなっていて、生気が宿った色は無い。 Kから感じる気配は、武術の心得など無いものと思えたのか。 この人物は、無知なバカにからかわれているようである。

「貴様、私を無視してるのか。 それとも、恐れて見れまいか」

Kは部屋の出口、階段に身体を向けて。

「悪ぃ、先に結界陣を探させて貰うわ。 御宅と遊んでられない」

と、出て行こうとする。

「ふざけるなっ」

男が言うと、階段へ戻るドアが閉まった。

「あ~あ、面倒臭いなぁ。 時代錯誤のアデオロシュじいさんと遊ぶのかい?」

その素振り、完全にバカにしている。 男・・・いや、アデオロシュ十四世は、立ち上がった。

「貴様、私を愚弄してヌケヌケと帰れると思っているのかぁっ!」

Kも、アデオロシュを見た。

「愚弄? 当たり前の事を言ったまでだろう。 御宅の時代は、昔の貴族の存在の意味を失った時代だ。 なのに、何時までも階級格差制度が在り続ける訳が無い。 時代の流れを読めなかったのは、自分だろう?」

アデオロシュは、Kより頭一つ半以上も高い背丈の男だった。 ゆっくりとKに近づく。

「時代だと? なんの才も持たぬ下賤な民が横行するのがかっ?!!!」

「ああ。 貴族とは、神と悪魔の戦い、世界の危機に人の為に戦った人物の血筋。 しかし、今も昔も、そんな奴が何人いた? 私欲と権力をさも才能のように言う阿呆が。 クォシカの遺体を捜しに来たんだ。 ドア、開けてくれるか?」

Kは、閉まったドアを左親指で指した。

アデオロシュは、鼻で笑ってマントを翻す。

「フン。 あの美しい娘は、私の愛妾となっておるわ。 遺体も、御主の探す結界陣の元に安置してあるわえ。 人に殺されし哀れな娘は、憎しみの仲間に加わったわっ!!」

「殺された? 追っかけてきた冒険者にか?」

「そうよ。 如何わしい不埒者が、その後に私に逆らおうて死によった。 今では、忠実な下僕だがな」

Kは、疲れたように。

「おいおい、疲れるなぁ~。 ここから出て、下に行って探して・・・上に来てコイツを倒す? 何往復すんだよ」

アデオロシュは、ほざくKを見て。

「私を倒すだと? お前のような手負いがかっ? 片腹痛いわっ!!!! じっくりと痛ぶって殺してやろう」

Kは、呆れた口調で。

「俺、手負いじゃないよ。 な、結界陣って、何階だ?」

Kのふざけた口調に、遂にアデオロシュが怒りだした。

「おのれっ!! 捨て置けば無礼な口ばかりっ!!!! 死ねっ!!!」

自身の腰に有った美しい金細工の鞘にあるサーベルを、構えもしていないKに向かって一閃した。

「おっ、あぶね」

Kは、ちょっとギリギリでかわす。

アデオロシュは、Kの身のこなしに嘲笑う。

「ほう、運が良かったな。 それで何時まで持つか? 私を倒して、地下の結界陣に行けるのか?」

Kの包帯より覗ける眼が、ギリッと細まった。

「ありがたいね、教えてくれて」

と、腰から一番長い短剣を抜いた。

「むっ」

アデオロシュは、Kの身体から気配が消えたのを感じて驚いた。

「貴様っ、まさか・・態と」

Kは、アデオロシュの瞳を睨んで、口元で笑うと。 

「一々本領を出すなんて、底が浅いんだよ」

と、瞬く間に斬りかかった。

「ふっ! はっ」

Kの太刀筋は疾風のようで、アデオロシュは一気に防戦に。 守ったアデオロシュの剣をKは蹴り上げて、がら空きの胸に剣で斬り込んだ。

「ぬわっ!!」

アデオロシュは、後ろにドッと倒れこんだ。 完全に斬り裂かれた衣服と、胸部。 だが、傷口は黒々としていて、血も出ない。

Kは、窓と窓の間の壁の影にいて、黒くなるままに。

「三百年、こんな所で隠れて遊んでるから外が解らないんだよ。 何時までもアンタに、対処が出来ない奴ばかり来ると思ったらぁ~、そら大間違いだぜ」

「おのれっ!!!」

アデオロシュは、フワリと身体が持ち上がり体勢を戻すと、Kに向かって斬りかかった・・・。 その剣が、Kの喉元に届こうとした一瞬だ。 Kの身体が、闇の中に解けて消えた。

「なにっ・・・」

アデオロシュは、空を斬って完全にKを見失ってしまった。 斬った其処に、人は居ない・・・。

そして、アデオロシュの耳元で、

「冒険者、なめるなよ」

Kの声。 だが、明らかに先ほどまでのKの口調では無かった。 低く、心を斬り殺すかのような凄みがあった。

「・・・」

アデオロシュの声は、出なかった。 

―ゴトリ・・・・―

床に、アデオロシュの首が落ちた。 アデオロシュの背後には、Kが立っている。

「・・・」

黙ってKは、剣を仕舞った。 人を斬ったのに、血すら着いていないのだ。 そしてKは、アデオロシュの前に戻って、バルコニーの外を見ると。

「おいおい、芝居なんてするな。 アンタ、芸人じゃないだろう?」

すると・・・・落ちたアデオロシュの首の瞳がギョロリと動いた。 彼の立ったままの身体、落ちた首が、解けるように赤々とした炎に変わっていく。 そして・・・消えた。

「フフフ・・・・アハハハハハーーっ」

部屋中に、アデオロシュの声が響く。

「なんという剣の腕だ。 これは御見それしたな・・・。 では死んでくれ、恐ろしき剣士殿。 もう、剣などは利かん」

アデオロシュの身体が、また玉座に現れた。 今度は、燃え上がる炎に包まれて、腰から下は、ボンヤリして判らない。

Kは、アデオロシュを見た。

「やっと本領発揮かい? 死体を見せて隠れてるなんて、遣り方セコいぜ」

瞳すら、炎のように燃えるアデオロシュ。 おぞましきモンスターだ。 

「喧しいわっ、これで終わりだっ!!!」

アデオロシュの口が、裂けて花瓶の入り口のように開いた。 その中は、あのゾンビのエネルギー源の暗黒の光が黒々と渦を巻いて蓄積されていた。 そこから・・・ヌウ~っと骸骨の姿をした黒ずくめの化け物が這い出てこようとする。

Kは、サッと腰にコートの下に左手を入れると、

「待ってた」

と、何かを投げた。 

“ヒュッ”と音が空気を斬った。 Kが投げたのは、白いナイフである。 ナイフは、現れ出そうとしている化け物と一緒に、アデオロシュの口を貫いてその身体ごと後ろに引きずった。 そして、“ドス”と音を立てて、飛ばされたアデオロシュは後ろの壁に突き刺さった。

アデオロシュは、直ぐに壁から離れようとするも・・・。

「ンガ・・・ぬ・・ぬげん・・・」

アデオロシュは、壁より離れようとせども、ナイフが刺さって体が動かない。 そして、刺された骸骨の化け物は、刺された場所から異様な白い煙を上げ始め、のた打ち回るように狂いだした。

Kは、アデオロシュに一瞥すると、

「あばよ、昔のバカ殿。 こっちは忙しいんだ」

と、アデオロシュとは反対の絵の飾られた壁に向かう。

「う゛ががががががああああ・・・」

急に、アデオロシュが苦しみ出した。 ナイフが、煌々と白い光を発し始めて。 口の中に渦巻く暗黒のエネルギーを吸収しだしたのだ。

「きぎざまああああっ・・なああんんだっ!!!」

声が割れて、身の毛がよだつような耳障りな声。

アデオロシュに背を向けたKは。

「ソイツは、鎮魂の遺碑架イヒカ。 死んだ僧侶が、真摯に生涯を神に捧げつつ生きた時。 死の淵で神を見ると云う。 その安らぎの心が、時として肌身離さない遺品に神懸かる力を与える。 退魔の力を持ち、あらゆる亡霊や亡者を静めるんだ」

と、説明してから、振り向く。 其処には、全身から煙を上げて、炎が消えかかるアデオロシュの姿が在った。 身体中がブルブルと振るえ、苦しんでいた。

「もうじき、楽になる。 憎しみに残って、これ以上家名を辱めるな。 滅びる時は、人は自分から滅ぶさ・・・。 じゃ、な」

「お゛・・にょ・・・れ゛ぇ・・・」

アデオロシュは、そう言った直後・・瞬間に全身が埃のように色褪せて、ナイフを残して床に崩れた。 ボロボロの服が、崩れた埃塗れになっていた・・・。

「やっと、消えた。 こっちか、魔法床陣は?」

Kは、部屋の奥で、円形のなにやら難しい文字のような物が画かれている床を見つける。 文字の部分が蒼・緑・赤・黄色と光っては消え光っては消えるのを見た。 これが、魔法床陣らしい。

「さて、もう一仕事だな」

乗って、やや中心のボコッと出ている丸い突起を踏むと・・・。 ス~っと下に降りていく。

さて、Kがアデオロシュを倒したのは、下で戦うポリア達に追い風を呼んでいた。

「あっ」

「まぁ」

マルヴェリータ、システィアナが、ゾンビをほぼ全て倒した時。 自身の身体に感じる重々しい気配が軽くなっていくのを感じていたのである。

「ポリアっ、Kが上の主を倒したわっ!!」

マルヴェリータは、腕の服の裾が切られて、白い肌が露わになり。 すこし、引っかき傷があった。 顔にも、疲労が見えていて、息が荒い。

「解ったわ!!」

まだ、イルガと紅いスケルトンを中心に、ロビーにてスケルトンやゾンビも相手にしていたポリアだ。

イルガは、渾身の突きで、紅いスケルトンが飛ばされたのを見た。 今まで、受け止められていたのに。

「お嬢様っ、どうやら主が倒されてモンスターが弱まりましたぞっ!!」

顔や、腕や、太股に掠り傷のポリアは、少し荒い息ながら、

「イルガ、一気にいくわよっ!!」

「はっ」

ポリアは、踊りかかって剣を振れば、防げないスケルトンがまた飛ばされて、階段にぶつかった。

(手応えあるっ)

マルヴェリータ・システィアナの後ろで、大階段の裏に隠れていたシェラハは、必死でクォシカを探していた。

「聞こえたかっ、主が死んだぞっ!!」

ガロンも、レヴナントにされた元仲間のギーシンと一進一退の攻防を強いられ、兵士三人は紅いスケルトンに防戦一方であり。 兵士の一人は、足を引きずっていた。

逃げようにも、もう逃げる暇が無かったのだが。

「このっ」

ガロンの一撃が、ギーシンの顔を斬った。

「あ゛~? おかおがさけたぁ~」

耳の後ろまで斬り込まれたので、顔の上唇から上が、後頭部に向かって後ろにもげ返っても良さそうなくらいに斬られているのに、ギーシンはガロンに襲い掛かる。 顔が、口より上が異常に揺さぶれる。

(チっ、やはり魔法じゃないと倒せぬか)

魔法の遣えるマルヴェリータやシスティアナに任せたいが、近いロビーの出入り口はクォシカの姿をしたモンスターが壊して塞がっている。 ガロン一人なら逃げてもいいが、今逃げ出したら、この兵士達は殺される。 一人だけで生き残れば、それなりに説明しないと町史アクレイには言い訳が立てない。

(冒険者と同じでは、中々いかぬわ)

ガロンは言葉成らずも唸る。

しかも、ガロンはラキームを探せずにいた。 ラキームの姿が・・・ポリア達にも見えてはいなかった・・・。  


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