second1、その出会いは、雨の日に・・・・。
1、その出会いは、雨の日に・・・・。
海風が吹く港街。 青い空・・・カモメが港の上空を飛んで行く。
朝、この港に渡って来た大型船が何艘も港に入り、大勢の客と荷物を降ろしていたり、乗せていたり・・・・。
その、港から都市の中心伸びる大きい通りの上での事だ。 大勢の旅人や商人、荷を運ぶ荷馬車や、手押し車などが行き交う港からの入り口にて。
「うわぁっ」
青いローブと言われる全身服を着た若者が、突き飛ばされて路上に尻餅を着く形で倒れた。 音を立てて、若者の横に持っていた杖が転がる。
その若者を突き飛ばした男性も含めて、数名の男女が若者を囲んで見下ろしていた。
赤毛の髪を背中に垂らし、細身の剣を左の腰に佩いたやや下半身の露出が強い女性剣士が腕組みして、倒れた若者を見下ろす。 表情には、怒りを孕んでいる様に見える。
「ロイムっ、此処でお別れだよ。 アンタを入れておいたらチームに儲けが入ってこないからねっ」
すると、鋼鉄の鎧を首から下全身に纏い。 ガッシリとした身体つきで背の低い訝しげな厳つい顔の中年男が、同じく倒れた青年を見下ろして。
「やっとテメエとオサラバ出来るわ。 嬉しくて涙がでるよ。 あっ?! ふざけたクソガキがよっ!!」
と、罵声を浴びせる。
「ああ・・ゴ・ゴゴ・・・ゴメンナサイ・・・」
倒された青年は、可愛らしい顔つきの十・・五か六歳程の若い男の子のような印象を受ける。 涙眼で、弱弱しく一瞬女の子ともとれるかもしれない。 フードが斜めに頭に掛かり、金髪の髪を隠して顔にまで掛かる。 背も余り高く無い。
背中に弓を背負う髪の長い細身の若い女性が、都市部に向かって歩き出しつつ。
「もういいわ。 早くロイムをパーティーから外しに行きましょう」
ちょっと背が高く、黒い厚手の神官服と云われる特殊な刺繍を背中に入れたローブを着た男性は、細い黒目でギロリとロイムと呼ばれた青年を見下ろして。
「クズが。 次見かけたら斬ってやる」
と、凄みを利かせてからローブをはためかせて振り返り、先に歩き出した仲間の後を追って行きだした。 ローブの背中には、恐ろしい憤怒の形相をした悪魔の刺繍が施されている。
周りの人も、何人かは立ち止まって見ていたり、歩きながらその光景を眼にしていた。
「・・・・」
ロイムは、消えて行く仲間達を見送った後。 転がった杖を手にして起き上がった。
「ハア・・・これで六度目か・・・」
しょんぼりしたロイムは、街の人ごみに消えていった。
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さて、昼を過ぎた頃である。
都市の中心から、やや右に逸れる通り。 石畳の道並びに石造りの白い外装をした一際大きい建物がある。 とんがり屋根を幾つも持った一風変わった建物だ。 周りの店や飲食店などからすると、大きくて立派だ。 隣の花屋と比較しても幅だけで三倍はあろうか。
その建物の扉の前に、彼の青年ロイムが立っていた。 オドオドした様子で、建物に入るのすら決めかねている様子。
入り口の上に掛かる木の看板には、【爽風に吹かれる白亜亭】と、書かれている。 此処は、冒険者と呼ばれる者達がチームを結成したり、仕事を貰う為の言わば斡旋所である。 剣や魔法などで活躍する冒険者達も、それなりのルールや掟に則り生きている訳だ。
(どうしよう・・・入ろうかな・・・でも、カリミア達が居たら、どやされるよぉ・・・)
なにか思い詰めるロイムが中に入るのを躊躇っていると、いきなりパッとドアが開いた。
「アッ」
ロイムは驚いて横に退いた。 一枚の大きい引き戸が開かれて、ワイワイガヤガヤと明るい声の冒険者達が出てきた。
「おい、明日でいいか?」
「いいんじゃない?」
「じゃ、明日行こう」
「賛成っ!! 飲もうっ!!」
と、男女の元気な声が飛び交う。
「・・・・」
ロイムの目の前の冒険者達は、どうやら仕事に有りついたようだ。
(ハァ・・・)
ロイムは、入れ替わる形に館の中へと入った。 中に入ると、円形の奥まで吹き抜けるフロアになっていた。 フロアの真ん中には、長さ七・八メートルはある長い木の黒い掲示板が幅に余裕を持って三列並ぶ。
その両側に貼られた紙の群れを見つめる冒険者達が三十人近くは居るだろうか。 話し合う者達、後ろと前に掲示板を見て、アレコレ話す者達が真剣な眼差しで何かを探している。
この掲示板は、一般公開されている仕事の張り紙が貼られているのだ。 人捜し、物探し、怪物退治、薬草採取、洞窟捜査、海賊退治・・・・などなど多種な仕事がある。 問題は、それをこなせる腕が自分達にあるか。
斡旋所の仕事を紹介している主人とて、失敗を前提に仕事を与えるお人よしでも無い。
冒険者達は、二人以上でチームを組むことを義務付けられている。 そのチームの名前が、仕事の成功率や、遣りこなす態度や、内容の査定を受けて、噂の様に広めて貰えるのだ。 結成したてのチームは、どの国に行こうと大した仕事には有り付けず。 有名なチームには、ドンドン仕事の幅も広がって、内容のグレードが高い仕事が開放されて行く訳だ。
つまり、如何にバランスの良いチームを結成するか、仕事に有利なチームを結成するかにも鍵がある。 世界のチームの中には、固定の二・三人のメンバーで、仕事に応じてメンバーを追加するチームもあるし、変わった者には仕事に応じて、その場でチームを結成したりする者も居るわけだ。
しかし、千年以上も続くと云われる冒険者達の歴史。 世界で名を馳せた歴代に渡るチームは、殆どが固定でしっかりとチームを組む者達だ。
何故なら、とにかく知らない者同士だと問題が多い。 報酬の取り分け分に始まり、仕事における活躍度などを一々査定する細かい者も居る。 仕事を闇雲に選んで、達成できずにチーム内で議論が巻き起こり、喧嘩したなどの類のイザコザは掃いて捨てる程ある話。
人の社会故か、面倒な事も多いと言う訳だ。
さて、ロイムはフロアの左側に歩いて行き。 側面の壁に窓が並ぶ壁際に置かれた椅子の一つに腰を降ろした。
二人掛けのテーブルと椅子の組み合わせから、八人で囲める円卓の大型テーブルとソファーまで色々ある。 基本的に、仕事の受注はリーダーがやる。 話し合いの間待ってる仲間などは、のんびり待つしかない事もある。 ロイムのようにチームに入るのを希望する者達や、新しくチームを結成する気で冒険者を探しに来ている者は、此処で見ながら人を捜すわけだ。
一方、フロアの右側には、長いカウンターがあり。 剥げ頭をした初老と見られる主人が腕組みして、斡旋所内に居る冒険者達を見つめている。 この主人が、仕事の斡旋からチームの色々な相談を受ける主と云うわけだ。
どこの斡旋所の主人も、仕事の受理にはウルサイ。 失敗しそうなチームになら、容赦なく仕事の受注は撤回させるし、鋭いアドバイスも言う。 何度も言うが、失敗は極力避けなければならないのだから。 危険な仕事の場合は、チーム全員の全滅とて在る。
「はあぁぁ・・・」
ため息を吐いてボンヤリとするロイム。 同じこの建物内には、ワイワイガヤガヤと喋ったりしている冒険者達が居て。 ロイムは、丸でその者達とは透明な仕切りで区切られている様な孤独感を覚える。 目の焦点が定まらないロイムは、ボ~っと冒険者達を見つめていた。
ロイムは、二十歳になる。 十八歳で魔法学院を卒業して・・帰る場所も無いからボンヤリと冒険者になった。 本当は、故郷の魔術師団に入りたかったのだが、試験に落ちたのである。 緊張し過ぎて、試験の時に魔法を発動出来なかった。
それから、ロイムはあちこちで捨てられた。 魔法を唱える事に緊張するロイムは、モンスターが出たら失神し、ビックリし過ぎて戦う仲間から逃げた事もある。 唱える呪文を間違えて、建物に被害を出した事も有った。
そんなロイムだから、もう懐も寂しい。 全く収入がないまま半月いる。
この世界では、一月が五十五日。 一年が十ヶ月の五百五十日だ。 半月は、二十日以上にもなる。
ロイムは、フロアを見つめながら八日前を思い出していた・・・。
今日の朝に、港で自分を捨てたチームとは、船に乗る前の大陸で仕事を一緒にやったのだが。 請けた仕事は盗賊退治。 仕事を請けた夜、ロイムは仲間と盗賊を逮捕に向かった。
ロイムは、仲間一人と手分けして盗賊を夜の街で捜していた・・。 そして、出くわしたのだが・・・・逃げた。
しかも、仲間にも役人にも連絡せずに。 お陰で、盗賊の大半は逃亡。 捕まえた下っ端が吐いた潜伏場所はもうもぬけの殻と言った感じである。 一網打尽が出来る捕り物劇で、戦う手数が欲しいと云う中の依頼だから、この内容は失敗と同じ。 報酬は殆ど出なかった。
その仕事の内容はお笑い種で、同業者にも大声で笑われてしまい。 チーム自身が大変な恥を掻いた結末の末、他国に逃げるように移動と云う結果に至る。 そして、我慢出来ないチームの総意で、ロイムはこの島にある都市に捨てられた訳だ。
思い返しているロイムは、時間の経過が麻痺していたのか。
「お~い、そこの若いの。 ・・聞いてるか、テーブルに座ってる奴っ」
「あっ、え?」
周りを見ると、もう誰も居ない。 窓から刺す日差しが赤く、もう夕方に成っていた。 見れば、老いた感じの男性が、カウンターの奥の端っこから出てきて、自分に向かって来ている。
頭の天辺が剥げて、周りの髪が白髪である。 背丈は百六十半ばぐらいのオーバーオールの黒い服に、長袖の襟首のあるシャツを着ていた。 中肉中背で顔つきは日焼けしたやや強面だ。
「おい、もう誰も居ないぞ。 ポツンと一人でどうする気だ?」
ロイムは、オドオドした身振り、慌しげな手つきで杖を取っては立ち上がり。
「す・すいませんっ。 考え事してたら・・・帰ります」
すると、老いた主人は、立ち去ろうとするロイムに。
「今は、大陸から来た奴等はみんなチームばかりだぞ。 結成しようとしても、何時になるか解らん。 どっかに渡ったらどうだ?」
ロイムは、入り口で主人に深深と頭を下げて出て行く。
すると・・・。 主人は。
「ふぅ~。 アレか、午前中に来た奴等に捨てられた魔法使いってのは・・・。 気の弱い奴が冒険者に成るなんて、時代かねぇ~」
と、呆れてロイムの去った後の扉の鍵を閉めて戸締りをした。
所にも因るが、此処の斡旋所は日没と共に閉まるのがこの主人の普通であるらしい。
ロイムは、夕方の色が夜に変わって行く中で街の中心に出た。 港から続く大通りから都市の左側は、宿屋と飲食店が乱立する繁華街だ。 仕事から上がった都市の住人達や、船乗り達も繁華街に繰り出して行くし。 歩く客の中には役人らしき者達も見える。
(ああ・・・どうしよう・・・また一人だ・・)
ロイムは、もう船賃も無い。 今夜の宿代すらも儘ならない次第だ。 トボトボと通行人が歩き流れる方へ向かって行った。
(あ・・・いい匂い・・・)
空腹に気付いて見れば、露天商がおいしそうな料理を作っている。 街角の広い曲がり角。 大きな建物の前で、長椅子に座った人々が木のテーブルを前にして料理を楽しんでいた。
「・・・・」
ロイムは、行過ぎる往来の中で、それを見て切なくなった。 田舎には帰れない。 ロイムは八人兄妹の六男。 多すぎる大家族の中で、自分は要らない子だった。
(もう・・・帰る所も無いや。 どうしてこうなんだろう・・・)
ロイムは、俯いて繁華街のざわめきの中に消えて行った。
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五日後。 朝。
ロイムの姿は、都市の中央にある公園広場にあった。 なんだかふっくらとしていた顔が痩せこけて、衣服も汚れが目立ち、眼に生気が無い。 万年初夏の気候のこの島で、凍死は無いだろうが・・・。 かなり弱っているのは事実だった。
ロイムが居る島は、“コンコース”と云う名前だ。 中継点・通過点と云う意味から来ているらしい。 この直径数十キロと云う島の今居る大都市にして貿易都市ノルノーは、人口をなんと五百万も有するのだ。
この都市の事は、後に主人公から説明してもらうとして・・・・。
さて、ロイムは噴水の水で顔を洗う。 湧き出る水を啜って一息ついて、ベンチに腰を降ろした。
(もう・・四日は食べてないや・・・このままじゃ死んじゃうかな・・・)
空腹を通り越して、無気力に成っていた。 先日は、夜中に酔っ払いに絡まれて蹴飛ばされた上に残り僅かな有り金を持って行かれた。
(行ってみようかな・・・僕・・・死にたく無い)
ロイムは、もう一度行こうと決心した。 斡旋所の【爽風に吹かれる白亜亭】に。 昨夜から雲行きが怪しく、星が出ていなかった。 今はもう、雨雲が掛かって晴れ間は所々の切れ目だけ。 いずれは、雨が降るだろう。
港に、大小の船が出入りし出した頃。 ロイムは港近くの【爽風に吹かれる白亜亭】にやって来た。 五日前に出てから、何を言われるか怖くて来れなかったが。 今日は、勇気が振り絞れたようだ。
“カランカラーーン”
ロイムが入り口のベルを鳴らして中に入った。
「・・・」
眼の合った右のカウンターに座る主人は、自分を見て困った顔になる。
(おいおい、またかよ)
この斡旋所の主人にしてもだ。 例え一人の冒険者でも、個々によりけり。 ロイムのような流れ者で、しかもチームに捨てられた落ち零れを拾うチームを探してやるのも面倒だ。 一度やれば、みんな面倒を見なければならない。 それが義務に為ると、責任も伴う。 紹介して、仕事を失敗ばかりされても困るし。 ロイムの様な者が居るチームに、お人よしに仕事を回せる程この主の家業も楽では無い。
ロイムは、主人に一つ挨拶だけしてまた左の席に腰を降ろした。
「ねえ、コレは?」
「さあ、こっちが手軽そう」
何組もの冒険者達が、アレコレと掲示板を見て話をしている。
「・・・・」
カウンターの主人は、ロイムに気を配りつつ雑務をこなしていた。
(アイツ・・・何やってるやら)
見ていれば、ロイムは仕事を探している冒険者に話掛けては首を振られている。 チームに加えて貰いたくて相談をしているが、直ぐに断られているのだろう。
ロイムを捨てたチームも、ロイムの容姿を細かく語って使えない事を言い触らした様だ。 こんな狭い島で、そんな噂を流されたら大変だ。 先ず、一緒に組んでくれるチームなど出てこないだろう。
途中加入で他のチームに参加出来る可能性は、限られる。 仕事に必要な知識の無いチームが一時加入を考える場合。 誰かが抜けてしまった穴埋め。 そして、新チームの結成。
だが、新チームの結成以外は、どちらもチームリーダーが斡旋所の主人の紹介で新たに加入するのがセオリー。 何故なら、流れ冒険者は、“流れ狼”とか、“流れ”とか云われ。 イザコザの元に成る事が多いからだ。
そして、流れ狼に多いのが、自分からの押し売り。 ロイムがどう言おうとも、そう思われても仕方無い。 あんなにやつれて、不気味なくらいだから・・・尚更だ。
主人は、困り始めた。
(追い出す訳にも行かないし・・・・誰かに紹介するにも信頼が出来ない)
何せ、命を張る冒険者家業だ。 ロイムのような人間は、チームのお荷物どころか全滅の元にすら成る。 危ない仕事も多いのだ。 ロイム自信が、何所まで自覚しているのか・・・自分の存在の危うさを・・。
さて、午後に差し掛かる時間、外に小雨が振り出して来た。 その中で、ベルを鳴らして二人の男が入って来る。
一人は、・・・・・デカイ。 身長二メートル・・・いやもう少し高いかもしれない。 屈強な筋肉の鎧のような身体に、短い黒髪の厳しい顔つきだが歳でも無い。 黒い鋼鉄の上半身鎧を身に着けて、腰には同じ金属のプロテクターを巻く。 青い皮のズボンを含めて、圧巻と言った風貌である。 しかも、背中に背負うのは、柄の長さだけで二メートル近い戦斧だ。 先には、太い大木も一刀両断しそうな大きい斧の刃が、向かい合って円を画くように付いている。 一応は、皮のプロテクターを被せてはいるが。 重量はいかほどだろうか・・・。
対して、連れのもう一人の男性は、スラリとした身体で青いマントを羽織る。 上半身は軽い金属の黒鎧に、下はスタイリシュなオーダーメイドの皮ズボン。 色は黒いズボンだが、中々作りがいいのか身体に似合って足が長く、背丈も百八十をどうかと言った処。 腰には、金色の柄をした剣が。 中剣(刃渡りが一メートル以内の物)の様だが。
「フッ」
二人を見てきた掲示板の前に居た冒険者達に対し、このスラリとした男は長い雫を被った前髪を掻き上げて見せる。 中々の男前だ。 まだ歳もそんなに上ではなかろう。 薄い唇に、切れ長の眼。 顔もキリリと引き締まり、程よい高さの鼻に加えて顔自体にニヒルな渋みもある。 男は、後ろ髪も長く女性受けしそうだ。
「・・」
女性の冒険者の何人かが、ヒソヒソと話し出す中。 この二人の男達も掲示板に向かって仕事を探し出した。
ロイムは、虚ろな眼でこの二人も見たが、どうも怖くて声を掛けられない。
一方、顔のイイ男は、仕事を探す中でも、女性とすれ違う時。
「あ、ゴメンね」
とか。
「後ろ、イイ?」
とか言うので。 女性の方が顔を赤くしたり、緊張した顔になっていた。
そんな館の中に、また訪れる冒険者が・・・・一人。 その若者は、二人の男の後にやって来た。 また、ドアの開くのを呼び鈴が教える。
冒険者の何人かも、ロイムも見た。
入って来たのは、背丈が百七十やや上で、細身の青年だ。 白み掛かった灰色の髪はクセ毛で、先端でウェーブが掛かっているままに両目の脇に凭れている。 澄み切った瞳に、インテリ風の利発そうな顔立ちは柔らかく、これまた中々の好青年。 皮の動きやすい鎧を上半身に、膝には皮のプロテクターを。 具足は金属の物を履いているが、腰周りに武器は見えない。 小さい荷物を入れる小物入れがベルトのやや背中の方に二つ。 背中には、軽そうに萎んだ背負い袋があるだけである。
青年は、真直ぐにカウンターに向かった。
「こんにちわ、サルトさん」
柔らかい声で、主人に声掛けると。
「おお、ウィリアム。 良く来たな」
“ウィリアム”と呼ばれた青年は、微笑んで頷く。
「ええ、ついに時が来ましたからね。 冒険者に成ろうかと思いました」
主人は、冒険者達を見る眼とは明らかに違う目で、親しみやすい声で。
「おお・・そうか。 やはり、な。 丁度、お前にしか頼めない仕事がある。 金も割合いいし、最初には最適のヤツだぜ」
ウィリアムと云う青年は頷いた。
其処に、あの巨漢の男が声を上げた。
「おいマスターっ、何だ聞いてれば。 いきなりの初心者に美味しい仕事を渡すのか?」
野太い声で、ドスも利いた大きい声だった。
もう一人の、顔のイイ男も。
「そうだぜ~、美味しい話はみんなに教えないとさ~」
すると、主人はギロリと二人を睨んだ。 二人の態度に同調しそうな冒険者も居たが。 この睨みで声が引っ込んだようだ。 そそくさと掲示板の影に隠れた者が数名。
主人は、二人に。
「お前達、昨日も来てたな。 そう言うなら聞こう。 “祈り草”を知ってるか?」
大男は、首を左右に振ってもう一人の連れの男前に顔を向ける。
「さあ」
と、こっちも。
主人は、立て続けに数種の草の名前を言う。 しかし、二人はどれも知らなかった。
主人は二人を見て、
「いいか。 それなりの仕事が欲しいなら、それなりの知識も持って来い。 何も知らねぇ~で、デケエ口を叩くな」
二人は、見合って黙った。
すると、他の冒険者の一人が、恐る恐るに。
「なら、その知ってる若いヤツをチームに紹介しても良かったんじゃ~・・・・」
すると、主人は。
「隠れて言うしかない奴が偉そうに言うな。 この仕事は、危険も然る事ながら、確実性も信頼性も問われる。 大して名前も売れてねぇ輩に回せるかああっ!!!!!」
言った若い冒険者の男性は、ビックリして首を引っ込めた。
その間。
「・・・・」
「・・・・・」
「・・」
「・・・・」
ウィリアムと、屈強な男、男前の男、そしてロイムは、見詰め合っていた。
(僕も・・・見てる)
ロイムは、その青年の澄んだ瞳に吸い込まれてしまいそうなくらいに興味が湧いていた。
先に声を掛けたのはウィリアムと云う青年。 彼がこの劇場と化したフロアの中で、屈強な戦斧を背負う男とハンサムな二人の男にだ。
「あの、最初に声を出したお二方。 宜しければ、一緒に仕事をやって見ませんか?」
大男も、男前も、パッとお互いで見合った後で。 先に、男前の方が。
「いいのか?」
ウィリアムと云う青年は頷いて。
「ええ、丁度チームを作ろうとしていたので」
屈強の大男は。
「お前さんが・・・か?」
「ハイ」
ウィリアムは、そしてロイムに向かって。
「ねえ、そこの魔法使いさんもどう?」
ロイムは、言われて。
「えっ?!」
と、声を上げて辺りを見る。 周りには、誰も居ない。
しかし、だ。
主人は、ウィリアムと云う青年に。
「ウィリアム、アイツは止めとけ。 仕事が失敗ばかりするぞ。 何度もビビッて仕事を放棄した奴だ。 お前のチームにはお荷物過ぎる」
と、大きい声で言う。
(ああ・・・・・)
ロイムは、助けの誘いに、一瞬湧き上がった心の震えにも似た衝撃が、主人の言葉の響きと共に壊れて消えて行く音を聞いた。 今まで自分の噂を聞いた冒険者達が、失望と蔑みの眼差しを何度したことか・・・。 ロイムは、力が抜けて項垂れた。
だが・・・、全ては終わっていなかった。
「!!」
なんと、自分の前の視界に人の足が・・・・。 ロイムは、生唾を飲んで徐に顔を上げると・・・・。
「キミも、チームに加わらないか?」
ウィリアムと云う青年の姿が、其処には在った。
震えるロイムは、微かな声で。
「マ・マスター・・の・言ってる事・・・ホント・・だよ・・・。 五日前に・・・この島に・・置き去りにされたんだ・・・。 仕事から・・・逃げて・・・・」
しかし、ウィリアムはロイムの瞳から視線を外さない。
「そんな過去はどうでもいい。 やる? やらない? 世界を突っ走ってみないか?」
その言葉に、ロイムはドキンと心が共鳴したような感覚を受けた。 そして、思うが侭に・・・。
「やる・・・」
ウィリアムと云う青年は、頷いた。
その後ろに、あの男達二人もやってきた。
屈強な大男は、
「本当に俺達もいいのか? 今、“世界を突っ走る”って言ったが・・・本気か?」
ハンサムな男は、
「口だけなんて勘弁だぜェ~」
と、ノリが軽い口調で聞いて来る。
ウィリアムと云う青年は、言い訳もせずに。
「向こうのテーブルで四人で決めましょうか。 チームの名前を」
と、言うだけだった。
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さて、彼の四人はヒソヒソ話す周りを他所に、雨足が強くなった外を望める窓の前にてチームの結成の話をし出している。
最初に話を進めるのは、灰色の髪をしたウィリアムと云う青年だ。
「さて、自己紹介から行きましょうか。 俺は、ウィリアム・オリンスターと言います。 年齢は二十一です。 武器は有りません。 格闘術で戦います」
屈強な大男は頷いて。
「俺は、アクトル・ムーアだ。 見ての通り、この戦斧を扱う戦士だ。 歳は二十六」
ハンサムな男は、腕組をしていながらサラリと前髪を掻き上げて。
「俺は、スティール・ハート。 剣士だよ。 歳は・・・・ご想像に~」
すると、アクトルが、
「何が“ご想像に”だ。 俺と同じだろうが」
ウィリアムは、笑って。
「アクトルさんとスティールさんは、仲が宜しいんですね~」
アクトルは、スティールを親指先で指し示し。
「コイツとは、同郷で同い年なんだよ」
頷くウィリアムは、ロイムを見た。
ロイムは、ヨロヨロと立って。
「僕は、ロイム・・ケインです・。 イ・イリュージョナー(魔想魔術師)です・・二十歳・・・です」
アクトルは、スティールと見合ってから。
「お前、大丈夫か?」
ロイムは、クタクタと座って。
「スイマセン・・・捨てられてから・・・殆ど水だけで・・・生きて・・ましへ・・」
呂律が回らなくなっていた。
ウィリアムは、笑顔で。
「じゃ~早く結成して、仕事請けましょうか。 どうせ、ご飯は只になりそうですしね」
スティールは、ウィリアムを横目に。
「何で、メシが只に?」
「いえ、薬草採取の仕事の依頼主は自分の知人なんですよ。 多分ですが、行って事情を話せば、ご飯くらいは食べさせて貰えますよ」
だが、アクトルは、ウィリアムに再度尋ねた。
「だが、ウィリアム。 お前さん、この島の出身なんだろう?」
ウィリアムは、すんなりとした態度で。
「ええ、そうですよ」
「本当に、この島を離れる気が有るのか?」
頷くウィリアムは、
「ハイ、もう家族も五日前に失いました。 天涯孤独の身に成りましたんでね。 この島に拘って生きるのも面倒です」
スティールが、気遣った柔らかい声で。
「親かい?」
ウィリアムは、首を左右に。
「親代わりでしたがね。 祖母です」
誰もが、黙った。 肉親の訃報は、誰の物でも寂しいモノだ。
ウィリアムは、皆を見て微笑み、悲しみをおくびにも見せず。
「さて、チーム名をどうしましょうか。 自分も、これには拘り無いんでね~」
スティールは、頷くと・・・。
「よし、こんなのどうだ。 “勇者スティールの伝説”・・・・」
“ゴキン!!!”
アクトルが、いきなりスティールを殴った。 ・・・スティールの頭から煙が上がっている。 涙目のスティールは、雨模様の見える窓の方に向いて。
「い・・・痛ェ・・・」
見ているウィリアムは、半笑い顔である。
(“ゴキン”ってスゴイ音したな・・・生きてるのか・・・この人・・・)
そこに、ビビリ声のロイムが弱弱しく。
「あの・・・“セフティ・ファースト”ってどお・・・ですか?」
その提案に、パッと三人がロイムを見た。
アクトルは呆れ顔で。
「おい、“安全第一”ってよお・・・なんだそら」
スティールも、キザに瞑目して。
「フッ・・・ダサイ。 却下だ」
しかし・・・・。
「プ・・・・クックックッ・・・・・アハハハハハハハハ・・・・」
いきなり、ウィリアムが一人でテーブルを叩いての大爆笑を。
「はあ?」
と、スティール。
「余りも詰まらなかったか・・・」
と、アクトルは困った顔でロイムを見るのだが・・・。
「ヘンだよね・・・ごめんなさい」
と、ロイムは力無く謝る。
だが・・・・。
「いやいや・・・アハハ・・・それで行こう!」
ウィリアムは、大喜びで決定した。
スティールは、席でズルッと腕組みしたままにズレて。
「あの・・・マジで?」
ウィリアムは、頷いて嬉しそうに言い出した。
「いや~。 その手がありましたね~。 実は、俺の職業名は“挑戦者”ですよ。 それが、チーム名に“セフティ・ファースト”(安全第一)だなんて在り得ない。 インパクトあるな~。 いや、最高」
と。
だが、この話に驚いたのは他の三名だ。
アクトルは、ギョッとした顔で。
「オメエ・・・・マジか?」
スティールも、やや鋭い視線で。
「“挑戦者”だって?。 意味・・・解って云うつもりかよ?」
ロイムに至っては、絶句して口を開いたままにウィリアムを見る。
ウィリアム自身は、すんなりと頷いて。
「ええ。 “挑戦者”は、古来より無謀な事を承知でも挑む冒険者の異名。 決して差し出された仕事の依頼を断れない・・・イヤ、断らない者。 “世界を駆け抜ける”と云う以上は、それくらいのハンディは必要でしょうね」
三人は、笑うウィリアムの顔の中に、何か光る鋭い気迫を感じた。 覇気に近いモノとも言える。
しかし、だ。 今や戦争も無く、世界の流れは穏やか。 “挑戦者”などと云う職業は昔に居た者で。 今は、聞いたことも無い。 何故なら、この職業名は仕事の依頼を断れないし、決して立ち止まる事が許されない名前なのだ。 仕事の失敗も、仕事の選択も時には許されないままに、主人が薦める仕事は断れない。 今時、そんなに危険を冒してまで冒険者をやる者も居ないご時勢なのだ。
しかし、アクトルは中々どうしての笑い顔。
「・・・ナルホド。 どうやら、世界に向かう気持ちはホンモノらしいな」
スティールも。
「随分と酔狂な奴も居た者だ・・・でも、面白そうだ。 俺は、ウィリアムに乗った」
アクトルも、頷き。
「俺もだ」
ロイムは、もう空腹が辛くて。
「お仕事出来るなら・・・頑張ります・・・」
ウィリアムは、笑って。
「んじゃ、結成しますか。 初仕事、頑張りましょう」
と、立ち上がる。
主人が、心配そうにウィリアムを見ていた。
どうも、騎龍です(⌒〜⌒)
桜がいきなり散って花見も出来ない自分ですが( ̄○ ̄;)
皆さんは出来ましたか?
さて、ウィリアム編の始まりです( ̄∀ ̄)
ご愛読、有難うございますm(_ _)m
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