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3.捜査開始
3、捜査開始


モンスターに町が襲われた夜。 

ポリアを含めて、Kも宿に戻って来ている。 Kは、一人だけ後から遅く戻って今、風呂に。 ポリア達は、もう先に入浴を済ませていた。 今や、トップリと日は暮れて夕食時である。

モンスターの出現で騒然としている町にて、役人が総出で警戒に当たりだした。 警戒態勢の中、警備隊長はポリア達しか町に冒険者が居ないので、先程の別れ際に協力を申し入れてきた。

無論、ポリアは承諾したものの・・・。

「はぁ~」

ポリアは、丸テーブルにてため息を吐く。 泊り客が集まる食堂は、天井の二つの大きなシャンデリアと壁に設置された三十近いランプの明るさで、昼間の様である。

イルガは、あの後に会ってから元気の無いポリアが心配であった。 溜め息ばかりを吐いて、目も何処か虚ろなのだ。

「お嬢様、一体如何なされました?」

すると、マルヴェリータが横目にポリアを見て。

「ケイよ」

「ケイが・・・如何いたしたと?」

「7体ものゾンビを一人で倒しちゃったのよ。 剣士の面目は丸潰れよね」

ポリアは、ジロリとマルヴェリータを見返して。

「そこ、うっさい」

実際、ポリアの本音はマルヴェリータの言葉とはズレる。 内心、Kに何か勝てていないと、リーダーである自分に自信が持て無くなりそうだった。 だが、実力の差はまざまざと見えている。 剣士としてだけではなく、冒険者として・・・。

食堂には、ポリア達以外に四・五人の商人らしき客が居る。 身なりはいいが、どうも態度の悪い男や、身に着ける服が随分と上質な服を着ていたり。 だれもが、立派な髭を蓄える男性客ばかり。 

さて、Kが洗った髪を濡らして、ノコノコとポリア達のテーブルに来た。 マルヴェリータとシスティアナの間に座って、受け皿を取る。

「ふ~、やっかい事ばかりだな。 明日は雨足が強いから馬車も出せないだろうし、街道の警戒警備の役人が伝えに行く役目・・・下手すれば長引くな」

Kは、良く皮の炙られた鶏肉を自分の皿に取り分ける。

そんなKを見るポリア達一同の様子はぎこちの無い。 冒険者にも不問律の掟があり。 無闇やたらに同業者の過去に踏み込まないのは、エチケットとも言える。

イルガは、酒を飲みつつ。

「ケイ。 しかし、一体何所からモンスターは来たんじゃ?」

「さ~。 怪我した役人の話だと、森から出てきたらしいね」

「なら、モンスターを産んだ主は、森に居ると?」

「そうとも言えないな。 森に死体が有ったなら、今も居るかどうかは・・」

と、肉を口にしてから。

「ま・・多分・・森に・・居るとは思うがね」 

「自信は?」

「俺としては9割確定」

と、Kは咀嚼して肉を呑む。

「なら、森に行く?」

と、マルヴェリータは踏み込んで見るが。 Kは、少し首を傾げて。

「森のずーっと奥から、禍々しい暗黒の力が感じられる。 多分、森の奥になんか有るのは確か・・・でもな。 俺の言う事なんざ~役人や他が信じる訳ないし、クォシカのこともあるし。 もう少し、情報集めてからでもいいと思う」

ポリアは、やや警戒した横目でKを見て。

「そんな悠長でいいの?」

Kは、野菜を皿に取りつつ。

「この雨じゃ~森の奥に行くのも溜まりませんぜ。 明後日の夜には雨が止む。 そこからが勝負じゃ~ないっすかね。 ま、討伐を頼まれた訳じゃないし。 町にモンスターが来ない限りは安心と言った所かな・・・・ん?」

のんべんだらりとしたKの口調がいきなり止まって。 Kは後ろを向く。 廊下に出る方だ。

「ど~したんですか~?」

システィアナの声がした時、いきなりカッ・カッと廊下を歩く鉄靴の音が。

Kは、顔をテーブルに戻して呆れた声で。

「あらら~。 御出でなすったか?」

「誰が?」

ポリアが聞き返した時、食堂に人が入って来た。

「此処か、冒険者が居るって言うのは?」

高圧的な言い方の男は、貴族が好むシルク地の礼服の井出達である。 胸には、金糸で豪勢な刺繍が入っていて、背がKより高い。 ネクタイ代わりの白いスカーフが目立つ。 

入って来た男の後ろには、マントを背にする軍人のような制服を来たKと同じくらいの背の人物が居た。

女将は、丁度そのまん前にいて。

「おやまぁ~、ラキームの大将じゃないかい。 偉そうにお出ましじゃないか」

“ラキーム”の名前にポリア達はびっくりして、食堂に入って来た男達を見直した。

Kは、野菜をフォークで刺して。

「や~っぱり」

と、口に。

“ラキーム”と呼ばれた背の高い男が、女将の前に進み出て。

「フン。 冒険者は何所だ?」

すると、女将は少し怒ったのか。

「ラキーム、随分な態度だね。 人を訪ねる時の礼儀も知らないのかい? ましてや、役人を助けて、モンスターを倒した町の大事なお客に対してふざけてるのかい?」

すると、

「ほほう、それはそれは素晴らしいお客だ」

と、背の高い男は、笑ってからいきなり睨み顔に成って。

「俺の仕事を請けたヤツに、俺がどう接しようと勝手だ!」

と、怒鳴った。

その声に、宿の客はそそくさと壁側に離れる。

Kは、仕方なさそうに。

「俺達だ、仕事を請けたのは」

と、声を。

背の高い男は、その声の方を向いてから。 また女将を見て。

「どいてろ、邪魔だ」

と、横を通る。

軍人風の男も後に続く。

女将は本気に怒ったのか。

「ラキーム、お前は最低だよ!」

と、二人の男の背中に怒鳴った。

ポリア達の前に、男達がやって来る。 背の高い男は、確かに悪い顔では無い人物であった。 面長で、男らしい顔つきで、肌色の顔色にして威厳に近い雰囲気がある。 だが、裏にして高圧的で優しさのような気配は無く。  見る者に、気持ち悪いくらいにキツい印象も与えている。

「貴様達か。 私の仕事を請けた冒険者とは?」

ポリアは、後ろの軍人風の男を見ていながら、

「ええ、そうよ」

ラキームは、ポリアやマルヴェリータの美しさに驚いたのだろう。 やや声色を緩めて。

「ほほう、こんな美人が来るとはな」

マルヴェリータは、素っ気も無く。

「あら、ありがと」

と、優雅に手をひらめかせてワインを飲む。

ラキームは、声を上げたKを見て。

「貴様がモンスターを倒した男か。 町を代表して礼を言いたいがな。 それより、まず先になぜ私の元に挨拶に来ないんだ?!!」

いきなり怒声に変わる。

「大きい声がうるさい。 雨の中を今日着いたんだ。 目通りなど明日でもいいんじゃないか? 大体、アンタに会うのは目当てを見つけた後でもいいだろう」

「なんだとぉっ?」

Kの態度は、ラキームを眼中に入れてない。 ラキームは、自分を気にしていないKの態度が気に入らなかった。

そのとき、後ろに居た軍人風の男が。

「貴様、町史のラキーム様に対する口の利き方を何と思っているんだ? 仕事の依頼主だぞ?」

すると、Kは軍人風の男を見た。

「詰まらない言い方するんじゃないぜ。 オタク、前は冒険者だろう? 昔、マルタンで見たことある。 冒険者と依頼主の関係は対等。 それは常識だ。 クォシカに対して、町の人以上に知ってる情報あるならまだしも、なんの情報も持たないオタク達に急いで会う必要があるのか?」

軍人風の男は、黒い上質の上着と、白いズボン。 足元は、鉄製の長靴。 腰には、サーベルが備わっている。 顔は、油断の置けない鋭い目つきの細い瞳で、やや細面で日焼けした顔に皴がある。 四十半ばは過ぎていると見えた。

「だからと言って、挨拶ぐらいは当然だろう」

その言い方、ガラガラ声な上に音程が低いので、圧力がある。

ポリアもイルガも、この男は出来ると睨んだ。 剣の腕だ。

(隙が無い・・・下手なことしたら斬られるかも・・)

ポリアは緊張が走り、背筋に冷や汗が流れる。 相手の男の気合には、そこまでも辞さない雰囲気が漂っていた。

しかし、Kは全く気にしていない素振り。

「あら、そ。 ソイツはごめんなさいよ。 これでいいだろう。 とにかく、今日は疲れてるんだ。 話なら明日にしてくれないか? 此処に来るより、森の警戒でも頑張ってくれ。 じゃないと、次の町史にはなれないぜ?」

話の内容が気に入らないのか、ラキームはKを睨んで。

「なんだと、どうゆう意味だ?!」

Kは、更に料理を皿に取りつつ。

「モンスターが出る森なんて、オガートで聞いたことないぜ? 町の治安を司る町史が、対応に手間取ってモンスターの出現をも見逃していたとしたら、それは大問題。 一回目の襲撃はまだ言い訳が効くが、二回目以降で犠牲者出たら叱責モノだよな~」

「ん゛・・」

ラキームは、当然の事だから反論出来ずに唸る。

「ま、とにかく警戒は怠らないことさ。 父親の跡を継ぎたいならな」

ラキームは、苦虫を噛み潰したような顔でポリアや後ろの女将を見てから。

「そんなことは解っているっ!!」

と、踵を返す。

しかし、軍人風の男はKを見て、グッと近寄り押し殺した声で。

「お前、何者だ・・・昔の俺を知ってるなんて・・・」

その声は、かなりの殺気が篭っていた。

Kは、詰まらなそうに。

「早く金魚の後を追いな、糞。 邪魔臭い」

全くこの男が怖くないらしい。

軍人風の男に向かって、ラキームが廊下の入り口にて。

「ガロンっ、もう行くぞっ!」

ガロンと呼ばれた軍人風の男は、舌打ちをしてラキームの後を追って行った。

ポリア達は、あの二人が行った後を少しの間見送る。

女将は、一同の就くテーブルにやってくるなりKを見ては。

「アンタ、以外に度胸あるんだねぇ。 ラキームが悔しがるなんていいもの見たよ」

Kは、食べながら。

「ま、あんなのどうでもいい奴だから」

女将は、愉快そうに厨房へと引き返して行った。

だが、ポリアは少し違う。

「ケイ。 ムカツク奴だけど、どうでもいい訳じゃないでしょ? それに、あのガロンって奴、かなり強いよ」

Kは、頷いて。

「当たり前だ。 ガロンこそ、本当の“流れ狼”をやってた男だもの。 腕が無きゃ出来ないさ」

マルヴェリータは、グラスを置いて。

「本当に知ってたのね?」

「ああ。 アイツは分け前争いで冒険者の仲間を斬ったことも有る男で、“パーティー荒らし”の異名を持ってた」

「イヤな異名ね」

「マジの話さ。 手の足りないパーティーや、流れて来た初心者や一人の冒険者を捕まえては、実力差の有る仕事に巻き込んで怪我させたり、モンスターの餌食にしたり、足手纏いだからと置いてきたり。 とにかく、身勝手の限りで荒稼ぎした奴だ。 まさか、剣の腕を売り込んでこんなところに居るとはな。 呆れたヤツだぜ」

人を消耗品の様にする話にポリアは、眉を顰めて。

「サイテーな奴ね」

「ああ、でも強いね。 ポリアとイルガのおっさんの二人じゃ~勝てない。 マルヴェリータが上手く動けば互角かな?」

マルヴェリータは、“互角”と云うのには納得が行かなかったのか。

「三人で、互角なんてキツイわね。 魔法に剣士が勝てるかしら」

Kは、チラリとマルヴェリータを見て、

「アイツを甘く見ない方がいい。 それと、自分の力を過信するな。 俺は、“上手く動けば”と言ったんだ。 今のままなら、確実に負ける」

ポリアは、マルヴェリータの目が細くなるの見る。

(マズイ、マルタがキレそう)

マルヴェリータは、男に対して非常に強気な一面がある。 貴族だろうが、大商人だろうが、全く臆さない。

「ケイ、其処まで言わなくても・・」

と、ポリアが言うのだが、Kは。

「現実だ。 アイツが真っ先に攻撃するとしたら、女性で、動きの早くないマルヴェリータかシスティアナだろう。 ポリアとイルガに動揺を誘えるし、隙を作らせる為にもな。 人質に取れたら、全員殺されるな。 野郎は、そうゆう奴なんだ」 

そう言ってから、マルヴェリータを見て。

「魔力が高いクセして、ゾンビの欠点も知らない。 ポリア達の手助けになってないんだろう? マルタンで聴いたよ。 冒険者の間で噂になってるようじゃ、お粗末様様だ。 第一に、森の禍々しい空気に気付けたか? 魔法を扱うものは、魔力に応じた感知能力を磨くものだがな」

マルヴェリータは、グッと言いかけた言葉を呑んだ。 実際、感じようとしていなかった。 

「美貌にからかわれてるんだよ。 磨く所が違うのさ」

Kは、そう言うと。 女将が持ってきてくれたハーヴティーをグラスに注いで。

「テメエで考えるんだな。 俺は、最初の約束通りにこの仕事で抜けるんだが。 アンタは違うんだろうから」

と、席を立った。

マルヴェリータはそれから口を利かなくなった。

このマルヴェリータは、男に翻弄された幼少を送る。 彼方此方の貴族や商人に許嫁にと金で何度も誘われ。 魔法学院で魔法を学べど、男との噂に友達が居ない時期を送り。 故郷に戻ってくれば、うるさい求婚と見合いの連続。 マルヴェリータは、家から離れてポリアと出逢った。

マルヴェリータは、大人びているが。 実際は、まだ23歳。 ポリアとは3つしか違わない。

「マルタ、ケイの言う事は気にしなくていいよ」

泊り客が殆ど部屋に去り、静かに為った食堂でポリアは、そう言って酒を飲む。

イルガは、ポリアとマルヴェリータの二人にしようと席を立ち。

「お嬢様、寒気がしますので先に寝ます」

「イルガ、大丈夫? 風邪ひいちゃだめよ」

「御意に」

システィアナは、怪我人の治療に疲れたのか、直ぐにうつらうつらと眠たそう。

「システィ、ホラもうねんねしていいよ」

「う~ん、寝るね~。 マルしゃん、お先にぃ~」

マルヴェリータが、頷いた。

(初めての・・・仲間・・・)

マルヴェリータは、いつも一人だった。 だが、今はポリア達がいる。 あの、前の一人の寂しさは薄らいでいた。

いつの間にか、食堂の人は自分とポリアだけになっている事に気付くマルヴェリータ。

女将が、食堂の片付けを終えて最後に二人の元に。

「ボトル、2本はおまけしとくよ。 町の危機を救ってくれたからね」

ポリアは、気遣ってくれる女将に頭を下げて。

「ありがとう」

「いいよ。 じゃ、先に寝るよ」

女将は、そう言ってポリア達の周りのランプの火以外を消して行った。

二人になった。

「ポリア・・寝ないの?」

マルヴェリータは、ワイングラスを手に言う。

「フン、モンスターと戦ってないから疲れてないわよ」

ポリアのムクレ面に、マルヴェリータは笑った。

「笑わないでよ」

「ポリア・・・」

「ん?」

「私・・チョットだけケイに嫉妬してるわ」

「強いから?」

マルヴェリータは、頷いて。

「なんでも出来すぎる・・・彼・・・」

「そうね~、仕事を請ける規約ないなら、一人で出来そうだもんな~ケイって」

マルヴェリータは、ポリアのグラスにワインを注いで。

「私達って、男にバカにされてばっかりね・・・」

「ホントだわ・・・なんかね~」

絶世の美女の二人は、随分と夜遅くまで呑んでいた・・・。

そして、夜が明けた。 次の日。

「ポ~リ~ア~ちゃん、マルしゃんも起きて~」

マルヴェリータと、ポリアを起こすシスティアナの声。 二人のベットの間に来て、枕で叩き起こして来るシスティアナ。

「つお・・ちょっと~」

「システィ~、やめてぇ・・」

二人、二日酔いのど真ん中である。 しかも、頭痛で世界が回っているから眠たくてしょうがない。 外から来る雨音が、子守唄の様に聞こえる。 

システィアナは、枕起こしを止めずに。

「ケイしゃんが~呼んでるのぉ。 大地主のおじょ~さんがかえってきたの~」

ポリアは、眠くて。

「誰ぇ~?」

マルヴェリータも、朦朧とした意識で。

「じぬし~? だれよ?」

すると、システィアナが更に枕で叩いて。

「クォシカさんのはなし~、聴きにいくのっ」

その時、ドアの外からKの声が。 

「システィアナ、起きなきゃいいぞ。 二人で聴きに行こう」

ポリアが来ないなら、イルガも来ないことくらいはKは承知である。

システィアナは、起こすのを止めて。

「は~い、起きないから二人で行きま~す」

ポリアは、ベットでぐったりしつつ。

「ケイ・・行くって・・ちょっと待ってよ」

すると、ドアの外からは。

「二日酔いの寝ぼけババア二匹は要らん」

マルヴェリータも、細い目で起きていて。

「誰がババアなのよーっ!」

と、怒った声を上げた。

さて、やっと降りてきた二人は、Kに冷たい目を向けるも。 包帯男はシレ~っとロビーに立っている。 
女将の話で、地主のコルテウ氏の家は町の北西方面だとか。 オガートの北西は、地主達の住み暮す所で、彼らが町の最初の入植者なんだと言っていた。

外の雨は、シトシトと降り続く。

全員、宿から雨よけのコートを借りる。 黒いザラザラとした植物の繊維が全身に付いたコートで、動きにくいのだが。 網目のキツイ織り方と表面に油を塗ってあるために、水を良く弾くのだ。

Kを先頭に、雨の中に出て行く。 

まず、大通りを噴水広場に向かう。 広場の中に入ると、人が大勢集まれる広さが有る円形の広場があって、その周りを色々な建物が囲う。 

北側に、一際大きな三階建ての建物が。 一階部分が、戸も無い開かれた吹き抜けの場所で。 椅子と、テーブルが幾つも有る。 どうやら、此処が噂の野菜や果実を取引している集会所ならしい。 

広場の東には、石のガッシリとした建物が。 此処は、役人達の詰め所になる。 昨日、Kとイルガは此処に来た。

広場の中で、北の集会所の右脇と、西側に道が木々に囲まれて伸びている。

「こっちだな」

イルガが、西側の道を指す。

Kは、頷くだけだった。

西側の道に入ると、薬屋だの、食事の出来る店が数軒並んでいるだけだ。 少し行けば直ぐに林に囲まれて、泥濘に水溜りの有る野道に変わる。 馬車の往来が多いのか、道の左右は草も生えずに少し沈んでいて。 道の真ん中には、雑草が生え始めている。

「う゛~、寒い」

ポリアが言うと、マルヴェリータも頷いた。 春先の雨は、以外に冷たいものだった。

その道を行くこと、半時(大体、一時間)。 今は、昼頃だろう。 森の間を抜けていくと、大きな家々と、土地を有する村の様な場所に出た。 

「ほぇ~、すんごい蔵の数」

ポリアは、敷地の中にズラズラと蔵が並んでいるのを見て驚く。

Kが敷地と敷地の間を縫うような道を歩き出す中で。

「昔から地主の財力は、蔵の数で決まると言うからな。 世界でも、此処が蔵の数なら一番かもな。 大陸の東に、商業大国のマーケットハーナスが在るが。 国土が狭い分だけ蔵の規模は此処までない」

其処にイルガは、頷いて。

「懐かしい話だ。 ケイの言う通りです」

Kは、イルガに。

「おっさんは、向こうの生まれか」

「いや、冒険者をしていた頃の話だ」

Kは、それで納得した。 イルガは、今も冒険者ではあるが。 ポリアの家に仕える前にも冒険者をしていた事が在ると言うことである。

Kは、屋敷と蔵の並ぶ各家々を抜けて、一番奥の一際も二際もでっかい家の庭に入った。 庭の中には、木の囲いが在って牛やブタが放牧されている。 遠くの小屋に、牛やブタが居る。

「ウシさ~ん、ブッタさ~ん、こんにちわ~」

システィアナは、喜んで手を振る。

Kも、家畜小屋を一緒に覗き。

「お~、子牛が居る。 今年生まれたばかりだな」

「あっちに~、コブタさんがいますぅ」

まるで、兄妹の様な二人。

「なんか、似合ってて不満・・」

と、歪んだ顔のポリア。

「確かに」

と、冷めた目のマルヴェリータ。

木の柵が終わると、蔵が等間隔でずらりと。 白い土壁に、曲がったタイルの様なものを敷き詰めた三角屋根。 ポリアは、初めて見る。 

「屋根が三角だし、なんかタイルみたいなものが敷いてあるわ」

イルガも、頷いて。

「本当ですな、初めて見ます」

Kは、屋根の瓦を見て。

「此処の土地の特有の屋根だ。 元々は、東方の大陸の屋根素材なんだ。 土を固めて焼いた物だが、堕ちたり、地震でもない限りは百年以上は長持ちすると聞く」

「へぇ~、百年ねぇ」

「通気性が抜群で、雨水を凹んだほうに流して列を作らせて落とすのが特徴なんだ。 雨漏りさせない為にな」

イルガは、呆れてKを見ては。

「流石は学者だのぉ、なんでもよぉ~知ってるわい」

そこに、野太い男の声がした。

「何者だ。 此処が、コルテウ様の屋敷と知って来たのか?」

声の方を見れば、小太りで大きい体つきの男がズンズンやって来る。 K達と同じコートを着ているが。 屋敷の方から人を訪ねて来る所を見る限り、この屋敷の使用人らしい。

Kは、男に近寄って。 

「ああ、聴いてきた」

フードの下の男の顔は、警戒している顔そのものだ。 日焼けした顔が、フードに見え隠れで年齢が解らない。

「何用か?」

「クォシカの捜索で来た。 親友のシェラハさんに逢って話しが聴きたい」

「何? お嬢様に?」

「ああ。 彼女が、クォシカの家財道具を持っていったと聴いた。 家に荒らされた形跡があったとか。 引き取った家財道具を見せてもらいたいんだ」

Kの顔を男はジッと見ている。

そして、

「・・・なら、此処で待っていろ。 お嬢様に、話をしてみる」

「了解」

男が屋敷に向かう中、ポリアがKに近づいて。

「完全に警戒してるわよ。 怪しい包帯男さん」

「好きにしてくれ」

ポリア達は、断られると思っていたが。

「お~い、こっちに来い」

と、先ほど男の声が直ぐに聞こえてきた。

「あら~」

と、ポリアが驚けば。

Kは、

「多分、昨日のモンスターの一件が効いているんじゃないか」

と。

「嘘ぉ?」

と、ポリアは驚いて返す。

屋敷の入り口に向うと、分厚い木製のドアの表には、向かい合う天馬の絵が彫られていた。 屋敷は、四階ぐらいの高さの在るものだが、幅が広い。 泊まっている宿と変わらないかもしれない大きさだ。 半分開かれた扉からロビーに入ると、大理石の床が広く。 床の石には、美しい湖の絵が描かれていた。

ロビーの右には、靴などをしまう靴棚が花瓶を上に載せて存在感とインテリアの調和を見せる。

「ほぉ、これは漆を使った上質なものだ」

Kは、黒い靴棚を見て言う。

そこに、

「眼が肥えているね。 ようこそ、ウチの娘に用が在ると言うのは君たちかな?」

と、低いながら、良く通る大らかな響きの声がする。

全員が、ロビー正面の階段の脇から現れた男性を見る。 蒼いベストに、Yシャツ。 黒いズボンが折り目正しい。 男性の顔は、四十過ぎの大人びた渋みのある紳士だ。 髪は綺麗に七:三に分けてあり、髭も左右対称ににして手入れが行き届いている。

Kは、左手を胸に当てて、左足を引いて一礼した。 これは、貴族などがする礼であり、相手に敬意を払う礼なのだ。

ポリア達も挨拶しながら、Kの身のこなし鮮やかさに驚いた。

「どうやら、コルテオ氏自ら出て来させてしまったみたいだ」

と、Kは、ポリア達に言うと。

「我々は、クォシカの捜索を受けてマルタンより参った冒険者です。 シェラハさんに、面会出来ますか?」

すると、コルテオ氏もKに深々と頭を下げた。

「え゛?」

ポリアは、いきなり頭を下げるコルテオの態度にびっくりだ。

顔を上げたコルテオ氏は一同を見て。

「まず、礼を言わせて貰うよ。 君達が、昨日宿で助けた男は、私の農場の働き手で、私の命で水路の具合を見に行っていたんだよ。 今日帰って今さっき聞いたんだが、助けてくれたのは君達だね。 いや、この通り助かった」

人柄とは、細部に現れる。 この態度、ラキームとは大違いだった。

「仕方ない、見捨てる訳にもいかなかっただけさ。 ま、無事で良かった」

Kが受け答えをすれば。

「いや、町の危機を救ってくれた恩人ですよ。 さ、こちらにどうぞ。 娘に合わせましょう」

先ほど、雨の中で出逢った使用人らしい男が、コートを脱いで案内に奥から現れた。 意外の老人であった。 

応接間だろうか。 通された部屋は、暖炉に火の焚かれた一室である。 暖炉の上や窓と窓の間には、クォシカの絵があった。 Kは一発で看破して、その絵に見入っていた。

システィアナは、暖炉にポリアと当り。 マルヴェリータは、ソファーにイルガと座った。

直ぐに紅茶が運ばれて、ケーキと一緒に出された。 朝を食べていない一行には、嬉しい御持て成しである。 レモン・カシス・アップルの果実紅茶で、香りが素晴らしい。

一同が、紅茶を楽しんでいる。 Kだけは、絵を見ていた。

そこへ、コルテオ氏に連れられた女性が遣って来る。 白い肌をしたポリアよりやや低い背で、赤いドレスを着ている若い娘だ。 可愛らしい顔立ちをしているが、その顔はポリア達を警戒していて怪訝な雰囲気である。

ポリアは、立ち上がって。

「こんにちわ、冒険者のポリアといいます。 クォシカさんの・・」

と、言う途中で、いきなり女性が喋る。

「解ってるわ。 ラキームの手先でしょ? モンスターを倒しても、ラキームの手先には変わらない。 私が話すことなんか何にもないわ。 帰って」

いきなりの、言い方だ。

「シェラハ、そんな言い方をするものでは無い」

コルテオ氏は、娘に言う。

だが、やはり親友か。 クォシカの身の上の粗方を知っているのだ。 ラキームに憤慨している訳だから、この対応も当たり前だろう。 

言われたポリアも、マルヴェリータを見て困る。

その時、だ。

「この絵、本当にいい絵だな。 クォシカの絵なんだろ?」

Kが、絵を見ながら言う。

コルテオ氏が、娘を見てから。

「ああ、そうだよ」

「宿の室内にも有るんだ。 落ち着きを誘ういい絵だ」

Kが、いきなり絵を褒める。

ポリア達は、気休めの行動だと思った。

だが、Kは何事も無かったかの様に話し出す。

「俺は、クォシカの失踪に疑問を持って、この仕事を請けた。 ま、仕事の依頼主がラキームなのは仕方無い」

Kは、そう言ってシェラハを振り返って見た。

何かを言い掛けたシェラハも、包帯の巻かれたKの顔に驚いたらしい。 言い掛けた言葉を呑んでしまった。 

「さて、俺が君に聞きたいのは二点。 クォシカの家から持ってきた家具を見せてくれ。 もう一つ、クォシカの好きな場所を教えて欲しい」

シェラハは、警戒する眼差しで。

「何で、家具なんか・・・」

「何で? それは、君が知ってるはずだろう? クォシカが失踪したのが判明したとき、部屋が荒らされていて。 君は思った。 クォシカは、失踪したんじゃない・・・連れ攫われたのだと・・? ん?」

シェラハの顔が、ポリア達も見て解るくらいに驚きに変わっていた。

「・・・そう・・よ」

頷くシェラハは、顔が蒼褪める。

「だが、俺は思うんだ。 ラキームが、態々大金を協力会に預けてまで、誘拐が成功していて探すだろうか。 ケチで、もう別口で結婚の話まで決まっているのに」

シェラハは、Kに寄り。

「じゃあ、クォシカは誘拐もされて無いって言うの? この町から、どうやって他に出て行くのよっ?! 門には門番が立っているし、オガートからマルタンまでは他の普通の商人達の馬車が行き来してるのよ? 怪しい馬車や旅人は、必ず街道警備の調べを受けるわっ!」

しかしKは、落ち着いた口調で、

「だから、家具を見せてくれ。 一つ一つ調べて行かなければ、現実が見えてこないんだ」

Kの瞳と、シェラハの警戒する瞳がぶつかった。 シェラハの鋭い眼差しに比べ、Kの眼差しは穏やかなものである。

程なく、

「はぁ・・・解ったわ」

シェラハは、了承した。 仕方無くだろうが、手がかりが欲しかったのだろうと見れる。

「こっちに」

Kを先頭に、シェラハの後に着いていくと。 家の奥にある離れのガラスに囲まれた部屋に出た。 

「うわ、スッケスケ・・裏庭の森まで見えるわ」

ポリアの驚きは、みんなのものだろう。 天井は、研いだ鉛筆の先のような六角形の形。 母屋に通じる廊下と入り口以外は、全て窓として開くらしい。 本日は雨だから開いていないが・・。 部屋の広さは、ポリア達の泊まっている五人部屋の一回り大きいもの。 一人には、ちょっと広いかもしれない。

Kは、部屋に入るなり。

「ここは、アトリエか? 誰か、絵を描いている?」

シェラハは、驚いてパッとKに振り返る。

「まぁ、何で解ったの?」

Kは、足元を見て。

「此処に絵の具の染料が落ちてる。 こんな、ポトリと水滴を落とした様な跡は、画家の家でよく見れる」

シェラハは、Kの足元の蒼の絵の具の落とした跡の気付いた。

ポリア達も、木の床ながら古く黒ずんだ板の間にて、良く見つけたものと呆れる。

シェラハは、その部屋の一角。 鉢植えの観葉植物の横にある三つの戸棚や衣装ダンスを指して。

「これ、クォシカのもの」

ポリアは、それを見て。

「少ないわね」

「ええ。 クォシカは町でも一番小さい家だから、お金も無かったし。 クォシカの衣装タンスと、小物入れの棚は私のをあげたの」

「ふ~ん、町のみんなに薬師として役立ってたのに・・・・お金を取ってなかったの?」

「最低分ね、日々生きる分だけ・・」

ポリアも、マルヴェリータも、クォシカ親子に感心するばかり。

一方、Kは衣装タンスと見て。

「なあ、鍵が壊されてるが・・・これは元々じゃないだろう?」

「え? あ、うん・・・。 私があげた時も、居なくなる二日前も壊れてなかったわ。 ・・・でも、なんで?」

タンスを除いてくるシェラハに、Kは錠を掛ける金具の壊れているのを指差して。

「この壊し方は、盗賊特有の壊し方だ。 ナイフや短剣を金具と木の間にこじ入れて、金具ごと外す。 荒いやり方だ・・・」

ポリアをはじめ、その場にいる全員に沈黙が走る。

「しかし、物取りじゃないな・・・」

と、タンスや棚を見回してKは言う。

ポリアは、Kの横に行って。

「なんで解るの?」

Kは、他の小物入れと戸棚を次々に指差して。

「最も金のありそうな棚の鍵が壊されてない。 しかも、衣服の入ってる棚や、タンスに持ち去った服の空きが無い。 意図的な理由があって、タンスを壊したんだろう」

この言葉に、シェラハが堪らずに。

「そうなのよっ!!。 クォシカは、バックは一つしか持ってなかったのよ。 夜逃げなら、バックに服くらいは入れていくわ。 第一、お父さんとお母さんの形見を持っていかない訳無いじゃない・・・あのクォシカが・・・」

シェラハの方からKを見て、ポリアは。

「ね、もう大体解ってるんでしょ? 何が有ったの?」

Kは、ポリアを見てから、シェラハを見る。

「シェラハ、もしクォシカが襲われて逃げるとしたら・・・何所だろうか・・・。 絵の題材の一番多い所は、一体何所だ?」

「え゛?」

シェラハはハッとした。 Kに問われて、直ぐに一箇所思いつく。

「公孫樹の・・・森だわ・・・」

マルヴェリータは、東を指差して。

「昨日、モンスターの出た森?」

シェラハは、ガクガクと頷いて。

「そ・そうよ・・クォシカの両親が・・・出逢った場所だって・・」

ポリアは、透かさずKを見て。

「ケイっ、まさかっ!!」

Kは、雨の外を見て。

「また、森か・・・」

シェラハの話では、昨夜にモンスターの現れた公孫樹の森は、古い古い昔から“呪われた森”と云われて来たらしい。 だから、町の人々は近寄らないのだとか。 しかしクォシカの一家は、薬を得るために薬草探しで入っていた。 クォシカが、シェラハに公孫樹の紅葉の美しさを言っていたし。 絵の題材でも、四季折々の森の絵を描いていたとか。
 
Kは、考え込むだけだった。

だが、ポリアは、直感的にKはもう大体の答えが出ていたような感じを受ける。

Kは、直ぐに辞退を申し出た。

去り際、

「また来ますか?」

と、シェラハに聴かれた。 多分、シェラハも今までのクォシカの事を知ろうとした誰ともが、Kと当て嵌まらないから何か違うモノを感じたのだろう。

Kは、静かに言う。

「ああ。 多分、クォシカを迎えに行くに当たっては、君の力が必要になるだろう。 その時になったら、相談に来る」

「え? 迎えにって? ・・・どうゆう事です・・か・・?」

Kは、あえて言わない。

コルテオ氏は使用人の男に命じ、K達を送るようにと。 一応ポリアは遠慮したが、Kは受けろと言うので、乗っていく事に。

しかし、この日は色々な意味で進展が有るように運命付けられていたのか。 宿に着くなり、宿のロビーにて女将に迎えられて。

「あら、丁度いいところに帰ってきた」

ポリアが話を受けて。

「どうしたの?」

「イヤね。 警備の隊長さんが、包帯男に逢いたいとさ」

Kは、ポリアに鋭く向いて。

「ポリア、行くぞ」

と、コートを羽織って外に出る。 

雨はまだ降り続いて、夕暮れ前の暗い空が不気味に広がる。 ポリア達には、未だ事件は謎めいていた。


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