ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
5、Kの推理、森の奥に潜む闇の根城へ
5、Kの推理、森の奥に潜む闇の根城へ




朝、Kの予想通りの雨。 昨日ほどの寒さは無いが、ポリアもマルヴェリータもベットから離れたくない。

kがシェラハの元に行こうと言って来たのは、ポリア達が起きてからの事だった。 

「? あら、ケイ・・・あなた、雨に濡れたの?」

マルヴェリータは、食堂にて見たKの髪や包帯が濡れているのに気付いた。

「ああ、詰め所に行って来た。 あれからどうなったのか聞いて来たよ」

「で?」

「農家と地主の元で働く力自慢な男が数人出張るらしい。 みんな、町を守る為に本気みたいだよ」

「そう、モンスターに遭遇しないといいわね」

マルヴェリータの顔は、やや曇り気味である。 役人ですら勝てないモンスターに、一般人が太刀打ち出来るわけが無い。

「だな。 だから、これからシェラハの所に行く。 日中のうちに話しておかなければならない」

「じゃ、明日は動くの?」

「当たり前だ。 あんな数のモンスターを嗾けてる。 向こうだって只嗾けてる訳じゃなく、皆殺しにする為によこしてるんだ。 痺れを切らせて、町に親分が来られたら厄介だ。 動ける時を十分に利用しないと」

「勝てるの?」

「さあ、勝てなきゃ町が不味いんじゃ~ないですか」

Kは、余裕を残して食事に入った。

全員揃っての食事・・・。 ポリアも、もうあれこれと言う気力が失せていたから、食事は静かなものだった。

そのうち、食堂に警備隊長がやって来た。

「あらら、なんかあったの?」

と、ポリアが問えば。 

Kが。

「いや、俺が馬車を頼んだ。 シェラハの家までね」

「へ?」

「どうしても、事件の一連の事を知りたいんだと」

Kが、自分達の居るテーブルに向って来る警備隊長をフォーク指し、ポリアは頷くだけ。

警備隊長は、K達の前に来て。

「馬車、持ってきた」

「ありがとう、行くとしますか」

ポリアは、宿の女将にまだ泊まることを告げて、シェラハの屋敷に向かった。 

雨の中、幌馬車に乗って向かう。 だれもが、黙っていた。

さて、シェラハの家に着くと。 シェラハが、待っていたのか直ぐに出迎えてくれた。

通された応接室には、K達五人に加えて警備隊長と、シェラハにコルテウ氏が集まった。 立っているのはKのみ。 他はソファーなどに座り、暖炉の前にKが立つ。

Kは、皆に先ずこう言った。

「これから話す事は、俺の推測が混じる。 流れを推理して分析して見たモノと思ってくれ」

誰もが、頷く。

Kは続けて。

「隊長さん、それからコルテウさんは、このことを誰にも言わないで欲しい。 ラキームの地位に関わる事だ。 下手したら、どんな事態になるか解ったものでは無いからな。 いいですか?」

「解った」

「約束する」

コルテウ、隊長がそれぞれ言った。

Kは、それを見てから。

「では、話す」

Kの話は、シェラハには信じ難いモノであった。

「先ず、クォシカの安否だが。 俺が思うに死亡している可能性が高い。 おそらく、クォシカの亡骸は公孫樹の森の中だろう」

Kの推理はこうだ。 ラキームは、クォシカとの結婚が破談したことに怒り。 何としてもクォシカを自分のモノにしようと、ガロンを使って無頼の金でなんでもする冒険者を雇った。 だが、クォシカは誘拐される前か、襲って来た時に捕まらないで森に逃げ込んだのだろうと。

あのゾンビとして現れた冒険者の死体は、その誘拐犯であり。 冒険者が目撃されたのが、隊長の詳細によればクォシカ失踪の前日であり。 その冒険者と会っていたのが、ガロンである事を言う。

「なんてことよ・・クォシカっ!!!」

シェラハは、顔を両手で覆った。

さて、ラキームは一番焦った本人だろう。 クォシカを捕まえに遣った冒険者も、クォシカも居なくなったのだから・・・。 冒険者達がクォシカを連れ去ったのではと思ったラキームとガロンは、苦し紛れからその行方を別の冒険者に探させることにした訳だ。 ラキームとの関係がバレなければ、万が一に事態が漏れても言い訳が効くと踏んだのだろう。 ラキームも手元にクォシカが居ないのは、色んな意味で不安だから。 

Kは続けて言う。 

「恐らく、ラキームも事態は察しているはずだ。 昨日の夜、ガロンが俺達の倒したゾンビを検めに来たと言うから。 一体どう判断するかは知らないが、安心はしただろう。 死人にクチナシ・・・だから」

ポリアは、ラキームの汚らしさに激怒して、

「そんなの最低じゃやないっ!!! 人一人死に追いやっておいてさっ!!」

「だな・・・だから、明日はラキーム氏にも森の捜索に来て貰おうと思ってる」

「言ったって来るわけ無いじゃないっ!!」

ポリアが怒鳴った。

「いや、方法は有る。 シェラハの行動で、動いて来ると思う」

シェラハは、涙の滲む赤い眼をKに向けて。

「一体・・どうすればいいんですか?」

Kは、声を緩やかにして。

「いいかい。 ラキーム氏に来て貰う意味は、あくまでも事件の現実たる解明だ。 仇を討てるかどうかは、解らない。 しかも、君に魔物の棲む森に来てもらわなければ、意味が無い。 来るなら、我々が全力で守るけど、危険な所だ」

それを聞いたコルテウ氏は、大いに慌てる素振りで。

「一体、むっ・むむ娘に何を?」

「簡単な事ですよ。 彼女に、一芝居を演じて貰う。 クォシカが生きていて、森に居るから迎えに来て欲しいと手紙が来たとでも言ってもらえればいいんです。 彼女がラキームにそう言って迎えに行くと言えば、ラキームも焦って出て来るでしょう。 俺等は、ラキームからの要請があれば、ラキーム側。 無ければ、シェラハに頼まれたと着いて行けばいい」

シェラハは、直ぐに。

「それなら、直ぐにやりますっ」

コルテウ氏は、ギョっとして。

「シェラハっ、そんなこと簡単に言うもんじゃ・・」

だが、シェラハは、Kの心情を一部詠んでいたのか。

「お父様、町に来るモンスターにクォシカが殺されてるかも知れないし、今は町にモンスターが来てるわ。 クォシカの捜索は、多分モンスターの退治にもなるわよ。 この人は、そこまで考えてるのよっ」

と、Kを指差した。

ポリアもマルヴェリータも、以外に鋭い感性だと思った。

Kは、頷く。

「ま、そうゆう事でもあるな。 クォシカの遺体が有るなら、恐らくはモンスターの主の元・・・。 向こうも、我々が侵入してきたなら帰すはずが無い。 退治してしまうのが、手っ取り早い」

コルテウ氏は、蒼褪めた顔で。

「でっ・・出来るのか?」

「出来ないことなら遣らないさ。 ミイラ取りがミイラになってはどうしようもない」

「しかし・・・」

うろたえる父親に、シェラハは言う。

「お父様、モンスターがもっと多く襲って来たら・・みんな死んじゃうよ。 大丈夫。 この人達、強いから・・・」

Kは、心配するコルテウ氏を含む一同を見て。

「もしやるなら、今日の明るいウチにやるしかない。 我々が自主的に行動した場合、ラキームの町史は安泰だ。 町の人が騒ごうが、ラキーム氏は父親の死後に町史と成って圧制にでるだろうな。 あの性格だもの。 ラキームには、それだけの権力があるから」

ポリアは、その意味が良く解らない。

「町史でも、そんなに権力あるの?」

「ラキームの父親ってのはな、実は今の現国王の弟なんだよ」

全員の動きが、ピタリと止まった。 ポリア、Kを見返して。

「う・・嘘でしょ?」

「ラキームの父親、アクレイ氏はな。 前国王と、専横激しい内政大臣の娘との間に生まれた子なのさ。 だが、アクレイ氏は学者肌の正義感溢れる人物だし、実の弟だ。 兄の現国王が即位した後に、町の圧制を憂いで居たからな。 権力に勝つ為に自分の弟を指名したのさ。 ま、表向きは弟じゃなくて、王の友人で同学の士でと言ったけどな。 アクレイ氏が、現国王の弟と知る人物は、この場の人間を除いたら十人と居ないんじゃないか」

「ま・・まさか・・」

驚くコルテウ氏に、Kは呆れさえ見える口調で。

「あのな。 この町の町史は、アクレイ氏以前は代々に渡って私腹を肥やす内政大臣なんかを歴任した男の一族が世襲してきたようなものだったのは、町のみんなが知っていたはずだろう? その挿げ替えに、その辺の一般人が選ばれるものかよ。 この町の利権に商人と役人の癒着があったのを知っていて、その一族の遠縁にて王の肝入りで息の掛かったアクレイ氏が選ばれたのさ。 ま、当時の内政大臣は、自分の娘の子供だから本当に首の挿げ替えと思っていただろうから。 アクレイ氏が改革に乗り出したのは、全くの大誤算だったろうがな」

コルテウ氏の驚きの顔は相当なものだ。 アクレイ氏と2人、怪物の様な権力者との戦いである。 2人、一般人と重い苦労を分かち合った仲だと思って来た。 コルテウ氏自身、そう思っていたのだ。 

Kは、更に続けて。

「あの専横激しいラキームの事だ。 親父が死んだら、また昔に戻してしまうつもりだろう。 今の内政大臣も欲深い男だし、ラキームとの接触はあるみたいだ。 美味しいお金の生る町の復活を大喜びだろうさ。 ラキームを町史にさせないようにするには、手立ては一つしかない・・・」

コルテウ氏は、震えた声で。

「な・なんでそんなことを・知ってるんだ?」

「ラキームの曽祖父にして、アクレイ氏の母親の親父さんは、この四・五年前に死んでる。 九十八まで生きやがった妖怪だが、その死は暗殺だと云われててな。 その頃に、俺の居たチームが、その暗殺に係わる事件にヤッカイに成った訳さ。 事件は、国の方で内々に処理・・・だから黙ってた」

この話は、有名で有る。 病気にも罹っていないその老人の変死は、町にまで噂が流れた程なのだ。

「そ・・そうか・・・アクレイが・・あんなに命を張って町のために頑張ったのは・・・自分の家の・・・」

コルテオ氏だから、共に戦ったから解るのだろう。 町史アクレイ氏は、町に蔓延る不正の全てを憎んだ。 そして、不正に敢然と戦い、国に対しての訴える影響力が強かった。 今思えば、どうして上手く行ったのか。 コルテオ氏は理解が行く。

シェラハは、父親に。

「お父さん、私、やりたい。 クォシカの遺体を取り戻したいし。 ラキームに町の平和を乱されたくない」

コルテウ氏の目に涙が溢れた。

「好きにしなさい・・・。 病気のアクレイも、どうせラキームの悪行を止められるなら、私の身内の方がいいと思うだろう」

すると、Kは短く。

「お嬢さんの安全は、この我々が責任を持つ」

コルテウ氏は、深々と頭を下げて。

「お願いします」

Kは、警備隊長を見て。

「いいか、誰にも言わないでくれよ」

「解ってる、男の約束だ。 俺はアクレイ様に仕えてる。 ラキームに仕えているわけでは無い」

Kは、シェラハに、細かい芝居の内容を説明した。 そして、終わるなりポリアに、

「ポリア、帰るぞ。 後は、事態が動くまでは静かに待つだけだ」

と。 話が終わったのなら、直ぐにこの家から去るというのである。 長居していて、町の噂にされても困る。 町に買い付けに来ている商人の中には、あくどい者も居るのだ。 金に成る為なら、何でもやる者も居る。

警備隊長の馬車にて、全員が宿に戻った。

シェラハの家は、アクレイの病気の為にと毎日野菜を卸しているらしいから。 大方、K達が去った後にでも行ったのかもしれない。

Kも、ポリア達も、宿に戻ると部屋から出ないで夜を待った。

Kがどこまで予測しているのか・・・。 また、どんな解決を望んでいるのかは全く解らない。 ただ、ポリアには、夜になってラキームとガロンがまた宿に遣って来た時。 Kの思惑は全て予定通りに運ばれているのだと認識した。

「どけっ」

K達が、のんびりと夕食に向かっていると。 食堂へロビーから遣って来た男が、入り口付近に居たお手伝いさんに乱暴な口を利いたのが聞えたのだ。

Kは見ない。 ポリア達が見れば、またラキームとガロンが遣って来た。

(ホント来たぁぁぁ~)

驚くポリア。

(ですな)

イルガも、ラキームを見るまでは半信半疑であったが。 こうなると、Kの相手の行動を読む力が空恐ろしい。

ラキームとガロンは、ズンズンとポリア達の前に遣って来た。

「あら~、町史さんどうしたの?」

と、ポリアがビックリして見せた。

ラキームの顔は、かなり焦っているようで。 イライラが面に出ていた。

「どうしたもこうしたも無いっ!!! お前達っ!! 情報を俺に何で流さないんだっ?!!」

Kは、全く知らないような素振りで。

「あ? 情報?」

すると、ガロンが。

「今日、コルテウの娘から言われたのだ。 クォシカの行方が解ったと。 明日、森に来い」

「おいおい、どうゆうことだよ。 居たならいいじゃないか」

すると、ラキームは怒りに任せて大声になった。

「クォシカが居るのは公孫樹の森だぞっ!!! 呪われた森に我々だけ行かせる気かっ!!!」

ガロンは、周りの客や宿の人の眼も在るのを見据えて、ラキームの興奮を宥めつつ。

「いいか、モンスターの出て来た森の奥に行かなければならない。 我々だけでは手が足らぬ。 コルテウの娘を守るのには、御主等の手助けが必要なのだ。 クォシカが生きていたら尚の事。 モンスターの根城を確かめる為にも、明日は森に付き合ってもらう」

ポリアは、困った顔で。

「濡れるのイヤだわ。 毎日、モンスターでずぶ濡れだったし・・・ねぇ」

最初の打ち合わせ通り、Kに言われた通りに渋って見せる。

ラキームは、右手に有った膨らんだ小袋を、“ドン!!”と、テーブルに置いた。 

「あわわ~」

システィアナやイルガやKが、勢いで落ちそうになった皿やコップを受け取る。

「これでどうだ!。 中には、別手当てで三千シフォン入ってる!!」

Kは、袋を見て頷く。

「なんとも妥当な危険手当だな」

ポリアは、態と。

「うはは~、報酬と合わせたら八千だわ~。 凄いわ~」

と、喜んで見せる。

Kは、ポリアに。

「リーダー、引き受けるかい?」

「いいんじゃない? 明日は、雨が上がりそうだって町の人が言ってたし。 濡れなきゃいいわよ」

Kは、ラキームに、

「引き受けよう。 で? 我々はあの地主の娘の護衛と、モンスターの排除でいいんだな?」

ガロンは、Kのセリフを聴いて。

(地主の娘か・・・。 やはり、夕方に来たシェラハの様子と合わせると。 対して繋がりの有る訳でも無さそうだ・・・)

ガロンは、自分で人を欺いて生きてきた。 シェラハとK達が会っていたのは知っている。 余りにも仲が良い雰囲気なら、怪しく思えるが。 見たところは、そうでもないようだ。 シェラハが、K達のことも含めて、冒険者を信用してない素振りを見せていた。

全て、一応の安心材料であった。

ポリアがお金に眼が眩むのも。 シェラハの事を他人行儀に言うのも。 仕事にやる気の無い素振りも、全てがKの計画に入った。 だから、Kは女将にまで見て見ぬ振りを密かに頼んでおいたのである。

「明日の朝には森に来いっ 遅れるなよ」

ラキームは、威張り腐ってこう言った。

「へ~へ~」

Kは言えば。

「ほ~いほ~い」

と、システィアナも続く。

「フンっ、全く金ばかり使うわっ」

と、ラキームが言うと。

「女は、金が掛かるモノよ」

と、優雅にマルヴェリータが言うのだから。 ラキームも二の句が繋げなかった。

「帰るぞっ、ガロン!」

「は」

二人は、図々しい限りで来て、帰る。

それを見送ってから、ポリアは肉を食べつつ。

「いよいよね」

Kは、金の入った袋をイルガに渡して。

「持っててくれ。 邪魔臭い」

「うむ」

Kの計画の行うままに、ラキームは手玉に取られた訳だ。 全員が、早く寝る為に部屋に戻った。

女性三人の部屋で、寝る準備に入った三人。 ベットの上で、マルヴェリータはポツリと。

「どうするつもりかしらね」

ポリアは、雨の弱まった窓の外を見て。

「何が? クォシカの事?」

「ううん。 全部・・・ラキームの事とかも」

「さあ、私達がどうしていいか解らないのに、Kの頭の中なんかサッパリ解んない」

「ね・・クォシカさんって、本当に死んでるのかな?」

ポリアは、黙った。

マルヴェリータの気持ち、ポリアも解る気がする。 

「マルタ・・・もう寝よう。 明日は、その答えも解るし・・・」

マルヴェリータは、俯いて髪に顔を隠して、

「そうね・・負けられないのもね」

二人の耳に、システィアナの寝息が聞こえていた。


次の日


「ふわ~あ」

ポリアが、まだ日の出過ぎた早朝に起きた。 昨日が早く寝たからだろう。 マルヴェリータも、システィアナもまだ寝ている。

「早すぎたか・・・」

窓を見れば朝日が綺麗で、雲は大分に晴れた。 少しして、Kが呼びに来た。

朝、女将しか居ない中で、五人は軽い食事だけする。

女将は、Kに。

「ちゃんと、みんなで帰って来るんだよ」

包帯男は、スープを飲んで。

「味付けが薄くないか?」

「贅沢を言うんじゃないよ」

「解ったよ」

女将はそれだけを聴くと、厨房に下がった。

Kとポリア達が宿を出たのは、まだ早朝だ。 町の農家の人たちが、晴れた事で畑に出たり、牧草刈りに出たりと動き出している。 ただ、どうも不安な面持ちの人が多いのは、モンスターの影響だろう。

さて、モンスターと二日続けて戦った公孫樹の森の前の道。 やって来てみれば、誰も居やしない。 砂利の道は濡れているから、朝日の光がオレンジに光っている。

ポリアは、ラキームの腹立たしい顔を思い浮かべて。

「あんにゃろ~、来て無いじゃない・・」

Kは、

「直ぐ来るさ。 それより、今日は波動がキツイな・・・大して強くなってないのに」

システィアナは、イヤイヤして。

「おっかないです~・・気絶しちゃったらごめんですぅ~」

僧侶は、闇の波動に対する感受性が強い分、感じる畏怖も強い。 強敵のアンデットモンスターの前では、恐怖に打ち勝たないと僧侶は気絶してしまう。

「ま、そん時はそん時だ」

Kは、然程も気にしていない。 イルガ辺りからすれば、この余裕か消えたらKはどうなるのかが怖い。

直ぐに、ラキームが眠い眼を擦っていたような顔で、ガロンと三人の兵士を連れてきた。 

「遅い登場ね」

ポリアが、呆れる。

「フン、真打は遅くていいのだ」

イルガに然り、ポリアに然り、ラキームの連れて来た兵士が、見回りをしていた役人とは腕が違うのは解った。 装備も、幾分しっかりしている。

現実、ラキームからすればこれでも不安だ。 昨日の夜。 Kの元に行った後に、警備隊長にも同行を求めていた。 だが警備隊長は、町の人や病気のアクレイ氏の安全の為に、自分や寺院の僧侶は町にいるべきと主張した。

実は、これもKの先読みで、警備隊長はKの言う通りにした。 本来なら、警備隊長が先頭切って行くべきなのだ。

そこに、町の裏道からシェラハが遣って来た。

「あ゛、ラキームっ!! それに、彼方達もっ?!!」

シェラハは、当初の予定通りに行動する。

ラキームが、一歩前に出て。

「シェラハ、私達もクォシカの迎えに同行するよ。 モンスターが出る森だ。 君とクォシカの安否が気に掛かる」

シェラハは、グッとラキームやK達を睨んで。

「そんなの要らないわっ!!」

すると、Kが直ぐに話の切り替えで。

「所で、本当に君はクォシカの行き先を知ってるんだろうな? ガセ掴ませて無駄骨折らせるなよ?」

と、シェラハに冷めた眼で言う。

シェラハは、その怖さにビックリして後ずさった。

「し・知ってるわよっ。 この森の奥には、古いお城があるんだから」

「ほう」

Kが関心するように言う。

そこに、ラキームも。

「それは、本当だ。 この森の奥には、昔の領主の城が有ると文献にあった」

Kは、ラキームとシェラハを交互に見て、

「そうか、じゃ~そこに行けばいいんだな?」

ラキームは威張って。

「そうだ、恐らくクォシカは其処に隠れているに違いない」

Kは、シェラハに寄って、

「じゃ、道案内を頼む。 とにかく、夜までに行かないと、モンスターが活発化する」

「わ・解ったわよ・・」

ポリアは、笑って。

「ま、安全は保障するわよ」

と、警護を買った事を言う。

「お金? 冒険者らしいわね」

シェラハが、ポリアに言う。

「金かなければ、飯も食えん」

イルガが言う。

ガロンは、それをしっかり見ていた。

シェラハを先頭に、公孫樹の森に入った。 春先で、新緑の青い葉が、濡れた枝に生えて光っている。

「凄い森だな・・」

ラキームは、蒼い上質の服にシルバーメイル(銀製の上半身鎧)を着て、白いマントを負う。 マントが汚れないようにと歩くのだが、木々が密集していてマントが濡れる。 無駄な努力だった。

Kは、公孫樹の木々を見て。 

「こりゃ~原生林だな。 大木もあるが、手入れが入ってないから進むには難しい」

すると、シェラハは。

「もう少し先に、街道みたいな道に出るわ」

これは、シェラハが幼い子供の頃にクォシカに連れられて来た経験だ。

Kは、頷くと。

「もしかして、周りより少し窪んだ道か?」

「ええ、そうよ」

「なるほど、昔の花道か」

ラキームは、バカ面で。

「なんだ? その花道ってのは?」

Kは、珍しく。

「ポリア、説明しやれよ」

ポリアは、眼を細めてKを見ると。

(この~、誰でも知ってる事を振ってさ~)

と、思いつつ。

「王城や、大邸宅の正門に行く道の昔の呼び名よ。 昔は、王や王妃なんかの偉い家主が通る道沿いには、花壇を作っていたからそう言うのよ」

ラキームは、ポリアを見て。

「流石は美しい者だな。 知識も豊富だ」

ポリアからすれば、こんなのは王都に居る子供でも知っている。 ましてや、Kに褒められるなら嬉しいが、バカ面こさえたラキームとなると、逆に屈辱に思えてくる始末。

(う゛~、なんかバカにされてる感じが・・)

そこに、心を察したKが。

「素晴らしい説明だ」

と言うし。

「せつめいだ~」

と、システィアナまで続く。

(くそ~、完全にバカにしてる・・)

シェラハの言った通り、半時(約一時間ほど)行った所で。 ガクッと下がった道に出た。 手入れがされていないから、道に木が生えていたりもするが。 馬車三台は横になれる余裕のある道だ。 手入れがされていれば、街道のような立派な道だろう。

Kは、道に下りて。

「向こうは、途絶えてる」

と、南の道を指差す。 少し先で、道が森に変わっていた。 水の音もする。

シェラハが、

「向こうは、川の氾濫があった場所よ。 父の話じゃ、地盤の沈下が有ったって。 でも、森が怖いから、沈下した所は埋め立てて森にしちゃったみたいよ。 水の音は、町に来てる水の分流みたい」

Kは、北東に伸びる道を見て。

「どうやら、なんか居るな」

解っていることだが。

モンスターの巣窟と解ったガロンからすれば。

「死霊使いか、暗黒魔法使いか・・・いずれにしろ、厄介な相手だ」

と、認識する。

すると、ラキームは。

「しかし、妙だ。 私が調べた文献なら、昔の領主の城は天高く聳えるものとか。 全く見えないのは、崩壊でもしてるのか?」

と、森の先を見た。

Kは、笑って歩き出し。

「恐らく、マジックモニュメントの技術の一つ。 “ハーミストケイジ”だな」

ポリアは、チンプンカンプンだ。

「あの~、解りません・・・センセ~」

システィアナは、ポリアにニコニコ顔で。

「しらないって~、ポリアの~お~ばか~ちゃん」

「グッ、システィっ!!、アンタだって知らないでしょっ?!!」

「は~い」

Kは、賑やかな二人を無視して。

「今に言うなら、“隠者の籠”か。 広大な土地を持って、その中心に建物を建てる。 建てる周りの土地を、起伏のある波状にしながら擂り鉢状にするんだ。 しかも、螺旋まで画いているし、木々に魔法で建物が見えないように幻視の効果を与えるんだ。 古と言うより、300年以上前の、魔法技術崩壊前に見られた超技術さ。 今でも、各国の観光古代遺跡には、施してあるのがあるぜ」 

誰もが、ポカ~ンと包帯男を見る。

Kは、全員を見て。

「ほら、行くぞ」

「あ・・はい・・」

シェラハが、続く。

ガロンは、ポリアに寄り。

「アイツ・・何者だ?」

「近寄らないでよ。 何者でも無いわ、学者なんだから博識なのは当たり前でしょ?」

ガロンは、急速にKに対しての興味が湧いた。 ガロンとて、様々なチームの者と組んで冒険をしているが。 こんなにも博識な男は珍しい。 今の学者なんてのは、本の読んだ知識を言うだけの者ばかりと思っていたからだ。

さて、道を行くこと、更に半時ほど。 大体、太陽の傾きで時間が解ってくる。 森に囲まれた道が、一回り狭まった。

Kは、背負っている荷物を突然に降ろして歩きつつ。

「マルヴェリータ、コイツを持っててくれ」

差し出したのは、二本の短い杖で有った。

「これ・・・ライトスタッフ?」

「ああ、そのうちに必要になる」

Kが差し出したのは、光の魔法が杖の先に宿るアイテムだ。 一昨日、マルヴェリータが暗くなった道を照らした魔法である。 封印された魔法を開放してやれば、二刻(四時間)位は光を放っているだろう。

「?」

マルヴェリータは、こんな明るい時間におかしいと思ったのだが。

さて、森を奥へ奥へと向かうにつれて、苦しさを見せるシスティアナが居る。

ポリアが、見るに苦しそうなシスティアナを心配して。

「大丈夫?」

「だ・だいろ~ぶで・です~」

「ケイ、少し休んだら?」

と、ポリア。

Kは、システィアナを見て。

「無駄な事を言うんじゃない。 休んで変わるくらいなら、もう休んでる」

「どうゆう事?」

「暗黒の力が強まっている。 それに、後ろを見てみろ」

Kの声に、皆が後ろを振り返ると・・・。

「あ゛っ!! 道が消えた!!」

後ろを見ると、どす黒い渦の巻いた空間が広がっている。

「ケッケイ!!」

叫ぶポリアに、Kは。

「ダークネス・フィールドだ。 暗黒魔術師より、死霊使い(ネクロマンシャー)や、最高位の死霊モンスターが僧侶を拒む為に張る結界だよ。 此処を抜けない限り、システィアナの疲労は増すばかり」

「だだだ・大丈夫なのかっ?!!」

ラキームが叫び上げる。

「一度入ったら、主を倒さない限りは出られない。 先を急ぐぞ」

ポリアは、冷静なKを見て。

(知ってたのねっ!!)

と、思う。

システィアナに、ポリアは寄って。

「大丈夫? 苦しいならおぶるよ?」

すると、システィアナは笑った。

「だいろ~ぶです~、しゅ~ちゅ~してましゅから~」

ポリアは、パッとKを見た。

(まさか・・一昨日まであんなにマルタやシスティにハッパ掛けてたのは・・この為?)

ポリアは、Kの思考能力が底知れない物に思えた。

だが、Kからするなら、場数の違いなのだろう。

さて、進むにつれて鬱蒼としている森の中を通る道だが。 薄暗くなるどころか、一気に夜のように暗くなり始めた。

「おっおい!!!」

煩いラキームに、Kは。

「最後の壁に入ったんだ。 戻るなよ、魔法に呑まれて気が狂うぞ」

マルヴェリータが、杖に解呪の魔法を唱えて、光を生み出した。

Kは両方貰い。 一つをガロンに投げ渡した。

森がドンドンと闇に包まれて、気付けば洞窟の中の様な暗黒の世界で、森も道も解らない。

ラキームは、ガロンの後ろにへばり付いて。

システィアナは、ポリアに手を引っ張られて進んだ。  システィアナの表情は、死人のように蒼褪めて、冷汗は大粒に流れ出す。

システィアナを見るマルヴェリータは、

(いけない、このままじゃ・・)

もう、気絶してもおかしくない状態だ。

そこへ、Kが。

「そろそろ抜けるぞ。 真直ぐ来れたみたいだ」

と。

「ん?」

ラキームが辺りを見回せば、不気味な森の中に出ていた。 街道のような道はまだ続きながらも、鬱蒼とした公孫樹の原生林は茂っている風景は変わらないのだが・・。

「なっ・・なんだこの天気はっ!! 紫の色をしているぞ」

空は、鉛色の雲に覆われていて、先の所で渦を巻いて動いている。 夕方の様な、赤紫色の光が雲に染み込んでいた。

ガロンは、こんな空模様は初めてだ。 今は、まだ昼くらいだろう。

「一体・・・これは・・・」

Kは、森の先に塔の様な建物が聳えているのを指差して。

「ほら、塔が見えてる。 アレが、そうなんじゃないか?」

ガロンは、辺りに感じる不吉な気味悪さに、

「こんな所にクォシカが逃げ込んだのか? おい、本当に生きているのか?」

と、シェラハに。

「生きてるわ・・手紙がきたもの・・」

精一杯の嘘である。 咽元まで、罵声が出掛かった。

ポリアは、楽に成ったシスティアナに話し掛けていたが。

(こんな所で無事な訳ないじゃないっ!!)

と、心の中で吐き捨てた。

イルガは、Kの後ろにて。

「いよいよ、ゾンビどもの主が根城に行くわけじゃな?」

Kは、辺りを見回して。

「さ~、そう簡単に行かせてくれるかな・・・御出なすったぜ」

ポリア、マルヴェリータ、システィアナが、森を見る。 ガサガサと、茂みが動き出した。

「キャーーーっ!!!」

シェラハの悲鳴が響き渡る。

一体、また一体と、道にスケルトンとゾンビが現れて来た。

Kは、狼煙代わりに。

「マルヴェリータとシスティアナは戦うなっ。 シェラハを守ってろ。 数は少ない、一気に潰せっ!」

ポリア、ガロン、イルガに三人の兵士が、武器を構えてモンスターに向かった。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。