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second episode2 出会い
11、その出会いは・・・永遠の一瞬



朝まで飲んでいたウィリアムとスティール。 二人、ボンヤリしながら勘定を払う。

「悪く無いッスね」

と、ウィリアム。

「ああ・・それが人生」

二人、唇にピンクのルージュを付けている。 少し前に寝室に向かったイリアが、二人にキスした跡だ。 笑わせて、吐き出す愚痴の相手して、イリア嬢も随分と気持ちが和らいだらしい。 酔いも入ってか、優しくしてくれた。

「口説けば良かったな・・・」

スティールの戯言。

「スゲ~。 ロイムとダブルブッキング・・・。 一つのチームで・・・」

ウィリアムの愚痴。

バーラウンジの出口で、二人見合う。

スティールは、少し笑った顔で。

「ウィリアム、昼過ぎから付き合えよ。 少し、散歩しようぜ」

「雨の中ですか?」

「傘を借りようぜ。 お前、まだこの大都市の散策した事にゃ~だろ?」

「確かに、にゃ~ですわ。 誰かさんが、初っ端で借金王になるんだモン」

「お前、それは直ぐ言うたらアカンて。 のんびり、男同士のおデ~トしよう」

「はいはい・・」

二人、こうして休んだ。 ロイム・ウィリアム・スティールは、一応は三人部屋で泊まる。 だが、部屋にロイムは居ない。 スティールの細めた目を見て、ウィリアムはロイムの暗い未来に哀悼の祈りを奉げた。

その頃だ。

ロイムは、・・・・・いや、辞めておこう。

(18禁じゃないから・・・・)

そして、アクトルはと云うと・・・。 いや、こっちも書けない・・。

(18禁じゃないっすよ・・・)

寝室行為もほどほどに・・・。

さて、時間は過ぎて・・・お昼頃だ。

「ふえぁ~・・・」

ふざけた欠伸のスティールと、やや眠そうな顔のウィリアムが下に降りてきた。 何も仕事をしないので。 二人、プロテクターも鎧も外している。 スティールは、Yネックの黒い長袖シャツ・黒い皮ズボンの姿に、剣だけ腰に下げている。 一方、ウィリアムは風呂に行って着替えたらしく。 明るい水色の長ズボンに、白いYネックシャツを着て、何時もよりラフで若々しい。

スティールは、雨の音がする外をフロントのロビーから見て。

「お~お~、小雨ながら降ってるね」

ウィリアムは、ロイムの置手紙を見て。

「スティールさん・・・ウィリアム・・・シュレーラさんと・・」

読み上げるのだが、途中でスティールがギリっとウィリアムを睨んで。

「止め止め止めええええっ・・・・ふしだらな魔法遣いなど放っておけっ!!!!」

ウィリアムは、メモの字を見て。

「でも、ホラ。 かなり・・・字が歪んでますゼ。 アニキ、こりゃ~事件かも」

スティールは、メモをウィリアムの手から毟り取って。

「あんなエロ魔法遣いクンなど、雨に濡れて風邪を引いてしまえばいいんだっ!!!!」

ウィリアムは、横目でスティールを見るに。

(風邪・・・ね。 辛辣ではありませんねぇ~・・・)

ロイムとクローリアを含んだ皆は、午前中に暇潰しと勉強を兼ねて都市にある図書館に出かけたらしい。 この都市の図書館は蔵書数が世界一なのだ。 普通の図書館とは訳が違う。 行く価値は十分に有ると言えよう。

スティールは、眠そうな顔ながら宿の傘を借りて、外に出る。

ウィリアムも、後に続いた。

小雨の振る中で。 木の骨組みに皮を貼り付けた傘を差したウィリアムは、初夏の蒸し暑さを感じながら。 

「スティールさん、何処に行くんです?」

スティールは、行き過ぎる客を避けて。

「そうだな、先ずは少し食べようか・・。 腹減った」

「はい。 でも、重たいのはイヤですよ。 軽めな店探しましょうよ」

「お~け~」

スティールは、港に近い宿屋街から西に向かう。 宿屋街は、なるべく道が斜めに成らない様に作られている。 四角四面に成るように区画整理がされているわけだ。 

商業区の商店街・飲食店街に近づくと、雨の中ながら人の往来が激しくなった。 広い通りでは、荷馬車や馬車も頻繁に見かける。

「う~ん・・・港からの荷物は少ないみたいですね。 荷物運びがまばらです」

ウィリアムは、興味に素直で辺りを見回しながらスティールに着いて行く。

スティールとウィリアムは、宿屋街と商店街を隔てている太い通りを北に向かい。 飲食店街に向かう脇道に入った。 其処は、裏道で。 魔術に使う小鳥や不気味なアイテムを扱う暗い店が有ったり。 家庭用品の鍋や食器を扱う店が有ったり。 並ぶ店構えが小さく、傘を差して見回るに今一の通りだ。

その道を太い通りにぶつかって、道を渡って大きい横道に向かえば。 景色は一変。 どっしりとした大きな店構えの武器防具を扱う店が有ったり。 旅の道具を揃える店が有ったり。 様々な道具を扱う多種多様な店が溢れ出す。 人の活気と、店構えが変わって華やかさが見える。

「う~ん・・・。 こうゆう所は、コンコース島とは訳が違いますねぇ。 店の数も、規模も凄くデカイ・・・」

スティールも、女性を目で追い駆けながら。

「だろうな。 悪いが、オロスさんの店もここじゃ~中級だろう」

ウィリアムは、ズバリ。

「値段は?」

「さあ・・・店に依る」

「明日は、見るだけショッピングしてみようかな・・」

ウィリアムが店に釣られて言えば。

「フム、俺も武器を見たいね」

と、スティールが。

二人は、その道を奥まで進み、Yの字に分かれた道を左へ。 直ぐに、揚げ物の良い匂いが漂って来て。 飲食店街に入ったようである。

ウィリアムは、ズンズン進むスティールを脇に。

「スティールさん、帰り道は解るんですか?」

スティールは、平然と。

「いいや。 お前が迷う性質じゃ~ないし。 方角でごり押し向かえばなんとか成る」

“確かに”と、ウィリアムが思った時だ。

「あ~・・・なんか可愛い店を発見」

スティールがいきなり言うので。

「はあ?」

と、ウィリアムが返せば。

「ホラ」

道の右斜めに、宝石屋の大きな店構えの隣。 モスグリーン色の庇、白い外壁の小ぢんまりとした飲食店が有った。 入り口の周りに、花の咲いた植物を植えた鉢や長い鉢が置かれている。

「確かに・・・可愛いですね・・」

スティールは、赤い絵の具で窓のガラスに書かれた文字を読み。

「ホレ、“自然のお野菜を中心に、ヘルシーな軽食は如何?”だってよ」

ウィリアムも、お勧めの掛かれた軒下の看板を見て。

「ん~・・・トマトの絞り汁ってイイっすね」

「おし、決まりだな」

スティールは、往来の人を避けながら店に向かう。 ウィリアムも、後を追った。

木のドアが、白い壁の大窓ガラスの左に填まっているように窪んだ形で有る。 スティールが、引き戸のドアを開くと、涼やかな“リンリ~ン”と云う呼び鈴が鳴った。

「いらっしゃいませ~」

明るい弾んだ声が出迎える。

「おろ」

店に入ったスティールの前に、ウェイトレス姿の若く可愛らしさと綺麗さが折衷する女性が遣ってくる。

ウィリアムは、狭い店の出入り口でスティールが止まっているで。

「スティールさん、進んで」

と、言うのだが・・・。

「いらっしゃいませ~、何名様ですか?」

ウェイトレスの女性のハッキリとした耳に心地よい声だ。

「フッ」

スティールは、前髪を掻きあげて。

「二人だ」

キザったらしい格好で言う。

ウィリアムは、それを後ろから見ていて。

(始まったよ・・・女の子が可愛いのね・・)

と、早速無視の領域である。

しかし、女性は二十そこそこだろうが、営業スマイルでスティールに笑って。

「畏まりました~。 此方へどうぞ」

と、二人を案内する。 店の中央で、一番お客に囲まれる席だった。 店の中でも一番サイズの小さいテーブルで、二人が向かい合って座る席。

「メニューは此処に置きます。 決まったら呼んで下さいね」

スティールは、頷いて。

「ありがとう」

と、微笑んで返す。

ウィリアムは、クルリと辺りを見回して。

「随分と女性の多い店ですね。 カップルか、女性同士ばっかり」

スティールは、聞いていないのか。 チラリとコッチを見た若いお客の娘さんに、キザでニヒルな笑いを見せた。

「キャ・・・笑われちゃった・・・」

斜め先の二人席で、友達と来たらしい若い女性が照れて顔を逸らす。

すると、別の席の女性の集まりが、ウィリアムとスティールを見て。

「ねえ・・・あの席の二人って格好良くない?」

「え? あ~・・・でも、冒険者みたいじゃん」

「う~ん、私は灰色の髪の方がいいかな~・・」

ヒソヒソと、アレコレ話に花を咲かせる。

スティールは、少し前に寄り。

「ウィリアム、お前も少しは女の子に笑え。 いっつも済ましてちゃ勿体無い。 向こうにその気があるならチャンスだぞ」

ウィリアムは、全くその気も無いと顔に出して。

「恋愛伝道師のスティール様の様には出来ましぇん。 俺は、待ちで行きますわ」

「かあぁ~・・・ンな甘ったれた事でど~するよ」

ウィリアムは、薄い木の板に書かれた“本日のお勧めメニュー”と、店内の壁に貼られた通常メニューを見て。

「さて、どうします?」

スティールには、頻繁に自分よりウィリアムを見ている若い女性が居るのを確認するに。

「あのな~、ウィリアムちゃん。 お前、案外イイのよ~。 格好イイっ、どぉ? 俺に弟子入りしない? 口説き方のアレコレ伝授するよ。 もち、ロハロハで」

ウィリアムは、もう注文を決めて。

「け~っこうです。 さ、俺は決まりましたよ」

すると、スティールは片手を上げて、“パチン”と指を鳴らして合図する。

三人くらいは働くウェイトレスが居る中で、自分達を案内したあの若い女性がやってきた。

「お決まりですか?」

ウィリアムは、早々に注文。 すると、スティールは、いきなり今日の人気のある注文を逆に聞く。 軽い冗談交じりで聞けば、相手のウェイトレスも笑って返す。 ミックスする果汁や野菜の絞り汁のお勧めを聞いて、スティールは楽しく注文を決めた。

ウェイトレスが行って、スティールはウィリアムに笑いながら。

「手は握れそうだよね」

呆れるウィリアムは横向いて。

「さぁ~。 火傷は一人でお願いしますよ」

「お前、そりゃ~つれない話だよ。 いいじゃ~ないの。 一発や二発の火傷くらいは」

のんびり話していれば、先にウィリアムの頼んだ野菜の絞り汁と、スティールの頼んだサラダが来て。 食べていれば、次々と。 軽く頼んだ物を食べ終わるのに、小一時。 

スマートで、何処か凛としたウィリアムの整った顔は、スティールから見ても悪く無い。 その証拠に、新しくチームに加わったクローリアは、ウィリアムには感情が豊かだ。 そして、この店の中でも、冒険者の洋装を解いたウィリアムをチラ見する若い女性はチラホラ。

「ふう。 結構、量が有ったな」

食べ疲れた様子のスティール。

「ですね。 食べ甲斐は有りましたね」

二人、水を飲んで勘定を払うべく店の出入り口に向かう。

「ありがとうございました~。 またいらっしゃいませ~」

同じ女性の声を背中に、二人して外に出た。

「あら・・雨が」

スティールは、外に出ると雨が止んでいるのに気付く。

ウィリアムは、生暖かい風を感じて空を見上げ。

「まだ降りますよ。 明日の日中は晴れ間も有りましょうが・・・、夜はまた雨ですね」

スティールは、毎日の天気を予測するウィリアムを細めた目で見て。

「アンタ・・・何モンじゃ」

ウィリアムは、あえて返答に触れず。 さらに、飲食店街の奥へ歩き出した。 曇り空の日の光を見ても、まだ夕方には時間が有ると思った。



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広大な敷地には様々な植物が植えられる図書館。 図書館の建物は、前面の壁がガラス張り、の建物だ。 中に入れば、吹き抜けた一部の天井から、二階の本棚、三階の広間が見えている。 

一階で、背の高い本棚を見上げるクローリアとイリアは。 新たな読む本を探しながら、ウィリアムとスティールについて話し合っている。

三階の本をじっくり読んだり寛げるスペースでは、ロイムがシュレーラやチェルシーに囲まれていて。 本を読んでいるのか、イチャイチャしているのか解らない状態だった。

(ウィリアム・・・スティールさん・・・だすげて・・・・)

顔が少し憔悴し、げっそりしたロイムは、左右の女性に話しかけられて右往左往している。

一方、真面目に本を読むカリアと、カリアにちょっかいを挟む男性剣士は雰囲気が宜しくないようだ。

黙々と一人で本を読んでいるシュレーラのチーム僧侶は、窓の外の空模様に顔を動かして。

「はあ・・・・」

と、溜息を吐いた。 少し暗くなり始めの空、夕方が近いのだろう。 断続的に降り続く雨の陽気も、色気ばかり持て余すチームにも、僧侶の心は憂鬱なのだった。

さて、その頃。

「一昨日来な」

スティールが剣を鞘に仕舞って言う。

ウィリアムは、両手を叩いて。

「一昨日に来れたら凄いです」

と、笑う。

「うぐぐぐ・・・・・」

二人の後ろには、K.Oされて伸びる悪辣な顔の冒険者風体の男達が六人。 誰もが、もう反撃出来る様子では無い。

商業区の最も中心から西側の一角は、ダークタウン(暗黒街)と化していた。 ウィリアムは、試しにと来てしまったのである。

スティールは、ウィリアムとまた歩き出しながら。

「しっかしよお、こんなに物騒だと女と来れやしね~だろ」

と。 あの先ほどまでの活気溢れる人の気配が消えている。 店の表は汚れて、破られた張り紙、壊されたままの入り口、廃墟と化している店の中が覗けるのも有る。

ウィリアムは、所々で営業してるのかどうか良く解らない店の意味深な張り紙を見るに。

“あの有名な○○薬が、たったの五千シフォン”

等と云う文句に。

「コレ、有り得ない。 ガセ物掴まされるのが落ちだな」

と、かなり呆れた様子で呟く。

人気の無い通りは、物が散乱していたり、通りに血の跡や骨らしき物まで転がっている。 嘔吐の痕跡など、壁の四隅にチラホラ、雰囲気も空気も淀んでいる。 

暗黒街の一部を、二人で南に通り抜けた。

海岸線が見える港や海を前にした“海の道”と云う海岸通りに出たのだ。 この道は、海や港を前に、商業区から、ロイム達の居る文化区、スティールが船を爆破して連れて行かれた行政区などに跨る海沿いを貫いた十五キロのロングストリートなのだ。 港前なら、船の運航に合わせて人が乗り降りする本当の玄関になる。 だから、様々な店が軒を連ね。 無いのは金物(金属製品一般)だけなのだ。 特に、飲食店は非常に多い。 そして、潮風に強い木々を植えた公園が所々に存在する為に、休憩する市民も良く見られる。

スティールは、海岸通りをウィリアムと並んで歩き。

「あ~あ、晴れてたら凄い活気あって、露店が出てるのにな~。 雨だから人気が少ねえ」

ウィリアムは、殆ど人とすれ違わないので。

「本当ですね。 もう、夕方前で暗くなり始めですが、明かりの入った店の店内も人の姿は疎らですね」

その内、やや暗くなり始めた空模様の中、また雨が落ちてくる。

「降って来なすったぜ」

と、スティールは、公園前に海が目の前まで迫る波打ち際になっている所の木の下で、落下防止用の手摺りに右足を掛けると・・・。

「フッ、海か・・・。 どんな男も優しく切なく包む風・・・波・・・女の様だな・・・海ってさぁ」

と、遠い目をする。

(はあ・・・・?)

ウィリアムは、いきなり人も居ないのにキメるスティールに呆れて。 小声ながら聴こえる様に。

「そして、誰かさんが二十万の借金を作っちゃった場所ですよ」

と、そよ(・・)~っと言う。

バッと、傘を差すスティールは、ムードを潰されてムカムカした顔をしてウィリアムに向き直り。

「お前なぁ、男だろうっ? ムードを大切に生きろよっ!!!」

ウィリアムは、シレ~っと。

「ムードより、現実ですがな」

と、傘を横に外してお金のサインを指で出し。 直ぐに開いた傘を持って通りに目を向けた。

「カァ~っ、お前って奴は・・」

と、スティールが悪態を着く中で。

(アレ?)

ウィリアムの顔が、スッと真顔に変わった。 海にまた顔を向けたスティールに、ウィリアムは通りに顔を向けたままで。

「スティールさん、チョット」

「ンっ?」

ぶっきら棒に返してくるスティールだが。

「今・・・あの通りに女性が入って行きましたよ」

スティールは、ウィリアムに顔を向けて。

「お前、女が歩いてたらオカシイと云うんか? 一人や二人・・・」

と、言うスティールに。 ウィリアムは顔を向けて。

「でも、雨に傘も差さず、服を濡らして片足を引きずってましたが?」

スティールは、パッと顔色を変えて。

「バカっ、それを早く言えっ」

と、ウィリアムの見ている方に走り出す。

「何処だっ?」

ウィリアムも、スティールに合わせて走り出して。

「一つ先の曲がった通りです」

「解った!!」

二人して海岸沿い通りの店の前を走って、ウィリアムが女性らしき姿が曲がるのを見た商業区に入る道の一つへと身体を走らせた。

すると、十歩も走った所には、白いブラウスと朱色の長いスカートを穿いた女性らしき姿の人物が路面に倒れ込んで居た。 起き上がろうとする様子がもどかし気で、何かおかしい。

「大丈夫かいっ?!!」

駆けつけたスティールが、傘を手放して女性を抱き起こす。

「あっ・・・す・・すみません」 

艶やかな黒髪を濡らした女性は、スティールに顔をキチンと向けずに探るように見た。

ウィリアムは、その仕草にパッと。

(この人・・・片目が・・・)

スティールは、捲くれた女性の膝が擦り剥いて血を流しているのを見るに。

「いけない、怪我してる」

と、女性の顔を覗く。

「あ・・足が不自由なので・・・転んだだけです」

女性は、心配無さそうな様子を声に見せるのだが。

「あっ・・・・」

女性の身体が持ち上がった。 スティールが、抱き抱えたのだ。

「手や足に怪我してる。 とにかく家まで送るよ。 近いのかい?」

小雨が降る中で、スティールはそう女性に言う。

ウィリアムは、傘をスティールと女性に差し掛けた。

「・・・あ・・・す・・直ぐ・・・近くです・・」

スティールは、笑って。

「それは良かった。 俺の名前はスティール。 こっちは、ウィリアム。 とにかく、傷の手当をしようか。 ウィリアムは、薬師でそうゆうのが上手いから」

「い・・いえっ・・・そんな・・・すみません・・。 私、ジェリーと・・云います」

女性は、弱弱しく言うのだが。 

「ジェリーさんか・・・」

女性を抱き慣れたスティールは、微笑んだ顔で思う。

(なんて軽い身体だ・・・。 病気か?)

見た目、女性は二十は超えた若い娘に見える。 だが、その軽さは十二・三歳の少女に近い。

ウィリアムは、内心に感心した。

(やっぱり、“女性”が好きなんですねぇ・・・“美人好き”では無いんだ)

と。 

そう、スティールの抱き抱える若い女性は、お世辞にも綺麗とか可愛いとか言えない顔だ。 丸く大き目の顔。 見開いて居るのかと思う細い眼は、開きが左右でアンバランスだ。 鼻は小さく低いので、とても美的な要素を見つけるのは難しい。 だが、肌は白く、髪は艶やかだ。 普通なら、好意を持つのには首を傾げる相手と言っても良かった。

だが、スティールの優しさに、差別は無い。 直ぐ近くの彼女が示す建物と建物の間の小道に入る。 女性を抱えたスティールが、やや横向きになって行ける細い路地だ。

「スミマセン・・・家は店の裏手になるので・・・」

力なく言う女性。

スティールは、二階建ての小さい日当たりの良くない家を見て。

「小さくて可愛い家じゃない」

と、玄関の前に向かった。 

「失礼」

スティールがジェリーを連れて中に入った。 続くウィリアムは、家の中を玄関口から見て。

(小さい家だ。 でも、なんで商業区に住んでるんだろう・・・何か、営んでるのかな?)

と、疑問を持って中に上がった。

スティールは、丸い小型のテーブル前にある椅子に、女性・・・ジェリーを座らせた。

「ありがとう・・ございます」

青白い顔で、血色の良くないジェリー。

ウィリアムは、

「スティールさん、お湯を沸かしてください。 何か飲んだ方がいい」

と、スティールに言ってから。 ジェリーに。

「薬箱は?」

ジェリーは、部屋に一つだけ見える食器棚の下の戸棚を指差して。

「あそこに・・」

スティールは、奥の竈に向かって、灰の中を弄ってまだ赤い燃え途中の炭を見つけると、脇の細い木を放り込んで火を起こしに掛かった。

ウィリアムは、水を汲んで桶に入れ。 ランプをつけて明かりを居間に入れた。

ウィリアムは、ジェリーの前に屈んで、

「じゃ、失礼します。 スカート、膝まで撒くって下さい」

「あ・・・ハ・・ハイ・・」

もどかしいジェリーの手つきに、スティールは見ていて。

「ソイツは、医者と同じだから。 心配しなくていいよ」

と、声を出す。

だが・・・・ウィリアムは、スカートを鈍い手つきで覗かせたジェリーの足の細さに。

(これは・・・まさか・・・)

病気の影を見ていた。

「傷口を消毒しますから、少し沁みますよ」

傷口を洗い流し、ウィリアムは膝・踵・手首の傷の手当を素早く行った。

お湯を沸かしたスティールは、紅茶を入れて勝手にカップに注いで持ってきた。

礼を述べるジェリーに対して、手当てを終えたウィリアムは少し探り気味に。

「あの・・・ご病気・・・ですか?」

「えっ?!!」

ジェリーの顔が、瞬時に一瞬だけ強張り。 それから直ぐに、寂しい笑みに変えて見せて来る。

「お解かりになるんですね・・・、はい・・・そうです」

ウィリアムは、薬箱を片付けながら。

「あ・・・お薬は、飲んでますか?」

ジェリーは、首を左右に。

「高くて、とても手に入らないので・・・。 発作の時のお薬だけ頂いています」

スティールは、心配を顔に出して。

「こんな雨の日に、何処に? 益々、身体に悪い」

ジェリーは、恐縮した面持ちで。

「すみません・・。 実は・・・交渉に・・」

ジェリーの話は、こうだ。 彼女には、二つ下の妹が居る。 ジェリー自身は二十二歳に為る。 さて、ジェリーの父親は、この場所から近い港前にレストランを出していたとか。 その父親は、もう数年前に他界。 母親は、ジェリーが十三歳の頃に他界していると言う。 問題なのは、その父親の店だ。 立地条件が良くて、去年に借金の形に取られてしまった。 相手は、貿易会社の社長で、名前を“ホロー”。 
さて、この国では、飲食店を閉める時は、“閉店の会”と云う特別に一日だけ運営し、格安の値段で常連さんやお客を持て成すという事をするそうな。 ジェリーの父親は、急死に近い形で死んでしまった。 だから、“閉店の会”は出来なかった。 ジェリーは、父親と共に八歳頃から厨房で働いていた。 才能が在るのか、料理の技術を吸収する事は早かったらしい。 父親の死ぬ半年前に今の病気を発症。 ジェリーは、病気でもう身体が云う事を利かなくなる前に、父親の代わりで“閉店の会”をしようと、土地と営業の権利書を強引に奪ったホロー氏に掛け合っているらしい。

話を聞いたスティールは、奪った相手に憤りを感じながら

「ふ~ん、結構繁盛してたの?」

ジェリーは、淋しい笑みで。

「はい、父の腕が良かったので・・」

スティールは、笑って。

「じゃ~、ジェリーも料理を作っていたんだ。 コックの格好で?」

すると、ジェリーは、はにかんだ顔を左右に振り。

「いえ、料理には厳しい父でした。 作らせて貰ったのは、私自身が病気を発症する前後からです。 多分父は・・・自分の病気で身体が思うように動かなくなったからでしょう・・・」

「もしかして、おっかないお父さんだったとか?」

スティールは、冗談交じりで怖がる。

ジェリーは、本当に笑い。

「いえ、料理には厳しい父でしたが。 私生活には激甘の父です。 良く私は我儘を言ってましたから・・・」

スティールは、笑って感心する。

その会話を聞くウィリアムは、冷めた静かな顔だった。

だが・・。

「あぐぅ・・・・・ううう・・・」

いきなり、ジェリーが胸を抑えて前のめりに。

「おっ・おいっ!!!」

驚いたスティール。

ウィリアムは、素早く駆け寄って。

「発作だっ、お薬はっ?!!」

と、鋭く言う。

苦しむジェリーの顔には、冷や汗が滲む。

「に・・にかい・・・」

絞る様な声でジェリー。

ウィリアムは、スティールに。

「早く二階へっ!!!」

と、竈のある台所に向かう。

「おっ、おうっ!!!!」

慌てたスティールは、ジェリーを抱きかかえて台所前の壁の中に伸びる二階への階段に駆け込んだ。

ウィリアムは、素早く竈の前に向かい、ぬるま湯をコップに作って、スティールの後を追った。

スティールは、二階の部屋のドアを開いてジェリーをベットに寝かせる。

「薬はっ?!!」

ジェリーは、ベットの脇の壁に備え付けられた様な机に手を伸ばす。

スティールは、すぐさまに机に飛びついて。

「此処かっ」

机の真下の引き出しを引けば、白い薬を包んだ三角の包むみ紙が。

「コレだなっ?!」

聞き返すと、必死で頷くジェリー。

其処にウィリアムが来て、

「どうですっ? 白湯ですっ」

スティールは、薬の包み紙をジェリーに開いて渡してから。

「サンキューっ!!!」

と、ウィリアムから白湯を受け取る。

ジェリーは、なんとか薬を押し込む様に飲んだ。 

ジェリーが発作に苦しんで、膝上までスカートが捲くれたのをスティールが直すのを見て、ウィリアムは下に降りる。

スティールは、看病している様にジェリーの脇に椅子を持って座り。 行く末を見守った。

次第に、ジェリーは安静に。 

「効いて来たか・・・」

呟くスティールに、ジェリーは震える手を隠して。

「こ・・・怖いんです・・。 死ぬ事より・・・何も・させてもらえないのが・・。 妹さえ・・私を見捨てる・・・」

「えっ?!」

スティールは、その心の叫びに耳を傾けた。

ジェリーは、瞑目して涙を流し。

「父から・・・唯一の・包丁を託され・・ました・・。 せめて・・せめて、死ぬ前に・へ・・閉店の・・会を・・・。 ・・お・おとう・・さん・・・ごめん・ごめん・・なさい」

その姿に、スティールは有る光景がフラッシュバックした。 まだ、スティール自身が十三歳の頃の思い出だ。 瞬時にグッと拳を握り、ジェリーを強く見た。 もう、夕方が暗い夜を連れて来ていた。 薄暗くなった部屋を、スティールは静かに退室した。 何時の間にか、ジェリーは薬の影響で眠りに着いていた・・。



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仄暗い部屋。 ジェリーの家の居間でウィリアムとスティールが灯りを落として家を出る。 ジェリーの話では、これから妹さんが来るのだとか。 安静に寝たジェリーは、大丈夫とウィリアムが判断して、静かに去る事にする。

スティールとウィリアムは、曇った夕暮れで暗い中。 海岸沿いの通りに戻った。 背が低く海風に強い木々が囲いを作る公園の所で、スティールは傘を手に、ウィリアムと向き合う。

「ウィリアム・・・彼女の病気って・・・なんだ?」

冷静な顔のウィリアムは、首を左右に。

「それって、どうゆう事だ?」

「一般に、“衰弱病”と呼ばれる病気です。 原因不明の難病でしてね。 幼く発症すれば、二十代で死に至ります。 大人に近づいて発症するなら・・・四・五十歳まで生きるかも・・・。 ですが、ジェリーさんの進行状態は極めて異例なレベル。 今のままなら、多分は・・・三十前には死にますね」

スティールは、真剣な顔で。

「マジかよ・・。 一体、どんな病気なんだっ?」

ウィリアムは、鋭い目をスティールに向けると。

「体中の筋力が、所々で徐々に低下していきます。 進行すると、身体の免疫と云う抵抗能力をも奪い、風邪を引いただけで死線を彷徨う様になります。 薬は、特効薬は無く。 進行を遅らせる物しかありません。 ですが・・・その薬は非常に高価で、作られる数以上に注文が殺到するんです。 予約販売の所で売り切れるんですよ」

スティールは、渋い顔で。

「一般の店には並ばないって訳か・・・。 作ることは?」

ウィリアムは、首を左右に振り。

「無理ですね。 唯一の原料に欠かせない草は、自然の物は取り尽くされてしまっていますし。 栽培してるのは東の大陸の貴族。 非常に独占欲の激しい一族で、人殺ししようが草は分けない主義だそうで」

「なんだそりゃっ!!! 金で全部占めてンのかよっ!!!」

スティールは、いきなり苛立つ。

ウィリアムは、スティールを見て。

「それよりも、聞きました? ジェリーさんの店を取り上げた人・・・」

「あっ? ホローとか云う商人だろ?」

ウィリアムは、スティールが気付いてないと思ってか。

「ホローってのは、我々が借金してるあの男です」

スティールの顔が、見る見る蒼褪める。

「あ・・・・アイツかよ・・。 選りによって・・・野郎かよ」

「ええ。 恐らく、どんな交渉も無理でしょうね。 まして、取り返すのにお金が一万八千シフォンだなんで・・・。 彼女に手立ては何も残されていませんよ。 それに、なによりの最大のネックは身内・・・」

スティールは、ウィリアムに詰め寄って。

「お前・・それはどうゆう事だ?」

ウィリアムは、暗い夜目前の空を見上げて。

「いいですか。 この病気は、非常に進行性の強い病気です。 動けば動くほどに進行が早まります。 彼女の様子からも、妹さんの協力が得られてない。 恐らく妹さんは、お姉さんの病気の進行を遅らせるために協力しないんですよ」

「ま・マジか?」

「この病気の最大の難問は、本人と家族の気持ちの食い違いで起こるジレンマ・・・。 長生きして欲しい家族と、死ぬまでに生きて動いて自分の生きた証を残そうとする患者。 その両者の間で亀裂ガ生じやすいと云う難点があります。 彼女は、自分の身体の事を理解している。 だから、自由の利く内に“閉店の会”とやらをやりたいんですよ。 もしかしたら、最悪、始末の悪い結果が待ちますよ」

スティールは、ウィリアムはこうゆう事に詳しいだけに。 縋る様にウィリアムの胸倉を掴み。

「なんだ・・・何が?」

ウィリアムは、スティールを冷めた目で見返し。

「ジェリーさんが動けなくなった時、彼女が諦められないなら・・・自らの命を後悔によって絶つ可能性も・・・。 お父さんの包丁とやらは、台所にも戸棚にもありませんでした。 恐らく彼女が持っています。 その意味は、決意の誓いを立てた証に変わっているのかも」

ウィリアムは、あの弱弱しい身体で、ホローの様な極悪人に交渉する勇気を振り絞るには、それなりの覚悟が有ると踏んだ。 先ほど治療したジェリーの怪我の中でも、踵の怪我は、腕や膝の怪我より少し悪化したもの。 恐らくは、ホローの元に交渉に行き、邪険にあしらわれて来た証ではないかと推察した。 怪我した踵の足の靴を、ジェリーは履いて居なかった。

スティールは、思い詰めた顔で一人歩き出す。

ウィリアムは、直ぐに。

「どうする気ですか?」

スティールは、立ち止まって。

「俺が、交渉して来る・・・。 奴の要求を何かしら聞けば・・」

と、呟くスティールに、ウィリアムは話を遮り。

「無理ですよ、そんな事をしたって。 奴のいい様に扱われて、悪事の片棒を担ぐだけで終わりますよ」

スティールは、ウィリアムに勢い良く振り返り。 真顔で怒りすら浮かべた口調で。

「じゃどうするんだよっ!!!!」

「スティールさん」

「なんだっ?!!」

「彼女とは初対面ですよ。 そんなに何かしてあげる必要有りますか?」

ウィリアムは、スティールの腹を完全に読んだ。

スティールは、遣り切れない顔で黙る。

「どうやら、過去に似たような事があったんじゃないですか? 今、彼女にその償いでもしようとか? スティールさんの女性に対する態度・・・人に依って違いますよね。 顔で差別しませんが、窮地に居る女性見ると、自制が無くなる・・」

スティールは、ウィリアムに顔だけ向けて。

「頼むっ。 ・・皆には内緒で、勝手にさせてくれ・・・」

ウィリアムは、透かさず。

「アクトルさんになんて言うんです? スティールさんを除名すれば、事が解決するとでも? 何かあれば、アクトルさんが暴れます」

スティールは、返す言葉が無く。 思い余ってその場に土下座した。

「ウィリアムっ、助けてくれ。 確かに、出会ってばかりの女だが、出会って話せば縁だ。 俺は、年数絶てば縁になるなんて信じないっ!!! 出逢った一瞬からでも、縁は有ると思う。 俺は頭が悪いから何していいか解らないが。 助けてやりたい・・・。 頼むっ、知恵だけでも貸してくれっ」

雨が降る中、スティールは土下座する。

ウィリアムは、スティールがよほどに過去で傷付いていたらしいと看破した。 

(最悪・・・ホローの悪事でも暴いて借金をチャラにしてみようと思ってたけど。 手段として行使しなければいけませんね・・。 全く、熱い人だ)

スティールは、そんなウィリアムに。

「ウィリアム、お前だって島の人に優しくしたろ? 見返りが有ったからか? 何十年の縁があるからじゃないと駄目かっ?」

と、・・・土下座の格好の姿から。

ウィリアムは、鈍く痛い点を突かれたと思いながら。

「・・・確率、低いですよ。 方法は有りますが・・ね」

スティールは、パッと顔を上げて藁にも縋る想いで。

「何でもやるっ、可能性あるなら!!」

ウィリアムは、云う自分に呆れた。 スティールにも、自分にも。

(ちぇ、常識ハズレは俺だけじゃ無いじゃん・・・。 面白そうだけど・・)

ウィリアムは、この状態をひっくり返す事を本気で考え始めた。 一体、どうするつもりなのだろうか・・・。

スティールは、顔や頭を雨で濡らし始めながらウィリアムを見た。  
どうも、騎龍です^^

ホラーのお話を書こうと思っているのですが・・・中々難しいと思い知らせれている毎日です^^

熱中症になりやすい時期ですが、お互いに乗り切りましょうね^^

ご愛読、ありがとうございます^人^


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