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20、人生は運命という時流の川が流れるままに、全ては名残り惜しむ春の嵐
20、人生は運命という時流の川が流れるままに、全ては名残り惜しむ春の嵐





ポリアは、馬車に乗るままに黙って手紙に目を通す。 Kからの手紙、もうこれで見るのは何度目だろうか・・・。 窓の外からは、別の馬車の走る音や、雨が車体に当たる音がする。

ジョイスが差し向けてくれた馬車は、四台。 全部乗用の黒い車の付いた馬車で、それぞれ自由勝手に乗り込んでいた。

今日は、マルタンに到着する日。 連日の長雨の中で、馬車の進行も遅れて三日を丸々使い。 今朝は、四日目だ。 

そして・・・・、Kが居なくなってから、五日目。 ポリアは、Kが消えた後、もう一日トルトの村で休み、それから馬車に皆を乗せたのだ。 馬も皆も疲れていたし、急いでも仕方無いのが現実だった。 

だが、Kからの手紙を見ながら休んだ一日。 雨音に紛らせてため息ばかり吐いていたポリアに、あまり他人の声は聞こえては居なかった。 

「ポリア、何度読んでもKは帰って来ないわよ」

横のマルヴェリータの声すら、ポリアの耳には入っていないようである。

                           ★

―ポリアへ

悪くないチームだった。 手も焼かされたが、それも仕方無い。 俺は一足先に行く。 もう戻らないから・・・お別れだ。 自分の選んだ答えは、自分の、チームの道だと腹に入れとけ。 それだけでいい。 もし、ポリアの剣の腕とチーム名が世界に響く時、もう一回くらいは前に現れてチーム組んでもいいぜ。 

さて、俺から、キミへの餞別を二つやろう。 一つは、今回の仕事の記憶だ。 ジョイスにでも渡してやってくれ。 ジョイスが調べ終えた後は、それはお前達にやるから、上手く活用してみるといい。
二つ目は、同封しておいたその碧い鱗だ。 それは“ブルーレイドーナ”・・あの山の頂上に住む神龍の鱗だ。 もしかしたら、持っていて使う時が来るかもしれんからやるよ。 売ってもかなりの値が付くし、活用の用途は好きにしていい。

俺は、山で思い出の品を取り戻した。 この仕事やクォシカの仕事が無ければ取り戻せなかったかもしれないから・・・その運命に対しての礼とでも受け取ってくれ。

達者でな。 チームの名前を、時と云う時代の河に刻んでみな・・・・サラバだ―

                           ★

ポリアは、左手にその貰ったアイテムを持っている。 一つは、前回もKが使った“記憶の水晶”だ。 四角い水晶の塊である。 もう一つは、ポリアの手の中にもすっぽり納まる菱形の碧く煌いた宝石の様な物なのだが、透明なその鱗の中には静かに風が吹いている。 とても信じられない物だった。

(ケイ・・・あの時、何を拾ったの? 貴方、あの山に・・・何で・・・・)

ポリアは、Kとのこの二十日ちょっとの過ごした記憶を、何度も思い返した。 何より引っかかるのは、帰りのギガンデスを見たKだ。 何故、倒さなければならなかったのか・・・。 十三年前と口走ったKの様子が、明らかにそれまでのKとは違っていたのは何故だろう。

ポリア達を乗せた馬車は、午前中にマルタンに入った。

小雨の振る中、遂に馬車は斡旋所【蒼海の天窓】に到着。 入り口前に降りたポリア達の前に、いきなりドアが呼び鈴を強く鳴らして先に開いた。

「マ・マスター!」

ポリアの目の前に、剥げた頭のドッシリと太った大男のハズのマスターが現れたのだが・・・。 今は、見る姿は違っていた。

「ポ・ポポ・・ポリア・・・むっ・娘は? オ・オリビアは・・」

ろくに食事も睡眠も取ってないのか、憔悴しきってげっそりこけた顔と二回りは痩せた身体で、クタクタと歩いて来てポリアの前に膝間づいた。 

「大丈夫、生きてるわ・・・」

ポリアは、微笑んで言う。

「はあっ・・・」

グッと息を呑んだマスターの耳に、

「お父さんっ」

と、オリビアの声が。

パッと左を向いたマスターの眼の中に、馬車を降りてきた娘の・・オリビアの姿が・・・。

「あ・・あああ・・・おおおおおおお・・・・・」

マスターは、大きい顔に涙をボロボロ流して、その顔を大きい両手で覆った。 

オリビアも、流石に父親の・・・全ての建前を捨てた男の泣き姿に居た堪れなくなって目の前に小走りでやって来た。

「ごめんなさい・・お父さん・・・」

謝るオリビアを前に、

「い・いぎてたあ・・・おおっ、生きていた・・・オリビア・・オリビアがあっ・・・」

マスターは搾り出すように咽び叫ぶ。

「お父さん・・・」

雨の中、オリビアもこんなに弱った父親を見るのは初めてだったのだろう。 自分の身勝手さが身に滲みて解り、父親に抱き寄った。

マスターは、涙でクシャクシャになった顔で娘を見て。

「お前は・・私の宝だ・・死んでたら・・・死んでたら死のうかと・・死のうかと思っていた・・・。 おおお、生きて・・お前の母さんに・・・約束したのに・・・守れなかったらどうしようかと・・・おお・・良かった・・・生きてて・・・良かった・・・」

「ごめんなさい・・ごめんなさいお父さん・・・」

オリビアが父親に抱きついたのは、オリビアがまだ幼くして母を亡くした時に見た弱弱しい父親の姿が今再び重なったからだ。 父は、変わらない父のままだった。

見ていたサーウェルスが、自分の不甲斐無さに横を向いて。

「俺は・・なんと・・・・」

親などに祝福されなくても・・と、オリビアと二人で語り合った自分は。 結局は他人の心内を知らなかったのだと思い知らされる。

ポリアは、マスターとオリビアの前に屈んだ。

「マスター、とにかく中に入って話しましょう。 オリビアは、お腹に赤ちゃんが居るの」

マスターは、大口を開けて驚いた。

「な・・何だって・・・」

見られるオリビアは、頷いて。

「ごめんなさい、報告が遅れました・・・サーウェルスとの子供よ」

言葉にならないままに口をパクパクさせるマスターに、サーウェルスが謝り。

「事実です。 済まない」

マスターは、娘を見ていたが・・・どんどん穏やかな瞳になって。

「そうか・・そうか・・・じゃ、雨は身体に悪いな・・。 中に入ろう・・・」

オリビアもサーウェルスも怒鳴るかと思われたが、すんなりだった。

館の中には、数組の冒険者達が居るだけだった。 長雨と仕事の少なさで、他の冒険者達はどうしただろうか。 ゾロゾロと入って来たポリアやマスター達に気付いて見返してくる。 中にはサーウェルス達も居るから、興味がそそられるのも無理は無い。

周りに見られながら二階に上がって、一同はマスターに仕事の報告をした。 Kの離脱を聞いて、マスターは。

「そうか・・・アイツは、初めからこうする予定だったのかもな・・・。 掟には、仕事の達成時に居ない者の名は、成果に加えられないのを知ってだろう。 不思議な奴だ」

そして、フェレックと、ゲイラーがそれぞれチームの解散を申し出した。

「あ? 辞めるのかよ・・・・」

ポカーンとしたマスターの顔が、憔悴したタコの様である。

ポリアは、マスターに続けて。

「マスター、ゲイラーとダグラスとヘルダーが私のチームに入りたいって言うの。 だから、チームに追加申請もするわ」

「何だってええ?!!」

ポリアと、ゲイラーやダグラス達を交互に見るマスターだ。

「ゲイラー達が言い出したの。 今でなくていいわ。 明日、もう一度来るから、その時で」

マスターは、とにかくなによりもと。

「解った。 全部、解った。 フェレックとゲイラーのチームの解散、ポリアのチームへの追加・・・全部やっておこう。 んじゃ、ポリア」

「ん? 何?」

「お前リーダーだから、アイツの受け取るはずだった報酬を受け取れや」

と、小振りながらギッシリと何かが詰まった皮袋をカウンターに置いた。

「全部で、三十ガラッド入ってる」

フェレックが、思わず大声で。

「さっ三十ガラッドおおおっ?!!!!!」

皆に、ざわめきが起こった。 “ガラッド”は、この世界の最高の通貨だ。 全て金と宝石から造られた記念硬貨で。 “古代メダリオン”とも言われる。 一枚の値段は、たった一つで数万シフォン以上。 三十などと言ったら、恐ろしい値段になるだろう。

ポリアも驚いたが・・・Kの仕事を考えると、妥当かもしれない。

「有り難く受け取っておくわ」

と、受け取ってから、一同を見て。

「今日は、部屋も酒代も奢るわ。 一番高い宿で行こうね」

と、笑えば。

ボンドスは笑って。

「いいねえ、ドンチャン行こうぜ」

ダグラスは、親指立てて。

「大賛成だ」

セレイドも、

「神とリーダーの懐に感謝します」

と祈る。

ポリアは、マクムスやサーウェルスのチームを見て。

「マムクス様もサーウェルス達も一緒して。 最初で最後。 合同チームの仕事の成功と、全員の生還を祝って」

マクムスは、穏やかに微笑んで。

「お受けいたしますよ。 冒険者の身を、楽しませて貰います」

サーウェルスも、頷いた。

「恩人の誘いだ。 受けない訳には行くまい」

すると、オリビアは父親を見て。

「お父さん・・・お父さんも来て・・・」

全員が、マスターを見た。

「・・・・・」

見られてマスターは、一同を見た後に。 ギリリとしかめっ面になって。

「ああ・・・父親として・・・説教してやるわいっ」

と、サーウェルス達を睨んだ。 普段のふてぶてしいマスターの顔だ。

「如何にも、私も参加いたします」

と、同意したマクムスは、息子の顔を横目に見た。

息子のデルは、バツが悪そうな。

フェレックは、マジ顔で。

「そりゃ~いい、俺も加わりたい。 たらふく嫌味を吐いてやる」

ゲイラーは、仲間を見て。

「合同チーム別れの最後だ。 死ぬ気で飲み尽くせよっ」

「おおっ!!!!」

皆が大声を上げた。

ポリアは、笑ってマルヴェリータに。

「予約の口添えお願いね~」

「いいわよ。 有り得ないぐらいに騒いでやるわ」

と、腕組みして済まして言ったマルヴェリータは、いきなり破顔させて笑うと。

「ジョイス様も呼んでみようかしら」

それは・・・、現実になった。

まず街の宿屋街に向かった一同は、超豪華ホテルをマルヴェリータの口添えで抑えた。 それから皆を降ろしたポリア達四人は、馬車を返す名目でジョイスに会いに行った。 あのK曰く、“ゴミ屋敷”にて。

「や~、御揃いで・・・あれ?」

屋敷の入り口で、のんびり顔でボサボサ頭の起き抜けジョイス。 皆を見てKが居ない事に気付いて、ガロンを追った事を聞くと。

「あ~あ、馬鹿だな~。 この世界で最悪の刺客を敵にしたんだ・・・これは捜索必要ないなぁ~」

と、納得顔だ。 しかも、飲み会の誘いにも行く気満々である。

ポリアは、直ぐに。

「ジョイス様。 Kは、暗殺者だから・・・ですか?」

すると、ジョイスは否定した。

「ん~。 リーダーは、暗殺者ではないよ。 只、その技が使えるだけ・・・いや、盗んだのかな。 見様見真似でね」

「見様・・・見真似?」

「じゃ、馬車の中で話してあげるよ。 僕の知ってるリーダーの事・・・。 でも、他人には内緒にしてね。 いい話じゃないから・・・皆さんの心に留めておいて」

頷く、ポリア達。

支度をして出てきたジョイスは、自分の馬車に全員を乗せて宿に向かった。

馬車の中でジョイスが語った話は、ポリア達には信じられないKの一面だった。

ジョイスとKが会ったのは、お互い十八歳の頃だとか。 黒いマントに、黒い戦闘服を纏い。 一人でいたKと、魔法学院を卒業し立てのジョイスは、別の国にてチームを組んで半年以上の間、一緒に冒険をした。 チームのメンバーは、結成当時は五人。 最終時は、七人だったとか・・。

最初、確かにKは、凄腕の剣士だったが。 格闘術は知らなかったらしい。 だが、ある時に格闘術と体気仙を使う冒険者を仲間に一時加入した時で、Kは真綿が水を吸い込むように格闘武術を物にしてしまったらしいのだ。

ジョイスは、その時を振り返り。

「元々、剣で極められた身体と感性が可能にしたんだろうね~。 我流で覚えて、素手で石壁を平気で壊せるんだもん。 驚いたですよ~」

そして、Kが一人になる切っ掛けは、在る貴族の家督争い。 泥沼のいがみ合いの中で、暗殺された様な死に方だった当主の事件を調べる依頼を請けて。 事件を調べて行くうちに、その家督争いに飲み込まれてしまい。 Kは、調べる相手方の首謀者と、欲望・専横激しい依頼主をゴタゴタに紛れて斬ってしまったのだ。 そして、両家に話を着けて強引にいがみ合う根元を断った。

その時、後の遺恨をジョイス達に及ばないように解散と云うか、除名したのだとか。

ポリアは、其処までで驚いた。 依頼主を斬るだなんて・・・・・・。

「有り得ない・・・そんな・・・」

ジョイスは、昔懐かしむ様に。

「ま~ね~。 今のリーダーと違って、あの時のリーダーはもっと怖かったもの。 それこそ、腹の腐った相手には容赦無い。 何故なのか、理由は何一つ教えてくれなかったけどね」

さて、ジョイスの話の続きだ。

Kは、それから、“始末屋”とチーム名を付け変えた。 コードネームはパーフェクトの“P”。 

だが、その請け負う仕事は、最も汚く危ない仕事ばかり。 解決しても決して表に出ない物ばかり。 暗殺などとは違うが、国の汚れた汚職や隠蔽されし事件・事故、他には誘拐や一歩間違えば犯罪者になるような仕事だ。 斡旋所に持って来られる依頼の中でも、おいソレと回す冒険者の居ないような仕事ばかりだったらしい。

所が、Pが請け負う基準は一つ。 “やり方はPに任せる事”だ。

ジョイスが薄っすらと聞いた話では、中には気に入らない依頼主を斬り捨てた事も一度や二度では無いらしい。 しかも、人生に訳在りの凄腕冒険者達が集まり、闇に埋もれた最強チームに僅か一年で成り上がり。 突発の依頼で危険極まりない何の情報も無い遺跡に潜入したり、国の内々的な覇権争いや内部告発などを無名のままに解決したり。

ジョイスは、考えて。

「多分、リーダーに刺客は何度も差し向けられたろうね・・・暗殺者も・・。 戦う中で、逆に倒した相手の技術を盗んだんだろうと思う」

ポリアは、Kの以前のリーダーとしてのチームを率いていた時が、凄まじい殺伐の中に居た事だけは想像出来た。 馬車の中、下を俯いて考え込む。

「ケイ・・・でも、どうして解散したんだろう・・・チーム」

ジョイスは、外の雨を見て。

「理由はさっぱりだね・・・。 疲れたのか、仲間がバラけたのか・・・」

だが・・・ポリアは、Kの言葉を思い返して居る内に・・・。

(あ・・・も・もしかしてっ?)

ポリアは、パッと一つの仮定が浮んだ。 もしかしたら、Kの言っていたアンダルラルクル山の地中奥深くに居たと云う魔王。 それを倒したのがK本人で。 全ての目的は、其処に在ったとしたら・・・。 やるべき事が無くなったから・・・冒険者に興味が無くなったのではないかと・・・・。

ポリアは、ジョイスを見て。

「ジョイス様、もしかして・・・Kから十三年前の話・・・何か聞いてませんか? マニュエルの森やアンダルラルクルの山に関係あると思うんですけど・・・」

ジョイスは腕組みして。

「う~ん、聞いたことないなぁ。 僕も、出会う前のリーダーの一切は知らないんだ。 リーダーは、過去を一切話さなかったし・・・」

ポリアは、なにが凄く真相に迫った気がしただけに。

「そう・・ですか・・・」

と、気落ちした言葉になった。 何故だろうか・・・こんなにもKの何かが知りたいのは・・。

さて、宿屋街の一等地。 港の風景を一望出来る高台の広い敷地に作られた白亜の大きな建物は、貴族や商人御用達の高級宿。 一泊が四百八十シフォンとずば抜けて高い。 

「うほほ~い、スゲ~ぜ」

ボンドスと相部屋のダグラスは、真っ白なカーテンに、真っ白なベットとシーツ、純白の部屋の内装に興奮していた。

ボンドスは、こんな綺麗な部屋は初めてだった。

「なんと言うか・・新築の家みてえだな~」

と、感歎した。 今まで、安い宿しか泊まった事が無いからだろう。

別室では、フェレックがヘルダーと相部屋で。

「フン、まあまあの部屋だな。 手入れが行き届いてる」

無言のヘルダーは、頷きながら部屋の中を見回してる。

フェレックは、ヘルダーのそんな姿を見て。

「ヘルダー、ポリア達と一緒に頑張れよ」

振り向いたヘルダーは、フェレックの素直な顔を初めて見た気がする。

「世界に名前が響いたら、家に招いて豪華なフルコースを食べさせてやるぜ」

笑うフェレック。

「・・・」

ヘルダーは、頷いて拳を握った。

一方で、レックと同室になったキーラは、

「レックさん、綺麗な部屋ですね・・・初めて見ますよこんな部屋」

レックも、同意見だ。

「ホントだな~。 こんな部屋は、二度と泊まれないかもな」

キーラは、穏やかな声のレックに向かうと。

「明日からは、宜しくお願いしますね」

「おお、こちらこそ。 ボンドスやデーベも来るからな。 船の上でチームの名前でも考えようか」

「はい」

レックは、キーラの成長に内心喜びを感じていた。 あの弱弱しい感じだったキーラは、今は落ち着きが出始めている。 今回の仕事が、皆に与えた影響は計り知れないモノだろう。

さて、別室では。

「いいかっ、認めた訳じゃないぞ!! 部屋割りが悪いんだからなっ!!!」

“バタン!!!!”。 斡旋所のマスターが強く閉じたドアが閉まったのは、サーウェルスとオリビアの部屋だ。

「・・・当分、怒られっ放しだな」

サーウェルスは、苦笑い顔だ。

だが、オリビアは俯いて。

「サーウェルス・・・お父さん、素直じゃないだけよ」

「ああ、解ってる。 それに、今回は俺に全責任がある・・・いくら怒られても仕方無いさ」

見詰め合う二人の時間は、静かに過ぎる。

しばらくして、一同が夕方頃に会食場に集まった。 豪華絢爛・美麗優美な円形のダンスホールのようなフロア。 流離う冒険者達にはどう見ても場違いのような場所だ。 輝く大きなシャンデリアと壁掛けランプの明かりの中で、豪勢な料理がテーブルに並び溢れ、酒もたらふく用意されていた。 

ポリアが、剣も鎧も外した姿で幾分令嬢ぽい格好となって、上手かみての大きい絵の掛けられた壁を背にして立ち全員を見た。 全員も、ポリアを見る。

「仕事は終わり、明日からはみんなそれぞれの道に別れるわ。 だから、仕事の成功と、全員無事の帰還。 そして、サーウェルス達が生きて返った事、全部含めて祝福しよう。 みんな、お疲れさま~。 カンパ~イ!」

「カンパーーーイ!!!」

一斉のグラスが鳴り合い、皆が飲めや喋れのパーティーになった。

マスターは、早速オリビアと居るサーウェルスににじり寄って。

「いいかぁっ!!! オリビアとその子供に後ろ指なんぞ刺される生き方や、悲しませる生き方しやがったら只でおかねえぞおおっ!!!! 解ったかあっ!!! 大体なああ・・・」

と、説教が始まり。

ゲイラーは、システィアナの横にて。

「システィ、何か取ろうか? ハム? お野菜?」

と、借りてきたネコ状態に。

ダグラスは、イクシオやコールドと別れを惜しんで語らい。

マルヴェリータとジョイスが、ペアで飲んで仕事の内容を話す。

「なんとか、幻視の呪術を使ってみたの・・・」

「ほぉ~、頑張りましたねぇ」

「でも、何度もは無理ですね」

「精神の集中と、イメージを繊細に細部まで構想する事が大事です・・・云々」

と、難しい話に。

フェレックは、デーベとレックとキーラを交えて、これからの冒険者としての計画や旅の話を。

ポリアは、イルガやヘルダーとアレコレ食べる事に。

ヘルダーは、ポリアに頭を下げる。 身振り手振りが、ポリアに言いたい意味を伝えようとしていた。

「うん、これからは宜しくね。 私も、足手纏いにならないように頑張るわ」

イルガも。

「うむ、ワシも。 まだまだ見習いますわい。 これからはお互い頑張ろう」

と。 一緒に戦った間だからか、打ち解けやすい。

マクムスと、ハクレイやセレイドは、サーウェルスのチームの面々と飲みながら雑談をしている。 

もう、誰もKの事は深く口にしなかった。 これは冒険者の掟。 仕事に最後まで居なかった者の評価はしない。 まさに、ソレだった。

まだ、雨が小雨ながらに降る外は、春の嵐を名残惜しむかの様に風が強かった。

明日には別れる皆は、全力で楽しんでいた・・・。

そして、それから二日後の昼。 ジョイスを通じて、逃げたガロンが国境都市モーンブルクにて惨殺死体で発見されたと聞かされたポリア達だった・・・。




ーーーーーーーーーーーーーーーーエピローグーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ハア・・ハア・・・」

都市の入り口である正門近くの木の陰に男が隠れている。 窺っているのは、門に入った先に居る見張りの役人一人。 安物の長槍に、皮の胸当てをしている。

時間は、今は夜中。 春の長雨が断続的に降り。 生暖かい風が海から吹いている。 海岸の国境都市モーンブルクの入り口で、逃亡者ガロンは、都市に潜入する機会を窺っていた。

「・・・・」

ギラギラした瞳は獣の様で、顔も衣服も汚れている。 オガートの町を脱走して追手から逃れる為に、どぶの中や茂みの中を通り、殺した動物の生肉を齧って生きて来た。 

(捕まるかっ!! 逃げ延びていつか・・・アイツ等を殺してやるッ!!!!!!!!)

脳裏にあるのは、ポリア達の顔。 Kは、どう見ても勝てそうにないが、ポリア達を人質に取れば勝機も有ると思っている。 とにかく、今は逃げてほとぼりを醒ますのが先決と思っていた。

ガロンは、拳くらいの石くれを掴んで、門の外に架かる橋の下を流れる川に投げた。 都市をグルリと囲む様に、川が流れている。 海岸都市の為に、飲み水の確保として作られた水路だ。

“ドブン”と立った音に、

「ん? 何の音だ?」

と、役人の男は門の外に出てきた。 そして、ガロンの前で、整備された水路の方に降りていく。

(チ・・殺して・・・イヤ・・・今のうちだ)

殺して、川に突き落とそうと思ったが、後々が面倒と思ってコッソリと門を潜った。

モーンブルクは、国境の衛星都市で、整備の進んだモダン都市。 街中の中心地から外へ向かう通りはどれもレンガ道で、道の両脇は石やレンガで造られた建物が区画正しく並ぶ。 道並みも等間隔で植樹がされており、道幅も広く洗練された都市だ。

ガロンは、やや霧の掛かった人気の無い通りを静かに中心地に向かった。 

この都市を抜けた先は、他国で、“神聖自治国クルスラーゲ”へ出る。 只、今夜はもう怪しまれるから出れないだろう。 大勢の人が出入りする時間に合わせて出ようと思っていた。

ガロンは、歓楽街に向かった。 

街灯のランプが並ぶ道。 街の眠らない一角、飲み明かせる店が幾つも開いている道に入る。 直ぐに数人の酔っ払いと擦れ違った。 店の前には、肩がガラ空きで胸元丸見えの客引き嬢が、黄色い声や甘い声で客を誘っている。

ガロンは、並ぶ店の中でも、女の客引きの居ないひっそりとした店を探していた。 そうゆう店は、如何わしい店でこっそりと女と泊まれる店なのだ。

だが・・・。

「おい」

いきなり、ガロンの耳に聞き覚えのある声が響いた。 

(あ゛!!!!)

ギョッとしたガロン。 その声の主を忘れる訳も無い。 まばらに客が往来する通りで、振り返った。

「・・・?」

店から漏れる明かりが道を照らすが、見える視界にあの包帯男は居ない。

「ねえ、オジサン」

いきなり、ガロンは腕を掴まれてバッと激しく右に振りかぶった。 視界には、ビックリした若い客引き嬢が立っていた。
 
「どうしたのさ・・・。 飲んで行かないかい?」

緊張で、冷汗が濡れた前髪から雨の雫も連れて顔を流れる。 ガロンは、手でそれを拭った直後に。

「あ゛っ!!!」

ガロンは、見えた前方を限界まで開く瞳で見張った。 

「・・・・」

店の入り口、自分の眼の前の客引き嬢の後ろに、包帯を顔に撒い男がユラリ・・ユラリ・・と立っていた。

「ねえ、飲んで行かないの~?」

と、女が甘えた時、ガロンは怒って。

「ウルサイっ!!!!」

と、客引き嬢を撥ね退ける。

「キャアっ!!!」

路上に倒れた女には眼もくれず。 ガロンは前を確かめると・・・包帯男は居なかった。

(クソ!!!!! どうなってるんだっ!!!!)

道を先に進み出す。

「このバカヤロおおおっ!!!!!」

倒れた客引き嬢が、罵る声を吐く。 通りを歩いている人々が、ガロンと起き上がる女性を見たりした。

だが焦ったガロンには他人の目や、女性の声それすら耳に入らない。 

酔っ払いや道行く男女が、異様な面持ちのガロンを見て行過ぎる。 衣服も汚れているし、汗などで少し臭っても居たかもしれない。

そして、また・・・。

「あっ」

道行く人の中で包帯を巻いた男が擦れ違った。 ガロンは、パッと立ち止まってまた振り返る。

(いいっ・今・・居ただろう?!!!)

だが、居ないのだ。 もう、ガロンは何がなんだか解らなくなって、早足で道を抜けようとするも・・・・。

「よお」

とか。

「また遭ったな」

と、包帯男・・・Kに声を掛けられたり・・・後ろから肩を叩かれたりしておかしい動きになる。

一方、ガロンを見ている通行客は。 ガロンが一人でクルクル回ったり、走り出した先で驚いたり。 挙動不審というか、怪しい人物に思える。

「おい、アイツはなんだ?」

「さあ、頭おかしいんだろうさ」

ほろ酔いの男二人がそう言っている。

だが、ガロン自身は、Kの姿を見失っては存在だけが匂い。 探して見ると何所にも居ないのだ。

「うわああああああああーーーーーーっ!!!!!!」

遂に、ガロンが発狂したように走り出した。 歓楽街を走り抜けて、宿屋街に出て行く。 通行客は、イカれたオッサンの様なガロンの走る姿を見送った。

街灯のランプは、深夜を過ぎた頃に消えるように油が調節してある。 ガロンが走って来た宿屋街は、もうランプの明かりが消えていた。

そして。

「ハア、ハア、ハア・・・」

ガロンは、暗がりの宿屋がズラリと並ぶ通りのど真ん中で立ち止まった。

風がやや強く吹いてくる。 宿の殆どの部屋は明かりも無く、通りに漏れる光は無いに等しい。

すると・・・。

「苦しいなぁ~」

ガロンの耳に、またKの声が響く。

「んあっ?!!」

前を向くと、後ろから。

「許せネエ~なぁ~」

「ぐっ!!」

振り返るガロン。

しかし、Kの姿は見えない。 ところが今度は真後ろから。

「俺から逃げれるか?」

ガロンが、前に顔を戻した時。 いきなり喉元に拳が飛び込んだ。

「おぶう!!!」

息を半分また飲み込む形で噎せ返り、声に成らないままに呻いたガロン。 苦しくて呼吸が出来ずにその場に屈む。 蹲る目の前には、皮靴をした足が見える。

見下ろしているのは、Kだった。

「ガロン、言ったろう? 逃げるなら、俺が殺すと・・・。 全く、世話焼かせやがって」

Kは、右足のつま先でガロンのアゴを掬って上を向かせた。

「うぐぐぐ・・・」

怯えたガロンの瞳に、細めた眼のKが見えた。

「お前、役人も殺したってな。 どうにも救い様が無いぜ。 クォシカの分も含めて、十回は死んだ気にさせてやろう」

ガロンの眼がその言葉にギョッとした瞬間、Kは右足を跳ね上げた。 ガロンの身体がフワリと持ち上がって、Kはガロンの喉を左手で掴んだ。

「うげぶうう・・・」

ギリギリと掴み絞られて、苦しくなるガロンはもがく。 

Kは、ガロンの顔を涼やかに見て。

「暴れるのは・・煩いな」

ビクン!!!、とガロンの身体が震えた。 

「ごあががが・・・・」

篭る声は苦しげなのに、両腕は動けないのかダラリと垂れ下がる。 骨が・・関節で外れた。

「行こうか・・・地獄に案内してやろう」

Kは、ガロンを掴むままに連れて闇の中に消えていった・・・・・。

そして、次の日。

港の木造の倉庫が密集する一角でガロンの死体が見つかった。




【K編、一部完】

次回より、探偵冒険者ウィリアム第一部をスタートさせます。
どうも、騎龍です^^

K編の一部ラストです。 Kは最強過ぎるキャラクターなので、この先は中々登場はありませんが。

話は、世界を引き継いでウィリアムへと引き続きます^^

そちらも、お楽しみくださいな^^

では、ご愛読ありがとう御座います^人^


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