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second2、仕事と・・・ウィリアムの過去
2、仕事と・・・ウィリアムの過去





挑戦者ウィリアム、傭兵戦士アクトル、剣士スティール、魔想魔術師ロイムは、チーム“セフティ・ファースト”を結成した。

雨の降る午後の事、【爽風に吹かれる白亜亭】には衝撃が走っていた。 ウィリアムが、チームの結成に当たる中で、職業を“挑戦者”と告げたからだ。 まだ、館に二十人くらいの冒険者達が残っていて、ざわついた中で仕事を請けた。

「では、では行きましょうか」

ウィリアムは、スティール、アクトル、ロイムに声を掛けて館を出て行く。

(おいおい、ホントに大丈夫かよ?)

斡旋所の主人ですら、ウィリアムの“挑戦者”には驚いていたほどだ。 だから主人もウィリアムの事は良く知っているのか、心配が顔に表れていた。

「うは、おもっきり雨だ」

と、スティールはげんなり。

「フン、雨や雷が怖くて冒険者をやってられっか」

アクトルは、身体に似合ったタフな言動を吐いて捨てた。

「・・・・お腹・・・空いたぁ・・・」

ロイムは、仕事を請けて喜びたいが。 なんだか急に力が抜けてきた。 安心した所為だろうか。

ウィリアムは、雨空を見上げて。

「これは通り雨ですね。 今日の夜には止むかな」

と、歩き出した。

「ホントかい」

スティールが続いて、アクトルも。 ロイムは、フードを被って後に続いた。

さて、ウィリアムが受けた仕事は、薬草採取である。 この都市でも指折りの道具屋の商人オロス氏が、薬の元になる薬草を採って来て欲しいとの事だった。

雨脚は然程の強さは無い。 だがやはり、雨は外出には嫌われるのか、普段よりグッと通りの往来が少ない中を四人は歩く。 港や、最も大きい都市中央に向かう大通りですら歩く人は数える程で、荷馬車の数も極端に少ない。 なだらかに港へと降る大通りの道は、石で出来ているから水が膜を張るように流れていた。

ウィリアムの横を歩くスティールは、マントの一部を頭に被りつつ。

「しっかし、薬草ぐれ~自分で取りに行けっていうの~」

と、無気力な言い方をする。

アクトルは、呆れて。

「バ~カ、こっちの仕事が無くなるわい」

ウィリアムは、微笑んだ。

「どっちも一理塚ですね~」

と、言ってからロイムを気にした後で、更に話を続けて。

「でも、薬草の有る森にはモンスターが出ますからね~」

スティールは、ウィリアムを見て眼をパチパチ。

「出るの? そら・・・、頼むわな」

「ええ。 しかもオロスさんは、この都市の商業会の理事やってて忙しいんですよ。 ノコノコとモンスターにやられてしまう間抜けな人でもありませんしね~」

ロイムは、“モンスター”の言葉に、

(あうあうあう・・・・、でっ・・出るんだ・・・怖い・・・)

と、震えが背中を走って顔が益々蒼褪める。

「おい、お前大丈夫か?」

アクトルが、ロイムの唇の紫に気付いた。

「あわわわわ・・・い・いえ・・・だい・じょうぶ・・です」

ロイムは、必死に平気そうに振舞ったが、全く大丈夫そうでは無い。

ウィリアムは、三人を引いて大通りを歩いては、ロイムが今朝まで寝泊りしていた中央公園の入り口を前にするT字路に来ると立ち止まり。

「左です」

と、言ってから歩き出して曲がった。

この通りは、港から続く大通りとぶつかるメインストリートで。 左右に五百メートルの幅広い大通りが伸びて店が並び犇く。 大体、何処の街でも手に入る物や装備や雑貨や薬が手に入る。 宿や飲食店は少しだけ、殆どの店が専門店か雑貨屋ばかり。 通称“目移り通り”とまで云われている程。

そして、曲がった直ぐに通りを向かいへ渡ったところに、赤い屋根の大きく丸い一風変わった四階建ての館が見えた。 最高の立地条件にある建物をウィリアムは指差して、

「ホラ、此処がそうです。 早く中に入りましょう」

スティールは、たがが道具屋と思っていたのに・・・。

「ウハっ、デカ・・・これで道具屋? 武器とかも置いてるんじゃないか?」

アクトルは、

「ホントでかいな。 これで道具屋とは・・・」

ロイムは、ズバリ。

「ま・・迷いそう」

と、呟いた。

全員、入り口の前の屋根がある石畳の玄関口で雨を払って、緑の透明なガラス戸を開けて中に入った。 “リンリーーーン”と、涼やかな呼び鈴が鳴り、

「いらっしゃいな」

と、魅惑的な声をした大人っぽい女性の声が。

「ムッ」

スティールの顔が、いきなりキリリと引き締まった。

「はぁ~?」

ウィリアムが、いきなり顔がシッカリとしたスティールに驚いた。

アクトルは、顔に右手を掛けて。

「済まない・・・アイツの女狂いは病気なんだ。 最悪、俺が葬るから・・許してやってくれ」

呆れるウィリアムは、半笑い顔で。

「ハイ・・・ですか・・」

二人のやり取りの間にも、もうスティールは奥のカウンターにまっしぐらである。

さて、人一倍も二倍も高い身長のアクトル、その見渡せる整然と並んだ棚の広がる店内に感歎したい気分だ。 赤い絨毯と白い貝殻の内側の様な壁の店内は、落ち着きと明るさがあり。 棚の並ぶ列が十以上はカウンターに向かう形で扇状に向かっていた。 建物の中の構造が、半円を描いていた。

「凄いなあ・・・」

ロイムが、カウンターに向かいながら棚にズラズラと並ぶ薬に驚いた。

細かい症状に合わせた薬の種類が豊富に取り揃い、尚且つ原料も乾燥品として並ぶ。 飲み薬、塗り薬、消毒薬から胃腸調整薬などもう細分されたコーナーに圧巻する。 しかも、ショウウインドゥの様なガラス戸の棚は、造りのしっかりした素晴らしい物。 大陸の店でも、此処まで内装が素晴らしい店もそうそう何処にでも在るものではない。

一方で、スティールがカウンターに向かえば、店の主人と思われそうな中年の美女が居た。 少し厚い唇に、細く伏せめがちの瞳。 白い肌は潤い、長い睫毛と、右瞳の下の小さい涙黒子が色っぽい。 金髪の髪は柔らかい印象で後ろにい結い上げられ、覗けるうなじや首元が何とも色気を醸し出す。

「おお・・・」

スティールは、その女性に近づいた。

カウンターの中に居る女性が、白いゆとりのあるドレス姿で豊満な胸の前で組まれた腕を解き。

「いらっしゃいませ、ごゆっくりどうぞ」

と、スティールに微笑む。

すると、スティールは回りも見ずに、

「ええ、ありがとうございます。 もし・・・よろしければ・・・このまま貴女を見続けてもいいですか?」

と、キザに前髪を掻き上げる。

女性は、少し笑って。

「あら、お上手ね」

スティールは、瞑目して首を左右に振ると。

「いや・・・俺は、上手な言葉など言えてない・・・。 貴女の美しさには、言葉など・・・無力だ」

と、女性を見た。

グラマラスで、優しい微笑みの美女はクスクス笑って。

「ゴメンナサイね。 夫が居なければロマンスも悪くないけど。 私、夫しか見えない不器用だから・・・」

スティールが、ここぞとばかりに決め台詞を吐こうとした瞬間。

「オイ!!!」

スティールの頭を、アクトルが鷲掴みに、

「あ゛」

と言うスティールを、アクトルは少し宙に持ち上げて、クルリと自分に向ける・・・・。

「うおおああああ!!!!」

スティールの絶叫が上がった。 鬼のような形相のアクトルが、殺気剥き出しで居たのだ。 アクトルは、顔が厳つく強面だ。 それが怒っているのだから怖くない訳が無い。

ロイムは、アクトルの怖さに驚いてパッと右手で男の前を押さえる。 その顔は・・・泣き顔に近い。

その中で、アクトルは。

「オメエ・・・。 一体、何回俺に恥を欠かせりゃいいんだ? しまいにゃ~、葬るぞっ」

と・・・ドスの利いた低い声。

「は・・ハイっ。 ・・・あ・アーク(アクトルの愛称)・・・ゴメン」

スティールは、もはや謝る以外に打つ手は無い。

ウィリアムは、もう呆れ笑いしか出ない中で、カウンターの前に出た。

「こんにちわ~、キャリーさん」

と、笑ってカウンターの女性に声を掛ける。

だが、此処でアクトルとスティールも驚く事態が。

いきなり、カウンターにいた女性が、

「んまあーーーっ!! ウィリアムちゃんじゃないのーーーっ、どうして直ぐに来ないのよっ!!!」

と、大慌てでカウンターから出てくる。 

アクトルは、スティールをウィリアムと美人女性に向けて、ソレを見てからアクトルはスティールを自分に向けて。

「え?・・・ウィリアム・・“ちゃん”?」

スティールも、アクトルに。

「ですって・・・よ」

二人、またウィリアムに向けば。

「こんにちわ・・キャリーさん・・・」

と言うウィリアムに、“キャリー”と呼ばれた美人女性は抱き纏わりついて。

「あらっ、濡れてるじゃないのぉ~。 何で歩いて来るのよ~、もうっ。 使いをよこせば馬車も出したのに~。 ホラ、背中まで湿ってる」

と、丸で子供を甘やかす母親の様だ。 ウィリアムが、半笑いで疲れた顔色の様子。

「え? ええ?」

驚くロイムも含めて三人も、またキャリーと言う美女の声に驚いて、上の階から降りてきたお客もボー然だった。

その時だ。

「どうした? キャリー、何を騒いでいる?」

と、声からして紳士めいた落ち着きの在る物腰柔らかい男性の声がして。

「うおっ!!」

スティールを声の方に向けたアクトルも、スティールと同時に声を出す。

カウンターの奥の飾り布(暖簾の様なもの)で仕切られた所を越えて現れたのは、何ともダンディな中年紳士である。

スティールは、思わず。

「チッ・・・俺よりイイ男・・・」

と口走ったが、直ぐに我に返って。

「い・いや・・同等の相手だ」

と、言い直す。 ・・・いや、我には・・・返って居ないのかな?

キャリーと呼ばれる女性は、そのダンディな男性を見るなり。

「あら、アナタ。 ウィリアムちゃんが来てくれたの~。 御持て成ししていいわよね?」

ウィリアムとそのダンディな男性が顔を合わせれば、先にウィリアムが恐縮そうに。

「オロスさん、こんにちわ」

と、挨拶を。

相手の“オロス”と呼ばれた男性も、柔らかい笑みで。

「いや、ウィリアムではないか。 良く来てくれた。 妻はキミの大ファンだからね、ゆっくりと居ておくれ」

と、言う。

またアクトルは、スティールを自分に向けて。

「何ぃ~、大ファンだぁ~?」

スティールは、瞳を凝らして。

「なんだと、俺を差し置いてかっ?!」

と、言い合う。

しかし、ウィリアムは、笑うオロスに向かって。

「オロスさん、お話があります」

と、真面目な顔に。

オロスも、ウィリアムの格好やアクトルやスティールを見てから。

「どうやら・・・そうらしいね。 まさか、キミが?」

と、探る様に言えば。

「ハイ、請けてきました」

と、ウィリアムが返す。

オロスは、自分とウィリアムを見ているキャリーに向いて、

「キャリー、どうやら・・・・ウィリアムは冒険者に成ったらしい。 私の依頼を請けに来た様だ」

「え・・・・ウソ・・・」

キャリーは、パッとウィリアムを見る。

ウィリアムは、苦笑い顔でキャリーを見ずらい雰囲気だった。

「嘘よおぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」

キャリーの大絶叫が、店内から外に突き抜けた。




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さて、雨の夕方。 大分に暗くなってきた午後の事。

「シクシク・・・・・シクシク・・・・・・シクシク・・・・・・・」

夫のオロスに言いつけられて、ウィリアム達を店の裏の自宅に案内するキャリーが。 メソメソして、ハンカチ片手に男にでも裏切られた女みたいな眼で、ウィリアムを見たりしながら中庭を囲う回廊のような外廊下を行く。

アクトルもスティールも、悲しい女のジト眼にウィリアムへ声を掛けずらい・・。

(どうなってんだ? アーク?)

(俺に解るかっ!!! 女はお前の領域だろうがっ)

(おっ、そうか・・・)

ウィリアムは、キャリーの脇でもう笑うしか無い顔でいた。 一体、どんな関係なのか。

さて、広い噴水を有する中庭を抜けて、奥の屋敷に入ると・・・。

「あら、お母様。 まあ、ウィリアムも。 いらっしゃい」

と、赤いドレスを着た可愛らしいポニーテールの美少女に会う。 白い肌、金髪の髪が良く似合うスマートな、大人に成る階段を上がり出した印象の美少女。

「ぬわにっ」

と、言ったスティールの後頭部に、“バキィ!!!”と、鈍い音が・・・。

「死ねい」

アクトルは、気絶したスティールの首根っこを掴んでウィリアムの後に着いた。 

「や、レイチェル。 こんにちわ」

ウィリアムが、そう声を掛けて。 アクトルとロイムに、オロス夫妻の次女のレイチェルを紹介する。

「ど・どどど・どうも・・・」

ロイムは、可愛らしい利発そうなレイチェルに挨拶されて気を失いそうになるくらい緊張してしまった。

流石は、都市有数の商人オロスの屋敷だ。 石造りの豪邸で、廊下の一つ一つが広く。 何気ない壁の絵や、廊下に置かれた花瓶などが落ち着いた調和で魅せる。

また、応接間に通されるまでに、ガラス戸越しに見える部屋の内装がまた素晴らしい。

ロイムも、アクトルも、かなり貧しい家に育ったほうだから、圧倒的な豊かさを見せ付けられた感じで少し侘しくなった。

「さあ、此処に。 今、何か持ってくるわ」

と、金色の暖炉を前にした広々とした部屋に案内される。

ロイムとアクトルは、恐縮の余りに固まるも。

ウィリアムは、慣れているのか。

「あ、キャリーさん」

「ん?」

「お腹空いてるんで、何か頂けませんか?」

すると、キャリーは嬉しそうに笑って。

「あら、ウィリアムがそんな事を言うなんて嬉しい。 じゃ、夕食一緒しましょう。 動けないくらいに食べさせてあげる」

ロイムもアクトルも、恐れ多くて言葉も出ずに頭を下げるばかり。

去るキャリーの後を見てウィリアムは、暖炉の前にある四人掛けのソファーと、三人掛けのソファーを手で差して。

「座りましょう。 直にオロスさんが来て説明してくれま・・・・」

振り返ると、アクトルの手に首根っこを掴まれた死んだ様なスティールが眼に入った。

アクトルは、床にスティールを荷物の様に置いて。

「すまん、やり過ぎた」

ウィリアムは、首を傾げて笑い。

「楽しいくらいの癖ですね~。 これは、楽しい人だわ」

と、三人掛けのソファーに向かって。

「スティールさんも、向こうの大きい方に」

こうして、三人はソファーに腰を掛けて、一人は白眼を向いて伸びていた。

その内、さっきの次女のレイチェルが、三女のルミアを連れて紅茶とお菓子を台車で運んで来ると・・。

「あ~、本当にウィリアムだぁ~」

三女のルミアもまた、キャリーとオロスの娘らしく可愛らしいお人形のような女の子。 赤みの強いブラウンヘアーは、柔らかなウェーブを纏って背中まで伸びている。 オレンジ色のドレスは、フリルが一杯で、尚更可愛く思える。

「こんにちわ、ルミア。 久々だね~」

ウィリアムと話しながら紅茶などの用意をする二人の美少女姉妹。 この二人の美少女の姉妹は、ウィリアムと兄妹の様に仲が良いようだ。

しかも、冒険者の三人にも全く差別や蔑む態度は無く。 オロス氏とキャリーの教育の良さが窺える。 ま、気絶しているスティールには驚いてはいたが・・・。

ロイムは、お腹が空いていたのか。 瞬く間にケーキの一欠けらを食べた。

「これもいいよ」

ウィリアムが、自分のを出した。

「ごめん、ありがとう」

ロイムは、風呂も入れずにいるみすぼらしくあった自分が、とても恥かしかったが。 温情も有り難かった。

さて、息を吹き返したスティールは、全く黙ってレイチェルやルミアに絡まない。 いや、愛想はよく、キザにしているが口説かない。

アクトルは、小声で。

(偉い、ようやく節操が解ったか)

スティールは、泣きそうな避難の目で、

(ウルヘエっ、さっきはお花畑が見えたわっ!!!!)

と、訴えた。

さて。 薫り高い紅茶を啜っていると、左目にだけ眼鏡レンズを填めるオロスがやってきた。

「いや、待たせたね。 ウィリアムがやってくれるとは心強い」

四人の前に立って言うオロス氏は、動きに無駄のない堂々とした姿。 黒い私服は作りの確かなスーツ。 身だしなみも、言葉使いも、スラリとした身体も、何所を見ても文句の付け所の無い男だった。 オールバックの髪からは、爽やかな整髪料の香りがする。

ウィリアム一同は立ち上がり、リーダーのウィリアムが。

「オロスさん、チーム“セフティ・ファースト”のリーダーとして仕事を請けて来ました。 自分にも含めて、仕事の内容の説明をお願いします」

と、言うと。

「うそ・・・」

「え・・・」

近くに居たレイチェルとルミアが驚いた声を発し、サッと仕切りから応接間のウィリアムを見てきた。

オロスは、ウィリアムに頷いてから。

「こら」

と、言うと、娘の二人は、また仕切りの影に引っ込んだ。

「?」

これが、アクトルやスティールやロイムには謎だった。 冒険者を夢見る若者は多く、ウィリアムが成るのに何らおかしい事は無いハズなのに・・・。 このオロス一家には、驚くべき事なのだろうか・・。

「では、掛けてくれたまえ」

と、オロスが椅子に腰を向けてから、ウィリアム達が座る。

オロスの話は、一見は簡単である。 北西の森に行って、五種類の薬草を採ってきて欲しいと云うことだ。 薬草はウィリアムが知っているので、何等問題は無い様に見えたのだが。

ウィリアムは、直ぐに聞き返した。

「一つ、質問が」

オロスは、紅茶のカップを手にして。

「ん? 何かね」

ウィリアムは、オロスを見て。

「納期は、何時ですか?」

すると、オロスの紅茶を飲む手がピタリと止まった。 そして、軽くまた手を動かして紅茶を啜ってから。

「五日後だ」

頷くウィリアムは、真剣な声で。

「では、期限は明日一杯ですね」

と。

アクトルもスティールも、それに目を見張った。

スティールは、気の無さそうな言い方で。

「仕事に期限は無かったハズだが・・・」

頷くアクトルとロイム。

だが、ウィリアムは。

「仕事に期限は有りません。 ですが、オロスさんの面子には・・・期限が在ると云う事ですよ」

と、オロスを見た。

オロスも、才気溢れる瞳でウィリアムを見返して。

「だな・・・。 だが、仕事に期限は設けない。 薬草の二種類は、森の奥だ。 しかも、春先で森のモンスターも蠢き活発だ。 安全第一で、チームの名前の通りにやって欲しい」

「解りました。 では、明日からやらさせて頂きます」

ウィリアムが頭を下げれば、

「いやいや、三カ月もやってくれる冒険者が居なかった。 感謝するよ、ウィリアム、そして皆さん」

と、オロスが頭を下げた。

スティールやアクトルには、オロスの様な豪商が冒険者風情にこんな礼をするとは思わなかった。

「いえ、頑張らせて貰います」

「確実にやりますよ」

と、言った。

顔を上げたオロスの顔は、優しい商人の顔に戻っていた。

そんな所に、キャリーがやって来て。

「さあ、ご飯の支度出来ましたよ。 みんな食べて行って」

と、言う。

オロスは、ウィリアムに向かって。

「キミが食事を強請ったらしいね。 珍しい、腹いっぱい食べてくれ」

と、笑った。

「ええ。 仲間にキャリーさんの腕前を教えてあげようと思ったのと・・・・、島を離れたらこの機会が何時になるか解りませんからね」

オロスは、ウィリアムを見て頷くだけだったが・・・・。

そこへ、透き通る大人びた美声で。

「ウィリアム、来てるの?」

と。

立ち上がった応接間の全員が、キャリーの後ろから現れた女性を見てしまった。

「・・・・」

絶句したアクトル。

「すげえ・・・」

言葉がそれしか出なかったスティール。

「うわわわ・・・」

驚きのあまりのロイム。

現れたのは・・・どう形容してようか解らない美女だった。

黒い髪は濡れているように艶やか、瞳がオロスに似て切れ長い知的な眼。 白い肌は肌理細かく抜けるようで、瞳の下の泣き黒子が完璧の美貌に色香を魅せる。

「我慢できん・・・うおっ」

口説こうとしたスティールの首を、アクトルが掴みつつ呆けてしまっていた。

ウィリアムは、その美女に近づいて。

「クリスフィ、御久。 冒険者に成って、オロスさんの仕事を請けて来た」

“クリスフィ”と呼ばれた美女も、ウィリアムを見て瞳を広げた。

「遂に・・・成ったんだ・・・。 寂しく成るわ・・・」

と、儚げな顔をしてウィリアムを見る。

「ぬおおおおっ、アークっ!!! はっ放せええっ」

スティールは、ジタバタと暴れてもがくが・・・。

「ダメ・・・・だろう・・・」

アクトルは、完全にクリスフィの美しさに見とれてしまっていた。

さて、オロスの家の食堂に一同は集まった。 何処かの高級レストランの貸切部屋のような食堂で、シャンデリアの光りに照らされた長いテーブルの元。 皆が席に着いていた。 使用人二人に加えて、初老の男性と、メイド姿のふくよかなな中年女性が世話をしてくれる。

(クソクソクソクソおおおおおおおおおおおおおおっ)

スティールは、一番端っこの席に座る。 ロイムの横で、前はアクトルだ。 クリスフィとキャリーの間に座ろうとしたのだが、アクトルの鬼の顔に睨まれたのだ。

ウィリアムは、右にオロス、左にクリスフィで。 前にキャリーが居る。 

ロイムの逆の横には、ルミアが居た。

さて、明るい食卓になった。 スティールとアクトルは、もう八年も冒険者をやってるから経験上で話題が豊富に有る。 オロスと酒を交えて話が進んだ。

その中で、キャリーと娘達に絡まれてるウィリアムを横にしたスティールは、羨ましく思いつつオロスに聞いてみた。

「あの、ウィリアムって、キャリーさんとかにも子供みたいに思われてるっすね。 アイツ、自分の家は凄い貧乏って言ってましたが・・マジっすか?」

オロスは頷いて。

「ああ。 多分、ウチの娘達が人を差別しないのはウィリアムのお陰だろう。 彼の家は、東の住宅街の奥に広がるスラムだ。 此処の辺とは、全く生活環境が異なる荒んだ住宅地だよ」

アクトルは、不思議に思う。

「ウィリアムは・・・そんなに荒んでは見えないですね」

「うん、だな。 彼自身が、人に例えられないぐらいの頑張り屋だからだろう。 赤子の頃に病弱の母親と、夫の母親に当る祖母と三人でこの都市に来たらしい。 物心ついた頃には、スラムの劣悪な環境にいた。 だが、何と言うか・・・。 彼は、周りの子供とは明らかに違っていたよ」

アクトルは、ウィリアムを見つつ、

「へえ・・・苦労してんだな・・・」

オロスは、静かに深く頷く。

「人の数倍は・・・な。 五歳の頃から、母親の薬代を稼ぐ為に都市の中心に来て働いていた・・・・。 最初は、りんごの叩き売りの仕事だったが、同業者の大人より物を売ってたね」

スティールは、眼を丸くして。

「マジっすか?」

「ああ。 大きく明るい声で掛け声を出して、笑顔いっぱいでお客を褒めたり、周りのりんごとの違いをハッキリ言っては冗談も交えてお客を笑わせてな。 毎日港では人だかりを作ってた。 私の店の手伝いも、七歳の頃から来てた。 他には、酒場の手伝いや、斡旋所の主人が身体を悪くした一時期は手伝いに行ってたよ」

ロイムは、びっくりしつつも。

「そっか、だからあのマスターと知り合いだったんですね」

頷くオロスは、少し上のシャンデリアを見上げて。

「しかし、ウィリアムの凄さはそれだけじゃない。 蔑まれても、馬鹿にされても怒ったりして問題は起こさない。 仕事に行って、三日で仕事を覚え、五日で要領を知りだして、一ヵ月もしたらプロと変わらなくなるし。 時には、その持ち前の知識と推理力から、難事件などの刑事事件の解決も何度もやってる。 だから、刑事活動をしている役人から、良く手助けを頼まれていたらしいし。 それで居て、必要以上に受けた報酬のお金は、身の回りのスラムの人達にくれてやっていたらしいね。 だから、あの荒んだスラムでも、ウィリアムに手を上げる者は居なかったと・・・。 暴力が渦巻き、三日と殺人が無い日は無いと云われるスラムでな」

アクトル、スティール、ロイムは、ウィリアムの生活の一端を聞いただけで、斡旋所の主人がどうしてあんなにウィリアムを信用していた素振りを見せたかの理由が解った。

スティールは、キャリーに泣かれて迫られているウィリアムを見て。

「なんか、アイツが凄く見えてきた・・・」

オロスは、静かに。

「凄いよ。 この私も・・・かつては窮地を救って貰ったしな」

三人は、オロスを見た。

オロスは、口元を笑ませてステーキを切りながら。

「昔、悪い渡り商人に騙されて、ご禁制の薬を販売する片棒を担がされそうになった事が在ってね。 その時に色々と疑いを掛けられた。 だが、直ぐに彼に救われた。 他にも、在る薬が足りなくなった事が有った。 島に大陸渡りの疫病が蔓延してね・・。 妻と、ルミアと、クリスフィが、病気に罹って死にそうに成った。 その時も、ウィリアムは、都市に居た冒険者を口上で丸め込んで、薬草を採りに行かせて、自らガイドを買って出たんだ・・」

三人は、元気な娘達とキャリーを見て。

「助かったんだ・・・」

「やるねえ」

「俺には無理だ・・」

と、次々に。

オロスは、肉の一切れを食べてから感慨深く。

「今でも・・思い出す。 夜に、店の玄関を激しく叩く音がして。 知らせに来た手代に付いて行ったら・・・・、薬草を一杯に背負い袋に詰めて、血を流して傷だらけで帰ったウィリアムが荒い呼吸で座ってた。 途中まで一緒にいた冒険者は、モンスターに逃げたと云うのに・・・。 本人は、一人命懸けで・・・採って来てくれたんだ。 その時は、彼はまだ十二歳くらいだったよ」

三人は、黙った。

オロスは続けて。

「彼の母親が、その時の疫病の蔓延で高騰した薬の値段で、医者にすら診てもらえずに死んでね。 更に祖母も同じ病に・・・。 しかも、ウチの家族や知り合いや、島中の人に広がりつつあったから、死に物狂いだったのだろう。 あれからウィリアムは、都市の隠れた英雄さ。 本人は、そんな事はどうでもいいみたいだがね」

アクトルは、そうまで云われるウィリアムを見て。

「アイツ・・・、それなのに冒険者で世界に出る気なんだな~。 此処で幸せに成れるだろうに」

と、云うが。 スティールはニヒルに笑って。

「俺等と根っこが同じなのさ。 それだけの才気なら、このちっぽけな島に納まっていられね~べさ」

と、言ってから、オロスの前だと思って。

「あ、スイマセン」

と、謝る。

オロスは、首を左右に振り。

「いや、その通りさ。 ウィリアム自身、幼い頃から一人になったら冒険者に成ると言ってたし・・・。 ま、家族同然の我々には寂しい話だが・・・仕方あるまい。 彼も、男だ」

と、言う。

ロイムは、凄い生き様のウィリアムを羨ましく思い。 自分が詰まらなく思えた。

(僕なんかのリーダーなんてもったいないよ・・・。 お金入ったら、早く抜けよう。 邪魔もお荷物にも・・・成りたくない・・・・)

と、思った。 
どうも、騎龍です^−^

ウィリアム編も、やっと2話目のなりましたね^−^

有る意味“K”と似ていて、また違うウィリアムとその仲間達の物語を楽しんで頂けたら嬉しいです^^

ご愛読、ありがとうございます^人^


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