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second9、幕は降ろされて、悲劇の復讐者は縛られる。
9、幕は降ろされて、悲劇の復讐者は縛られる。 綺麗な幕引きを望まない探偵は、何を知るのだろう・・・・。 そして、全ては明かされる。





「で? ウチのリーダーは、そのまま役所に行っちまった訳か?」

困惑した顔でウィリアムの行き先を聞いたのは、オロスの家で夕食まで馳走に成っていたアクトルである。 やっと夜遅くに、スティールとロイムが二人で馬車で送られて来たと思ったら。 肝心のリーダー、ウィリアムが居ない。 話を聞いて見たら。 役人達と、アリネットとペトルだけが取り調べの為に、遺体と証拠と一緒に警察部署と呼ばれる石造りの神殿に連れて行かれたと云うのだ。

応接室にて、ソファーに集まって座る三人の中、スティールは難しい顔して唸る。

「う~ん。 半分解って、半分解らねぇ~。 モヤモヤしっ放しの状態さ」

だが、ロイムは半べそ顔で、紅茶を啜り。

「人の可哀想な話なんて知りたくないよ・・・。 聞かなくて正解だよ・・・」

と、鼻水を啜る。

アクトルは、話が見えないままだった。

「んで?」

と、言うアクトルに、スティールは間抜けにも。

「んぁ? 何が?」

「リーダーは、何時頃にお帰りだ? 金は手に入ったし、そろそろ島から出る準備しないと」

スティールは、アクトルが云わんとする意味が解り。

「ああ、それか。 数日は、無理みたい」

アクトルは、困った顔になり。

「あ? なんで?」

「ウィリアムは、まだ遣り残しが有るってさ。 それに、これから数日は雨で、海の方は荒れるから、無理に航海に出る事も無いと。 正直、俺は真相を知りたいから、それでいいと思ってるが」

アクトルは、奥でキャリーがオロス氏とこっちを見ているのに、気まずい雰囲気を感じた。

(あぁ・・・、なんとしても早く島から出たい)

其処へ、スティールが。

「んで? アーク」

「ん?」

「美女との“おでいと”は・・・・どうでした?」

デートを、変に言うスティールに、アクトルは更に困惑した顔になり。 コソコソ話でロイムも含めて前屈みになって。

(それがなぁ~、変な雰囲気なんだ・・・。 オロスさんの家族全員が、俺に良くしてくれる・・。 なんか・・・怖いぐらいに・・・)

スティールは、静かに奥の円の部屋で紅茶を啜るクリスフィをチラッと見てから。

(アーク・・・マジで脈が有るんじゃ~ないか?)

アクトルは、信じられない顔で。

(無いだろうぉ~・・・・俺の顔で。 多分は武器が珍しいだけだと思うんだが・・・、何でだ? ウィリアムに聞きたかったんだが)

スティールは、指でクリスフィを指して。

(今夜、泊まっちまえよ。 カマ掛けてみろよ・・・駄目元でさ)

(バっ・バカ言うなっ!! 失礼だろうがっ!!! ・・・お・お前と一緒にするな・・・)

アクトルは、クリスフィの顔を見れないままの姿で、スティールにそう言った。

しかしスティールは、どう見てもクリスフィはアクトルに好意が有ると踏むので、晩生の義兄弟にむず痒い思いがした。

紅茶を飲んで、退散しようとと思った三人だが・・・。

いざ、その話をオロスとすると。

「いやいや、いいではないか。 二・三日、泊まって行ったらいい。 どうせ、ウィリアムも直ぐに旅立てないだろう。 明日から雨も続くしね。 少し、話し相手に居てもらいたい」

と、言われる。 しかも、オロスもキャリーも、アクトルを見て話す。

スティールは、直感的に。

(こりゃあ~完璧だぁぁぁっ!。 ウィリアムの話からしても、クリスフィお目当ての相手はアークだ・・・)

と、感づいた。

スティールは、キャリーと話を合わせて、泊まることに決めてしまった。 アクトルの困った苦々しい顔は、スティールには面白い物である。 ロイムは、呆れてケーキばかりを摘んでいた。




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コンコース島にある大都市ノルノーは、島にあるとは思えない大型都市だ。 

都市の中心付近の南に港があり。 港の正反対の北側には、石で造られた大型の神殿風の建造物が三つ、“ハ”の字を描く様に建てられる。 向かい合った建物と、その二つの建物に挟まれた一棟が存在する。 どの建物も入り口が大きく、剣の先端の様な門は、横幅で五メートル、高さはその倍はあるか。 真っ白い純白な外壁なれど、夜の今は良く見えない。

その建物三棟のうち、最も右側の建物が、警察部署のある建物だ。 軍事部、警察部、運輸部など、様々な管理部局が入るが。 三つある建物の最右部に建つ、一番長くて規模の大きい神殿の四分の一と地下の牢獄。 そして離れに建てられている黒い屋敷の“審判の黒令”と渾名付けられる建物を有するのが、警察部だ。

神殿風の本部には、古い古い地下牢があるのだが。 薄暗い地下一階の牢屋に、赤いドレスのアリネットが入れられた。 灯りは弱弱しいランプの灯りのみ。 風化した石の壁は、天然石を刳り貫いたままのゴツゴツした黒い壁。 地上部とは、別世界が広がっているようである。

「・・・・」

モルビットと揉み合った後のままの姿で、結い上げた髪は崩れて、放心状態のアリネットはボンヤリとした生気の無い姿である。

モルビットは、アリネットの服を脱がした。 直ぐに事件当時から紛失したはずの買ったばかりのペンも、服の内側にある腰の所に差し込んであった。 チェルナーの殺害も、アリネットは認めた。 だから、こうして逮捕された訳だ。

そして、牢屋には・・・モルビットも入った。 そして、フォレストが鍵を掛けた。 二人の入った房は、個別独房で。 檻が一つ一つ個室の中に設けられた牢屋だ。 主に、女性や訳在りに人物を入れる特別の牢屋。

「?」

アリネットは、何故モルビットが入っているのか解らなかった。

簡素なベットに座るアリネットは、石の床に座るモルビットの背中を見る。 頭の髪は白くなり、随分と苦労が滲む雰囲気が漂う背中。

「モルビット・・・」

アリネットは、部屋の四隅に灯されたランプの灯りの中で、モルビットの名前を呼んだ。

すると、モルビットは振り向かずに。

「アリネット、まだ死なないでくれ・・・。 どうしてもと云うのなら・・・俺も連れて行ってくれ・・・」

アリネットは、身体を震わせて涙を流す。 

「ゴメ・・・ごめんなさい・・・三十年前のあの時・・・私が・・・」

搾り出す様に謝るアリネットに、モルビットは静かに。

「もういい。 全て終わった事だ。 俺の身の上を思った君の行動だもの・・・。 今さっき、辞表を出してきた」

「えっ?」

アリネットは、赤い涙目をモルビットに向けた。

モルビットが警察部の幹部になったのは、十五年以上前の事。 都市でも評判の人情役人であり。 “慈悲のモルビット”と呼ばれるほどに人の心を理解した役人と、都市の人に云われて信頼の厚い男だった。 その噂は、アリネットも知っていた。

モルビットは、俯き。

「全ては、チェルナーを逮捕する為に・・・。 だが、もう奴は死んだ。 俺も・・・疲れた・・・失う物ばかり・・・疲れたよ」

アリネットは、モルビットの背中にかつての愛おしい男の在りのままの姿を見た。 

そう、この二人は、若かれし頃に恋人同士だった。

アリネットが立ち上がった。 そして、モルビットの背後に寄り、床に座ると彼の背中に寄り添った。

「モルビット・・・愛してる・・・。 どうしても・・・・忘れられなかった・・・」

モルビットは、眼帯とは逆の瞳を閉じた。




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さて、深夜にウィリアムは寝る事も無く。 フォレストとクレマソンの二人と一緒に、一階の廊下に居た。 天井には、等間隔でランプが灯されて、廊下はぼんやりと明るかったが。 白い漆喰のような壁が見渡す奥まで伸びていて、人の往来も無く静か。 しじまに支配された世界のような感じである。

フォレストが、ウィリアムを見て。

「モルビット様は、万事お前に任せれば事は片付くと・・・。 どうするんだ?」

ウィリアムは、フォレストを鋭く見た。

「本当に、解決する気・・・あります?」

フォレストは、真剣な真顔で頷き。

「当たり前だ。 モルビット様が引退だなんて・・・俺には信じられない。 この事件の真相が何か、知りたいんだ」

クレマソンは、腰に手を当てて立ち。 微笑んだ。

「ほっ、フォレストがそんなこと言うか。 コイツは面白いわぇ」

ウィリアムは、笑わずに。

「実は、まだ最大の問題が残っています」

と、廊下に顔を向けて言う。

フォレストは、漲るやる気を声に含ませ。

「なんだ?」

「はい。 チェルナーの屋敷で見つけた書類には、明後日の夕方に取引があると書かれていました。 恐らく、密売貿易の事・・・手下のあの男が来るはず」

フォレストは、解せない顔で。

「“あの男”? どの男だ?」

クレマソンが呆れて、

「フォレスト、何を考えて居るんじゃ」

「いや・・・真剣に・・・・」

「多分は、ウィリアムとモルビットが見た、冬にペトルと会っていたヤツじゃろう」

「あっ!!」

フォレストは、やっと話が繋がって理解が行く。

ウィリアムは、フォレストを詰る事も無く。

「いいですか。 あの男がチェルナーの手先で、密売貿易の現場担当の実動犯です。 何度も役人に見つかっても、取り押さえようとした役人の人々を斬り殺して逃走をしたグループの頭でしょう。 最近まで、チェルナーが島から離れて活動していたのには、悪徳商売の仕事の為でしょうから。 何らかの取引があるのかも知れません」

フォレストは、いよいよと言葉に力を入れて。

「それは・・・。 チェルナーが死んだ今、一網打尽に出来る最後の機会かもしれん」

ウィリアムは、フォレストを睨むくらいの目で見て。

「しなければなりません。 奴らを逃せば、後々でどれだけの危険と、逆恨みを残すか。 此処で、全てを終わりにしなければ。 チェルナーの死亡の噂は、数日で街に広がりましょう。 どうにかして、捕まえなければっ」

頷くフォレスト。

クレマソンは、ウィリアムを見て。

「して、方法は?」

ウィリアムは、切れる様な瞳で二人を見ると・・。

「知っている人物の事情聴取が先でしょう。 必要とあらば、囮に使ってでも・・・ね」

二人は、誰の事を言っているかは解った。

フォレストは、急に困った顔になり。

「ウィリアム。 意味は解るが、あの男は脅された被害者だろう? 囮にまで使うのか?」

囮は、危ないやり方なのだ。 いざとなれば、囮が死ぬ事もある。 一般的に、囮はしないのが方針だ。

しかし、ウィリアムは平気に頷いた。

「ええ、当たり前です。 あの男が、有る意味ではモルビットさんとアリネットさんを不幸に落とし込んだ張本人ですからね。 自分の・・・自分達の欲望の為に」

フォレストと、クレマソンは意味が解らずにお互いで見合った。

そして、もう夜中だと云うのに・・・・。

「此処だ、入れ」

フォレストに連れられて、ペトルが連れて来られた。 神殿の二階の右隅にある、取調べ室。 白い壁に囲まれた部屋だ。 狭い部屋の中央に、丸いテーブルが一つ。 背もたれの無い木の丸椅子が幾つか部屋の片隅に置かれているだけの殺風景な場所である。

時間が時間なだけに、眠気と疲労から憔悴した顔が脅えているペトル。 部屋に入ったペトルは、静かに瞑目してテーブルを前にして座るウィリアムの背中を見た。 緊張して生唾を飲んだ音が、部屋に小さく響いた程。

フォレストとクレマソンが、ペトルの後から部屋に入り。 クレマソンは、ウィリアムの左後方に椅子を置いて座り。 フォレストは、ウィリアムと対峙させるように、椅子を置いては。

「座れ」

と、ペトルを座らせて。 自分は椅子を持って出入り口の前にドッカリと座った。

用意が整い、ウィリアムは瞳を開いた。

「・・・・」

ペトルは警戒心を全身に表し、脅えて疑る目を回りに向けた。

ウィリアムは、静かに尋問を始める。

「ペトルさん。 チェルナー氏の館の二階。 書斎の絵の下に隠して在った書類の事は、ご存知ですよね?」

「えええっ?!!!!」

ペトルは、いきなりの事に度胆を抜かれた思いがして、思わずに声を上げた。 あの場所は、誰にも見つかる筈が無いと思っていたのだから。 チェルナーが、絶対の自信を持っていた隠し場所なのだ。

ウィリアムは、口元の片方を上げて。

「驚かれる事も無いでしょう? 自分の仲間に魔法遣いがいましてね。 あの隠し場所を見つけた訳ですが・・・。 さて、あの書類には貴方のお名前の記名も在りましたし、“ポール”と呼ばれるあの男の名前もありました」

ペトルは、もうガタガタと震えて。

「そそそ・・それ・・で?」

「ええ。 明後日、何か取引が在るそうですねぇ?。 明記して在りましたよ。 何でも、人一人と、六万シフォンを渡す取引とか・・・。 随分と大金ですが・・・一体何処で、取引をなさるんですか?」

ペトルは、ブルブルと首を左右に振り。

「わっ・わたしッ!! ・・・・そこまでは・・・知りません・・」

動揺したペトルの顔を見て、ウィリアムはペトルの背後のフォレストを見る。

「・・・?」

フォレストは、何ゆえに見られたか解らなかったが・・・。

ウィリアムは、突然に話題を・・・変える。

「解りました。 では、二十五年ほど前のお話・・・いたしましょうか?」

クレマソンも、フォレストも、いきなりの質問の変更に少し身を動かして驚いた。

ペトルですら、困惑と戦慄の混同する顔が歪み。

「そ・そんな・・・昔の事・・・」

と、言うのだが・・・。 

「二十五年前、アリネットさんと、ご主人のウィアーさんの一人娘であるジョルジョが行方不明になりました。 覚えて無いとは・・・言わせませんよ」

と、ウィリアムが言うと。

「はぁっ・・・」

と、ペトルは息を呑み、益々声を震わせて。

「どどど・・どうして・・・その・・事を・おおお・・」

ウィリアムは、ズボンのポケットから茶色い粗紙を取り出して、広げると・・・。

「モルビットさんから教えて貰って、秘かに捜査を手伝っていたものでね。 色々と知ってますよ。 アリネットさんと結婚していたご主人のウィアーさんは、繁華街の一等地付近で飲食店をやっていました。 しかし、今ではその場所は、貴方の弟さんがレストランをやっていますねぇ。 しかも、大して美味しくもないのに随分と高い食材をお使いとか・・・。 仕入れ先は、チェルナー氏が営む貿易店からと調べがついてます。 これが、知らないで済まされますか?」

ペトルは、荒い呼吸となり目を全開にしてギョロギョロとさせて、

「しっ知らないっ!!! 私はっな・ななな何も知らないっ!!!!」

と、怒鳴り上げる。

ウィリアムは、冷静に。

「ふむ、そうですか・・・。 しかし、それですと変ですねぇ~・・・」

と、ペトルの目を見つめる。

「何がだああああッ?!!!」

いよいよペトルが興奮し、激怒しそうな様子に成った。

ウィリアムは、そこに水を打つような言葉を流す。

「チェルナー氏の隠されていた本の最初に、こうありました」

“ペトルの密告で、薔薇の様なアリネットを手に入れる。 ペトルのヤツ、面白い事を襲えてくれたモンだ。 あの美人を、俺の玩具にできるとは、美味しい事だ”

「とね」

ペトルの動きが、ピタリと止まった。 

フォレストも、クレマソンも、部屋中央の二人を見る。

ウィリアムは、スッと顔を笑わせて。

「云いましたよ。 自分はモルビットさんと親しいと・・・。 何も知らないと、思っているのですか? 云わないならそれで結構ですが。 お喋りになりませんと、それなりの事・・・しますよ」

ペトルは、顔色を戦慄に染めて涙目になり。 追い詰められている自分を必死に隠しているつもりで。

「な・・何を・・・するつもりだ?」

「自分がモルビットさんから聞いた話を疑惑としてフォレストさんに言ったら・・・貴方は生きている人では最大の被疑者の一人。 そこに居るフォレストさんは、非常に気が短いので。 拷問もいとわないでしょう。 痛い目を見てまで・・・隠します?」

ウィリアムは、寧ろその方が面白そうだと云わんばかりの顔で言う。

ペトルは、パッとフォレストを振り返った。

フォレストも、事がモルビットの事で只ならぬ事と感じた。 だから、拳をバキバキと鳴らしては。

「お前・・・何した? 力づくで、吐かせてやろうか?」

と、鬼の形相で言う。

ペトルは、プルプルと左右に顔を振るって。

「言います・・いい・言いますから・・・拷問は止めて下さいっ」

と、顔面蒼白で言った。

その話は、クレマソンも始めて聞く話しであり。 フォレストにとっては、怒りが全身から噴出してペトルを斬って捨てようかと思うに至る話だった。

ペトルの実年齢は、アリネットと同じ。 しかも、アリネットやモルビットと同じ教育を受ける学校に通っていたのだ。 十八歳の時、ペトルは仕事の事故で父親を失い、学校を卒業してから働きに出た。 

それから、数年後の事。

ペトルの弟ペテルは、十四・五で伯父の料理店に修行に出されて、二十の頃に店を持ちたいと野望を持ったと云うのが事の発端だった。 ペトル自身も、賃金の安いレストランのボーイとして、兄弟六人を養う立場に在ったから。 弟が店を持つのには賛成で、あわよくば自分が店のオーナー兼支配人でもと、夢を持った。 

だが、腕の無いペトルの弟に、そんな甘い話が転がり込んでくるわけも無い。 

そうして、更に一年以上が過ぎた。

ペトルは、当時島に来たばかりで、土地勘の無いチェルナーに引き抜かれて用人として仕え始めた頃。 或る晩にチェルナーへ、弟の店の事で泣きついた。 土地と金の融資を求めたのだ。

すると、チェルナーは顔を悪魔の様に変えてニヤけさせて。

「手助けしてやれん訳でもないが・・・・。 その話に見合うだけの美人をよこせ」

と、ペトルに言った。

ペトルは、直ぐにアリネットを思い出した。

店の客として、アリネットの店に行ったチェルナーは、知的で気品溢れるアリネットを一瞬で気に入った。

そしてペトルに、その夜の事・・。

「アレなら、話に乗ってもいいぞ」

と、・・・囁いた。

さて。 ペトルは、もう何かにとり憑かれたかのように必死になってアリネットの周りを調べた。 そして、学のある故か、ある事に気付いた。 アリネットの娘のジョルジュは、緑の瞳だ。 蒼でも無い、特別に数が少ない目の色・・。 アリネットの家系も、ウィアーの家系も、島の人種で緑の目は出ない。 だが、モルビットの家は、歴代に渡って当主は奥さんを大陸から娶らせているし、モルビットの母親も、祖母も、緑の目なのだ。 

更に調べて行く内に、アリネットの出産は、結婚から僅か四ヶ月足らず。 

この世界では、一月の日数が五十五日。 四ヵ月では、赤子は早産で死産になる。 なのに、アリネットは元気な女の子を・・・。

この事をペトルは、チェルナーに伝えると。

「そうか、そいつは面白いぞ・・」

チェルナーは、遂にその悪魔の本領を発揮した。 まず、安い金利でウィアーに金を貸した。 そして、相場を言い訳に、どんどん利子を吊り上げた。 そして、苦しむ頃になって、屋敷に返済の延滞を言う為に来たウィアーに娘の瞳の事を言ったのだ。 そして、こう言ったらしい。

“お前の借金・・・只にしてやってもいい。 アリネットと・・・娘を売ってくれ”

それから、ウィアーは性格が変わり。 家庭内で暴力ばかり振るう男になる。 

アリネットが、仕事すらもしなくなった夫に悩み、困り果てる。 

更に、アリネットの隙を見てウィアーは、こっそりと手引きして娘のジョルジュをペトルに渡した。 

娘を失ったアリネットの悲しみは非情なもので、毎日の様に街を彷徨い歩いて探すようになったとか・・・。

そこに、正義顔で手を差し伸べたのが、チェルナー。 裏の力で、娘を探すとアリネットに近寄り・・・館に引き込んで我が物としてしまった。

アリネットも、誘拐したのがチェルナーだと気付いて、奴隷になる事を受け入れた訳だ。

そして、ペトルはアリネットの店の利権をチェルナーから譲り受け。 高価な品物を仕入れて貰う事に成った。 しかし、チェルナーもそんな甘い男では無い。 ペトルの弟に店をやらせる代わりに、店を密輸の隠れ蓑にしてしまう。 禁制の薬物や、盗品を、一旦ペテルの店に流して隠し、ほとぼりを冷ましたりするのに使っていたと。

フォレストが、そこまで聞いていて、遂に我慢が限界に達した。

「貴様あああああっ!!!!!!!!!!! 人を陥れて平気だった訳かぁっ!!!!!! 俺がこの場でモルビット様に変わって成敗してやるわあああっ!!!!!」

大声を上げて、軍用剣サーベルを引き抜いた。

ペトルの慌て様は、瞬時に臨界点を超えた。

「たたた助けてくれええっ!!!!」

椅子を転ばせて床に降り、這い蹲ってウィリアムに縋り付く。

「フォレストさん、まだ聞く事在りますよ」

と、ウィリアムは、ズンズンと寄って来たフォレストを見上げる。

「何だとおっ?!!」

ウィリアムは、涙目のペトルを見下げて。

「もう一度聞きます。 ポールと云う方との取引は、何時頃です?」

「あああ明後日にい・・港のそそそ倉庫っ・・・夕方前ぇっ・・」

ウィリアムは意味深にフォレストを見上げて頷く。 フォレストは、八つ当たりの勢いでサーベルを仕舞い。

「クソっ!! 悪党達の面体を改める為にも、コイツは殺せぬっ!!!」

と、ペトルを睨みつける。

ウィリアムは、フォレストに。

「フォレストさん、奴らはバラけて街に入り。 集まるのは取引の時のみ。 明後日まで、知る限りの人に緘口令を・・」

フォレストも、これは私的な感情ではいけないと悟ったのか。 鼻息荒くも、落ち着き始めて。

「解った。 気付かれない為にも、目立った動きは明日はしないほうがいいな」

「ハイ。 港の管轄をする海運部署にも通達を出した方がいいと思います」

「解った、向こうに知り合いが居る。 俺が直に行く」

ウィリアムは、クレマソンに。

「クレマソンさん、モルビットさんが辞令を出してしまった以上。 クレマソンさんとフォレストさんで指揮を。 俺も、仲間に連絡取って明後日は、張り込みます」

老体のクレマソンながら、モルビットに起こった身の上に心が苦しむ。

「おいさ。 この老体、大捕り物に掛けてやるわい」

と、勇んで立ち上がる。

ウィリアムは、それからペトルをまた見下して。

「欲望の赴くままに生きた罪は、ご自分で償って頂きますよ」

と。 冷静な容赦の欠片も無い声。

フォレストは、身を屈めてペトルを睨み。

「貴様、極刑も覚悟しろよ。 チェルナーに加担した罪、洗い浚い暴いてやるからなっ!!」

と、ドスの利いた言い回しで言い放つ。

「うう・・・うああああ・・・・うわああああああーーーっ!!!!!」

ペトルが、その場に泣き崩れた。 チェルナーが死に、真実は有耶無耶に葬られると踏んだペトルは・・・・甘かったのだ。




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次の日、もう島は厚い雨雲に覆われて、雨が降り続いていた。

ウィリアムは、一旦早朝にオロス氏の店に行った。 スティールとロイムを送った馬車が、オロス氏の店で降ろしたと言うからだった。

しかし、まさか泊まっているとは・・・。

店先で、執事ガルオーンに迎えられ、奥の館に向かったウィリアム。

(よほど・・・アクトルさん気に入られたかな)

と、推測した。

ガルオーンに起こされたスティール・アクトル・ロイムは、応接室でウィリアムと合流した。 暖かい紅茶と共に真相を聞くや。 皆が怒ったり、悲しんだり。

ロイムは、泣きながら。

「最低だ・・・クズだ・・・」

と、漏らす。

スティールは、ギリギリと睨む目を雨の中で濡れる中庭の花に向け。

「捕り物に参加、上等じゃないか。 全員、叩き斬ってやる・・・」

と、殺気すら含む声を低く言ったのは、まだ寝ているオロス氏達への配慮からだ。

ウィリアムは、三人に頭を下げた。

「これは、冒険とは関係ありませんが。 自分の親友の事で、大事な一件・・・手を貸してください。 相手は、無頼の冒険者。 一網打尽にするには、役人たちだけでは・・・難しいですから」

アクトルは、大きく頷く。

「頭上げろや。 リーダーのお前の大事は。俺らの大事。 しかも、話が話だ。 是非参加させてくれ」

ウィリアムは、顔を上げると。

「ありがとう・・・みんな」

スティールは、意気込んで。

「そいつ等とっ捕まえれば、全ては終わる」

と・・・。

しかし、ウィリアムは、スッと視線を外して外を見る。 躑躅の一種のピンクの花が、雨に打たれて濡れていた。 冷たい雨で、花が萎れて今にも枯れそうな姿であった。

まだ・・・何かあるのだろうか。

そして、ウィリアムは、この日も休まなかった。 また、一人で警察部署に戻ると。 フォレストに頼んで、アリネットの事情聴取に臨んだ。

取調べ室では無く、モルビットの私室にて。 モルビットとアリネットの二人を呼び。

「こちらにどうぞ」

と、ソファーに二人を座らせた。

上級警察役人のモルビットの部屋は、広い割りに簡素で味気も無い。 窓際の黒い机の上には、ウィリアムが持ち込んだ一輪挿しの花瓶があり。 部屋の中央に置かれた丈の低いティーテーブルの上には、薫り高いラズベリーティーが煎れられ。 ソファーに座る二人を出迎えていた。

モルビットの机には、誰も座らず。 ウィリアムが、二人の前にソファーで対峙するように座る。

クレマソンとフォレストの二人は、ウィリアムの後ろ後方にテーブルと椅子を並べて座った。

一夜明けた中、良く眠れていない様子のアリネットとモルビットは、只管に黙っている。

ウィリアムは、アリネットを見て、まず口を開いた。

「お爺さんから、あの毒の極秘性を聞いて無かったんですか? 使えば、死罪どころか一族処刑の重罪ですよ?」

モルビット・クレマソン・フォレストが、ギョッとした顔に成った。

アリネットは、死人の様に蒼褪めた顔に、涙を流す。

「あの毒・・・もう・・・誰も知らないと・・・思ったのに・・・」

すると、ウィリアムが少し怒った顔になり。

「バカな。 未だに、あの毒を探す殺し屋などの裏家業の捜索が在ると聞きます。 やっと歴史の闇に消えた悪魔をまた呼び起こすなんてっ・・・」

フォレストが、ウィリアムの後ろから。

「そんなに凄い毒なのか?」

ウィリアムは、首だけで肯定して見せた。

「正式名称は、“メイロホトトゲ草”。 昔の別名は“闇送り”」

クレマソンが、俄に驚愕の顔に成った。

「なんとっ!!! あの“悪魔の毒”とも、“死人造り”とも呼ばれて、大昔に暗殺の為に頻繁に使われた猛毒ではないか・・・。 ま・・まさか・・」

モルビットも、驚くべき事態に声を詰まらせて。

「れ・歴史の伝説に載る・・・毒薬か・・・」

ウィリアムは、俯くアリネットを見ながら。

「あの毒は、無味無臭。 体内に入ると、血管の血液を凝固させて心臓を止める。 しかも、喉の粘膜を溶かして血を吐かせる。 特定が難しく、数百年前まで暗殺に使う毒として持て囃され、毒の特産地であるこの島はその密売で莫大な利益を上げたんです」

フォレストは、直ぐに問い返す。

「何で、伝説になったんだ?」

「メイロホトトゲ草は、この島の野原に普通に生える雑草です。 その茎や葉を茹でて煮詰めていけば、出来上がる安価で簡単に誰でも作れる毒・・・・。 暗殺が暗殺を呼び、復讐が復讐を呼び、世界での毒の使用が乱用などと云う域を超えて広がりました。 当時、その密売に手を染めていたのが、ノルノーを治める当時の領主。 しかし、大陸の一部で端を発した貴族支配から脱却が世界で始まり。 このノルノーもその波に飲まれて、領主は自分で売っていた毒で暗殺されました。 そして、新しい政治を担った領主は、この毒を封印しようと島に緘口令を敷き、重い重罰を課し、もう草は採り尽くしたと宣言したんです」

クレマソンは、長く生きながらに初めて知る歴史の暗部に驚きながら尋ねる。

「じゃ・・・在るのに・・・無いと?」

「ええ。 この事は極僅かの人が知るだけ・・・。 俺も、昔に暗殺者を家業にし、領主が変わってからは薬師に代わって生きてきたという一族の最後の生き残りだったオルレーンさんに聞いたんです。 何でも、この毒に係わる法律は、代々島で裁きの法律を受け継ぐ長官のみが極秘に受け継ぎ。 誰にも言わない口伝のみの黙秘事項だと・・・。 オルレーンさんは、その毒を特定する役割だったと聞きます」

モルビットは、驚愕の事実にワナワナとアリネットとウィリアムを交互に見回しながら。

「では・・何でアリネットが・・・知ってるんだ?」

ウィリアムは、少し黙った。

まだ降り止まぬ雨が、窓に滴る。

「・・・オルレーンさんの話ですと・・・毒の存在ことなら、古くからの薬師は知っていると・・・。 知っているのは、その昔にその毒を売って生計を立てた裏家業の一族だそうです」

「な・・なんと・・」

モルビットは、驚いてアリネットを見る。

「こりゃ・・・」

クレマソンも、ビックリしてアリネットを見た。

アリネットは、全てを秘かに知っていたのか。 黙って、俯くのみだ。

しかし、ウィリアムがその後に言った言葉は、アリネットすらも驚愕させる事になる。

「そして・・・。 密売が横行していた時代に、その薬師や密売人達を束ねて、領主と結託していた商人の筆頭が・・・モルビットさんの家です・・・」

その場の全員が、ウィリアムを見る。

アリネットは、瞳を大きく見開いて震える声で。

「う・うそっ、・・嘘でしょ?」

フォレストが、立ち上がり。

「嘘だっ!! モルビット様の家がっ・・そんな血で汚れている訳ないだろうっ?!」

モルビットは、険しい顔つきのまま・・・受け入れ難い様子で。

「ウィリアム・・・本当か?」

ウィリアムは、強く頷く。

「見れば一目瞭然ですがね。 モルビットさんの古い家紋は、天に伸びる一輪の草花と、それを守る天馬・・・。 あの草花が・・・メイロホトトゲ草です・・」

話を聞いたアリネットが、

「あっ」

と、声を出して両手で口を覆った。 体を雷が貫いた様な・・・そんな衝撃だった。

モルビットは、険しい顔でアリネットを見る。 毒を作ったなら、植物も解るはずだろうと思い。

「アリネット・・・本当か?」

顔を覆うように手で隠したアリネットは、声を強張らせて。

「確かよ・・・」

と・・。 まさか、毒を巡ってモルビットと自分の家に暗い闇の共通点が在ったとは・・・。 アリネットには衝撃的すぎる。 そして、なんと云う因果の巡り会わせか。

モルビットは、深いため息を吐いた。 そして、ウィリアムを見るなり。

「ウィリアム、お前・・・知ってて黙ってたのか?」

「当たり前ですよ。 毒殺事件が起きなければ、口外するつもりなんて・・・。 闇に葬られた事実ですからね」

「そうか・・・」

モルビットは、ウィリアムに対して済まない気がした。 聞いた事がバカらしい。

フォレストは、ヨナヨナと椅子に座った。 まさか、こんな事実が有ろうとは。

クレマソンは、ウィリアムに。

「して、このアリネットはどうして犯罪に至ったのじゃ?」

ウィリアムは、顔を覆って前のめりに沈んだアリネットを見ながら。

「先にハッキリ言うならば、毒は筆粉に混じっていたんです。 しかし、筆粉をチェルナーは、元の愛用のペンでは使わない。 だから、アリネットさんはペンを盗んだ」

モルビットは、聞き返す。

「だが、解らない事が多い。 盗んだのは一月以上も前。 何故、直ぐに殺さなかったのか。 そして、何故に昨日は実行したのか・・・。 解らぬ」

モルビットは、そのことをアリネットに尋ねられずに昨日を過ごした。 だから、そこは聞いて置きたかった。 

「解るか? ウィリアム?」

「簡単ですよ。 恐らく、一ヶ月前にそうしなければならないに至る動機が出来たんです。 例えば、もう直ぐチェルナーの元から離れなければならないとか。 自分が殺されるとか」

アリネットは、ハッと顔を上げ。 涙ながらに、

「何で・・・解ったの?」

「昨日、チェルナーの隠していた書類にこうありました」

“長く薔薇は置いておけん。 いずれは棘が鋭くなる。 枯れ始めた薔薇は、綺麗なうちに消してしまおうか”

「多分、薔薇はアリネットさんの事でしょう。 その薔薇を長年欲しがった寄生虫が居るともありました。 これは、恐らく密売貿易の実働犯であるポールと云う男ではないかと思います。 何度も、書類には出てくるんですよ」

“寄生虫が、薔薇を欲しがって困る”

「とね。 多分、アリネットさんが長く傍に居る様な生活の中で、何時か自分を欺くとチェルナーは危険を感じ始めていたんですよ。 ロゼッタが来て、代わりが出来た。 自分の悪事を知るアリネットさんが、そろそろ目敏くなり始めたんでは? 書類に書かれた明日の取引に、六万シフォンと共に用意される人一人とは・・・恐らくはアリネットさんではないかと」

アリネットは、深く深くため息を・・・。 瞑目して、観念したように項垂れた。

モルビットは、確かめたくて。

「アリネット、本当か?」

「・・・ええ。 彼の、言うとおりよ。 私、明日に殺されるはずだったの・・・。 悪党連中に差し出される手はずだった・・・」

フォレストが思わずに踏み込むように。

「チェルナーがそう言ったのかっ?」

アリネットは、顔を上げて窓を見る。

「いえ。 でも・・・解るわ。 今まで、私の後に来た女性のメイドの数は五十人以上は居たのよ・・・。 みんな、飽きられて、処分に困ったチェルナーが悪党にくれてしまった・・・。 死ぬまで大勢の悪党達に嬲られて・・・最後は殺される。 港・・・夜の人気の無い通りに捨てられた遺体は、何人も・・・」

と、アリネットは、全てを語ることが汚らわしくて口を噤む。

代わりにモルビットが、悔しそうに。

「何度その遺体を見たか。 惨たらしいまでに、汚されていた・・・。 何度・・・何度チェルナーの斬ったトカゲの尻尾を掴まされたか・・・」

ウィリアムは、アリネットに。

「では、やはり殺す気だったんですね。 ペンを盗んだ時点で」

「・・え・・ええ。 一ヶ月前のある日、呼び出されて言われたの。 “新しい主人を見つけておいた”って。 私・・・遂に死ぬんだって・・・悟ったわ。 子供の居場所も解らないまま死ぬくらいなら・・・一思いにあの男を殺してしまおうと・・・。 計画を練って、ペンを盗んだんだけど。 いざ殺そうとしたら、いきなりあの男の仕事がまた忙しくなって・・・。 殺す機会を失ったわ・・。 帰ってきても、直ぐにまた・・・」

ウィリアムは、それで納得が行く。

「なるほど。 そして、いきなり落ち着いたら、ロゼッタを辱めようとしたから・・。 焦って、昨日に実行を・・・」

アリネットは、ジワジワ泣き出した。

「みんな・・・ジョルジュと似た年で・・・。 どの子も汚され・・・捨てられて・・・殺される・・・。 もう・・・もう我慢出来なかったのよっ!!!!」

ウィリアムの脳裏に、昨夜の事が思い出される。 実家に帰されるメイド達は、アリネットの事を母親の様だったと言う・・・。 辱められたメイドも、アリネットが居たから自殺しなかったと・・・。 モルビットやウィリアムに言って、アリネットの情状酌量を訴えた。  

「アリネット・・・済まない」

モルビットが、泣き崩れたアリネットの背中を摩った。
 
アリネットは、モルビットに泣き付いた。

「なんでっ!! 何で助けてくれなかったのよぉぉぉっ!!!!」

激しく、モルビットの胸に拳をぶつけて、そのうち泣き止まなくなった・・。

モルビットは、ひたすらに謝り続けた。

泣くアリネットの声は、部屋に響き渡る・・・・。

クレマソンも、フォレストも声が出ず。 無力感に獲り憑かれた。

一人の悪人の残した傷は、何人もの人の人生を狂わせていた。



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ウィリアムに、モルビットは何も隠さなかった。 ウィリアムとなら、チェルナーを逮捕して全てを解決出来ると思ったのだから。

ウィリアムに語ったモルビットの話と、ウィリアムの記憶である。

今から・・・三十年前。

アリネットと、モルビットは同じ教育館(学校と同じだが、計算や高度な文字知識を習う場所)に通っていた。 二人は、その頃からもう愛し合い、秘かに島を出る気持ちでいた。

モルビットの家は、ノルノーでも有数のブルジョアであり。 都市内に大きな屋敷を構え、コンコース島に在る三つの村にも広大な農地を持つ物流資産家。 そして、モルビットは長男だった。 商才にも溢れ、実家では間違い無くモルビットが家の家業を継ぐと思っていたらしい。

アリネットの家は、街では最高の薬師と云われた人物の孫として生まれた。 祖父は、必要以上に金を取らず。 タダで薬を調合する事もある人格者だった。 アリネットもその知識を受け継いで、若くしてその才能の頭角を現していた。 しかし、家は貧しく。 モルビットの家とは月と鼈の差があった。

二人は夢を持って、結婚する気だったらしいが・・・。 モルビットの家では、アリネットとの結婚も大反対、モルビットの家出もとんでもない話だった。

モルビットは、十九歳でアリネットとの夢を叶える為、自分で小さな船を買って交易業をし始めた。 独立し、アリネットと結婚するために・・・。

しかし、その時。 モルビットの父親がアリネットに秘かに会い、卑劣にも脅しを掛けた。 高齢のアリネットの祖父は、病床に着き。 希少で高価な薬が必要だった。 その事に目を付けられて、薬と金を引き換えに、別の人物との見合い結婚を迫られたのだ。

アリネットは、自分以外にもまだ四人の歳の離れた弟妹の事、大切な祖父、そして未来有望なモルビットの為を思って・・・その話を受けてしまった。 そして、生んだ子供がジョルジュである。

ペトルは、アリネットの年齢としては一つ下で、同じ教育館に行かされていたから。 その辺の事を良く知っていた。 何せ、一度はアリネットに好意を抱いて求婚したペトルなのだから・・・。

さて、アリネットの決断に、モルビットは失意の底に落ちて堕落の一途を辿り。 荒れたモルビットに、父親も手を焼いて家から追放したのは、モルビットが二十三歳の頃。

だが、これはモルビットの作戦でもあった。 もう、アリネットの幸せだけを願う自分に、家も島も未練は無く。 一人気ままに、仕事と酒だけに生きて行こうと決めた決意の果てだった・・・。

しかし、悲劇は起きた。

アリネットが、ペトルの所為でチェルナーの物になった事だ。

実業家に成っていたモルビットが交易を終えて久しぶりに島に戻り、この事を知るや大激怒した。 しかも、チェルナーの噂はいい物は一つも無い。 

(おのれチェルナーめっ!!!!、俺がジョルジュを見つけて、アリネットを助ける!!)

と、店を畳んで、役人に成ったのが二十七歳くらい。

モルビットの家柄は、皮肉にもモルビットを短期間で警察役人の下っ端から、捜査指揮権のある上級役人に昇進させた。 モルビットの人柄がまず第一であるが、家柄も無視出来ないものがある。

モルビットは、殺人事件の解決率は常にトップであった。 だが、チェルナーの事に関しては異常な執着がある為に、度々に渡って注意も受けていた。

モルビットは、アリネットとジョルジュを助ける事しか頭に無く。 部下には慕われるが、上や同僚には敬遠される存在となった。 それ以上の昇進も、付き合いもしないのだから。

そんな時、ウィリアムと出会う。

二人の出会いは、殺人事件を通じてであり。 その後、モルビットは、チェルナーを逮捕するためにウィリアムとコンビを組んで、難事件を解決する事になった。

アリネットとモルビットの出会いも運命であるなら、モルビットとウィリアムの出会いも運命だったのかもしれない。

そして、今・・・。 その全てが一つの終わりに向かっていた。




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夕方。

アリネットが泣き止んでいる。 乱れた髪のまま、モルビットに肩を抱かれてソファーに座っていた。

もう、クレマソンとフォレストは退席し、部屋には三人しかいない。

ウィリアムは、放心状態のアリネットに言った。

「明日、フォレストさんや、俺達で悪党を一網打尽にします。 全て、終わらせます。 だがら、お二人も生きてください」

ウィリアムは、朧気ながら二人が死ぬ覚悟ではないかと・・・。 感じていた。

アリネットは、ユラユラと死人の様な顔をウィリアムに向けた。

「生きる希望なんて・・・もう・・無いわ。 それに・・・あの毒を・・・使ったのよ。 生きれる訳・・・ないじゃない」

モルビットは、遣る瀬無い思いを顔に満ち溢れさせて。

「ウィリアム・・・二人に・・・してくれ・・・」

ウィリアムは頷く。 席を立ち、アリネットに言う。

「この際です。 俺も、命張りますよ。 でも、もし司法裁判で死刑でなかったら、生きて下さい。 俺が冒険者として大陸に渡り、チェルナーの売ったジョルジュさんを探しますよ。 生死が解らないなら・・・解るまでね」

二人が、ウィリアムを見上げる。

モルビットは、篭る声で押し殺したように言う。

「アリネットが・・・助かる可能性が・・・あるのか?」

ウィリアムは、向かうドアを向いて。

「今はなんとも。 ですが、目の前の知り合いは、愛した女性と子供を助けるために。 時には眼帯の下の目を悪党に奪われ、時には自分自身をチェルナーの手下に殺させて永久指名手配犯にしようとした・・・」

「え?」

アリネットは、モルビットを見る。

「ウィリアムっ」

モルビットが、声を出すが・・・。

ウィリアムは止めずに。

「だって、そうでしょ? 俺が助けを呼んでくれば、体中に剣で斬られた身体を引きずって、悪党達に自分を殺させるのと同時に、役人に捕まえさせるために都市内部までおびき寄せて来たモルビットさんは。 助けられた時に、俺に怒鳴った」

“何で俺を助けたああっ!!!! 奴らが先だっ!!! 俺が死ねばっ、チェルナーの屋敷に捜査に入れただろうがあああああっ!!!!! ウィリアムっ!! ウィリアム何でぇっ?!!!”

その時、担架の上で血だらけのモルビットが、ウィリアムの胸倉を掴んで絶叫じみた声を上げたのだ。 切り刻まれた腕から力んで飛び散った血飛沫・・・ウィリアムは、モルビットの覚悟を見たのだ。

ウィリアムの話に、モルビットは横を向く。

「モルビット・・・・あ・貴方・・・」

アリネットは、知られざるモルビットの命懸けの過去を聞き、心が熱く打ち震える。

ウィリアムは、また歩き出しながら。

「いささか、策があります。 上手く行くかどうかは・・・運次第ですが。 俺は、掛けます。 以上」

そして、ドアを開けたウィリアムは、閉める前に。

「アリネットさん。 モルビットさんの裸・・一見の価値ありますよ。 愛する者に命捨てるって事がどうゆう事か、良く解ります」

と、言ってドアを閉める。

アリネットは、また今度は謝罪の涙を流し始め。

「ゴメン・・・なさい・・・私ばかり・・・ああ・私ばかり・・・」

モルビットは、首を振る。

「君の悲しみに比べたら、身体を斬られる痛みなど・・・」

「モルビット・・・」

部屋は、夕方の中で暗くなってゆく。 絡み合った二人の影は、離れる事は無かった・・・。
どうも、騎龍です^^

ウィリアム編も、そろそろ1章の終わりが近いです^^

ご愛読、ありがとうございます^人^


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