19、Kの謎が残るままに、雨に誘われた村への帰還
19、Kの謎が残るままに、雨に誘われた村への帰還
誰もが黙っている。 今、夜中だが。 大半の者が起きていた。
Kは、隅っこで寝そべっている。
ポリアは、そんなKが恨めしい。 Kについて解った事は“完全無比”という事で、恐ろしい強さを持っているというだけ。 “どうして?”の謎は、何一つ解決していなかった。
サーウェルスを膝枕し、ずっと看病しているオリビア。
傷ついた者達を見回るセレイドとハクレイ。
眠っているのは、グランディス・レイヴンの重傷者と、イルガ・ボンドス・コールド・マクムス。
他の皆は、Kの戦いぶりを聞いて寝れないイクシオやヘルダー、フェレック達。 Kの神懸りな強さを目の当たりにしたポリア達は、尚更眠れそうに無い程に記憶に焼きついていた。
「薬湯・・・飲もうかな」
ポリアが、そう言うと。
「俺も・・・飲むかな」
ゲイラーがボンヤリと・・・。
ダグラスは、苦笑いで。
「俺は・・・飲んだんだけど・・・もう一杯・・・」
イクシオは、横になっているKを見てつくづくと言った顔つきで。
「道理で、最初に“一人で行く”って言った意味が解ったぜ」
フェレックは、自分が今まで反抗的な態度をして来たのに、よく怒られずに済んでいたと思って黙っている。
しかし、答えが一つ解明した事がある。
ヘルダーは言葉は話せないが、文章は書ける。 Kの、ゴーストやアンデットモンスターを倒した金色のオーラについて教えてくれた。
格闘術にも、色々な技がある。 その中に、“体気仙”(たいきせん)と呼ばれる技があるのだとか。 身体の生命エネルギーを、魔想魔術のようにイメージで具現化出来る。 “気孔”と云う気力の流れを用いた体術。 ただ、それは腕や足などにプロテクターを着けるのと一緒で、防御を念頭に置いたダメージ軽減体術なんだそうな。
しかし、格闘武術を極限まで極めて、この体気仙を呼吸するように無意識レベルまで扱えるようになると、その扱い方を攻撃に利用出来ると云う。 生命エネルギーは、プラスの力であり。 ゴーストやアンデットモンスターは負のマイナスの力。 強いどちらかの力は、弱い力を破壊する。 ヘルダーは、Kがその力を利用しているのだと教えてくれた。
しかし、ヘルダーの技量ではKの力にはまったく足元にも、いやもう砂粒と大地の大きさを比べるようなモノで。 到底太刀打ち出来るレベルでは無いととも・・・。 Kの若さで極めた者など、聞いたことすら無いらしい。
普通のレベルでは計れない・・・それがKだとしか解らなかった。
さて、その中で。
フェレックは、神妙な面持ちで起きている仲間に。
「所で、一つ提案があるんだが」
イクシオ・ヘルダー・デーベは、リーダーに注目した。
デーベは眠たい顔で。
「ん? どうした?」
フェレックは、やや思い詰めた顔のままでチームの仲間を見て。
「ああ。 今回の仕事終わったら・・・チームを解散しようと思う・・・」
聞いていたポリア・マルヴェリータが眼を見張った。
ポリアの横で、システィアナがうつらうつらしている。
イクシオは、テンガロンハットを脱いで横に置くと。
「国を変えるのか?」
「ああ~・・・。 と云うか・・・一端国に帰ろうと思う。 このまま仕事が成功しても、俺には背負い切れないくらいにチームの知名度が上がりそうだ。 それに、仕官の道を模索してみようと思ってる」
イクシオは、なんだかフェレックが変わった気がした。 只、それは責めることでもないし、人の道それぞれだ。 だから・・・。
「フェレック、言う意味は解る。 ま、みんなそれぞれだ・・・。 それも、選択肢の一つかもな。 別に、文句も無い」
すると・・・。
「俺も、同じ事考えてた」
いきなり、ゲイラーの声。
ポリアは、ビックリだ。
「ゲ・・ゲイラーまで・・」
ダグラスは、青い洞窟の光と魔法の小石に照らされるゲイラーを見て。
「マジ?」
ゲイラーは、真顔で頷き。
「ああ・・・。 俺は、リーダーのようなキレも無いし・・・ポリアのようなリーダーシップも無い。 前から、誰かのリーダーの下でやる人間とは自覚してたんだ・・・。 こんなに、違う世界が見れた。 いい機会だと思う・・・・・で。 相談あるんだが・・・ポリア」
ポリアは、見られてビクっとして。
「な・・何?」
「いや、・・・俺を仲間に加えてくれないか?」
一気に、起きていた一同がゲイラーを見た。
ポリアは、キョトンとして・・・。
「マ・・・マジで?」
「ああ、大マジだ」
マルヴェリータは、寝始めたシスティアナを見て。
「システィが居るから?」
ゲイラーは、二人の美女を見てからシスティアナを見つめて。
「理由の一つには、それもある。 だが、俺のチームもフェレックのチームも、このまま行っても、多分は世界に出た所で終わりそうな気がするんだ・・・。 むしろ、ポリアの方が羽ばたけそうな気がする」
ポリアは、しどろもどろで。
「ゲゲ・ゲイラーっ、ちょっと待って。 私達は、貴方のチームよりグレード低いチームよ。 今回だって、思い切りお荷物だし・・・Kのお陰でそう見えるんじゃない?」
すると、ダグラスはアッサリと。
「そうとも限らないだろう? ポリア」
ポリアも、マルヴェリータも、見合って困った。
ダグラスも、遠くを見るような瞳で天井を見上げて。
「確かに、ポリアのチームはグレードは低い。 でも、前のオガートの事件と、今回の一件でグレードは上がるさ。 しかも、この東の祠に来る間。 リーダーの言葉を一番ヒントに出来たのはポリア達だ。 オークとオウガを分断したのも、オウガを倒した時も、エクリサーの秘薬を飲ませる相手の選択。 よくよく考えると、ポリアの選択にも間違いは無かったと思う」
「ダグラスまで・・・」
ポリアは、困った。 これでは丸で、前にKから話に聞いたチームの解体だ。
(どうしよう・・・チームの分裂じゃない・・・・)
だがそこへ、イクシオは言葉を添える。
「いいんじゃないか、加えても。 俺は、世界を放浪して新しいチームを探してみようと思う。 いい加減、男ばかりのチームにも飽きたし、この国は仕事が少ない」
イクシオは、爽やかに笑った。
デーベは、眠い顔で。
「とにかく、仕事が終わったらみんなで飲んで決めようや」
ヘルダーが、静かに頷いた。
ポリアもマルヴェリータも、それぞれ男達が寝る中で。
「男って、勝手よね・・・」
「ま、そこがいいのかもね・・・・」
と、言い合って眠りについた。
さて、ついに。 この山を降りる日がやって来た。
朝。
「ん~・・・・・」
ポリアは、眼を覚ました。 何だかガヤガヤと煩いから。
開いた眼の先には、起き出しているグランディス・レイヴンの面々。 サーウェルスが、Kの前に居た。
「迷惑を掛けた・・・申し訳無い」
土下座に近いサーウェルス。 Kは、座って黙っていた。
マクムスに、息子のデルが怒られていたり・・・、ミュウとオリビアが起きた面々に助かった成り行きを説明していた。
「起き抜けに・・・忙しいわね・・・」
見れば、ゲイラーのチーム、フェレックのチームもそれぞれ集まって何か話をしている。 昨日の解散の事だろうか・・・。
システィアナは、もう起きてイルガの怪我を見て頷いている。
「システィ、イルガは大丈夫?」
「あ、ポリア~。 もう、動けます~」
と、システィアナ。
イルガも、
「お嬢様、ご心配をお掛けしました」
と、座ったままに頭を下げる。
ポリアは、幼い頃からの従者イルガが心配だったから。 笑顔が自然と出て。
「無事で良かった」
そこに、Kが立ち上がり。
「いいか、皆」
話声がピタリと止んだ。
「今日の夕方前には雨が降る。 山を降りて、森を東から南に横断して戻る。 怪我・傷の深かった者は戦う必要は無い。 夜の入りまでには、村に戻る予定で行く。 今日が最後の一日だ。 気を引き締めて行くぞ」
各自、了承の声が上がった。
食事をして、支度をして外に出れば。 どんよりとした鉛色の雲が小さく千切れて、白い雲の下を流れている。
(マジで降りそうね)
もう、日の光は見えない。 ポリアの見上げる空には雲が天を覆っていた。
さて。 先頭は、Kとポリアとダグラス。 右にミュウとイクシオとセレイド。 左にゲイラーとヘルダーとレック。 殿は、サーウェルスとアリューファ。 戦わない者や魔法使いが真ん中だ。
「俺も、もう大丈夫だってっ」
ボンドスが、Kに言う。
「無理は要らない。 帰りは戦闘も少ない。 何より、雨に降られる前に少しでも村に近づきたいんだ。 誰か怪我したら、その時交代だな」
マクムスは、Kが全員の怪我や疲労を踏まえての態勢を理解しての事は承知。
「ボンドス殿、まだ肋骨がくっ付いたばかり。 イルガ殿のように、安静になさいませ」
「そうじゃ、迷惑を掛けてはならん」
イルガの声にボンドスは、渋々に魔法使い達のいる隊列の中に入った。
Kは、直ぐに出発した。 南の祠には向かわず。 山を東側から下って行く。
大して進まない内に、オーク達の集まりに出くわしたが。 もう、ポリア達の敵ではなかった。 連戦して、戦い慣れた分、恐れも無く自然と身体が動く。
Kは、戦いもしないで、のんびり見てて。
「お~い、おっせーぞ~。 オークの女王様、早くシバけよ」
ポリアは、キッとKを睨んで。
「うっさい!!」
ダグラスは、Kの様子に呆れて。
「もう、余裕なのね・・・そらっ!!!」
と、オークを斬って倒す。
ゲイラーも。
「昨日で、出番十分だろう? ドリャア!!!」
二匹を一撃で薙倒した。
オークを倒し終わると、Kは歩き出す。
「さて、行くぞ。 遠くに、サイクロプスの気配してる。 こっちに、気付いてるからな」
サーウェルスや、ミュウなどは凄い真顔に成った。
「戦うのか?」
サーウェルスに聞かれたKは。
「追いつかれたら、な」
と、歩き出す。
ポリアは、先を見て。
「早く森に抜けましょう。 構ってる暇はないわ」
さて、サイクロプスの名前に、誰もが真剣な顔になった。 あの巨体は恐ろしき脅威。
だが、山から森に抜けてしまえば・・祠に施された結界でこちらの存在が解らなくなる。 さらに、森に貼られた結界は、外にモンスターを出さない。 この二重の結界で、モンスターは森の外に出られないのだ。
だが・・・。
一行は、山を下って森へ抜けそうな時。 後ろからは“ドスン・ドスン”とサイクロプスの足音が近づいていた。
「もう少し、森は見えてる」
と、Kが落ち着いた声で、坂の下のマニュエルの森を指差した。 南の祠の手前に見られた坂が、コチラにもあったのだ。 転ばないように、落ち着いて下る一行。 Kも、幾分は昨日で疲れているのだろう。 戦う気は見えなかった。
しかし、全員が坂を下って森に入った時だ。
「うわうわ、来たああ~」
ポリアが、坂の上に一つ目の巨人のサイクロプスがヌ~っと姿を現したのを見て怖がる。
サーウェルスは、殺されそうになった巨人を改めて見て。
「恐ろしいバケモノだ・・・もう二度と遭いたくない・・・」
と、皆が安堵する中で、Kはサイクロプスを見返して。
「アイツは・・・・あの時の・・・・」
小さく呟く。
「んあ? 何だって?」
ゲイラーが、聞き返すと。
「此処で待ってろ・・・直ぐ終わる」
Kの声が、いきなり戦闘モードの低いトーンに。
「え゛!! 森に出たじゃんか!!」
ダグラスは言うが、Kは。
「アイツには、借りがあるんだ」
と、また森から山の中に戻りだした。
「ちょちょチョット、ケイっ!!」
ポリアが言う時、Kの姿がフワリと消えた。
「なっ、何だとぉ!!! ・・・そんな・・・消える技・・・・暗殺闘技じゃないかっ!!!」
サーウェルスが驚いた。 いや、その顔は愕然とした怯えも孕んでいる。
だが、彼だけでは無い。 全員の顔が、Kの消える技能の名前を始めて聞いて驚いた。
一方で、Kの姿は去ろうとしているサイクロプスの直ぐ後ろに見える。
サーウェルスは、驚愕と恐れを滲ませる顔でKを見て。 搾り出すような声で。
「バカな・・・闇に暗躍する暗殺者の者が・・こんな表舞台に現れるのか?」
ゲイラーは畏怖に歪んだ顔のままに、サーウェルスを見てからKを見てやって。
「リーダーの消えるのは・・・人殺しの技ってか?」
暗殺闘技・・・誰もが耳にしかしない事だ。 この世界には、極々少数の暗殺を生業にする者達が居ると言う。 金で人を殺す。 だが、その存在は噂の中だけで、誰も存在を見た事が無いと云う。
皆の見る中でKは、サイクロプスに向かってあろうことか、
「おい!」
と、声を掛けた。
―ウウウ・・・・・―
高々と聳える大木のようなサイクロプスが、声に気付いて振り返る。
Kは、包帯から覗ける眼をギラギラさせて。
「今から十三年前を覚えてるか? テメエの腕の傷を覚えてるかっ!!!!!!」
Kの鋭い声が、響いた。
ポリアは、その言葉に怪訝な顔に・・・。
「十三・・・年前? ケイ・・・・まさか・・・調査以外にも、この山に来てたのね・・・」
Kが語った山のドラゴンの調査は、三・四年前の事。 十三年前では決してない。
ポリアの言った事とは別に。 ゲイラーは呟いた。
「なんか、あのサイクロプス・・・様子が違うな・・・」
この感想は、何度もサイクロプスを見ていた者達の共通のモノだろう。 今見えているサイクロプスの顔が何と云うか違う雰囲気がした。 角が欠けていて、腕に凄い傷跡があり。 肌の色も青く無い。 どちらかと云うと、茶褐色に近い赤。
マクムスは、静かに震え。
「おそらくはあれが、“ギガンデス”。 サイクロプスの古代種です」
ポリアは、巨人を見て。
「ギ・ガンデス・・・」
「“その悪鬼、血を吸った赤のよう・・幾多の人を喰らい貪る巨人の王”・・・・古代神闘記に書かれる一説の通りだ・・・」
呟いたマクムスも、こんな伝説のモンスターを拝む事になろうとは思わなかったろう。
だが、Kは、鋭い眼で赤いサイクロプスの王であるギガンデスを見上げて。
「その腹に在る物・・・・返して貰うぞ」
するとギガンデスは、
―ウゴゴゴゴオオオオオオオーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!―
と、凄まじい雄たけびを上げてKに掴みかかったのだが。
Kの振り込んだ短剣から放たれた衝撃波によって、唐竹を割られるように真っ二つに斬られて・・・・倒された。
新たに加わったサーウェルス達は、丸で幻想的な幻覚を見ているようだ。 実力を褒められた自分達は、世界でも二十の指に入るチームと自負していた。 この森や山でも、オウガ辺りなら引けも取らない。
だがKは・・・・、あのオウガなどが赤子のようにしか見えないような強大で巨大なサイクロプスを一撃だ。
皆が見ている坂の上。 Kは、斬られたギガンデスの身体の内臓に向かった。 見回して、赤黒い血が一面溢れる中で、光る何かを見つけた。
「・・・・まさか・・取り返せるとは・・・な」
拾い上げたのは、指輪だ。 エンゲージリングでは無く、神への祈りを捧げた文字の施された装飾指輪。 白銀製であるが、もう光沢は失われていた。
「あの時は、俺が・・・・。 これからは、俺と夢を見よう・・・。 ・・さん・・・」
Kの口元、目元が震えていた。 微かに、誰かの名前を呼んだようだった。
少しして、Kがポリア達の元に。
「待たせた、戻ろう」
明らかにKの様子は暗く、何か有ったと確信出来る。 だが、その雰囲気は人を拒絶する物で。 Kは、無駄な口は一つも利かなくなった。
こうなると、ポリア達も話掛けずらい。 無言のままに、森を行くことに。
マニュエルの森を靄が掛かる・・・。 高々と聳えて伸びる森の木々の中、Kの行く方に着いて行けば。 来る時に休憩をした川の対岸に出た。 全く、モンスターには襲われないままにだ。 やはり、来る時のKの言う事に間違いは無い。
「休憩だ」
もう昼頃だろうか、川を渡った所でKが言う。
皆、それぞれ休憩に入った。 忙しいのは、僧侶達だろう。 まだ、身体の動きの悪いグランディス・レイヴンの重体だった二人の男や。 ボンドス・コールド・イルガ達の体調を看なければならない。
Kは、皆とは離れて一人で岩に座る。
ポリアが、そんなKに用があって向かった。
ポリアが近づいた時。
「何だ? 俺の事は聞くなよ」
ポリアは、釘を刺された様な感じだったが・・・。
「あ~・・・チョット・・・相談あって・・・」
横目でポリアを見るKは、
「ふうん。 ま、いいさ。 大体予測は付くが・・・言ってみろ」
「う゛・・解るの?」
「ああ、昨日の夜中の話と、朝のゲイラーやフェレックの話からしてな」
ポリアは、腹を読まれてる。 Kの座っている岩近くの岩に腰を降ろして。
(か・隠し事出来ない・・・)
と、思いつつ話した。
「実は・・・」
そう、チームの解散の話を、今日の朝にゲイラーもフェレックも言い出した。 そして、なんと、だ。 ポリアのチームに、ゲイラーとダグラスとあのヘルダーが加えて欲しいと願い出て来たのだ。
また、キーラとレックにコールドやボンドスなどは他国に渡ってチームを新たに結成しようと言い出しているらしい。
Kは、仲良さそうに喋ってる皆を見ながら聞いていて。
ポリアが、
「どうしよう・・・私、そんなにリーダーの向きじゃないよ・・・」
と不安な顔で寂しがる。 自分の影響で、ゲイラーのチームの解散を招いたような気がしてならないのだ。
すると、Kは、曇る空を見上げて。
「羽ばたきたいか? ポリア」
「え? あ・・・ん~・・・今は良く解らない」
「そうか。 だが、俺が見るにだ。 この場に居る奴で最もリーダー向きはキミだと思うがな。 本音で、だ」
ポリアも、雨雲の欠片が流れる空を見上げて。
「そうかな・・・自信ナイ・・・かな」
「俺が所々で言った言葉を一番理解していたのは、君とマルヴェリータとシスティアナだ。 しかも、オウガを倒した話も聞いたが、ゲイラーの一人試合を止めたのも、全員で戦う事もポリアが指揮したんだろう? 結果が全て。 俺がして欲しい指揮をしたのは君だ。 誰も、それに逆らわなかった。 答えが、そこにある」
ポリアは、長く伸びている後ろ髪の束ねた根元を掻いて。
「あん時は・・・一生懸命で・・・大して考えて無かった」
Kは、鼻で笑って。
「はっ、考えてないで出来たなら、尚更じゃないか。 それに、サーウェルスを助けると決まった夜。 俺は、ポリアに薬を飲む人員を決めさせた。 ミュウの人選は、俺の利に適ってるぜ」
ポリアは、あの時の事を思い出した。
「あれは、悩んだけど・・・ミュウさんが適任と思った・・・武器が、白銀製だったし」
「違うな」
Kは、直ぐに返す。
「え?」
ポリアは、言われて顔をKに合わせた。
「ポリアの頭にあったのは、そっちじゃないだろう? それは、結果的な理由に過ぎない。 一人、デルはどうして連れていかなかった? もう一人、アリューファは、どしてダメだった?」
「それは・・・二人とも傷が以外に重いから・・・」
Kは、やや肩身の狭そうなグランディス・レイヴンを見て。
「キミは思った。 デルには父親のマクムスが居る。 せっかく助けて直ぐに危ない場所に借り出すのはどうだろう・・・。 そして、気の強いアリューファ。 オリビアの事などで、言い争いになったらどうしよう・・・オリビアが孤立する」
ポリアは、ズバリと腹の中を読まれた。
「わ・・解るんだ・・・ははは・・・凄いね」
苦し紛れと浅はかに自分が思えて、苦笑した。
だが、Kは、ポリアを見て。
「いや、それが正解さ。 オリビアと行動を共にして、最後までオリビアを見放さずに女のオリビアを気遣い出来たのはミュウだけだろう。 そこだ、その考え方だ、ポリア」
「え?」
「チームの戦力を考える者・・・つまりゲイラー辺りなら、魔法使いのデルか、戦力の補強でボンドスやアリュ−ファを取ったろう。 もしかしたら、三本有った小瓶を、オリビアを連れて行かないで、最も傷の深い者に飲ませたかもしれない」
ポリアは、むしろそれが正しいと思える。
だが、Kは。
「ポリアは、俺が言った事を曲げないと解って最良の判断をした。 そして、夜はオリビアに来るか、来ないかの判断を任せた。 マルヴェリータの言った事は俺の考えの代弁に過ぎないが。 キミは考えたろう。 もし、オリビアが来ない選択をしたら、俺を説得する道を」
「う・・うん」
これは、ポリアのあの時の本音だ。
「それでいい」
「え? でも・・・」
「いや、俺が説明をしていない中で、あの判断をしたなら人として間違いはない。 ポリアは、人の心を最大限考慮した。 人を思う心で判断した事なら、ずれていても間違いではないさ。 むしろ、そこを外して考えると、後々に説得も説明もした所でもう悪い方にしか行かないだろう。 その考え方が出来るポリアは、最もリーダーに適した人物だ」
ポリアは、こう言われて複雑だ。
「でも、今回は解んないよ・・いきなりチームに加えて欲しいなんてさ」
Kは、ゲイラーを見て。
「みんな、解らんさ・・・。 答えなど進んで見て、反ってくる事実が答えでしかない。 だが、ゲイラー達も、フェレック達も、自分やチームに足りないモノを踏み込んで考えたんじゃないのか? 成長したポリア達に、変われない自分達の有様を」
ポリアは、納得しきれない顔でKを見て。
「答えをくれないのね」
Kは、口元を笑わせて。
「俺はポリアじゃない。 その答えは、ポリアの心にあるさ。 自分で素直にどうしたいか・・・考えてみな。 腕前の問題じゃない。 それは、今回の事件の発端を招いた奴等を見れば解るだろう?」
ポリアは、サーウェルス達を見て、Kの言葉を反芻した。 何か、気が楽になって行く気が。
さて再出発して、トルトの村まで戦闘は無かった。 来る時に襲ってきたサルやゴリラのようなモンスターは、ポリア達を見るなり逃げていった。
しかし、代わりに雨が降り出してしまった。 夕方、もう辺りが暗くなる頃に、一行はずぶ濡れでトルトの村に戻ったのである。
宿に帰って、ビショビショのK達を見た女将さんは、眼を丸くした。
「はぁ~、あの山に入って帰って来るとはねぇ・・・。 幽霊かと思ったけど、足あるわ」
Kは、呆れて。
「勝手に殺すな」
そこに、あの無愛想な料理をやる主人が、食堂でKを見るなり。
「おう、ちと話ある」
Kは、女将からタオルを借りて主人の元に向かった。 厨房のカウンターを挟んで、Kと主人。
主人は、Kに南の方を指差して。
「なんでも、今夜か明日には、国からの馬車が来るとさ。 使いがあった」
Kは、頷いて。
「そうか、ま~もう急ぐ必要ないし。 此処で、もうちょい金を落としてから行くかな」
「ありがてえ事だね。 身銭を全部置いて行ってくれや」
主人は、そう言ってから厨房内の上の棚に置いてあった手紙をカウンターに出した。
「ん、男が持ってきた。 アンタに渡せと」
Kは、眼を細めて差し出された手紙を見た。
「解った」
手紙を取るKの後ろに、大きいタオルを持ったポリアが来て。
「オヤジさん、ご飯お願いね。 ?・・・・ケイ、何かあったの?」
Kは、森に入る前は作戦会議もしたこの食堂にて。
「ポリア、役人からの使いだとさ。 どう思う?」
「え? いや・・・どうって・・・」
「考えろ。 ジョイスは、五日後には馬車を待たせておくと言ったのに。 遅れてる。 しかも、遅れるだけなら、こんな手紙は要らない」
ポリアは、ジョイスがクォシカの事件を扱っているのを思い出し。
「まさか・・・何かあったとか」
頷くKは、手紙を見て。
「だな。 どうやら、嫌な予感が的中してる」
「え? ・・・どどっどうゆう事?」
Kは、ポリアを振り返って見て。
「ガロン、覚えてるか?」
ポリアは、あのラキームの片腕を遣っていたガロンの顔を思い出して、怒るように顔を変え。
「忘れる顔してないわ」
「だな・・・、奴が逃げた」
ポリアは、ハッとした。
「マジ?」
「ああ、役人を四・五人斬って逃走したらしい」
ポリアは、Kから手紙を受け取って確かめた。
―ジョイス様より伝言です。 ガロンが逃走致しました。 取り押さえる際に、兵士三名が死に、二名が負傷してしまいました。 馬車の到着が遅れます。 誠に申し訳ありません ―
Kは、口元を僅かに笑ませた。
「どうやら、死にたいらしいな」
ポリアは、殺気を感じてビクっとした。 Kが今言った言葉には、本気の殺気が篭っているように感じたのだ。 モンスターを倒す気配では無い。 危険な、人を殺す殺気と感じられる。
「ケ・・ケイ・・・どうしたの?」
Kは、ポリアに横顔だけ見せて。
「飯だと言って、全員集めてくれ。 話がある」
「う・・うん。 解った」
ポリアは、全員に言いに行った。 Kが怖くて、逃げるように・・・。
外の雨は、春の長雨らしいシトシト降り。 風は南風。 涼しいくらいの空気がヒンヤリとして雨の匂いを運んで来る。
さて、荷物の一部を残していた一同は、着替えたり身体を拭ったりして食堂に集まった。
皆が揃ってKは、ゆっくりとした口調で言い出した。
「いいか。 食べながらでいい」
その声に、ボンドスやコールドが頷いて手を動かし始める。
Kは、水を飲むポリアの横に立ち。
「冒険者の掟の中で、万が一にリーダーが居なくなったり死んだりした時の取り決めがある」
「ぶっ」
ポリアは、話の内容に驚いた。
マルヴェリータやシスティアナはおろか、サーウェルス達もKを見る。
Kは、続けて。
「正直、俺は知名度など欲しくないし。 金も要らん。 しかも、チョイトこれからの用事が出来たから。 ここで、別れる」
「何だって?」
「おいおい・・・マジ?」
「えあ? いや・・・そんなの」
騒ぐ一同に、Kは続けて。
「いいか。 万一リーダーを失っても、リーダーの代わりが居ればいいだけだ。 俺は、適任はポリアだと思うから、ポリアに後を任す。 全員、ポリアの指示に従ってくれ」
「え゛え゛っ?!!! わ・私?」
ポリアは、全員の顔が自分に向いているのにビビッた。
しかし、Kはポリアを無視して続け。
「いいか、俺が居なくなった時点でポリアはこの仕事のリーダーだ。 彼女の命令は俺の命令だと思っていい。 それから、助けられたチームは、仕事の内容に置ける必要人物だからな。 マルタンの街にて斡旋所のマスターに会うまでは、ポリアの指揮下に入ってもらう。 報酬はチームの状態に因るから、ふざけるなよ。 以上」
ポリアは、Kが荷物を纏め出したのを見て。
「ケイ!! 勝手に決めないでよ!!!!!」
と、席を立つも。
Kは、静かに。
「仕方ない、ガロンを逃すわけには行かない」
マルヴェリータも、やや慌てて。
「そんな・・この雨の中でガロンを探しても見つかる訳無いわ」
Kは、マルヴェリータを見返すと。
「探す必要は無い。 先回りするだけさ、奴の行動など手に取るように解る。 明日の早朝、俺は発つ」
と、断言。
そこへ、ゲイラーが。
「どうしてもか?」
Kは、開いて来たゲイラーの前、ダグラスとヘルダーの間の席に向かいながら。
「悪い、これは決定事項だ。 あとは、マルタンに戻って各自自由に。 俺が受け取るはずだった報酬は、ポリアが受け取ればいい。 サーウェルス達は、じっくりとマスターに叱られるんだな」
すると、ゲイラーは。
「仕方ないなら、ポリアのリーダーには賛成だ。 以外はシスティ以外は認めない」
と、言う。
「えっ? あっ、チョット!」
と、驚くポリアに、ボンドスも。
「俺も、ゲイラーに同じ。 これで、サーウェルスやフェレックにされるなら、御嬢の方がいい」
すると、イクシオも。
「だな、リーダー命令だし。 俺も、それなら文句ない」
サーウェルスのチームに異論は出せる状況では無い今、ポリアにリーダーを任せる話に反対は誰も居ない。
ポリアは、本当に困った。 今度は、いきなりKの代わりにリーダーにされるのだから。
マルヴェリータは、横から。
(どうせ戻るだけだし、いいんじゃないの? 誰も、文句無いって)
(ウルサイ!!!! 今までの説明どーーーすんのよっ!!!!!!)
ポリアは、Kの勝手さにもう怒りすら沸いて来た。
食事後、サーウェルス達は疲れている所為が直ぐ寝るし。 イクシオやデーベなどが酒を久々と呷っていた。
そして・・・夜中だ。
「グ~ス~」
「もう・・・飲めねえ・・・バカ・・・」
「ハゲ・・光って・・・まぶ・・しい・・・」
食堂に酔い潰れたボンドスやイクシオなどが居る。 もう、長椅子やテーブルに寝てしまっていた。
そこに、足音も無くKが二階より降りてきた。
「フッ・・・久々に面白い奴等とチームを組んだもんだ・・・・」
酔い潰れてる面々を見ているKが呟いた。
そして、雨の外に出て行く。 入り口の外に出たKの右脇には、葉桜になり掛けた櫻の巨木がある。
「・・・・」
雨を葉や花で受けて落とす桜をKが見上げた時、少し強い風が吹いた。 パッと揺れた枝から雨粒と残り少ない櫻が散ってKに降り注いだ・・・・。 もう、包帯男は闇夜に消えていた。
どうも、騎龍です^^
ちょっと慌しい日々の中で書いてます^^;
ご愛読、ありがとうございます^人^
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。