4、事実の判明と、襲撃の夜。
4、事実の判明と、襲撃の夜。
Kは、警備をする役人の隊長に呼ばれた。 ポリア達も、着いていく事に。
噴水広場の、役人詰め所に行くと、奥の隊長室に通された。 石の建築物ながら、隊長室は暖炉や戸棚やらと揃ったしっかりとした部屋である。 床には、黒い絨毯が敷いてある。
「良く来てくれた」
30半ばくらいの逞しい身体をした警備隊長は、優しい巨漢と言った人物に見える。 髪を全部剃って、いかにも役人一筋という感じであった。 Kの前にやって来ると。
「実は、昨日のモンスターの件だ」
「どうかしたのか?」
「いや、君が言っていたろ? あの、人の姿形をとどめている死体は、死んだ時期がずれると・・・」
「ああ。 人工的に存在するゾンビは、死んだ時の姿ではなくゾンビにされた時の姿で存在し続ける。 ゾンビに、姿の崩れで大いに食い違いがあるのは、ちょいとおかしい」
「うむ。 その事を調べていたんだが、二つの事が解った。 一つは、あの冒険者の姿をした人物達、実は目撃されていたぞ」
ポリアは、Kを見て驚くが。
「やっぱりな。 もしかして、クォシカの失踪前か?」
Kは、サラリと言う。
警備隊長は、驚いた顔に変わり。
「どうして・・解った?」
Kは、ただ静かに。
「いや、そんな気がした」
「フム。 なかなか鋭い勘だ。 あの者達を見たのは、町の農家の一家だ。 顎に傷のある男を含めた五人に、農家の子供がぶつかって言い争いになったらしい」
「なるほど」
「あと、もう一人の目撃者は町の道具屋の娘だ。 家の庭先にいる時に、この男達の一人にまるで獲物を見るかの様に見られて隠れたらしい。 問題は、その後。 ゾンビに成った男達を、その娘の家近くで向かえに来た人物がいるんだ」
丸で全てを見通しているかの様なKは、頷く。
「誰か、解るか?」
「ああ、想像がつく。 ガロンって、ラキームの身辺警護してる奴だろう?」
「凄いな。 良く解ったな」
「フッ、蛇の道は蛇さ」
「?」
警備隊長は、Kを不思議と見返す。
Kは、話を進める為に。
「いや、それよりも、もう一つの事実ってのは、ゾンビ自体のことか?」
「あ、ああ。 調べたら、今から100年ほど前か。 この町で、凄い数の行方不明者が出たらしい」
ポリアは、理解しがたい顔で。
「そんなに前? 誰が知ってたの?」
「ウチのばあさまは、今年で107歳に成る。 昨日、ばあさまがクォシカの失踪のことに合わせて、俺に話してくれたんだ」
Kが、隊長を見返し。
「詳しく解るか?」
「うん。 なんでも、昔に子供が一人行方不明になった。 ばあさまの友達で、農家の息子だとか。 当時、役人は何にもしてくれないからと、農家の若者や大人達が何十人と探しに行って戻って来なかったらしい」
「聞いた事あるな。 100年近く前、野菜を作る量が激減して野菜の値段が跳ね上がったとか・・・。 そうか、作り手の男達が行方不明にな・・・」
「ほう、俺は全く知らなかった」
Kは、一人で納得するのか何度も頷いて。
「だろうな」
「理由は?」
「その頃は、まだ役人と商人の管制談合の時代だろう。 そんな事件が公になったら、流石に国が動く。 何もしてない役人や、町史は処罰は免れない。 だから、強制的に緘口令強いて、噂も出ないようにしたのさ。 金の無い冒険者や出稼ぎの人夫出しが町に手伝いに来ては幅を利かせていた事を、前にマルタンの飲み屋のジジイが言ってるのを聞いた事ある。 多分、国の偉い奴に金つかったんだろうが、下々の噂話に戸板は立てられないって処か」
「ふむう・・・ばあさまの言ってた事と同じだ」
ポリアは、Kの広い知識に驚いた。 地元生まれのマルヴェリータだって知らない事なのだ。
「アナタ、どんだけ知ってるのよ・・・」
「裏家業の集まる飲み屋じゃ、酔いどれたジジイや悪人が昔話して悦に浸るんだ。 金掴ませて、酔わせるといろんなことを喋る。 若い頃、興味が先行しててな。 危ない所に情報聴きにいったのさ」
ポリア達は、Kの病気前が怖くなった。 一体、どんな冒険者だったのか・・・。
恐れられている本人は、一人頷いて。
「凄い、ありがたみの有る情報だった。 大体の経緯が全て解ったよ」
警備隊長は、真剣な顔に変わった。
「お前、全部解ったのか?」
「ああ、所々は進んで確かめるしかないが。 凡そ、起こった事は解った・・・」
警備隊長は、頷いて力を込めて。
「なら、協力するぞ」
だが、Kは首を左右に振った。
「それは、駄目だ。 役人は、手は出さないでくれ」
ポリアは、驚いてKを見る。
「ケイっ、なんでよ? 味方が増えるのよ?!」
警備隊長も、勇んで。
「町の事件だ。 私も手伝う義務が有る」
すると・・・。
「駄目だ、このまま手伝わせたら、オタク達をラキームに逆らわせる事に成りかねない」
「なっ!」
「え゛?!」
全員が、声を上げる。
「一体、どうゆう事なんだ?」
問うて来る理解し難い顔の警備隊長をKは見つめて。
「おいおいに必ず解るさ。 なんでアンタを、ラキームの父親が選んだのか解る。 いい役人だ。 末永く町に尽くせよ。 汚れた事は、俺等が引き受けた」
Kはそう言うと、ポリアに。
「暗くなったから帰ろう。 全ては、明後日に決着を着ける」
「おっ、おいっ!!」
止める警備隊長に、Kは。
「アンタには、あんたにしか出来ない事がある。 その逆も、ある」
と、言う。
そこに、いきなりの大声が飛び込んで来た。
「大変だっ!!! またモンスターが出たぞ!!」
Kは、パッと警備隊長を見て。
「行こうっ」
警備隊長は、剣を剣立てから取った。
声は、詰め所の入り口から。 K以下六名が詰め所入り口の所に倒れる血だらけの役人に寄った。
「おいっ、しっかりしろっ!!」
警備隊長が、助け起こす。
まだ若い役人は、身体中に引っかき傷を負い。
「たっ・たい・・ちょう・・」
「ん? どうしたっ?!!」
「あ・・あか・い・・骨・・」
システィアナが、神聖魔法を唱える。
「しゃべちゃ~だめ~」
Kは、そこにいた役人を乗せて来た馬を見た。
「ポリアっ、この前と同じ道で向かえっ!! 俺は、裏道から行くっ!!」
と、Kは馬に飛びつく。 さっさと馬に跨るKに、ポリアはビックリして。
「はあっ?!!」
Kは、馬上から濡れるままに警備隊長を見て。
「ポリアと一緒に行って挟むんだっ!! 討ち漏らすなっ! 民家に被害が出る前に食い止めるっ!!」
これに、警備隊長は大きく頷き。
「解ったっ!」
Kは、馬の首を返しながら。
「マルヴェリータっ!!、感じ逃すなよっ!!」
と、大声で。 雨の外を馬で走り去るK。 集会所の脇の道を行くのだ。 近道で、水路に橋の掛かった昨日の場所に出る。
警備隊長が馬車の用意を叫ぶ中、ポリアの横でマルヴェリータは静かに。
「誰が、逃がすのよ」
と、真剣な眼差しでKの行った雨の後を見ていた。
直ぐに用意できていた馬車に、ポリア以下が乗り込んだ。 システィアナも。 若い役人の傷は、もう塞がっていた。
「はげしく~うごかしちゃ~だめ~」
システィアナが、役人にそう言ってペケサイン出す。 後から応援に出てきた役人に、警備隊長は大声で。
「モンスターは我々が倒すっ!! 皆は町中の見回りまわれっ!! 町人に被害を出させるなっ!! 怪我人を頼むぞっ!!」
出てきた四人の役人が見送る中、馬車はKの行った方とは逆の目抜き通りに飛び出していく。
また、雨の中の襲撃であった。 しかも、もう夕闇で暗くなり、視界が悪い。
「ハイヤーっ! ハイヤーっ!!」
警備隊長が、馬車の馬を操る。 馬車は、幌を持たない荷馬車である。 雨足の強い中で、直ぐに全員がずぶ濡れになった。 飛ぶように走る馬車は、グングンと町を抜けて民家の中を走る。 程なくして馬車は、牧草地帯を右に、林を左にと昨日モンスターの出た近くに着く。
ステッキを握っていたマルヴェリータが、鋭く叫ぶ。
「先に居るわっ!! 降ろしてっ!!」
「解った!!」
警備隊長が、馬車を止める。
泥濘む道に下りるなり、マルヴェリータが林の先をステッキで指して。
「あそこに一体っ その先に、二体が居るわっ!!」
「オーケー!!」
と、ポリアとイルガが向かうと、林の木を動かして、丁度ゾンビが一体現れた。 暗いので、人型の黒い生き物が蠢いているようだ。
「おりゃ!」
イルガは、先手必勝とばかりに槍にて突撃した。 イルガの槍は、戟槍と呼ばれるモノで。 槍の刃先の脇に、戟と云われる剣のような刃を持っている。 突くだけではなく、薙ぎ払っても殺傷能力が高い。 向かってくるゾンビの胸元を突き、動きを止めた。 そこに、後から走ってきたポリアが気合一閃で抜き払った剣の鋭さに、ゾンビの首が飛んだ。
「おお、見事」
見ていた警備隊長が、言う。
だが、マルヴェリータが、
「まだ死んで無いっ。 行くわよ」
その声に、イルガもポリアも左右に退いた。
「魔想の力よっ! 暫撃の刃を作れっ!!」
と、ステッキを振る。 すると、マルヴェリータの頭上に瞬く間に大きな鎌のような乳白色の刃が現れて、ヒュっと呻ってゾンビに飛んだ。 ぶつかるのと同時に、ゾンビを真っ二つに裂いて衝撃が巻き起こる。 衝撃波に巻き込まれたゾンビは、肉片にまで細かくなって泥の中に散った。
「なんと・・・」
警備隊長は、こんな魔法を初めて見たのか、驚くばかり。
「さ、先にいくわよ」
マルヴェリータは、気合十分である。
ポリアとイルガの二人を先頭に、野道のような道を水しぶきを上げて走る。 水溜りに足が浸る。
道を先に行けば、左に曲がる野道が在る。 そこに差し掛かった時、正面からノソノソと来る人影が。
システィアナが、
「ゾンビしゃんで~す。 じょ~かしちゃいますよ」
と、杖を構えた。
「清き裁きのてっついさん、フィリアーナ様のお導きにてあわられたまえ~」
と、唱えれば、システィアナの身体が淡く光り、頭上には目映い黄金色の鉄槌が現れる。 その大きさ、大男の警備隊長と同じくらい。
「ゴチンゴチンです~」
と、杖を振り込めば、鉄槌はゾンビに大きく肉薄して殴りつけた。
―ウ゛アァ・・・―
光に当たるゾンビの頭から、鉄槌に触れた部分が塵のようになって消えていく。
その時、マルヴェリータが右の林を指して、
「こっちに一体っ」
警備隊長の脇に、ゾンビが迫っていた。
「おう!!」
警備隊長は、振り向いて剣を抜き払う。 木を一本切り裂いて、その先のゾンビの身体を斬った。
だが、システィアナが前を向いて。
「先にゾンビしゃんと、人の気配がしま~す」
警備隊長は、ゾンビと対峙しながら。
「行ってくれっ、もう一人見回りの仲間が居るはずだっ!!」
ポリアは、自分の剣が白銀製だからか。
「マルタ、此処でアイツをっ食い止めて」
と、マルヴェリータに言っておいてから、
「イルガっ、いくわよっ」
「はっ」
ポリア、イルガ、システィアナが野道を走る。
マルヴェリータは、警備隊長の後ろから。
「踏ん張ってね。 林の中に気配がもう一つ」
「解った」
ポリアは、昨日と同じ砂利道の左右に分かれた道に出た。 そこには、二体のゾンビに囲まれた役人が、雨の中で砂利の上に這いつくばっている。
「う゛う゛・・・」
彼は微かに動いていた。
「息有るわっ」
と、ポリアは、右のゾンビに斬り掛かった。
「参る」
イルガは、左のゾンビに突進する。
システィアナは、役人に向かった。
ポリアが、役人に伸びそうなゾンビの左腕を掬い上げで斬り付ければ。 イルガがゾンビに突撃して役人より左のゾンビを刺し離した。
ポリアに向いたゾンビが、グアっと掴み掛かる。 左腕の骨近くまで斬られたのもなんとも無いかのように。
イルガの戟槍を受けたゾンビも、少し押し込まれてから、半歩引いた所で踏み止まり。 イルガと押し合いの力勝負になる。
「うむむ・・」
イルガの全身が力んだ。 足の具足の着いている砂利に踏み込む前足が沈む。
「ん~、ん゛~」
システィアナが、役人を少しでもゾンビより離そうと引っ張る。
先に動いたのは、ポリアだ。
襲い来るゾンビの手を剣を横にして受けたが、凄い力でグイグイ押される。 白銀の剣を握るゾンビの手の平が、ジュ~っという音と共に焦げるように成り。 薄い夕方の宙に、その湧き上がる煙が上がる。 神聖なる白銀の効力だ。
「う゛・・・このっ!」
ポリアは、右の間に剣を引き抜きつつ避ける。 剣が、ニュルリとした感覚で引き抜けた。 振り向きざまに、
「エイっ!!」
剣を振るう。 剣の先でゾンビの首筋を切り裂いた。
―プシュ―
鈍い音がして、黒い蟠った黒い光が飛び出す。 ゾンビは、瞬間的に硬直する様に止まり、グラリと前に倒れる。
(やった!!)
運良く、Kの言っていたゾンビの核である暗黒のエネルギーを切り裂いたのである。
「ポリアしゃん、おっけ~」
システィアナの傍にポリアは寄って、
「オッケーじゃないっ!」
と、役人を引っ張った。
その時、後ろの方から。 凄まじい衝撃音が・・・。
「マルタっ?!!」
ポリアは、思わず叫んだ。 マルヴェリータに何かあったのかと。
しかし、
「大丈夫よっ、二匹を同時に倒しただけっ!!」
と、マルヴェリータの声。
(はぁ~、良かった・・・マルタ・・全力で強い呪文を唱えたのね)
Kに意識してマルヴェリータは力んでいるのか、いつもより呪文の威力が強い。 一見いいことに見えるが、魔法を強引に発動させていると精神の疲労が加速度的に増すらしいから危険でもある。
「イルガ、一気にいくわよ」
「おう!」
イルガは、その声に応じて、槍を思い切り捻る。 ゾンビの身体がグラリと前のめりに崩れた。 ポリアが、そこに踏み込んで剣を水平に振り込む。 ゾンビの腕が片方切断されて、バランスを崩した。
「ほら!!」
イルガの戟の薙ぎ払いで、ゾンビの胸が斬り裂かれた。 その斬られた所に、暗い中でも脈脈と鼓動する暗黒の光が見えるのである。
(今だわっ!!)
ポリアは、その光に向かって剣で突きを。 暗黒の光は、熟した果物が潰れるように壊れて消えた。
「お見事です」
イルガが言って、ポリアが頷いた。
「ポリア、大丈夫?」
後ろから、警備隊長とマルヴェリータが来た。
「マルタは大丈夫?」
ポリアの気遣いに、マルヴェリータは真顔で頷くと。
「ポリア、向こう」
と、Kが昨日ゾンビを倒した場所を指差す。
その時、警備隊長は、システィアナに寄って。
「まだ生きてるか?!!」
「だいじょ~ぶですぅ、気をうしなってるだ~け」
システィアナは、血の出てる傷を探して癒す。
役人を見るポリアの横に、マルヴェリータは来て。
「あっちに、何匹ものモンスターが居るわ。 でも、数は多いけど、ほらっ、また一つ減った。 誰かが戦ってる。 モンスターを次々と倒してる」
ポリアは、それが誰かは解った。
「隊長さん、ここでシスティアナと居て」
「解った、気をつけてくれ」
警備隊長とポリアは頷き合った。 ポリアは直ぐにイルガやマルヴェリータと向かった。 走れば、さほどの距離では無い。 水路を流れる水の音がゴウゴウと聞こえて、橋が暗い中で形だけ見える。
マルヴェリータは魔法を遣って、ステッキから強いライト代わりの光を出した。 目映い光が辺りを照らす。 そこで、ポリア達が見たものは・・・。
「そらっ フンっ」
Kの本領だった。 たった今、骸骨の姿をしてボロボロの剣を手にする“スケルトン”というモンスター二体に斬りつけられたKは、左右の手でスケルトンの剣を持つ腕をかわしざまに掴み。 正面に居たスケルトンの頭蓋骨に蹴りを見舞う。 一瞬、パッとKの足が淡い光を帯びて、スケルトンの頭を破壊した。
「なんで?」
ポリアは、どうして倒せたのか解らない。 だが、続けざまにKの拳を食らって、二体のスケルトンも崩れ去る。
その、次の瞬間、Kの姿がふわりとポリア達の視界から消えた。
「何所じゃっ?!!」
見回すと、先のところでKの姿が。 ゾンビ二体の急所たる暗黒の光を、首と腹に見つけて斬り倒してしまった。
「す・・凄い・・」
ポリアは、自分の父が世界一番の国土を誇る国で剣の達人と云われているのだが。 Kは、そんなモノでは無い。
「なんと・・これがケイの実力か・・」
イルガも、あのラキームの警護をするガロンとかいった悪辣な印象の剣士を、全く眼中に入れなかったKの余裕をここで理解した気がする。
Kは、その場に居たモンスターを全部倒してしまった。 ポリア達が見ている中でも、十四体を数える。 しかも、倒し終わった瞬間からゾンビの姿を確かめる余裕がある。 全く、息が上がっていなのだ。
「ポリア、そっちは全部終わったか?」
人の姿をはっきりと留めているゾンビを見つつ、Kは言って来た。
マルヴェリータは、当りを見ながら。
「私の感じる気配は無いわ・・・」
Kは、屈んでゾンビの持ち物を検めつつ。
「どうだ? 今日は森の奥深くに潜む気配は感じられるだろう?」
「・・・えぇ・・不気味なくらいに静かに感じられるわ・・」
「多分、向こうから誘ってるのさ。 新たな餌食を求めてな」
「だとしたら、かなりのモンスターか・・・・頭の悪いバカね」
Kは、調べ終えたのか立ち上がる。
イルガは、マルヴェリータに聞いた。
「なんで、バカなんじゃ?」
雨の中で、怖いぐらいに白い肌をして濡れたマルヴェリータは。
「あんな・・Kみたいな凄腕を、自ら自分の住処に呼ぼうとしてるんですもの・・・。 知っているなら、絶対にしないわ・・」
Kは、森を見て。
「明日、もう一度シェラハに会おう。 明後日は森のモンスターの退治だ・・被害が最小に抑えてるうちにな」
そこに、傷を負った役人を背負った警備隊長がシスティアナと共に来た。
「終わったのか?」
隊長に問われたKは、剣に拭いを掛ける意味で振り払うと仕舞って。
「ああ、今の所は・・・って所かな」
「ふぅ~、こんなに数が多く出てくるなんてな」
「多分、今日はこんなもんだろう」
「何故解る?」
「死体も何にも無い中で、こんなモンスターを生み出せるのは魔界の魔王や魔貴族ぐらいさ。 そんなの居たら、今頃町は全滅してる。 多分は、モンスターを死体などから生み出しているんだ。 だから数に制限がある。 新たなモンスターを生み出す素材を得る為に、モンスターを嗾けてるんだよ。 ざっと今で二十体は片付けたからな。 向こうもコレだけ嗾けりゃ、様子も見るさ。 でなきゃ、本体がお出ましするはず。 この町を亡者の町に変える為にな」
警備隊長は、身震いをして。
「そんな化け物が・・この森に居たのか・・・」
Kは、脇を向いて、見る訳ではないのに横顔を見せて。
「アデォロシュの惨劇・・・・」
雨に掻き消されそうな声である。
ポリアは、一番近くてその声が微かにだけ聞こえた気がする。
警備隊長は、Kが向かってきた道に歩き出し。
「とにかく戻ろう。 身体を休ませないと」
Kも頷いて、
「戻ろう」
一行は夜になった空の下、町中に戻る。 馬車も馬も、モンスターに驚いたので町の詰め所に戻っていた。 Kは、またポリア達を先に宿に戻した。
ずぶ濡れで、疲労もあったポリア達。 宿に戻れば、心配で女将が待っていてくれた。
「あらっ、戻って来たね!」
ポリアは、頷いて。
「女将さん、また床を濡らしちゃうね」
「そんなことなんかっ! また、モンスターが出たんだって?」
「うん。 でも大丈夫よ。 一応森から出てきたのは全部倒したわ」
「良くやってくれたよぉ~・・、ささ、お風呂に入んな」
「ありがと、後からKが来るから」
「おや、見えないと思ったら・・・怪我でもしたのかい?」
「まさか、詰め所で隊長さんと話してから来るって」
「そうかい・・タフな男だねぇ・・・あんな細っこい身体してさぁ」
女将は、厨房に戻っていった。
(ホントよ・・・まだまだ余裕で戦えたわ・・・)
ポリアは、Kの力量の差が底なし沼のように深い思いがしてきた。
「ポリア~、はやくぅ~お~ふ~ろ~」
「はいはい、いこ」
こうして、四人は先に温泉に入った。 冷めた身体を温めるには、温泉は贅沢なお風呂であった。
真っ先にイルガが出て、部屋に向かうと。 ずぶ濡れのKが廊下を歩いていた。
「おお、戻ってきたか」
「あ? ああ、おっさんか」
「どうじゃった? 話は」
「いや~、役人が四人も安静状態だから隊長が困ってたよ。 しかも、農家の男手と地主が協力してくれるか話し合うとさ。 無理だから止めとけとは言って置いたが・・・どうだかな」
「自分達の故郷だものな」
「ああ、その通り。 風呂行って来る」
「解った」
イルガは、部屋に入ったKを見て。
(しかしアヤツ・・・何者じゃ? 昔にワシらの頃の伝説に居た双剣士のようじゃわい・・・しかし、歳が合わぬな・・)
イルガの若い頃に、年上の凄まじい腕前の二人の天才剣士が居た。 一人は、“剣神皇”と云われ。 もう一人は、“斬鬼帝”と異名をとった。 二人の駆け抜けた頃は、二人と冒険することがお陰で伝説のように騒がれて、持て囃された。
剣神皇と呼ばれた男、エルオレウは。 今は商業大国マーケットハーナスで、世界屈指の大商人の家の家督を継いで、商人として生きている。
一方、斬鬼帝と呼ばれた男、ハレイシュは。 息子のオリンティスと共に冒険者をやっていたのだが。 数年前に行方知れずになっていた。
イルガはその片方、斬鬼帝のハレイシュ氏と一回だけ組んだ事があった。 まさしくKのように強く、聡明で物静かな美男子だった。
(似とるの・・・強い者は似るのかのお)
一階に降りて、食堂に入った。
実は、ポリアの家出は強引な結婚話が引き金だが、冒険者を遣りたがり出したのはイルガの冒険談義を聞いた幼少の頃からである。 イルガからすれば、自分がうっかり冒険者の頃の話をしてしまったのが悪いと思っているのだ。
イルガが席を取る。 食堂には、足止めを喰らっている商人が、昨日より増えて七人くらいになっていた。
「おや、そこかい」
女将が、丸テーブルに座ったイルガを見つけた。
「夜飯を頼みます」
「あいよ」
直ぐに料理が運ばれて来るのに合わせて、ポリア達がやってきた。
「お嬢様、ケイも戻ってきました」
「あら、早かったのね」
「どうやら、町の警備に農家や地主が加わるかも知れないようです」
席に着いたポリアは、ギョっとして。
「え゛っ?、大丈夫なの?」
「さあ、ケイは止めたそうですが」
「当たり前じゃない・・・只のモンスターならいいけど。 ゾンビは厄介よ」
「はい」
周りに居た商人の男の眼が、ポリアとマルヴェリータに向かった。 食堂に花が飾られたようで、だれもが手に取りたい下心の覗ける眼をしているように伺える。 商人も、その人格はピンキリで、表向きと裏向きの顔が全く違う者がゾロゾロいるのだ。
さて、Kがやってきた。 入って来たKに、女将が寄って挨拶をしていた。 女将と離れたKは、テーブルに来て席に就いた。
「ふぅ、疲れた」
「お疲れさま」
ポリアは、そっと水の入ったグラスを差し出した。
「すまん」
Kは水を受け取り、受け皿をシスティアナから貰った。
マルヴェリータは、小声で。
「もう、事件の真相は解ったの?」
Kは、野菜を取り分けつつ。
「周りで聞き耳立ててるバカ多いから、明日な」
マルヴェリータは、周りの商人の静けさに黙る。
一方、イルガは。
「しかし、なんじゃな。 ワシ等お嬢様とパーティーを組んで、こんなに多くのモンスターを相手にするのは、実を言って初めてじゃ。 ケイ。 御主は、そんなにモンスターを相手に戦った事があるのか?」
Kは頷いて、口に運んだ野菜を齧りつつ。
「そうね・・・ま~色々あるな。 墓荒しをとっ捕まえに行って、ピラミッドの中にゾンビが溢れたり・・・森の中で人食い蜥蜴を50匹ばっかり相手にしたりな~」
ポリアも、マルヴェリータも、あまりの事に蒼褪める。 肉を口に運ぼうとしていたマルヴェリータが、
「や・止めてよ・・・おっかない」
「マジだもの・・・ま、色々あった」
イルガは、半ば呆れて。
「良く生きてたもんじゃ」
そこに、マルヴェリータは、ため息一つ。
「はぁ~」
ポリアは、溜め息を聞いて。
「マルタ、どうしたの?」
マルヴェリータは、包帯男を横目に。
「んん・・・ケイの相手した数を私達だけならどうなっていたかな~・・・って」
「・・・難しいわね」
Kは、食べつつ誰も見ないで。
「勝てない事は無い」
ポリアは、言い返されるのを警戒しつつ。
「そうかしら・・二十体以上も・・」
「ま、戦い方だろう。 今日は怪我人を抱えてたし、あんなもんでいいんじゃないか?」
イルガは、よせばいいのに。
「じゃ~因みに、どう戦うと勝てるんだ?」
Kは、水を飲んでから。 伝法な口調で。
「マルヴェリータとシスティアナが魔法を上手く遣えば、ポリアとおっさんがスケルトン潰せばいい話だろう」
「ふむう・・・ゾンビを十以上も二人でか?」
「遣れる。 二人が、魔法を強引に発動するのを変えればいい訳だ。 至極簡単だ」
「ほう・・・あれで、強引とな」
システィアナは、照れ笑いで。
「えへへ、バレてます~」
マルヴェリータは、横を向いて。
(笑うな・・・)
Kは、料理の乗った皿を見て、何を取ろうかと思いながら。
「魔法ってのは、どの魔法にしろ魔力と集中力のかみ合いなんだ。 焦って強引に唱えれば、魔力の強さが先行して程よい加減が利かない。 集中力は、そのコントロールをする訳。 この二人は、その集中力が足らないから、発動した魔法の破壊力だけ強くてデカイ。 それじゃ~密集戦じゃ使えない」
「なるほど、仲間が一々避けなくてはいけないのか・・。 でも、集中すると・・どう変わる?」
「簡単だ。 今日、発動させた魔法がコンパクトに成って、威力は変わらない」
ポリアは、サッパリな顔をして眼が点に。
Kは、魚のムニエルを皿に取りつつ。
「解り易く言うなら、マルヴェリータの魔法で作られる刃が、大体自分の身体よりデカイだろう?」
「あう、警備隊長さんぐらいはあるわ」
「ソイツが、半分以下の大きさで、威力が同じに成ると思えばいい」
「え? マジ?」
「ああ。 集中力で凝縮してやれば、大きさの変化も出来る。 この二人は、魔法を発動させてるだけで、唱えるとは言わない」
イルガとポリアは、マルヴェリータとシスティアナを見る。 マルヴェリータは、気まずい顔をして。 システィアナに至っては、食べながら豪快に笑っている。
Kは、システィアナを見て。
「システィアナは、いずれ自然に出来るだろう。 余計な雑念が無いから、遣って行けば普通になる。 発動の経験が少ないだけ」
システィアナは、無邪気に照れ笑いし。
「えへへ~、けいけんしたぁ~い」
ポリアは、小声で。
「変なカンジに聞こえるから、言うな」
「は~い」
イルガは、マルヴェリータを見て。
「なんで、違いがあるんじゃ?」
「マルヴェリータは、魔法を遣おうとしてるんじゃない。 ただ、やるものが無いからやってるだけだ。 見てからに、魔法を好きじゃないんだろう。 冒険者として生きる意味で、出来るから手段にしてるに過ぎないと言えば正しいか」
みんなが、マルヴェリータを見た。
「・・・」
マルヴェリータは、横を向く。 Kの言った事は、ズバリ的を射ていた。
「どれ、寝る前に余興でもやってやるか」
Kはそう言って、自分のグラスに水を水挿しから移しながら。
「魔法の集中に一番いいのは、マジックミラージュ。 これは、魔法を遣える者の全てが出来る。 では・・・」
Kは、テーブルの真ん中に水の入ったグラスを置いた。 全員の目が、グラスに向かった時・・。
「あっ」
ポリアは、小さく驚きの声を上げた。 なんと、水の注がれたグラスが、二つに、分かれて・・四つに分かれて行く。
マルヴェリータは、Kを見て。
「な・なんで使えるのよ・・」
だが、Kは黙ってグラスを見ている。 グラスは、どんどん分かれて行く。 しかも、規則的では無い。 ちゃんとテーブルの墨まで行ったグラスは、分裂しないで留まっている。
「お・・おい・・アレ」
周りの商人達も、K達のテーブルの異変に気付いた。 料理の皿の上にグラスがあるのに、乗っている感じが無い。
ポリアは、そっと触ってみれば、自分の手はグラスをすり抜ける。
「全ては、イリュージョンさ」
Kはそう言って、パチンと指を鳴らす。 すると、
「あっ!!」
食堂で見ていた全員が声を上げる。 分裂したグラスが、どんどん真ん中の最初のグラスに集まって行くのだ。 そして、また一つのグラスに集まると、フワッと僅かに持ち上がり。 少しずつ左に傾いていく。 並々と注がれたグラスの水が、直ぐに零れてしまうと思ったのだが・・・。
「零れない・・・嘘・・」
ポリア、眼を疑って擦るも変わらない。 グラスは、完全に逆さまになった。
そして、グラスは皆の見る中で、スルスルと上に持ち上がって行く。 シャンデリアと同じ高さの所まで上がると・・・。
「ん? 震えてる?」
周りの商人の一人が言った。
そして・・・グラスは音を立てて砕け散る。
「キャッ」
「ウワッ」
「ちょっと!」
声がした。 みんなが驚いて、屈んだり、伏せたり。
だが・・・・グラスの破片も、水の水滴一つも落ちては来なかった。
ポリアは、水を被らないのに伏せた顔を上げる。
「あ・・あら? あらら?」
辺りにも、何の変化も無い。
Kは、静かに席を立って。
「こんなのでも、いい練習になるのさ」
と、先に寝る為か部屋に戻っていく。
イルガは、テーブルの真ん中に、グラスが残っているを見て。
「なんてことだ・・・真ん中にグラスが残ってる・・」
マルヴェリータは、Kの後ろ姿を見ている。 ・・・なんとも寂しい眼であった。
ポリアは、マルヴェリータを見てから、Kの背中の影を追った。
女将も、お手伝いさんも、商人達も、ポカ~ンとして固まっていた。
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